スタートアップ企業を対象とするM&Aの留意点(3)- ポストマージャー

ベンチャー

 大企業がスタートアップ企業に対するM&Aを実行した後の統合・融合のプロセス(ポストマージャー)において留意すべき点は何でしょうか。

 スタートアップ企業は、一般的に、大企業と比べてコンプライアンス意識の浸透度が低く、社内規程や契約書が整っていないことが多いため、M&A実行後にそれらを大企業のグループ管理体制に組み入れる必要があります。その際、実行後に残る経営者や従業員のモチベーションを維持しながら、グループ会社としての内部統制システムやコンプライアンス体制を構築することが重要です。

解説

目次

  1. スタートアップ企業のポストマージャーの特色
  2. ポストマージャーの主な留意点
    1. グループ会社としての管理
    2. 役職員への処遇
    3. 契約関係および知的財産権
  3. まとめ

スタートアップ企業のポストマージャーの特色

 M&A実行後の統合・融合のプロセス(ポストマージャー)は、M&Aの成功と失敗を分ける重要なプロセスですが、スタートアップ企業と大企業は、組織のあり方、カルチャー、待遇等が大きく違うため、統合・融合が難しいことがよくあります。組織、取引先、従業員、知的財産、システムなどそれぞれの分野で統合・融合の方法、タイミングをデューディリジェンス(以下「DD」といいます)の段階からよく検討し、問題点の解消方法や必要なプロセスの進め方を契約書に盛り込む必要があります。

 クロージング後は、買い手の経営者が具体的なマイルストーンを設けてなるべく迅速に統合のプロセスを進めることが肝要です。特に、創業者から株式譲渡を受ける場合、その者の経営関与をどうするか、関与を継続する場合はインセンティブをどうするかという問題があります。株式譲渡により大金を手にした創業者は、モチベーションを維持できず、買い手にとって将来のリスク要因となることがよくあります。

 買い手側はクロージングまでは、十分な予算をかけてプロジェクトチームを作って対応するものの、実行後の管理はおろそかになっているケースもあります。スタートアップ企業とのシナジー達成のためには、ポストマージャーの重要性を買い手の経営者がしっかり認識することが重要です。

 統合・融合の進め方については、M&Aの実行後に検討するのではなく、実行以前から周到に検討し、その体制を確立しておく必要があります。M&Aのプロセスにおいて、実行日にいたるまでの手続きについては社内でプロジェクトチームを作り、専門家も積極的に関与しますが、実行日後はそれぞれの部署がばらばらに統合のための作業を行い、まとまった形で専門家が関与する機会が少ないのが現状です。そのため、想定していたシナジーが実現できなかったり、後日重大な問題が発生したりして、失敗と評価されるM&Aが多いと言えます。

ポストマージャーの主な留意点

 ポストマージャーにおいて留意すべき点は多々ありますが、以下では法務の観点から特に重要と思われる点を解説します。

グループ会社としての管理

 スタートアップ企業は、大企業と比べガバナンス体制が整っておらず、大企業と比べてコンプライアンス意識の浸透度が低いケースが一般的です。DDにおける調査には時間的、費用的な制限がありますので、クロージング後速やかに再度調査し、隠れた問題がないかチェックすべきです。特に上場会社が親会社になる場合は、連結対象としての観点からレピュテーションリスクを含めて精査することが必要になります。

 スタートアップ企業としての自主性やスピード感を削がない形でどのように法的なガバナンスとコントロールを効かせるかを検討することになります。その際に、経済産業省が公表した「グループガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月28日)が参考になります。

 また、親会社とスタートアップ企業で重複する営業部門や管理部門をどのように整理統合するかも問題になります。法務機能に関しては、親会社の法務部門がどこまで関与するかについて、業務内容や法務部門の人的リソース等も考慮して決めるべきです。契約書のチェックや紛争対応等の体制について、また、スタートアップ企業が依頼していた外部の弁護士等の専門家についても、親会社の法務部門の観点から見直しが必要な場合がありえます。研修会の共同開催やノウハウの共有も統合を進めるうえで有益でしょう。

役職員への処遇

 M&Aによりスタートアップ企業が大企業の傘下に入った時、役職員の労働条件の違いが大きな問題となります。買い手の大企業から見ると、グループ会社管理規定との関係や他のグループ会社との公平性の観点から整合性を図る必要があります。スタートアップ企業からすると一部の従業員については大企業の報酬体系ではかえって不利になることもあり得ます。就業規則の一方的な不利益変更は禁止されているので(労働契約法9条)、従業員から同意を取るか、不利益変更にならない範囲で一定期間の緩和措置を取るなどして、スタートアップ企業でのこれまでの役職員の労働条件と合わせていくことも必要になります。

 また、キーパーソンの退職やモチベーション低下を防ぐためには、業績連動報酬・給与を取り入れることも検討すべきです。親会社のストックオプションを付与することもありえます。

 スタートアップ企業は、役員と従業員の区別が曖昧であったり、時間外労働が日常化していたりします。労働基準法を遵守し、大企業の労務管理に合わせつつ自主性・独立性を一定程度保つ工夫が求められます。

契約関係および知的財産権

 スタートアップ企業は契約条件や知的財産の管理についても不十分なことがよくあります。立場上契約の相手方である大企業に有利にできている契約や、リーガルチェックを経ずに不利な条件を押し付けられているケースも少なくありません。契約書の内容や管理状況を確認し、親会社として、契約条件を変更するよう求めたり、契約管理について一定のコントロールを行ったりすべきです。

 知的財産権についても、グループ全体としての知財戦略を検討し、権利化と権利行使を検討していく必要があります。特許化する技術と営業秘密として秘密管理する技術を選別するとともに、権利侵害があった時の対応についてもグループ全体として検討しておくことになります。スタートアップ企業は知的財産が企業価値の重要な部分を占めているにもかかわらず、十分な権利保護や活用ができていないケースが多く、親会社のリソースと組み合わせることにより、大きなシナジーを達成できる可能性があります。

まとめ

 新型コロナ感染症の影響もあり、しばらくの間はスタートアップ企業の事業展開の鈍化や資金調達の悪化が予想されます。それに伴い、資金力のある大企業やファンドが、スタートアップ企業に対してM&Aを行うケースが増えていくことになるでしょう。このような状況下で、課題を抱えたスタートアップ企業に対するM&Aを成功させるためには、事前の十分なDDとともに、ポストマージャーのプロセスを重視することがより大切になります。

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