スタートアップ企業を対象とするM&Aの留意点(1)- デューディリジェンス

ベンチャー

 事業会社やベンチャーキャピタルが、スタートアップ企業に対してM&Aをする際、投資額が比較的小さいため、デューディリジェンス(以下「DD」といいます)を行わずに失敗するケースが多いと聞きます。ポイントを絞った効率的なDDを行うにはどうしたらいいですか。

 経験豊富な少人数の専門家チームと共働することで、事前準備、調査事項の絞り込み、レポートの簡略化を行い、限られた予算で有益なDDを行うことは可能です。

 具体的には、主に以下のポイントに絞ったDDを行うべきです。

  • M&Aの実行の障害となるような問題がないか
  • 企業価値やレピュテーションに影響する問題がないか
  • 実行後の事業計画に影響する問題がないか

解説

目次

  1. スタートアップ企業のM&Aの特色
  2. 効率的なデューディリジェンスの行い方
    1. 事前準備
    2. 調査事項の絞り込み
    3. レポートの簡略化
  3. デューディリジェンスの費用感
  4. さいごに

スタートアップ企業のM&Aの特色

 スタートアップ企業が対象となる中小規模のM&Aにおいては、法的な問題が企業価値に大きく影響することが多いにもかかわらず、これまでは弁護士等の専門家がほとんど関与しないケースも散見されました。また、M&Aのプロセスは、スタートアップ企業側の意思決定が速く、案件規模もそれほど大きくないため、大企業同士のM&Aより迅速に進むのが一般的であり、DDにもスピード感が求められます。時間や予算的な制約もありますが、ポイントを絞った効率的な法務DDや契約交渉に関するアドバイスを受けることによって、十分な費用対効果が期待できます。

効率的なデューディリジェンスの行い方

 スタートアップ企業対象のDDは、案件規模との関係で買い手の予算が限られることが多いため、主に以下のポイントに絞るべきです。

  • M&Aの実行の障害となるような問題がないか
  • 企業価値やレピュテーションに影響する問題がないか
  • 実行後の事業計画に影響する問題がないか

 スタートアップ企業の場合、株式公開のための審査が進んでいるような例外的ケースを除き、法務DDにおいて想定していなかった様々な問題が見つかります。
 特にベンチャーキャピタルが投資する前(アーリーステージ)の企業においては、以下の問題点が見つかることが少なくありません。

  • 株主構成が不明である
  • 株主総会や取締役会が適法に行われていない
  • 株主や関連当事者との取引で不利な条件のものがある
  • 新規ビジネスについて必要な許認可を取っていない
  • 契約書が締結されていないまたは実態と契約書が乖離している取引がある
  • 未払い残業代がある
  • 粉飾決算の疑いがある

 スタートアップ企業は、大企業と違ってコンプライアンス意識や体制が十分ではないことも多いため、社内で違法行為が行われていたり、反社会的勢力との関係があったりするケースも見られます。
 最初から網羅的な法務DDの実施を考えるのではなく、まずは、そのM&Aの目的に合わせて内容を絞り込んだ法務DDを実施すべきです。ほとんどのケースではその段階で案件を進めるかどうかの結論が出ます。ある程度の問題があることは折り込み済みとして、価格への影響やリスクの大きさに焦点を当てることで、予算に合わせたDDを実行できます。リスクの大きさは、そのリスクの発生確率と発生したときのダメージの大きさを考慮して判断すべきでしょう。ダメージには金銭的損害だけではなく、レピュテーションの低下も含まれています。
 DDの実施効率とレポートの質を高めるためには、以下の点を工夫すべきです。

事前準備

 まずは、対象会社のビジネスの概要とリスクの所在を把握することが重要です。この時、同一または類似業種の法務DDの経験があると、ポイントの絞り込みが容易になります。ここでは、虫の目ではなく、鳥の目で見ることが重要です。弁護士は、会計士、税理士、弁理士等の専門家と連携して調査することになりますが、専門家同士の情報共有は意識的に行わなければなりません。スタートアップ企業対象のDDを成功させるためには各専門家と買い手担当者とのチームワークが重要です。

調査事項の絞り込み

 スタートアップ企業対象のDDの核になるポイントは以下の通りです。

  • ビジネスモデルの価値がどこにあるか
  • 契約や知的財産権でどう法的に守られているか
  • 資本政策、組織周りの問題点

 契約については、売上げ上位5〜10社に絞る、自社のフォームを使っているものは除く、ライセンス契約・共同開発契約等リスクの大きいものは慎重に見るなど、メリハリをつけたチェックを行うべきです。一方、コンプライアンス、環境汚染、訴訟など大企業を対象としたDDでは必須の項目は、スタートアップ企業が対象の場合には省略や絞り込みができ、従業員数の少ない会社では、キーパーソンの確保ができれば、労務問題は買収後の対応で足りることがあります。株主総会や取締役会が適法に開催されていないケースもよく見られますが、決議の効力に影響するなど事後的な手当てでは解決できない重大な問題がある場合を除き、リソースをかけた精査はこの段階では不要です。資産や負債の調査も、特殊なものがなければ財務DDに任せてもかまわないでしょう。

レポートの簡略化

 DDの内容によっては、買い手側に様々な専門家が加わりますが、これが調査の重複や整合性のとれない内容のレポートを生む一因にもなっています。また、専門家は事後的に問題になった時に備え、様々な前提条件や留保事項を入れ、保守的な見解を報告書に盛り込みがちです。スタートアップ企業対象のDDにおいては、レポートに記載するのはM&Aをやめることにつながるもの、企業価値(対価)に影響するものなど重要事項に限定するべきです。その記載も、結論だけにとどめ、理由は口頭で報告させるか、必要な点だけ追加の報告書を求める形にすれば、かなりの時間と費用の削減につながります。

レポートの簡略化

※A〜Cは重要度によるランク付け

デューディリジェンスの費用感

 たとえば、5億円程度の企業価値のスタートアップ企業を対象とする案件について、法的リスクの高い会社なので法務DDをやりたいと考えて報酬見積もりを取ると、事務所の規模によっては300〜500万円程度の見積もりになることもあり、買い手の予算上依頼できないケースが少なくありません。弁護士も、全体像が見えない時点で、買い手企業が提示した予算で安易に受任すると責任ある法務DDができないおそれがあり、法律事務所としては受任を躊躇する傾向も否めません。

 一般的に大企業を対象としたM&Aで組成されるような大規模な弁護士のチームは、細かな法的検討を行うことには向いていても、経営者から重要なポイントを聞き出し、大局的な分析をすることにはあまり適していないケースもあります。スタートアップ企業対象のDDを行う際は、経験豊富な弁護士、会計士等による少数精鋭のチームによるDDを行うことが有効といえます。
 そうすることで、上記2のような工夫により、費用を100万円前後に抑えることも可能になります。たとえば、50万円でどこまでできるか、150万円ならどうかなど、具体的に報酬金額とスコープなどを相談してみると予算化もしやすくなります。法務DDと財務DDを別々に依頼せずに、1つのチームとして対応してくれる事務所に依頼できれば効率的であり、DD全体の予算化もしやすくなります。

 スタートアップ企業対象のDDを行う際に複数の事務所から相見積もりを取ることもあります。しかし、DD開始前の限られた情報で見積もりを取ると、どうしても低額な報酬を提示する事務所に対してはクオリティ面の不安が拭えないケースもあるでしょう。買い手のDDの方針や重点を置くポイントを毎回説明する時間的なコストも無視できません。したがって、コンフリクトのない限り、特定の信頼できる事務所に継続的に依頼することがメリットとなり得ます。

さいごに

 各事業分野で技術革新が進み、頻繁に法改正が行われている今日、スタートアップ企業における法的リスクやレピュテーションリスクは増大し、またIPOと並ぶエグジット(出口戦略)としてM&Aは今後ますます重要になることが想定されます。このような状況において、スタートアップ企業に関する効率的なDDを行うニーズは高まっているといえます。

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