スタートアップ投資契約における優先残余財産分配権の定め方

ベンチャー
村松 亮弁護士 アンダーソン・毛利・友常法律事務所

 スタートアップ投資契約において優先株式に付される優先残余財産分配権とはどのような権利でしょうか。また、その意義はどのような点にあるのでしょうか。

 優先残余財産分配権とは、会社を清算する際に、普通株式を有する株主(普通株主)に先立って残余財産の分配を受けることができる権利のことをいいます。スタートアップ投資における優先残余財産分配権は、実際に解散・清算に至った場合の機能に加えて、いわゆるみなし清算条項に準用されることによって、M&AによるExitの際に、経営株主と投資家間の適切な利害調整を図る、という非常に重要な機能を有しています。その内容については、参加型(完全参加型やキャップ付き参加型など)・非参加型といった区別があるほか、優先株式間での優劣関係についても、検討する必要があります。

解説

目次

  1. 優先残余財産分配権とは
  2. 優先残余財産分配権を設定する理由
  3. 優先残余財産分配権の定め方について
    1. 参加型/非参加型
    2. 完全参加型/キャップ付き参加型 [^6]
  4. 優先残余財産分配権の間での優劣
  5. まとめ

優先残余財産分配権とは

 「スタートアップ投資契約における優先配当権の定め方」で述べたとおり、近年、スタートアップ投資においては、普通株式ではなく、いわゆる優先株式普通株式よりも優先的な取扱いを受ける権利を有する種類株式)が用いられることが一般的です。その際には、優先株式の内容の1つとして、会社を清算する際に、普通株式を有する株主(普通株主)に先立って残余財産の分配を受けることができる権利優先残余財産分配権)が定められることが通常とされています。

優先残余財産分配権

優先残余財産分配権

優先残余財産分配権を設定する理由

 上記のとおり、優先残余財産分配権は、会社を清算する際における投資家の保護(投資した金額の回収)を念頭に置いたものですが、スタートアップがやむを得ず実際に解散・清算に至る場合には、株主に分配する残余財産が十分に残ることは、さほど多くないと思われます。

 そうだとすれば、なぜ、優先株式を用いたスタートアップ投資において、通常、優先残余財産分配権が定められるのでしょうか。
 この点に関しては、投資先にM&Aが生じた場合に当該規定を準用する点にあるとされています。
 すなわち、通常、優先残余財産分配権と併せて、投資先にM&Aが生じた際には、保有株式が金銭等の財産に換価されることを捉えて、これを会社の清算と同視したうえで、優先残余財産分配権に関する規定を準用して、株主に対してM&Aの対価の分配内容を定める条項が株主間契約において規定されます。これをみなし清算条項 1 といいますが、かかる条項によって、会社の清算の際だけでなく、M&AによるExitの際にも、投資家の保護が図られることになります。
 特に、低額なバリュエーション(企業価値評価)の下でM&Aがやむを得ず行われるような場合には、(優先株式に一定のバリュエーション上のプレミアムを付したとしても)持株比率に応じてプロラタで(比例的に)対価を配分すると、投資家はその投資回収において大きな不利益を被るため(具体的には3-1(2)をご参照ください。)、かかる条項が特に重要となるといえます。

優先残余財産分配権の定め方について

 優先残余財産分配権の定め方については、大きく分けて、①参加型非参加型かの区別があります。また、日本ではそれほど採用されていませんが、特に米国においては、参加型のなかでも、②完全参加型キャップ付き参加型の区別があります。

参加型/非参加型

(1)概要

 参加型とは、優先株式を有する株主(優先株主)に対して優先的な残余財産の分配を行った後、さらに残余財産が残っている場合には、普通株主とともに優先株主も追加的な分配を受ける方式をいいます。非参加型とは、優先株主に対する優先的な残余財産の分配を行った後にさらに残余財産がある場合であっても、優先株主が追加的な分配を受けない方式をいいます。
 日本では、優先残余財産分配額を当該優先株式の払込金額と同額(投資金額の1倍)とし、かつ、参加型(3−2で後述する完全参加型)とすることが多いとされています。

参加型と非参加型

参加型と非参加型

(2)優先残余財産分配額として投資金額の1倍を確保する理由

 優先残余財産分配額を当該優先株式の払込金額と同額(投資金額の1倍)とする背景には、以下のような考慮があると考えられます。
 たとえば、(1つの極端な教科書的設例ですが)投資家が1億円を投資して発行済み株式数の10%を取得し、その後、全株式の対価を総額1億円として投資先の買収が行われ、対価が全株主の間で持株比率に応じて配分されてしまうケースを想定すると、投資家は大幅に損失を被る(1億円を投資したにもかかわらず、1億円×0.1=1,000万円しか配分を受けられない)ことになります。そこまで極端でなくても、投資の際に見積もったpost-moneyバリュエーション(投資後の企業価値)よりも低い値段でM&AでのExitが行われる場合には、投資家は損失を被ることになります 2 3
 投資先の企業価値が下落しているわけですから投資回収額が減少することはある程度やむをえないともいえますが、そのような場合であってもなるべく、少なくとも投資金額の1倍は優先残余財産分配額として回収できるよう確保しておきたい、と考えるのは、投資家としては合理的な態度といえます。
 同様の理由で、米国においても、投資金額の1倍がスタンダードとされているようです(ネットバブルが崩壊した2001年以降、倍率を投資金額の数倍〜10倍にまで引き上げる動きがあったようですが、現在は揺り戻しが生じ、レイターステージへの投資などの例外的な場合 4 を除いて、1倍が基準であると指摘されています)。

(3)米国で主流とされる非参加型について

 参加型が多いとされる日本の実務との違いとして、米国では、投資金額の確保を第一義的に考え、非参加型が多いとされています。
 この場合、一見すると、投資家は投資金額以上のM&Aの対価の分配がなく企業価値上昇の恩恵を受けられないのではないか(1倍の場合)とも思われますが、実際には、投資家は、企業価値が上昇しているような場合には優先株式を普通株式に転換し(または普通株式への転換ベースで(=転換したものとみなして))、持株比率に応じたプロラタでの配分を受けることによって、投資した金額以上の利益を得ることができる可能性が留保されています。つまり、たとえば、非参加型の優先株式を用いて1億円を投資し、株式数の10%を取得した場合で、かつ、優先株式を(1:1の転換比率により)発行済株式数の10%を占める普通株式に転換できる場合を考えてみると、M&Aの対価が20億円のケースでは、投資家は、優先株式を保有したままだと、投資金額である1億円しか対価の分配を受けられませんが(1倍の場合)、優先株式を普通株式に転換すれば、投資した1億円にとどまらず、持株比率に応じて、2億円(20億円×0.1)を得ることができることになります。

 また、普通株式への転換ベースでの優先残余財産の分配が規定されている場合 5 には、その時点における転換比率に応じて、実際に普通株式に転換しなくても、投資家は、投資金額を超えた優先残余財産分配額を得ることができる可能性を有していることになります。この場合、非参加型という分類ではあるものの、日本で一般的にイメージされる非参加型(優先残余財産分配額以上は一切投資家に分配されない)とは、少々異なる側面があると考えられます。

完全参加型/キャップ付き参加型 6

 完全参加型とは、優先株主が普通株主とともに追加的な残余財産の分配を受ける際に、優先株主と普通株主が受領する金額を、持株比率(優先株式については普通株式への転換ベース)に応じてプロラタで分配する方式をいいます。

 キャップ付き参加型とは、完全参加型と同様に、持株比率に応じたプロラタでの分配を行いますが、優先株主が受領する合計金額につき、投資金額の数倍といったキャップ(上限)が付されている方式をいいます。ここで注意すべきとされているのは、「優先株主が受領する合計金額」とあるとおり、キャップのなかには、優先残余財産分配額自体が含まれている点です(なお、「スタートアップ投資契約における優先配当権の定め方」のとおり、優先配当権を累積型として、累積した未払配当金額を優先残余財産分配額に加算した場合には、その分も含まれます)。したがって、たとえば、優先残余財産分配額が投資金額の1倍であり、かつ、投資金額の3倍のキャップが規定されている場合、優先株主が追加的に参加できる部分は、投資金額の(3倍ではなく)2倍まで、ということになります。

優先残余財産分配権の間での優劣

 優先株式を利用した投資が、たとえばシリーズA 7 に引き続き、後続ラウンド(シリーズB、シリーズC等)においても行われた場合には、優先株式を保有する各投資家間での優先残余財産分配権の優劣が問題となります。
 この点については、大きく分けて、後続ラウンドで投資を行った投資家が優先する方式(Stacked/Senior preferences)と、すべての投資家を同列として扱い、優先残余財産分配額に応じたプロラタで分配する方式(Pari passu(パリパス) preferences)の区別があるとされています。

 日本では前者(Stacked/Senior preferences)が多いとの指摘が存在します。その一方、米国の特に大型調達では、年によって変動はあるものの、後者(Pari passu preference)が比較的多いようです。いずれにしても、どちらの方式を使うかは、投資家間の交渉力や、スタートアップが他の投資家から投資を受けることができる可能性、その時点での資本構成などによると思われます。

まとめ

 スタートアップ投資における優先残余財産分配権は、実際に解散・清算に至った場合の機能に加えて、みなし清算条項に準用されることによって、M&AによるExitの際において、経営株主と投資家間の適切な利害調整を図る、という非常に重要な機能を有しています。
 優先株式を用いたラウンドが複数存在する場合には、初回で調達した優先株式における優先残余財産分配権の内容が、その後の調達の際の契約条件を画するベンチマークになる可能性も高いため、初回の投資家からの資金調達の際の交渉には、特に留意する必要があるといえますが、後続のラウンドにおいても各ラウンドの投資家間での利害調整が複雑になり得ますので、優先残余財産分配権の優劣にも留意が必要で す。


  1. 一般的に、みなし清算条項は、投資家を含めた株主全員の合意で定めることが望ましい条項と考えられていますが、それが難しい場合は株主間契約の同条項に同意した当事者間において適用されることになります(ただし、この場合、売却する普通株式の買主による買取価格について、株主間契約の当事者である普通株主からとそれ以外の普通株主からとでは、交渉上価格が異ならざるをえずいわゆる一物二価の状態が生じることがあり、その場合には税務的リスクの観点からM&Aの支障になる場合も考えられます)。 ↩︎

  2. そのメカニズムは、投資家が投資検討時に投資先を高いバリュエーションで評価することに躊躇しがちになる一因になり得ます。 ↩︎

  3. もっとも、投資家の主導で行われるM&Aについては、本文で指摘したような低いバリュエーションでのM&Aが生じることは考えにくく、また、仮に創業株主らの主導により行われるM&Aでそのような事態が生じるとしても、その際には、投資家が株主間契約上のM&Aに対する拒否権を適切に行使することによって、投資家の保護を図ることができる、という考え方もあり得るところです。 ↩︎

  4. 一般的には、レイターステージとは、持続的なキャッシュフローがあり、IPOを直前に控えた段階のことを指すとされています。例えば、米国の法律事務所であるCooley LLPが2020年5月に発表したデータによれば、レイターステージでは、1倍〜2倍のレンジで倍率を設定する事例が見受けられます。 ↩︎

  5. 米国のベンチャーキャピタル協会(NVCA)が公表している標準タームシートに、このパターンの規定例があります。 ↩︎

  6. NVCAの公表している標準タームシートにそれぞれの規定例があります。 ↩︎

  7. スタートアップ投資は、一度に大量の資金が投下されるのではなく、いくつかの段階に投資を分けたラウンド型投資がされる点に特徴があります。各ラウンドは、時系列に従い、シリーズシード、シリーズA・シリーズB・シリーズCなどと呼ばれます。各シリーズの定義については必ずしも明確ではありませんが、一般的には、エンジェル投資家グループやアーリーステージ投資をメインとするVCなどにより行われる、最初の組織的な(創業者の家族や友人等によらない)資金調達のことをシリーズシードといい、その次の(シリーズシードが存在しない場合には、最初の)組織的な資金調達のことをシリーズAといいます。後続する組織的な資金調達については、時系列に従い、アルファベット順に、シリーズBシリーズCなどと呼ばれます。 ↩︎

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