不祥事発生時における広報対応(危機管理広報)のプロセス
危機管理・内部統制当社に不祥事が発生し、広報対応(危機管理広報)が必要となってしまいました。適切な広報対応をするために、どのような準備、プロセスが必要でしょうか。
適切な広報対応のためには、何より、事実関係の確定が前提となります。速やかに調査チームを組成して調査を開始し、判明した事実関係に基づき、会社としての対応方針を定めましょう。
そして、その結果は「ポジションペーパー」にまとめておき、これをベースとして、社内における事実認識の共有と対応方針の統一化を図ります。
また、外部への対応窓口は一本化し、司令塔となるべきポジションへの情報集約と会社としての一貫した対応の実現を図る必要があります。具体的な情報発信、マスコミなどからの質問への応答については、ポジションペーパーにまとめられた事実関係と対応方針に基づいて対応窓口の指示のもとに実施することとなります。
解説
はじめに
昨今、不祥事発生時における広報対応(危機管理広報)の重要性が増しています。
近年は、企業の社会的責任に対する社会からの期待が高まっており、また、SNS等を中心としたメディアの進化・発展によって、企業に対する社会からの監視が強まっている事情などもあり、広報対応を誤った企業に対する容赦ない非難と反感が向けられることも多くなっています。
このような時代に適応するため、企業としては、平時から、危機管理広報の体制を整えておかなければなりません。しかし、大企業のように人員・経験ともに充実した広報部門を設置できる企業であればともかく、多くの企業では、専任の広報担当者が不在であり、危機管理広報と言われても、いったい何から手を付けていいのかわからないというのが実情ではないでしょうか。
そこで、本稿では、危機管理広報に必要な基本プロセスを整理することとします。
なお、未だ世間に知られていない不祥事を公表するか否かの判断については、「不祥事を公表するかどうかの判断基準とレピュテーション管理のポイント」をご参照ください。
事実関係の確定
広報対応を行うにあたって、まず何よりも重要なのは事実関係の確定です。
現実に、どのような現象が起こっているのか、また、その現象に関係する社内の事実関係はどうなっているのか、これらが理解できていなければ、何を広報をすればいいのかすら判断することができません。これでは、消費者やマスコミ、取引先、監督官庁などのステークホルダーに不正確な事実を伝えてしまう危険性が高いだけでなく、そもそも、企業としての明確な対応方針すら定めることができないため、社会からの不信感が高まることとなります。
そこで、不祥事に見舞われた企業としては、速やかに調査チームを編成して、事実関係の調査を急ぐ必要があります。
当該不祥事に関連する事実関係に詳しく、かつ、当該不祥事から一定の距離がある、第三者的な立場の人物を責任者に指名し、少数精鋭、かつ十分な権限が与えられたチームを編成して調査にあたってください。また、事実関係の確定に専門的・技術的な知見が必要と思われる場合には、社内外を問わず、その分野のスペシャリストの起用を検討すべきです。
ポジションペーパーの作成
調査により確認した事実関係は、ポジションペーパーと呼ばれる書面にまとめます。ポジションペーパーとは、問題事象の発生から現在に至るまでの経緯、調査の結果判明した事実、これらを前提として決定した今後の対応方針などをまとめた書面のことをいいます。
不祥事への対応に追われると、社内では様々な情報が錯綜し、かつ、様々な部署に対し、多数のステークホルダーからの問い合わせが一斉になされることなどにより、混乱が発生しがちです。会社として統一的な見解をもって事態に対応するためには情報共有と意思統一を図る必要があります。これを実現するためのツールがポジションペーパーなのです。
一般的に、ポジションペーパーには、以下のような事項が記載されます。
- 問題の発生および発覚から現在に至るまでの事態の推移
- 実際に生じている、または今後予想される影響の範囲・程度および復旧の見込
- 問題が生じた原因
- 生じている問題に対する今後の対応方針
- 社内における情報の集約窓口、不明点に関する問い合わせ窓口
また、その記載にあたっては、以下の事項に留意する必要があります。
- 事実関係は、いわゆる5W1H【Who(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)】を意識して記載することにより、関係先に明確な回答ができるように準備すること
- 確認されている事実と推定による事実とを明確に分けて記載すること
- 確認された事実関係は、どのような根拠(証拠)および方法で確認したのかを記しておくこと
- 推定による事実関係は、なぜそのような推測が成り立つか根拠を明確にしておくこと
事態や調査の進展に応じて、確認された事実関係や社内共有しておくべき情報は常に変化していきます。そのため、ポジションペーパーは何度もアップデートを重ねていく必要があります。
窓口の一本化
広報対応の窓口は、一本化されている必要があります。
様々な窓口が別々に広報対応を開始すると、社内外からの問い合わせに関する情報が集約できず、対応方針、回答内容にばらつきが生じる危険性があります。
このため、平常時は広報部門を設置していない企業であっても、緊急時には、臨時の広報窓口を設定して社内に周知し、情報を集約させる必要があります。これにより、すべての問い合わせ事項について、一元的に広報窓口で受け付け、質問内容を整理して優先順位をつけ、統一的な対応を行っていくことが可能となります。
不祥事発生直後のフェーズで窓口の一本化が行われないことにより、社内外に混乱が広がり、一般消費者や取引先に無用な不安を与えてしまうケースもあるため、要注意です。
プレスリリースの発表
多くの場合、企業としての公式な見解発表は、プレスリリースにより実施することになります。プレスリリースとは、当該企業における経営・商品・サービスなどに関する情報を、マスコミ等を通じて社会へ伝達するための公式文書です。
プレスリリースには、ポジションペーパーの記載をベースに、その時々において外部へ公表すべき事実関係や、原因分析、対応方針、再発防止や関係者の処分、被害者・関係者に対する謝罪などを記載する必要があります。
発表のタイミングは、大きく分けて、以下の3つの段階があります。
- 事案を確認した初期段階における第一報
- 調査を開始して事案の概略をつかんだ段階における中間報告
- 調査が完了して再発防止策や関係者の処分が確定した段階における最終報告
それぞれの段階ごとに、必要な情報を速やかに外部へ提供します。たとえば、社会から注目を集め得る重大事案の場合や、製品事故などのように二次被害防止のため消費者等にスピード感をもって事実関係を伝達すべき要請がある場合には、第一報は即時に実施します。さらに、中間報告についても、小まめに、何度も情報を公開していくこととなります。
情報発信の方法としては、プレスリリースを自社ホームページで公表することのほか、これを記者クラブへ送付すること、知れているマスコミや記者へFAX等により送付すること、場合によっては、自社SNSを活用して情報発信することなども考えらえます。事案に応じて、これらの手段を組み合わせて活用していきます。
マスコミからの質問への回答
記者等からの質問への回答も重要な情報発信の方法です。回答は、ポジションペーパーで確認されている事実関係や基本的な対応方針およびプレスリリースによる公式な発表内容に沿って行います。これらの書面の内容から外れた回答を行わないよう留意が必要です。
マスコミから受ける質問のなかには、担当者の立場からすると悪意を感じるような質問が含まれているかもしれませんが、冷静な対処を心がけてください。不祥事対応の局面において、感情に任せた回答がプラスの影響を与えることはありません。
記者からの質問に対しては、その質問内容をよく確認し、質問事項を特定してから回答するように心がけましょう。回答まで時間的な余裕がある場合には、たとえば、電話などにより口頭で質問を受けた場合であっても、あらためて質問内容を書面に記して送るように依頼することも有効です。また、記者からの質問事項が多い場合は、質問に対して一問一答の回答にこだわる必要はありません。複数ある質問の全体に対して、会社が真に伝えたいコアのメッセージを交えつつ、簡潔に回答できる統一的な回答を行うことも考えられるでしょう。
各ステークホルダーへの説明
企業としては、関係する取引先に対して、不祥事についての十分な説明を行わなければならない場合が多く、また、これをおろそかにすることはできません。加えて、不祥事を知った消費者や地域住民などから、企業のお客様窓口や営業店などに事情確認や抗議の電話などが殺到する危険もあります。
これら各ステークホルダーに対する説明のすべてを広報窓口で担うことはできませんが、取引先への説明文書、消費者等からの問い合わせに対するQ&A資料などを事前に作成して配付し、対応の統一を図っておくことが必要です。これらの資料についても、ポジションペーパーの記載に沿って作成することになります。また、プレスリリースの公表後は、プレスリリースにおける表現を引用して説明、回答することが第一の選択肢となります。
さいごに
不祥事発生時の広報対応は、上記のようなプロセスの繰り返し、積み重ねによって実施していきます。
担当者としては慣れない業務となるかもしれませんが、自らの判断、言動が企業のレピュテーションを左右するという自覚を持ち、誠実かつ丁寧に、平常心をもって対応していくことが重要となります。
なお、不祥事の発生を受けて記者会見の開催要否を判断するためのポイントについては、「不祥事発生時の広報対応(危機管理広報)における記者会見の要否」をご参照ください。

- 参考文献
- 図解 不祥事の予防・発見・対応がわかる本
- 著者:竹内 朗 編、プロアクト法律事務所 著
- 定価:本体2,500円+税
- 出版社:中央経済社
- 発売年月:2019年10月

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