不祥事発生時の広報対応(危機管理広報)における記者会見の要否

危機管理・内部統制

 当社に不祥事が発生しました。社内では、記者会見を開催する必要があるのではないかと議論になっていますが、賛否が分かれています。記者会見開催の要否に関する判断基準などはあるのでしょうか。

 被害者が存在する事案、二次被害防止の必要性が高い事案などは、当然に記者会見の実施が求められると考える必要があります。
 そのほかの自主的な記者会見の実施を検討する際には、①企業として記者会見の目的は明確か、すなわち「社会に伝達したい事項」が明確になっているか、②伝達したい事項について透明性を貫徹できるか、という2つの要素に着目しましょう。これら2つが備わっている場合には、積極的な情報発信手段の1つとして記者会見が有力な選択肢になります。
 企業としては、記者会見を回避して社会から「忘れられること」を目指すよりは、中長期的な視点に立って、「誠実な対応を果たした」という印象を残して広報対応を終えることを検討すべき場合もあると考えるべきです。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 誰が見ても記者会見が必要な場合
  3. 記者会見開催の判断基準
  4. 記者会見の目的は明確か
  5. 透明性を貫徹できるか
  6. 忘却を目指すか、好印象で終えることを目指すか

はじめに

 昨今、不祥事発生時における記者会見に失敗し、社会から大きな批判を受ける企業の事例がよく見られます。
 このような他社の「失敗事例」を目の当たりにすると、記者会見の負の側面ばかりに目を奪われてしまい、できる限り記者会見を回避したい、という気持ちになることは、理解できます。否応なく記者会見を行わなければならない事情がない限りは、不祥事対応の記者会見は実施したくない、というのが経営者や広報担当者の偽らざる心境ではないでしょうか。

 しかし、記者会見は、社会の注目を一斉に集めることのできる舞台でもあり、社会に対して、広く、一律に自社の姿勢を説明する好機ともいえます。うまく対応することができればピンチをチャンスに変える重要な転換点となり得ます。記者会見を敬遠するばかりではなく、積極的に活用することも検討したいところです。

誰が見ても記者会見が必要な場合

 誰が見ても記者会見が必要な場合は、開催の要否について悩んでいる時間はありません。
 速やかに記者会見の実施を決定し、準備を開始し、覚悟をもって記者会見に臨む以外に選択肢はありません。仮に、記者会見の開催を躊躇し、監督官庁やマスコミから記者会見の開催を強く求められるような状況に陥った場合には、会社の対応は後手に回り、不利な立場からスタートすることになります。

 そのような不利な立場からスタートするよりは、企業として積極的に記者会見の開催を発表し、迅速かつ誠実に説明責任を尽くす態度を示すことが優先されます。

 記者会見の開催が当然に求められるような代表的な事案としては、以下のような例があげられるでしょう

  • 被害者が存在する事案。特に生命・健康に対する危険がある事案
  • 二次被害の発生を防止するため、速やかに事実関係を社会に伝達しなければならない事案
  • 当該問題の影響を受ける関係者が多数にわたる事案
  • 経営幹部の重大な違法行為、もしくは企業の組織ぐるみの違法行為が発見された事案

記者会見開催の判断基準

 上記のように、記者会見が明らかに必要な事案に該当すると判断できない場合に、自主的に記者会見を開催するかどうかについては、多くの企業にとって悩ましい判断となります。

 しかし、記者会見を、「ピンチをチャンスに変える重要な転換点にする」と考えるなら、判断が悩ましい時にこそ積極的に記者会見を開催し、企業の誠実性を社会に示す好機とする判断もあり得ます。

 企業の側から積極的に記者会見を開くという選択が可能か否かを判断するためには、以下の2つの要素をよりどころとすることができるでしょう

  1. 記者会見の目的は明確か、すなわち「社会に伝達したい事項」が明確になっているか
  2. 伝達したい事項について透明性を貫徹できるか

記者会見の目的は明確か

 まず、①「記者会見の目的は明確か」という点について説明します。
 記者会見とは、マスコミを通じて自社の立場、考えを効果的に伝達することのできる重要なツールです。しかし、企業に対する良いイメージだけでなく、悪いイメージも、瞬く間に伝達してしまうという側面もあります。
 そのため、まずは、「諸刃の剣」ともなり得る記者会見という手段を用いてまで、社会に伝えたい事項が真に存在するのかについての検討が必要になります。
 たとえば、以下のような要請がある場面は、記者会見によって伝達すべき事項が存在している典型事例といえるでしょう。

  • 多数の消費者や取引先の不安を払拭し、経営への悪影響を除去する緊急性が高い場合
  • 企業に対する社会からの批判に対して、真摯に謝罪を伝えるとともに、自浄作用を示してレピュテーションの回復を図りたい場合
  • 社会の耳目を集める重大事故・不祥事について、企業が把握している事実そのものを伝達することに意義があると認められる場合(例:重大事故発生時に定例的に開催される進捗報告の会見)

 そのうえで、記者会見の開催を決断する場合には、伝達したい事柄の内容を明確に定めておくことが必要になります。仮に、伝達したい内容が不明確なまま記者会見を開催してしまえば、マスコミや社会に対して何らのメッセージも届かず、「これは何のための記者会見なのか」と疑問を抱かせることになり、失敗につながります。
 逆にいえば、「社会に伝達したい事項」が明確になっていない段階では、記者会見を開催するための準備ができていないと考えるべきです。

透明性を貫徹できるか

 次に、②「伝達したい事項について透明性を貫徹できるか」の点について説明します。
 記者会見を実施する場合には、すべての質問に明確な回答を行うことが原則となります。そのプロセスをもって、事案の透明性を確保する必要があるのです。このための覚悟、準備が整っていない場合は、積極的に記者会見を行うメリットは小さいでしょう。

 もし、調査が不十分で事実関係の確定ができていなかったり、事実は確定できていてもその詳細を明らかにすることについて社内のコンセンサスがなかったりする場合には、記者会見を開催するタイミングを迎えていないと考えるべきです。このような状態で記者会見を迎えれば、マスコミからの質問に十分な回答ができず、情報を隠匿しているかのような印象や、不誠実であるといった印象を与えることとなります。
 もっとも、準備が整っていないことを理由に記者会見の先延ばしを続ければ、後日、監督官庁やマスコミ等からの強い要請に屈する形で開催するといった状況に陥る危険があるため、注意が必要です。すでに説明したように、このような事態になれば、企業はかなり不利な立場に置かれることを覚悟しなければなりません。

忘却を目指すか、好印象で終えることを目指すか

 時折、企業として積極的な広報活動を行わず、「放置する」という選択を採ったと思える事案が見受けられます。積極的な情報発信を行えば、逆に世間の注目度を高めることとなり、レピュテーションの毀損を加速させる危険があります。そのため、あえて「忘れられるのを待つ」という戦略を選択しているようにも見受けられます。確かに、このような選択肢は、経営者にとって、とても魅力的に見えることがあります。

 しかし、そのような対応は、真のレピュテーションの回復を実現するうえで効果的な手法とはいえません。まず、「放置する」という対応自体が「炎上」を招く可能性があります。また、「あの会社は不祥事を起こしたが、満足な説明も行わずに逃げた」という悪い印象を社会に残す危険性もあります。さらに、後日、自社で別の問題が発覚した場合や、他社で類似の問題が発覚したときに、「過去の悪い例」として何度もマスコミに取り上げられ、長期的にレピュテーションを毀損し続ける可能性もあります。

 一方、積極的な情報発信を心がけた企業の場合はどうでしょうか。そもそも、誠実かつ真摯な説明を行った企業については、レピュテーションのV字回復を期待することができます。また、V字回復とまではいかずとも、愚直に誠実な対応を繰り返すことにより、中長期的には、それまで以上のレピュテーション回復につなげることも不可能ではありません。「忘れられるのを待つ」対応を選択した場合には、このようなチャンスは望めません。
 そのため、適切な広報活動を目指す際には、「終わり方」、つまりどのように問題にけじめをつけるかという点を重要視すべきです

 一時的な注目度の高まりや批判を恐れ、適切な対応を怠ることは避けなければなりません。企業としては、中長期的な視点に立ち、「誠実に対応した」という印象を残して対応を終えることが重要になると考えるべきです。

 なお、記者会見の開催に先立つ不祥事発生後の広報対応の初動のポイントについては、「不祥事発生時における広報対応(危機管理広報)のプロセス」をご参照ください。

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