不祥事発生時における広報対応の基本姿勢

危機管理・内部統制

 不祥事が発生した場合における広報対応(危機管理広報)にあたっては、どのような姿勢で臨むべきでしょうか。その心構えや、重要視すべきポイントとあわせて教えてください。

 不祥事発生時における広報対応の目標は、企業の信頼回復です。企業の信頼回復のためには、企業の「誠実性(Integrity)を世の中に示すことが不可欠となります。この場合における企業の誠実性を示すためのキーとなる要素は、①迅速性、②透明性、③共感を持てる説明、④一貫性、の4つであると考えられます。

解説

目次

  1. 不祥事発生時における広報対応の重要性
  2. 企業の誠実性(Integrity)

不祥事発生時における広報対応の重要性

 近年、企業不祥事が多発しています。
 不祥事を発生させてしまった企業は、社会からの信頼、ステークホルダーからの信頼を大きく損ね、急激なレピュテーション(評判)の低下に直面することとなります。できる限り早期にレピュテーションの低下に歯止めをかけ、回復に向けて場面転換を図る必要があります。

 このような場面転換は、被害者、一般消費者、取引先、金融機関、行政当局、マスコミなどのステークホルダーへの積極的な情報開示とコミュニケーション戦略の実行など、自らのアクションによって実現しなければなりません。

 上記のような努力がなされなければ、レピュテーションは加速度を増して低下し、回復までの期間を長期化させていき、その間、企業価値は損なわれ続けます(下図参照。中央の網掛け部分の面積がレピュテーション毀損によって企業が受けるダメージと考えられる)。
 そのため、企業不祥事が発生した場合には、適時・適切な「情報開示=広報対応」が、企業にとって非常に重要となります。


レピュテーション・マネジメント(有事対応の場合)

レピュテーション・マネジメント(有事対応の場合)

出典:経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」(2019年6月28日策定)97頁

 ところが現実には、不祥事が生じた企業において、情報開示の遅れや、被害者や消費者の感情を逆なでする対応、記者会見における失言などにより、自ら傷口を広げてしまう事例が多数存在します。
 このような広報対応の失敗を防ぐため、企業は、どのような心構えで「情報開示=広報対応」にあたるべきでしょうか。

 本稿では、そのための基本的な原則を紹介します。

企業の誠実性(Integrity)

 企業のレピュテーションは、当該企業に対する社会からの評価の集積によって形成されます。そして、社会からの評価とは、社会に存在する個人の内心における感情の積み重ねから成り立っています。
 個人と個人との間の信頼関係が、誠実な人柄をベースにした適切なコミュニケーションによって築かれることと同様、個人と企業との信頼関係もまた、企業の誠実性をベースにした適切なコミュニケーションの有無によって、大きく左右されることになります(『不祥事を公表するかどうかの判断基準とレピュテーション管理のポイント』参照)。

 社会との適切なコミュニケーションのベースは、「企業の誠実性(Integrity)」です。誠実性のないコミュニケーションはまったく意味を持たないだけでなく、企業の評判を貶めるリスクをもはらんでいます。

 不祥事が起こった場合、個人のイメージに負の影響を与える代表的な感情は「憤り」と「不安」であると言われます 1。そのため企業には、社会一般に対して、憤りや不安などのマイナスのイメージを与えないための誠実な態度が求められます

 そして、企業の誠実性を担保するために重要な要素としては、①迅速性、②透明性、③共感を持てる説明、④一貫性、という4つのキーワードをあげることができます。

企業の誠実性を担保するために重要な要素

 本稿では、企業不祥事発生時のレピュテーション低下を防ぎ、その回復を図るためには、企業の誠実性(Integrity)が重要になること、そして、誠実性を示すために重要な4つの要素を整理しました。『不祥事に際して企業が誠実性(Integrity)を示すための4要素』では、それぞれのポイントを解説します。


  1. Daniel Diermeier, ph.D著、斉藤裕一訳「『評判』はマネジメントせよ」(阪急コミュニケーションズ、2011)、229頁参照。同書は、「憤り」の根本には通常、道徳的判断や強い不公平感、基本的な法や規範への違反がある」とし、「不安を生み出す要因として特に大きい」ものとして、「未知性」「無力感」「印象の強さ」「被害者」「恐怖」があるとしている。 ↩︎

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