不祥事に際して企業が誠実性(Integrity)を示すための4要素

危機管理・内部統制

 不祥事発生時の広報対応(危機管理広報)において、企業の誠実性(Integrity)を示すために重要となる要素を具体的に教えてください。

 重要な要素は、①迅速性、②透明性、③共感を持てる説明、④一貫性の4つです。具体的には、以下のとおりです。

  1. 迅速性:対応のスピードを指します。情報を公開するまでのスピード、被害者救済の開始までのスピード、調査結果の公表までのスピードなどです。
  2. 透明性:公表した情報に嘘や偽り、隠匿等がないことのほか、情報の取得経緯がクリアであることも含みます。
  3. 共感を持てる説明:一般社会やステークホルダーからの共感を得やすい情報を発信することです。自らの責任は率直に認め、難解な説明、特殊な業界慣行などに基づいた説明はせず、企業の考え方を簡明に説明します。
  4. 一貫性:事実関係の説明についての一貫性、不祥事対応の根本方針についての一貫性を指します。早期に正確な事実確認を済ませ、これに基づいた正しい方針を決定して、一貫した対応を行います。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 第一の要素<迅速性>
  3. 第二の要素<透明性>
  4. 第三の要素<共感を持てる説明>
  5. 第四の要素<一貫性>
  6. さいごに ~トップのコミットメントの重要性

はじめに

 企業不祥事が発生した場合、適時・適切な「情報開示=広報対応」を行うことが、企業にとって非常に重要となります。本稿では、不祥事発生時の広報対応(危機管理広報)における4つのキーワード、①迅速性、②透明性、③共感を持てる説明、④一貫性について説明していきます。
 なお、不祥事の広報対応の基本姿勢については、『不祥事発生時における広報対応の基本姿勢』をご参照ください。

第一の要素<迅速性>

 時機に遅れた広報は、社会からの不信と不安を招きます。「事実を把握してから公表するまでの期間が遅い」「記者会見までのタイミングが遅い」といった非難は、失敗パターンの広報につきものと言えます。
 そのため、危機発生時の広報対応として、第一に求められる要素は「迅速性」だと言えます。
 ここでいう迅速性とは、内部的に問題が把握された時期から外部発表までの期間に限ったものではありません。企業は、第一報となる対外発表の後、徹底した事実関係の確認、原因分析、社内処分および再発防止策の発表と不祥事対応の段階を踏んでいかなければなりませんが、これらすべての段階において迅速生が確保されなければなりません。また、被害者が存在する事案では、被害救済の迅速性も必須の要素となります。

 問題把握から発表までのタイミングが長期化すれば、「この企業は問題を隠ぺいするつもりだった」「問題がバレてやむを得ず公表したのであって、自ら公表する潔さはなかった」といった一般社会の不信と強い憤りを招く原因となります。
 また、問題公表後の事実調査や被害救済などの対応が遅れた場合も、被害者および自分も被害者ではないかと感じている方々の不安は増大し続けることとなり、そのことに対する社会からの「義憤」も膨張することになります。

 社会にこのような憤りや不安を抱かせないため、企業は、全力を尽くして迅速な対応、迅速な発表を行う必要があります。ただし、「迅速な対応」と「拙速な対応」とをはき違えてはいけません。発表の迅速性と情報の正確性のバランスを保つことに注意しなければならないのです。

 なお、日本取引所自主規制法人が発表している「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」は、その原則④において、「不祥事に関する情報開示は、その必要に即し、把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。この際、経緯や事案の内容、会社の見解等を丁寧に説明するなど、透明性の確保に努める。」(傍線筆者)と述べており、不祥事対応にあたっての迅速性と透明性が強調されています。
 続いて、この「透明性」について考えてみます。

第二の要素<透明性>

 人は、透明性のない情報に信用をおくことができません。
 ここでいう透明性とは、公表された情報の一部に隠された部分がある場合だけでなく、公開された情報の取得経緯が不明な場合を含みます。

 まず、絶対にやってはいけないことは、情報の隠匿、または虚偽の説明です。
 一部の情報が隠されていた、または、虚偽の説明がなされていたことを後で知った場合、個人が激しい憤りを感じることは説明するまでもないでしょう。また、「他にも隠された情報があるのではないか」という不安も招くことにもつながります。
 ネットやメディアが発達し、誰もがSNS等を通じて、全世界に向けて、気軽に情報発信することが可能となった現代では、隠匿された情報は、いつか必ず公開されるものであると覚悟すべきです。現代では、企業が隠したいと考えるような「悪い情報」ほど噂の対象となりやすく、いずれは暴かれる運命にあります。また、仮に、一時的に隠匿が成功したとしても、人目につかない期間が長期化すればするほど、ダメージは蓄積されていきます。やがて秘密が暴かれた際には、とてつもないダメージが、企業に向かって一気に放出されることとなります。

 次に、公表された情報への信頼性を高めるために必要なことは、情報の取得経緯を説明することです
 企業不祥事に重大な関心を持つ者は、以下のような点に対して透明性を求めます。

  • 不祥事発覚の経緯
  • 事実調査の方法
  • 調査の結果認定された事実関係
  • 企業が分析した根本的な原因
  • 原因を特定した思考過程
  • 発覚した問題に対する処分とその判断根拠
  • 再発防止策の決定過程など、情報発表に至るまでの全プロセス など

 企業不祥事に関心を持つ者は、上記の情報の一部に隠された部分が残っていれば、「そこに企業にとって不利な情報や重大な秘密(すなわちステークホルダーの利益を損ねる情報)が残っているはずだ」と考えることになります。特にマスコミは、社会に正しい情報を伝えようとする使命感からも、そのように捉えるはずです。

 企業には、これらのリスクを正しく評価することが求められます。そして企業は、自らすべてをさらけ出すことによって説明責任を尽くし、自浄作用を示すという覚悟を持たなければなりません。

第三の要素<共感を持てる説明>

 社会やステークホルダーからの信頼を回復するために、企業は個人の内心に訴えかけるようなコミュニケーションを心がけなければなりません。そのためには、社会が共感を持てる情報発信をしなければなりません。

 一般社会やステークホルダーから共感を得られない企業の姿勢として、主に次のような例があげられます。

  • 不祥事に対して過度に防衛的な姿勢を見せることにより、謝罪のタイミングが遅れる
  • 被害者軽視とも受け取れる発言をする
  • 法的責任や経営責任を強く否定する
  • 部下に責任を押し付けるような発言をする
  • 「捜査が進行中のため詳細は差し控えたい」などと答えて実質的な説明を回避しようとする など

 また、社会やステークホルダーからの共感を得るためには、企業は、簡明な説明を心がけなければなりません。
 大企業や高度な技術を有する企業ほど、業界用語や専門用語を用いた難解な説明を好む傾向が見られます。しかし、そのような対応は社会の理解や共感を得ることはできません
 また、特殊な業界慣行や社内慣行を説明しても、社会にとっては理解の範疇外です。むしろ、そのような慣行と世間一般の常識が大きく乖離していることを厳しく糾弾されるケースも多く見られます。

 危機管理時の広報対応とは(危機管理時に限りませんが)、いわば社会からの信頼を積み重ねていく作業です。したがって、情報開示にあたっては、その情報に接した社会一般の方々や消費者、顧客、その他のステークホルダーがどのように感じるかについて、各ステークホルダーの視点に立ち、慎重に検討しなければなりません。このような視点を欠いた独りよがりな情報発信は、ステークホルダーからの反感を招くこととなります。

第四の要素<一貫性>

 対応方針や説明の内容が二転三転するような企業が、社会からの信頼を獲得することは至難の技と言えるでしょう。信頼を得るためには、一貫性のある態度が必要となります。

  企業に求められる一貫性とは、大きく2つに分類することができます。

  1. 事実関係の説明についての一貫性
  2. 不祥事対応の根本方針についての一貫性

 まず必要となるのが、事実関係の説明についての一貫性です。事実関係に関する説明内容が二転三転するような企業に対しては、調査能力そのものへの疑念が拭えず、以降の発言についても信頼の獲得は望めません。もちろん、調査の迅速性とのバランスは求められますが、企業は正確な事実調査に基づく適時・的確な事実発表をしなければなりません

 そして、それ以上に重要となるのが、不祥事対応の根本方針についての一貫性です。
 当初は、自社の正当性を強気に主張していた企業が、その後の事実調査の進展や社会からの批判の高まりを受け、方針を変更して謝罪に転じ、さらに遅れて被害者救済を発表するようなケースもよく見られます。

 このような方針の転換は、結果的には好ましい方向への転換であり、それ自体を否定することはできません。しかし、ここで問題となるのは、初期段階で誤った対応方針が表明されてしまったことです。このような事態を防ぐために、企業は、早期に事実関係の大枠を把握したうえで適切な方針を決定し、以降は、一貫してその方針を維持することが不可欠です

 企業としては、詳細な事実関係の確定や法的責任の有無に関する判断を待って慎重な決定を下したい考えるかもしれませんが、いたずらに時間をかけてしまえば、広報対応は失敗する確率が高まります。時には、事実関係を確定させることができないうちに、対応方針を決定しなければならない場合もあると考えなければなりません。

 この時に問われるのが、早期に正しい判断を行う「決定力」です。自社の置かれた社会的立場、不祥事の内容に対する社会の捉え方、その時点における社会情勢等の事情を総合的に考慮したうえ、自社の企業理念にまで立ち返って検討することが必要です。そのうえで、レピュテーション戦略上の正しいポジションがどこにあるのかを判断する能力が求められるのです。

さいごに ~トップのコミットメントの重要性

 以上のとおり、不祥事対応の基本姿勢においては、企業の誠実性(Integrity)が最も重要であり、それを担保するためのキーワードは、①迅速性、②透明性、③共感を持てる説明、④一貫性、であることを説明しました。

 この誠実性は、わかりやすい形で社会に示される必要があります。
 そのために最も有効となるのが、「トップのコミットメント」です。
 「迅速」な調査によって決定された対応方針については、たとえば、「不正は許さない」「(法的責任の有無にかかわらず)被害者の救済を優先する」「不祥事対応を会社の第一のプライオリティとする」などといった、社会からの「共感」を得られやすい、明快かつ強固なキーワードにして、企業トップ自らがコミットメントすることが大切です。そして、このキーワードを社内外に広く周知させ、全社をあげて、決定された方針に沿った「一貫性」ある対応を行うことが、レピュテーション戦略上、有効な方策となるでしょう。

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