所有地から発見された石綿(アスベスト)に関する法令上の規制
資源・エネルギー所有地から発見された石綿(アスベスト)について、どのような法令上の規制があるか教えてください。
アスベストの規制は複数の法律によって規律されています。具体的には、アスベストを取り扱う労働者の健康確保を目的とする労働安全衛生法、じん肺法等の規制が存在しており、そのほか、大気汚染防止法、建築基準法や廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)等によって規制が定められています。アスベストを処分する場合には、各法令等にのっとった処理基準・方法に従って行う必要があります。
解説
アスベストについて
アスベスト(石綿)は耐熱性、耐薬品性に優れており機械的強度もあることから、かつては、吹付耐火被覆、スレート、プラスチックタイル、煙突の内貼材、空調ダクトのフレキシブル継手、パッキン、通気配管用のセメント管などに使用されていました。しかし、微細な繊維が、肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫、肺がんの誘因になるとされ、現在では炭素繊維などの代替品に置き換えられてきています。
石綿(アスベスト)は、天然の鉱物繊維であり、石綿蛇紋石族と角閃石族に大別され、前者として、クリソタイル(白石綿。世界で使われた石綿の九割以上を占めるとされる。)が、後者として、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト石綿、トレモライト石綿、アクチノライト石綿がある。石綿は、極めて細かい繊維で、熱、摩擦、酸やアルカリにも強く、丈夫で変化しにくいという特性を持っていることから、建材(吹き付け材、保温・断熱材、スレート材など)、摩擦材(自動車のブレーキライニングやブレーキパッドなど)、シール断熱材(石綿紡織品、ガスケットなど)といった工業製品に使用されてきた。このうち、クロシドライト(青石綿)およびアモサイト(茶石綿)は、吹付け石綿として使用されていた。石綿は、極めて細かい繊維からなっており、飛散すると空気中に浮遊しやすく、吸入されて人の肺胞に沈着しやすい特徴があり、肺の繊維化(石綿肺)やガンの一種である肺ガン、悪性中皮腫などの疾病の原因となるとされている。
アスベストは重大な健康被害を生じさせうる可能性があるものであり、アスベストが露出する建物で勤務していた者が悪性胸膜中皮腫に罹患した事例で、テナントビルのオーナーがその責任を負うとする最高裁判決(最高裁平成25年7月12日判決・判時2200号63頁)も出るなど大きな問題となっています。
アスベストに関する法令上の規制
一般的なアスベストに関する規制
アスベストの規制は複数の法律によって規律されています。具体的には、アスベストを取り扱う労働者の健康確保を目的とする労働安全衛生法等の規制が存在しており、一般環境への汚染防止を目的とする大気汚染防止法のほか、建築基準法や廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)等により建築物の建築、解体・改修の際におけるアスベストの厳格な管理が求められています。
【主なアスベスト規制法一覧】
法令名 | 条文・コメント |
---|---|
労働安全衛生法 | 55条、施行令16条1項4号、同9号 等 |
石綿障害予防規則 | 6条~10条 等 |
じん肺法 | 2条1項3号、施行規則2条、別表24号 等 |
大気汚染防止法 | 2条9項(施行令2条の4)、2条12項(施行令3条の3)等 なお、平成26年より、吹付け石綿等が使用されている建築物の解体、改造、補修作業の実施の届出義務者の変更等、石綿飛散防止対策が強化されているので注意が必要です。 |
建築基準法 | 28条の2、別表第二(ぬ)1項30号 |
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法) | 施行令2条の4第5号ヘ、施行規則1条の2第9項、7条の2の3 等 |
特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法) | 施行令別表第1第33号 等 |
平成18年9月からは、労働安全衛生法施行令の改正により、アスベストおよびアスベスト含有物(重量の0.1%を超えて含有するもの)の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されることになりました(労働安全衛生法55条、施行令労働安全衛生法施行令16条、1項4号、同項9号)。その半年前の同年3月には、石綿による健康被害の救済に関する法律(アスベスト新法)が施行されました。同法は、アスベストによる被害者等の迅速な救済を図ることを目的として(アスベスト新法1条)、医療費等の支払等について規定しています(アスベスト新法3条以下)。アスベスト新法の制定に伴い、大気汚染防止法、建築基準法および廃棄物処理法等が改正されています。
各法令による規制経緯の詳細は、東京地裁平成24年9月27日判決(前掲参考裁判例)においても判示されています。
アスベスト含有廃棄物等に関する規制(廃棄物処理法)
(1)アスベスト含有廃棄物等
廃棄物処理法において、事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならず、自ら産業廃棄物の運搬または処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬および処分に関する基準に従わなければならないとされています(廃棄物処理法3条1項、12条1項)。
特に、アスベストを含有する廃棄物については、「廃石綿等」(廃棄物処理法施行令2条の4第5号ト、廃棄物処理法施行規則1条の2第9項)、「石綿含有一般廃棄物」(廃棄物処理法施行規則1条の3の3)、「石綿含有産業廃棄物」(廃棄物処理法施行規則7条の2の3)として特に規定され、厳格な処理を行うことが求められます。一般廃棄物または産業廃棄物のうち、爆発性、毒性、感染性その他の人の健康または生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するものとして政令で指定されたものが特別管理産業廃棄物であり(廃棄物処理法2条5項)、廃石綿等は特別管理産業廃棄物に該当します。
種別 | 分類 | 詳細 |
---|---|---|
廃石綿等 | 特別管理産業廃棄物 | 廃石綿および石綿が含まれ、または付着している産業廃棄物のうち、石綿建材除去事業(建築物その他の工作物に用いられる材料であって石綿を吹き付けられ、または含むものの除去を行う事業)に係るもの等で、飛散するおそれのあるものとして、下記に定めるもの 一 建築物その他の工作物(建築物等)に用いられる材料であって石綿を吹きつけられたものから石綿建材除去事業により除去された当該石綿 二 建築物等に用いられる材料であって石綿を含むもののうち石綿建材除去事業により除去された次に掲げるもの イ 石綿保温材ロ けいそう土保温材 ハ パーライト保温材 ニ 人の接触、気流および振動等によりイからハに掲げるものと同等以上に石綿が飛散するおそれのある保温材、断熱材および耐火被覆材 (以下、略) |
石綿含有一般廃棄物 | 一般廃棄物 | 工作物の新築、改築または除去に伴って生じた一般廃棄物であって、石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有するもの |
石綿含有産業廃棄物 | 産業廃棄物 | 工作物の新築、改築または除去に伴って生じた産業廃棄物であって、石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有するもの(廃石綿等を除く) |
(2)アスベスト含有廃棄物等の処理の流れ
アスベスト含有廃棄物等の処理の詳細については、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部「石綿含有廃棄物等処理マニュアル(第2版)」(平成23年3月)に示されています(以下「石綿含有廃棄物等処理マニュアル」といいます)。
廃石綿(アスベスト)等を適正に処理するために、廃石綿等を生ずる事業場を設置する事業者は、廃石綿等を生ずる事業場ごとに特別管理産業廃棄物管理責任者を設置し、廃石綿等の取扱いに関し管理体制を整備する必要があります(廃棄物処理法12条の2第8項)。特別管理産業廃棄物管理責任者は、廃石綿等の排出から最終処分までを適正に管理する要となるべき者であり、委託処理を行う場合の処理業者の選択、委託契約の締結、マニフェストの交付など、統括的な管理を行うことになります(石綿含有廃棄物等処理マニュアル11頁)。
【廃石綿等の処理】
①「中間処理」を行う方法
上記(1)のケースは、「中間処理」をして、特別管理産業廃棄物(廃石綿等)ではない通常の産業廃棄物として処分する方法です。「中間処理」には、廃石綿等を、溶融炉で1500℃以上の高温で溶融する方法(溶融)や、他物質と混合することなどによる低温分解処理等で認定された方法(無害化)があります(その具体的な方法については、石綿含有廃棄物等処理マニュアル52、56、59頁等参照)。もっとも、「中間処理」によっても特別管理産業廃棄物としての性格を失わない場合には、通常の産業廃棄物として処分することができず、特別管理産業廃棄物の廃石綿等として処分する必要があります。
「最終処分」では、管理型最終処分場において廃石綿等が分散しないように処分しなければなりません。これに対し、廃石綿等が環境大臣の指定する産業廃棄物に適合するものであれば、安定型最終処分場での処分が可能となります(最終処分の方法については、石綿含有廃棄物等処理マニュアル64頁参照)。
② 「中間処理」を行わない方法
他方、上記(2)のケースでは、溶融や無害化といった「中間処理」を行わないため、特別管理産業廃棄物としての性格を失わせる方法とみなすことはできず(通常の産業廃棄物として処分することができない)、廃石綿等を、管理型最終処分場において廃石綿等が分散しないように処分しなければなりません。
石綿含有廃棄物等処理マニュアルにおいては、できる限り上記(1)の方法により「中間処理」することが望ましいとされています。廃石綿等の最終処分は、都道府県知事または廃棄物処理法の政令市の市長に許可を受けた最終処分場で行う必要があります(以上、石綿含有廃棄物等処理マニュアル19頁、52頁等参照)。
【石綿廃棄物の処理】
① 「中間処理」を行う方法
石綿廃棄物の処理も、基本的な流れは上記の廃石綿等の処理と同様です。
すなわち、「中間処理」を行う場合(上記(1)のケース)には、石綿含有産業廃棄物を、「溶融設備を用いて溶融する方法」(溶融)、「認定に係る無害化処理の方法」(無害化)、または一般廃棄物と混合して破砕し焼却する方法(後者は石綿一般廃棄物の場合のみ)をすることにより、その他の産業廃棄物として再生・処分できることになります。
「最終処分」については、石綿含有産業廃棄物が環境大臣の指定する産業廃棄物に適合するものであれば、安定型最終処分場での処分が可能となります。
② 「中間処理」を行わない方法
他方、「中間処理」を行わない上記(2)のケースでは、最終処分場において石綿含有産業廃棄物が分散しないように処分しなければなりません。
石綿含有廃棄物等処理マニュアルにおいては、最終処分場の残余容量がひっ迫しているため、可能な限り上記(1)の方法により「中間処理」することが望ましいとされています。石綿含有廃棄物の最終処分についても、都道府県知事または廃棄物処理法の政令市の市長に許可を受けた最終処分場で行う必要があります(以上、石綿含有廃棄物等処理マニュアル20頁、54頁)。
アスベスト含有土壌に関する規制
(1)土壌汚染対策法
土壌汚染対策法は、土壌汚染の状況の把握およびその汚染による人の健康被害の防止に関する措置を定めること等を目的としたものであり、平成15年2月に施行されました。
同法による規制の対象となる有害物質である「特定有害物質」は、「それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるもの」ですが(土壌汚染対策法2条1項)、同法施行令1条が定める特定有害物質には、石綿(アスベスト)は含まれていません。そのため、土壌汚染対策法が「特定有害物質」として石綿を規定していない以上、同法が石綿を含有する土壌あるいは建設発生土に適用されることはありません(東京地裁平成24年9月27日判決(前掲参考裁判例))。
(2)その他の法令
労働安全衛生関係の法令は、石綿などの粉じん(空中を飛散している石綿)を継続的に発生させる事業に従事する労働者の労働安全衛生について規制するものであり、石綿を含有する土壌あるいは建設発生土に適用されることはありません(東京地裁平成24年9月27日判決(前掲参考裁判例))。
さいごに
以上のとおり、所有地から発見された石綿(アスベスト)については、各種法令等にのっとった処理基準・方法に従って処分を行う必要があります。
もっとも、購入した土地から石綿(アスベスト)が発見された場合には、土地売主に対して瑕疵担保責任等に基づく損害賠償請求等が認められることがあります。この点については、「購入した土地から石綿(アスベスト)が発見された場合の土地売主に対する責任追及」において説明します。
なお、不動産再開発等に伴う石綿(アスベスト)リスクのその他の詳細については、井上治著『不動産再開発の法務――都市再開発・マンション建替え・工場跡地開発の紛争予防 』(株式会社商事法務、2017年1月)67頁等もぜひ参照してみてください。

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