他社事例に学ぶ 不祥事発生後の説明・謝罪のポイント
危機管理・内部統制 公開 更新当社の子会社で不正が行われていたことが発覚しましたが、その内容を対外的に公表すべきか、関係者(取引先や顧客)に対してのみ説明するにとどめるのかについて検討しています。また、不祥事の内容や謝罪内容についてどのような点に注意すべきでしょうか。
十分に検討しないままに説明・謝罪を行うことによって、かえって事態が悪化してしまうケースが多く見られます。そのため、対外的にまたは関係者に対して公表・説明すべきかどうか、その内容をどうすべきかについて、他社の事例を参考にするなどして、慎重に検討する必要があります。
解説
目次
2019年に起こった不祥事の傾向
2019年に起こった不祥事について特徴的なものとしてあげられるのが、不祥事発覚後に会社が行った説明や謝罪等の対応のまずさにより、企業の信用が大きく低下してしまったというケースです。
不祥事の内容・程度によっては、関係者(取引先や顧客)に対する説明・謝罪のみならず、会社のホームページに謝罪文を掲載したり、また場合によっては報道機関からの取材に応じたり、記者会見を行うことを余儀なくされるケースもあります。
関係者に対する早期の説明・謝罪は、風評被害などの事態の悪化を防ぎ、事態の早期収拾に資するものとなります。
しかしながら、実際には、説明・謝罪を行うことによって、事態が収束するケース、かえって企業イメージが好転するケース、逆に事態が悪化してしまうケースがあります。これらはどのような対応の違いによるものなのでしょうか。
不祥事発生後の対応(説明・謝罪等)を誤ったケース
以下においては、実際の例に基づき、不祥事発生後の対応(説明・謝罪等)を誤ったケースのポイントをご紹介します。
なお、本稿は特定の具体的な事案を紹介するものではなく、近時見られる複数の事案をもとに抽象化してその問題点等を紹介するものであることにご留意ください。
ポイントとしては、以下のケースがあげられます。そのうち重要なポイントをいくつか説明します。
- タイミング・時期を逸したケース
- 説明内容が二転三転したケース
- 説明内容が不適切であったケース
- 被害者的な振る舞いをしたケース
説明内容が二転三転したケース
不祥事による被害発生・拡大を防止するために、関係者に対して早期に説明を行うことが必要となる場合がありますが、そのような際には、その時点で判明している事実が限られていることも少なくありません。
その場合、必要な最低限の情報をもとに説明をすることで対応せざるをえないこともありえます。
もっとも、その場合であっても、場当たり的に事実に反する説明や弁解を行ったり、説明内容が二転三転したりしてしまうと、企業のダメージがさらに拡大してしまいます。
たとえば、以下のような事例があります。
- 免震製品のデータ偽装が行われたケースで、関係者の事情聴取や社内調査が不十分な状況であるにもかかわらず、合理的な根拠もなく改ざんの事実を否定したり、改ざんされたデータの範囲を過少に発表してしまい、その後になって当初行った発表と異なる事実が発覚した例
(「第6回 免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント」参照) - 建築基準法違反の設計・施工がなされたケースで、データの改ざんが行われていたところ、当初、データの改ざんに関わったのは問題となっている1人だけである旨の見解を示していましたが、その後の調査で他の担当者が関わった物件でもデータの改ざんが発覚した例
(「第11回 建築基準法違反の設計・施工事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント」参照) - 廃棄物の不法投棄が行われたケースで、不法投棄をした廃棄物に有害物質が混入していることはないこと、また企業として不法投棄を行った事実はないことなどの声明を発表した後に、それらの声明の内容が事実ではなかったことが判明した例
(「第4回 土壌汚染に関連する不祥事事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント」参照) - 食品メーカーにおいて、インスタントやきそばに虫が混入していたとしてその写真がTwitterに投稿されたケースで、当初、製造過程において虫が混入したとは考えられないとの立場を表明していたが、その後、混入の可能性がゼロとはいえないと立場を変更したうえ、同種の苦情が過去に何件かあったことを明らかにしたことで炎上した例
(「第7回 SNSによる不祥事事案から考える、不正発覚後の対応(初動対応・広報対応)のポイント」参照)
謝罪内容が不適切であったケース
正確な情報の公表と合わせて、不祥事を起こしてしまったことについての謝罪を検討する必要があります。
しかし、謝罪の内容等が不十分、不適切であると受け手に感じられてしまった場合には、さらに炎上し、事態がより深刻化してしまうことがあります。
たとえば、以下のような事例があります。
(「第7回 SNSによる不祥事事案から考える、不正発覚後の対応(初動対応・広報対応)のポイント」参照)
- 製薬メーカーの従業員がTwitterに不適切な投稿をしたケースで、当該製薬メーカーによるプレスリリースに謝罪の意図が感じられず、また不祥事の説明が不十分であるとして炎上した例
- 病院の従業員が来院した芸能人をTwitterに投稿をしたケースで、当該病院が公表した謝罪文の文言が、保身・責任逃れであるかのように捉えられてさらに炎上した例
- スポーツ用品店の従業員が、来店したプロスポーツ選手を中傷する内容をTwitterに投稿したケースで、会社が公表した謝罪文が、別会社が別事件で公表した謝罪内容と酷似しているとしてさらに炎上した例
そのため、どのような内容を開示公表するか(謝罪も含めた内容とすべきか否かの検討も必要となる場合があります)、公表の方法等については、慎重な検討が必要となり、事前に弁護士等のチェックを受けることも検討されます。
被害者的な振る舞いをしたケース
不祥事の内容によっては、必ずしも自社に落ち度がないという場合もあるかもしれません。
しかしながら、だからといって、ただちに関係者に対する説明や謝罪を行わなくてよいということにはなりません。
たとえば、他社のトラブルに巻き込まれたケースや、会社の管理している個人情報が第三者によって流出してしまったようなケースであったとしても、顧客や取引先に迷惑かけている場合がある(その意味では加害者である)という点に留意すべきです。
このようなケースで、自社も被害者であるという印象を与えるような説明を行うことは、責任逃れという印象を与えてしまい、かえって会社の信用低下につながってしまうおそれがあります。
不祥事発生後の広報対応
関係者に対して自主的に公表・説明すべきかどうかの検討
(1)自主的に不祥事を公表・説明する目的・メリット
不祥事について、噂や誤解が一人歩きしてしまう例は少なくありません。そのため、先だって正確な説明を行うことが有効なケースが多いと言えます。
特に、情報が少ないがために噂が急速に広まってしまうようなケースも多く、不祥事が発生した場所の周辺住民の間で誤った情報が拡散されてしまうという例もあります。そのような場合には、早期に住民説明会等を行う必要性が高まります。
また、不祥事が外部から発覚した場合には、必要な調査・マスコミ対応・再発防止策の策定等が後手に回らざるを得なくなってしまうということからしても、不祥事を自主的に公表することによって事態をできる限りコントロールすることが望まれます。不祥事が外部から発覚する例としては以下のようなケースがあります。
- マンションの欠陥が、インターネット掲示板の書き込みで発覚した例
- 賃貸用アパートの欠陥が、不正把握直後のTV番組でスクープされた例
- 建築基準法違反の施工について、内部告発によって外部の報道から発覚した例
特に近時注意しなければならないのが、不祥事の内容がSNS(ソーシャルメディア)で拡散されてしまうケースが多いことです。SNSは情報の拡散スピードがきわめて速いのが特徴です。従業員が問題となる投稿を行ってから、当該投稿が拡散し「炎上」するまでの時間はきわめて短く、半日もかからないと指摘されています。たとえば、レストランのアルバイト学生がTwitterにプロサッカー選手と芸能人が来店したことを投稿したケースで、投稿から3時間程度で2ちゃんねるにスレッドが立ち、炎上した例もあります。
この点は、「第7回 SNSによる不祥事事案から考える、不正発覚後の対応(初動対応・広報対応)のポイント」も参照してください。
(2)自主的に不祥事を公表・説明するかどうかの検討
自主的に不祥事を公表・説明するか否かは、基本的に企業の経営判断に委ねられている事項であり、不祥事により第三者への被害が発生・拡大するおそれがあるか否かや、当該不祥事に関する事実が企業への評価に与える影響の有無等を考慮して開示・公表の要否を検討することになります。
特に、第三者の生命・身体への影響が懸念される場合(建物の安全性や環境の安全性に関係する不正、またこれらに関するデータ偽装のケースなど)や、被害の拡大が懸念される場合(不正に関する製品・物件、データ偽装された製品・食品が広く流通しており、被害が拡大する可能性がある場合など)、その他、世間の関心を集め、社会的注目度が高いような場合には、開示・公表する必要性が高まります。
また、同種の不正事案において他社が公表を行ったかどうか(またその内容)、不正を行った企業が過去に不正・不祥事を起こしたことがあるかという点も考慮して、開示公表の判断が行われることもあります。
不祥事を自主的に公表しないという判断をした場合、不祥事が外部から発覚してしまうと、隠蔽を疑われるリスクがあり、さらなる信用の低下を招くことになります。
また、製品の不具合を認識しながら、適時に開示・公表を行わなかった結果として第三者に致死傷の結果が生じたような場合には、刑事責任を問われる可能性があります。たとえば、ガス湯沸器の修理業者等が内部配線の不正な改造を行ったことにより不完全燃焼が起こって一酸化炭素中毒による死亡事故が生じたケースでは、ガス湯沸器の製造業者が消費者に対する注意喚起を徹底しなかったことによって同事故を招いた過失があるとして、製造業者の代表取締役および品質管理担当の取締役に業務上過失致死罪(刑法211条)の刑が確定しています(禁錮1年6月、禁錮1年(いずれも執行猶予3年))。
そのほか、公表・説明のタイミングが遅れたことによって被害が拡大した場合には、拡大した損害の賠償責任(欠陥製品の回収費用の増加、営業補償、信用回復費用)を負うこともある点にも注意が必要です。
以上の点は、「第6回 免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント」、「第4回 土壌汚染に関連する不祥事事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント」も参照してください。
誰が説明すべきか(説明の主体)の判断
不祥事の内容を自主的に説明・公表するという判断をした場合、誰がその説明等を行うかということも検討しなければなりません。自主的に説明することを決めたとしても、不祥事の当事者が説明しない、会社のトップが説明しないということを理由にさらに事態が悪化してしまうケースも見られます。
説明・公表する内容のポイント
不祥事発覚後に対外的な説明を行う場合に重要なのは、まず正確な情報を公表することです。事実関係や経緯、会社に与える影響、原因、再発防止策、関係者に対する処分(懲戒処分、損害賠償、刑事告訴等)、被害者に対する補償、その他の対応方針(店舗の閉鎖等)についての説明が求められる場合もあります。
また、不祥事の内容のみならず、その対応についてまで具体的に示すことが会社の信頼を取り戻すことにつながります。
どのタイミングでどのような内容を開示公表するかについては慎重な検討が必要です(十分な検討をせずに行われた説明・謝罪の失敗例は、前述のとおりです)。
そのため、公表内容について事前に弁護士等のチェックを受ける例も多くみられます。
監督官庁に対する報告
法令により、監督当局への報告が義務づけられている場合でなかったとしても、監督当局との信頼関係を維持し今後円滑な調査を進めるためにも、また不正行為を隠蔽していたという印象を持たれないためにも、初期調査の実施後速やかに、監督当局へ一報を入れることが望ましいといえます。
また、事実説明、原因分析、再発防止策等についても報告を行うことが望まれます。
早期に適切な報告等を行わないことで、きわめて深刻な事態を招くことがあります。
たとえば、大型トラックのハブが破損し脱落したタイヤが歩行者にぶつかり死亡事故が生じたケースで、同製品の製造企業において以前にも事故があり強度不足の疑いがあったハブについて、リコール等の改善措置を実施する手続きを進めるほか、運輸省に対して調査結果を正確に報告すべきであったにもかかわらずこれをしなかったことによって同事故を招いた過失があるとして、同社の品質保証部門の責任者2名に業務上過失致死罪(刑法211条)の刑が確定しています(いずれも禁錮1年6月、執行猶予3年)。
また、免震製品のデータ偽装がなされたケースでは、担当者が不正の疑い(データ偽装)について認識してから、所管の国土交通省に報告されるまでに約2年の期間を要した例もあります。
不祥事が発生した場合に備えた事前準備の必要性
これまで説明してきたとおり、不祥事が発生した場合には、できる限り早急に対応し、後手に回らないようにすることが何よりも重要です。
そのためには、普段から準備をしておくことが必要となりますが、十分な準備ができている企業は、全体のごく一部であるというのが実際のところではないでしょうか。
他社の不祥事報道を他人ごととして片付けるのではなく、自社は大丈夫だろうか、同様の不祥事が起こった場合に対応できる体制が整っているだろうかという視点で、最低限のレベルでも備えておくということが重要であるといえます。
新型コロナウィルス感染症の感染者が発生した場合の公表・説明等
2020年に入り、新型コロナウイルス(COVID-19)の問題が日々大きく報道されておりますが、これまですでに世界での感染者数が約240万人、死者数が約16万人を超え、各国で非常事態宣言、都市封鎖がなされるなど深刻な状況となっています(2020年4月下旬時点)。
従業員に感染者が出た企業においては、感染者が出たことおよび対応方針を公表するケースが見受けられますが、その際にプレスリリース等において謝罪(関係者に対して迷惑をかけた等の謝罪)を表明する例も見受けられます。
従業員が感染したことについて会社に責任がない場合も多いと思われますが、上記2-3で説明したように、その場合であっても顧客や取引先に迷惑かけるおそれがあるという点には留意すべきです。特に、自社も被害者であるという印象を与えるような説明を行うこと、その他上記で説明したような不適切な説明を行うことで、会社の信用低下を招くことのないよう注意が必要です。
2020年4月22日:新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、記事の一部に加筆を行いました。

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