内部通報制度の実効化に向けた「不祥事予防に向けた取組事例集」の活用

危機管理・内部統制
小坂 光矢弁護士 牛島総合法律事務所

 当社では、内部通報制度を導入することを検討していますが、具体的にどのような制度とすればいいのか、具体的なイメージが湧きません。他の会社ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

 様々な企業における内部通報制度導入の具体例を掲載した「不祥事予防に向けた取組事例集」が2019年11月7日に公表されました。ここでは、不正発見の端緒となり得る内部通報制度以外の制度に関する取組例や内部通報制度による通報機会の拡充につながった取組例などが紹介されています。また、内部通報がなされた場合にいかなる体制で調査・是正に望むべきであるか、内部通報制度をより実効的なものにしていくための今後の課題などが述べられています。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 通常のレポートラインと内部通報窓口との役割分担
  3. 通報機会の拡充につながった取組例
  4. 調査・是正措置に関する取組事例
  5. 内部通報制度の実効化に向けた課題

はじめに

 2018年3月に日本証券取引所自主規制法人が策定・公表した「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」(以下「プリンシプル」といいます)は、各上場企業が不祥事の予防に向けた効果的な取組みを行ううえで参考にできるプリンシプル・ベースの指針であるとされています。もっとも、プリンシプルに記載されている各原則の文言は抽象的であるものも多く、実務担当者が具体的にどのように対応すべきかを理解するのは容易ではないという指摘がなされていました。

 そのような問題意識の下、各社の不祥事予防に向けた具体的な取組みについて議論する「不祥事予防のプリンシプルに関する意見交換会」(以下「意見交換会」といいます)が開催され、2019年11月7日に、その内容を取りまとめた「不祥事予防に向けた取組事例集」(以下「取組事例集」といいます)が公表されました。
 本稿では、取組事例集のなかから、内部通報制度の整備・運用にあたって参考となると考えられる事項について解説します。

 また、内部通報制度に関する実務対応については、以下も参照して下さい。

通常のレポートラインと内部通報窓口との役割分担

 不正を発見する端緒としては、通常のレポートラインのほかに内部通報制度等があります。取組事例集では、通常のレポートラインと内部通報制度の関係についても意見が述べられています。不正発見の制度として、これらのうちいずれが中心となるべきかというについては、様々な考え方があるようですが、通常のレポートラインの場合には、内部通報制度が利用された場合と比較して通報者の秘密保持等を考慮する必要がないことなどから、その後の調査や会社として取るべき対応手段の広さ、解決までの迅速さの点で優れているという意見が述べられています。

解説 1−3 各社の取組事例・意見等
(意見交換会におけるコメント)
  • 内部通報として受けてしまうと秘密保持の必要があり、情報を受け取ったコンプライアンス部門としてもとれる手段が限られてしまう。職場で上司に報告した方がとれる手段が多いし、解決のスピードも早い場合も多い。

 とりわけ従業員が上司に自由に相談することのできる風通しの良い企業風土が形成されている会社であれば、不正の端緒がレポートラインを通じて適時に報告されることが期待できるため、不祥事の未然予防に極めて効果的であるといえます。

 他方で、内部通報制度も会社による不正の端緒の発見に資する重要な制度であることに変わりはありません。通常のレポートラインとは異なり通報者の秘密が約束されることに特徴がある内部通報制度は、パワハラやセクハラなどの職場内の人的関係に関するトラブルについて多く利用されることが予想され、取組事例集でもそのような意見がなされています。

解説 1−3 各社の取組事例・意見等
(意見交換会におけるコメント)
  • 資料改竄や資金の不正流用などは、部署内で声を上げることも可能かもしれないが、ハラスメント関係だと、目の前で当事者である上司本人を糾弾することはできないので、内部通報に流れるのは当然である。上司に圧迫されてしまった人の逃げ道としては、内部通報は必要である。

  • 個人同士のパワハラ・セクハラについては、内部通報による発見が多い一方、製品データの誤りや工場の安全基準違反などは、そうした事項のチェックを担う品質管理部等の第2線の部門が発見することが多い。

 なお、通常のレポートラインと内部通報制度との役割分担に関して、従業員から報告を受ける窓口担当者においては、その報告が通常の業務報告の趣旨でなされたものであるのか、あるいは通報者の秘密保持が求められることを期待する内部通報の趣旨で行われたものであるのかをしっかり確認しておくことが重要です。窓口担当者が通報に対して適切な対応を行わなかったと受け止められた場合、訴訟が提起されるなどした上で不法行為責任を問われるリスクがあります(東京高裁平成27年1月28日判決(原審:東京地裁平成26年7月31日判決・判例時報2241号95頁))。

 取組事例集では、通常のレポートラインや内部通報制度とも異なる「第三の制度」として、報告・通報の窓口となる会社の中間層を介することなく直接社長や監査役などへ通報を行うことができるホットラインを設置しているという取組例が紹介されています。不正が発生・発見された場合、いかに迅速に事案を把握し、調査や対外対応等の見通しを立てられるかが極めて重要となりますが、このようなホットラインは通常のレポートラインや内部通報制度による報告よりも早期に不正の把握が可能になることなどから、有用であるとも考えられます。

解説 1−3 各社の取組事例・意見等
(意見交換会におけるコメント)
  • 通常のホットラインに加えて、「経営への一報」という、重大な問題の予兆があった際、あるいは発生してしまった際は、中間層を飛ばし、直接社長・監査役等へ報告する仕組みを導入した。ホットラインによる内部通報と、組織の下から上への報告との中間的な位置づけとなっている。社内イントラに入力フォーマットを設置しており、現場の部課長から寄せられることが多い。一報の内容は内部通報のように秘密ではなく、広く展開される。

  • 中間層も、「そんな問題が起きたなら早く一報をあげておくように」と積極的に活用する雰囲気が出来上がっている。週に1件程度、この制度を用いた報告がある。

通報機会の拡充につながった取組例

 内部通報制度を実効化するためには、いかに利用者による通報の機会を拡充できるかが重要となります。
 消費者庁が2016年12月に公表した「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます)においても、内部通報制度の整備・運用に関する項目の1つとして、「通報対応の仕組みの整備(通報窓口・利用者等の範囲の拡充)」があげられています。
 「通報窓口の拡充」については、外部の窓口の設置を含め複数のルートを設けることが重要であり、社外取締役や監査役等への通報ルート等、経営幹部からも独立性を有する通報受付・調査是正の仕組みを整備するほか(コーポレートガバナンス・コード(2−5①))、法律事務所や民間の専門機関等に委託する等、事業者の外部に設置することなどが考えられます。
 (詳細については、「ガイドラインを踏まえた内部通報制度の実践的な見直しのポイント」の3を参照してください。)

 取組事例集では、通報窓口として執行側の窓口と監査役窓口の2つを用意しておき、どちらの窓口に通報するかを通報者に委ねるという取組例や、すべての社員に対して、あらかじめ内部通報の用紙を配布しておいたことで通報数が増加したという取組例があげられており、利用者が通報を行いやすい制度の構築にあたって参考になると思われます。

解説 2−2 各社の取組事例・意見等
(意見交換会におけるコメント)
  • 当社では、執行サイドの通報窓口に加え、監査役も窓口になっており、通報者が選べるようになっている。監査役の窓口に入った情報は、コンプライアンス部門はタッチせず、監査役が監査役スタッフを使って調査する。法務部が受けた通報は、監査役にレポートしている。

  • 全社員に、折り畳んで封緘し投函すればすぐに匿名で内部通報できる用紙を配布した結果、通報数が増加した。

 なお、内部通報用の用紙に関しては、あえて定期的に新しい用紙を配布し直すことで、従業員に対して内部通報制度の存在を印象付けたり、会社が内部通報制度の実効化を重要な経営課題として考えているとのメッセージを発信するという工夫を取り入れている会社もあるようです。

調査・是正措置に関する取組事例

 内部通報がなされた場合に、どの部署が通報内容のとりまとめや調査を担当するかという点も実務上問題となります
 上述のように、監査役が内部通報窓口となる場合は監査役自ら調査を行うとしている例もあるようですが、監査部門のリソース(人員および予算)が限られていることもあり、監査役には通報内容等を共有するものの、実際の調査等は法務部門などが実施するという例も多いようです。

解説 2−2 各社の取組事例・意見等
(意見交換会におけるコメント)
  • 内部通報を監査役に通報して取締役と切り離すという考え方もある一方、当社では、監査役にも通報の情報を共有はするが、担当の取締役がいるので、そこで処理している。内部通報の統括は、監査役でなくて取締役が行っている状況。会社によっては監査役が窓口をやっているところもあるようだが。

  • かつて、監査役ホットラインを作ろうという提案があったが、監査役は監査で忙しく、個別案件の調査にあてられるリソースがないので、実現はなかなか難しい。

  • 当社では、執行サイドの窓口に寄せられた情報を監査役にレポートはしているものの、監査役ホットラインを作ろうという話はない。

  • 社外窓口は設けているが、それは連絡する人から見た場合に、窓口が社外にあるというだけで、その後、情報は法務部に伝達されて、法務部が調査する。

  • 社外(弁護士)で受けたものを、社外弁護士がそのまま調査することはなく、調査は法務部で行う。ただ、通報者の名前は法務部には明かされない。

 なお、顧問弁護士に受付・調査業務を委託する場合であっても、通報者の匿名性が確保されることのほか、外部窓口を担当する弁護士はあくまで通報内容を会社に伝えるだけであり中立性・公正性等が十分に確保されていることなどをしっかりと周知するなどして、通報窓口を通報者にとって安心して通報できる仕組みとすることが必要です。
 また、通報窓口の受付業務または調査業務のいずれかを顧問弁護士以外の弁護士に委託することも行われています。 詳細については、「ガイドラインを踏まえた内部通報制度の実践的な見直しのポイント」、「不正の早期発見の具体的な方策(内部通報制度等)と実務上のポイント」も参照してください。

内部通報制度の実効化に向けた課題

 取組事例集では、内部通報制度を実効的なものとするうえでの課題についても述べられています。
 ガイドラインでは、通報者に対する不利益な取扱いを禁止するだけではなく、コンプライアンス経営の推進に寄与した通報者に対して経営トップからの感謝を伝えるなど、組織への貢献を正当に評価することが適当であるとされています。
 また、内部通報制度認証(WCMS認証)の自己適合宣言制度においても、既存の人事評価制度や社員評価制度等を用いることなどによってその貢献を積極的に評価することが審査基準の任意項目としてあげられています(No. 22)。内部通報制度認証(WCMS認証)の自己適合宣言制度の詳細については、「内部通報制度認証とは、認証取得のメリットと認証基準」も参照してください。
 さらに、内部通報制度の運用担当者についても、同様にその意欲・士気を発揚する人事考課等を行うなどの方法によってその貢献を積極的に評価することが適当であるとされており、審査基準の任意項目にもあげられています(No.21)。

 しかしながら、現時点では通報者や内部通報制度の運用担当者に対して、そのような人事的な評価を行うことまでは必ずしも十分にはできていないとの意見が述べられており、この点は今後の課題であると言えそうです。

解説 4−2 各社の取組事例・意見等
(意見交換会におけるコメント)
  • 当社でも内部通報の仕組みを毎年、少しずつ改善をしており、コンプライアンス委員会などでは改善を評価するコメントを得られるものの、人事上、そういった取組みがプラスに評価されるわけではない。

  • 内部通報の認証制度では、内部通報の利用を促進するために通報者に対して感謝の意を伝えることが求められている。通報者への返答で連絡してくれたことへのお礼はこれまでも行っているが、それ以上のことはなかなか難しい。ただ、これまでは、公益通報者保護法のように通報者に不利益を与えてはいけないことが話の中心であったが、それだけにとどまらずプラスに評価しようという流れになっている。

 このような評価制度の導入をすることが難しい会社においては、まずは通報者に対する不利益な取扱いがなされないことを徹底することで内部通報制度に対する従業員の信頼を醸成していくことが重要であると考えられます。

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する