外国人を雇用する際に守るべき法令(募集から入社まで)

人事労務 公開 更新
佐野 誠 株式会社ACROSEED

 当社では外国人を雇用することを検討しています。外国人労働者の募集、採用、入社前の説明などを行うにあたって、守るべきルールなどはありますか?

 自社で外国人労働者を雇用する際は、厚生労働省が公表している「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」が参考になります。この指針には、外国人雇用に関わる法律、採用募集、労働条件の決定・周知の方法などが整理されています。外国人雇用に取り組む際には、この指針を参照しながら業務を進めていくとよいでしょう。

解説

目次

  1. 外国人を雇用する際に守るべき法令
  2. 採用募集
  3. 労働条件
  4. さいごに

外国人を雇用する際に守るべき法令

 外国人を雇用する際に事業主が講ずべき必要な措置を定めているのが、厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年8月3日、平成29年11月1日最終改正、以下「指針」といいます)です。この指針には、外国人労働者を雇用する際に守るべき法令やルールがあげられています

 指針ではまず、外国人を雇用する際には以下に定める労働関係法令および社会保険関係法令を遵守するとともに、在留資格の範囲内でその有する能力を有効に発揮しつつ就労できる環境が確保されるよう、適切な措置を講ずるべきとされています(指針 第2)。

  1. 雇用対策法
  2. 職業安定法
  3. 労働者派遣法
  4. 雇用保険法
  5. 労働基準法
  6. 最低賃金法
  7. 労働安全衛生法
  8. 労働者災害補償保険法
  9. 健康保険法
  10. 厚生年金保険法 など

 原則として、外国人であるという理由で特定の法律が適用されないということはなく、日本人を雇用する際と同等の待遇が必要となります。

採用募集

 外国人労働者の採用募集に関して、指針では、雇用しようとする外国人労働者に対して、以下の内容を書面または電子メールにおいて明示するように努めることが定められています(指針 第4 1−1)。

  1. 従事すべき業務の内容
  2. 賃金
  3. 労働時間
  4. 就業の場所
  5. 労働契約の期間
  6. 労働・社会保険関係法令の適用に関する事項
    (外国人労働者が国外居住の場合)
  7. 渡航費用の負担
  8. 住居の確保 など

 職業紹介会社を通して外国人労働者を受け入れる場合には、日本の法令を遵守する適切な企業から受け入れることとされています(指針 第4 1−1)。当然のことではありますが、受入れ時に国籍による条件を付けるなどの国籍を理由とした差別的取扱いは禁じられています(指針 第4 1−1)。
 採用時に国籍を特定することなどは、特殊な事情がない限りは認められません。

 外国人労働者の採用時は、外国人の在留資格を確認し、自社の業務に従事できることを確認しなければなりません。仮に、従事できない場合には、雇用することはできません(指針 第4 1−2)。また、外国人労働者の能力を有効に発揮できるよう、公平な採用選考に努めることも定められています(指針 第4 1−2)。採用後に就労可能な在留資格が取得できず、結局は雇用をあきらめざるを得ない事例が多くみられます。採用前には必ず、自社の業務で在留資格が取得できるかを確認する必要があります

労働条件

 事業主は、労働者の国籍を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはなりません(指針 第4 2−1)。また、外国人労働者との労働契約の締結に際し、賃金、労働時間等主要な労働条件について、その外国人労働者が理解できるようにその内容を明らかにした書面を交付することが求められ(指針 第4 2−2イ)、労働時間に関しては、日本における法定労働時間を遵守し、週休日の確保をはじめとした適正な労働時間管理を行うことが必要です(指針 第4 2−3)。

 外国人労働者が前述した書面の日本語を理解できない場合には、その外国人労働者の母国語による書面を交付することになります(労働基準法106条参照)。

 賃金の開示においては、以下の事項について外国人労働者が理解できるように説明し、実際の手取り額を明示することが求められます(指針 第4 2−2ロ)。

  • 賃金の決定方法
  • 賃金の計算方法
  • 賃金の支払い方法
  • 税金
  • 労働・社会保険料
  • 労使協定に基づく賃金の一部控除の取扱い

 特に、社会保険等に関しては外国人労働者が加入を拒否する例も多く見られます。加入は義務であることなどをしっかりと説明した方がよいでしょう

 事業主には、労働基準法等関係法令の内容を、外国人労働者に周知することが求められています。周知にあたっては、わかりやすい説明書を用いるなど、外国人労働者の理解を促進するために必要な配慮をするよう務めなければなりません(指針 第4 2−4)。

 外国人労働者を雇用した後は、労働基準法の定めにより労働者名簿と賃金台帳を備え付け、外国人労働者の家族の住所や緊急連絡先を把握するよう務めます(指針 第4 2−5)。当然のことながら、事業主が外国人労働者のパスポートを保管することは禁じられています。また、外国人労働者の退職にあたり、事業主が労働者の金品を保管等している場合には、出国前に返還しなければなりません(指針 第4 2−6)。

さいごに

 外国人は、日本の労働習慣や社会保障制度などに不慣れな場合が多く、雇用する場合には、日本人以上に丁寧な説明を心がける必要があります。特に、契約主義に慣れ親しんできた外国人にとって、採用後に後出しで条件変更などをされると、計り知れないほど大きなショックを受けます。後のトラブルを避けるためにも、事前の説明等にしっかりと時間をかけた方がよいでしょう。

 以上、外国人労働者の募集と入社前の段階において、企業が守るべきルールを説明しました。外国人労働者が入社した後に行うべき実務の要点については、「外国人を雇用する際に守るべき法令(入社から退職まで)」で解説します。

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