外国人社員に対するコンプライアンス研修の注意点と実施方法
人事労務当社には外国籍のITエンジニアが多数在籍しています。今後も採用を継続していくつもりですが、出身国によってコンプライアンスに対する意識が大きく違うと感じています。ひとたび情報やデータの漏えいが発生すれば雇用企業として大きな責任を負うことになるため、未然に内部教育を実施することを考えています。外国人社員にコンプライアンス研修を行う場合の注意点と実施方法を教えてください。
企業の不祥事に対する社会的関心の高まりを受けて、最近では企業の信用やブランドイメージを守るため、従業員に対するコンプライアンス教育や研修に注目が集まっています。特に、生まれや文化、習慣、道徳観などが異なる外国人雇用においては、その重要性が一段と増しています。
外国人従業員の当事者意識を促すために、コンプライアンスへの取組みを評価や報酬に反映させる制度を構築することも有効です。
外国人従業員に対するコンプライアンス研修で扱われるテーマは主に、「日本での生活常識」「日本の法令」「日本での働き方」の3つです。また、法令遵守に対して経営トップがメッセージを打ち出すことも、外国人従業員のコンプライアンス意識の醸成に好影響を与えます。
コンプライアンス研修の実施方法には、主に次の6つがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
- 社内講師による研修
- 外部講師による研修
- 教材による各自の学習
- グループディスカッション
- Eラーニング
- DVD視聴
また、コンプライアンス研修を行う際は、マニュアルを作成することでノウハウを蓄積することができます。マニュアルは写真やイラストをふんだんに使い、日本語の理解度が異なる外国人従業員が感覚的に理解できる内容とすることが望まれます。
解説
コンプライアンス研修実施時の注意点
すぐに業績や成果に結びつきにくいコンプライアンス研修は、一般的に、形式的、表面的なものになりがちです。さらに外国人従業員の視点で考えると、「時間のムダ」「自分はそのようなことをしない」といったように、当事者意識が希薄であることが多いのが現状です。
そのため、まずはコンプライアンス研修が自分自身を守るためのものであること、それが仕事にプラスに働くことを、外国人従業員に理解してもらう必要があります。そのためには同業他社で実際に起きた事例を用いて、コンプライアンス違反によって最終的に「どのような損害が生じたか」「違反を犯した従業員がどのような状況に陥ったか」を知ってもらうことが有用です。
コンプライアンス研修が業務面でプラスに働くことを意識づけるために、人事評価や表彰の一部にコンプライアンスの遵守を盛り込むことも効果的です。雇用企業としてコンプライアンスを遵守した社員を称えて評価するほか、報酬面でも報いる仕組みを構築すれば、多くの外国人従業員に当事者意識をもった取り組みを促すことができるでしょう。
コンプライアンス研修の内容
外国人社員に行うコンプライアンス研修の内容として、現在、多くの企業で様々な取り組みが行われています。以下に各社の例をあげます。
日本での生活常識
日本の常識は、多くの場合、諸外国の常識とは異なっています。そのため、日本人にとっては当たり前に感じても、世界的には当たり前ではないことについて、外国人従業員に意見を求め、今後の教育材料として生かしていく努力が求められます。たとえば、以下のような事項です。
- ごみの分別
- 公共交通機関でのマナー
- 近隣住民との距離感の取り方
- 日本人独特の本音と建前の見分け方
- 携帯電話の使用できる場所や状況
- 公衆の場での声の大きさ
このような日本の常識を外国人従業員に前もって伝えるだけで、トラブルの多くは防ぐことができると言われています。外国人従業員にとって役立つ情報があれば、それを積極的に周知し、彼らの日本滞在が少しでも快適なものとなるように配慮することが望まれます。
日本の法令
外国人従業員に日本の民法、刑法などの法令上問題となる可能性がある簡易な事例を示すことも重要です。日本の常識を理解している外国人従業員でも、何かのはずみで起こり得る次のような行為が、日本においてどのような影響をもたらすかを具体的に示しておくことも必要です。
- ゴミの不法投棄
- 痴漢の容疑
- 喧嘩
- 近隣住人との口論
- 交通トラブル など
特に、飲酒をした際などには誰もが気持ちが大きくなり、普段では考えられない行動に出ることがあります。外国人従業員に日本のルールを明確に示すことによって、理性による自制心を促すことが大切です。
日本での働き方
外国人を雇用した企業が真っ先に取り組まなければならないことの1つが、日本企業での働き方を、外国人従業員に理解できる形で伝えることです。海外に生まれ育った外国人従業員は、自国の文化・習慣によって物事を判断する傾向が強く、特に仕事に対する考え方や働き方は、出身国によって大きな違いが生じます。
職場における人間関係の根底となる、働き方についての考え方が共有されていなければ、チームワークを通じた成果を出すことは難しくなります。
企業理念
法令遵守と社会的な責任を果たすために企業として何を行うのか、具体的なポリシーと企業の姿勢を明確に示す必要があります。特に経営トップやリーダーから発せられるメッセージは大きな意味を持ち、とりわけ行動を通して伝えるメッセージは大きな影響力を持ちます。難しい局面であってもコンプライアンスを優先させる判断は、現場の外国人従業員には確固たる基準をもたらします。そのためにも経営理念の明確化と経営トップによる実行力が大切です。
実施方法
具体的な実施方法には以下のようなものがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。そのため、実施する目的や重要度に応じて手段を決定していかなければなりません。特に外国人従業員の場合には言葉の問題などにより、日本人の社外講師などを活用できないことも多いため、視覚に訴えるDVDの視聴や外国語対応のEラーニングがあれば、実務の面で重宝します。
研修・教育の方法 | メリット | デメリット |
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1. 社内講師による研修 |
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2. 外部講師による研修 |
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3. 教材による各自の学習 |
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4. グループディスカッション |
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5. Eラーニング |
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6. DVD視聴 |
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安全教育
日本では製造業や建設業などにおける危険を伴う作業に従事する労働者の安全と健康を確保するため、安全衛生法などの法令により、安全衛生対策が定められている例が多く見られます。安全衛生教育においては、知識として周知されていることももちろん必要です。しかし、職場における思わぬ事故やけがを防ぐためには、実際に体験してもらうことも重要です。
特に製造業では、機械への巻込み、高温体の取扱い方法など、業務上の危険な状況を安全に体験できる装置を自社開発している事例も見られます。外国人社員の場合、共通の言葉で説明して「わかっている」と返答していても、実際には理解していないということが多々あります。実際に体で感じることにより、経験として蓄積させることも1つの方法です。
マニュアルの作成
コンプライアンス研修や教育を実施する際には、その都度、マニュアルを作成していくことが重要です。一度作成すれば次回以降の研修実施が格段に楽になり、少ない手間で効率的に研修を実施できるようになります。マニュアルは写真やイラストを多く使い、言葉よりもビジュアルに訴え、感覚的に理解してもらうという点を意識して作成すると、様々な日本語レベルの外国人従業員に活用できるようになります。新入社員と先輩社員がローテーションを組み、カリキュラムの改善・改良を行うことで、時間の経過とともにより正確なマニュアルが作成されていきます。最初は労力が必要ですが継続的に取り組むことにより、1つのノウハウが築かれていきます。
外国人雇用におけるコンプライアンス教育は、雇用企業の社会的リスクを回避し、個々の従業員を不正から守り、結果として全員が働きやすい環境を作り出すという点で、最終的には外国人従業員本人にもメリットをもたらすものとなります。全社員に共通するルールや倫理観などを明確に示したうえで基準を統一し、そのうえでそれが遵守されているかを継続的にチェックし、改善していく姿勢が必要となります。

- 参考文献
- すぐに使える!事例でわかる!外国人実習・雇用実戦ガイド 改訂版
- 著者:佐野誠、宮川真史、野口勝哉、西澤毅
- 定価:本体3,600円+税
- 出版社:第一法規
- 発売年月:2018年7月

株式会社ACROSEED