タバコ規制枠組み条約(FCTC)の概要と企業に求められる取り組みとは

人事労務
片山 律弁護士 Wealth Management法律事務所

 改正健康増進法や各地方自治体の受動喫煙防止条例などを調べていると、背景にはタバコ規制枠組み条約という条約があるとのことです。タバコ規制枠組み条約とはどのような条約なのでしょうか。

 タバコ規制枠組み条約とは、外務省による正式名称「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(WHO Framework Convention on Tobacco Control)のことで、「FCTC」と略称されることもあります。
 同条約は、「たばこ消費の削減」を目的に掲げ、各締約国が「たばこの消費及びたばこの煙にさらされることが死亡、疾病及び障害を引き起こすことが科学的証拠により明白に証明されていること」や「出生前にたばこの煙にさらされることが児童の健康上及び発育上の条件に悪影響を及ぼすという明白な科学的証拠があること」等を認識したうえで、目的達成のための基本原則および各締約国の義務について規定した、公衆衛生分野における初めての国際条約です。受動喫煙防止に関しては、5条(一般的義務)2項(b)および8条において規定されています。
 同条約は、2003年5月21日の第56回世界保健総会(WHO総会)において採択され、2005年2月27日に発効しています。
 我が国は、2004年3月9日に署名し、2004年6月8日に受諾書を寄託しており、2005年2月27日の条約発効により、日本でもすでに条約の効力が発生しています。
  2006年以降、8回の締約国会議(COP)が開催され、各種のガイドラインが採択されており、第2回締約国会議においては、「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」が採択されています。
 もっとも、締約国でありながら、我が国の禁煙政策は、最低水準と評価されています。

解説

目次

  1. 経緯
  2. 受動喫煙に関する規定
  3. 日本および各国の対応状況
    1. 我が国の署名、締結および条約の発効
    2. 締約国
    3. 締約国会議(COP)
  4. 受動喫煙に関するガイドライン
    1. 原則1
    2. 原則2
    3. 原則 3
    4. 原則 7
    5. 効果的な法律の範囲
  5. 締約国としての義務
  6. 国際的評価

経緯

 1999年の第52回世界保健総会(WHO総会)において、条約の起草および交渉のための政府間交渉会議を設立することが決定され、2000年10月から2003年2月まで6回にわたる政府間交渉会議を経て、同年5月21日の第56回世界保健総会において採択され、2005年2月27日に発効しました。公衆衛生分野における初の国際条約であり、2018年12月時点で181か国が締約しています。

受動喫煙に関する規定

 タバコ規制枠組み条約(以下、「FCTC」という)は、「たばこ消費の削減」を目的に掲げ、各締約国が「たばこの消費及びたばこの煙にさらされることが死亡、疾病及び障害を引き起こすことが科学的証拠により明白に証明されていること」や「出生前にたばこの煙にさらされることが児童の健康上及び発育上の条件に悪影響を及ぼすという明白な科学的証拠があること」(いずれも前文)等を認識したうえで、目的達成のための基本原則および各締約国の義務について規定しています。

 タバコ消費の削減に向けて、広告・販売への規制、密輸対策が求められており、受動喫煙防止に関しては、5条(一般的義務)2項(b)および8条において規定されています。

第5条 一般的義務
2 このため、締約国は、その能力に応じ、次のことを行う。
(b)タバコの消費、ニコチンによる習慣性及びタバコの煙にさらされることを防止し及び減少させるための適当な政策を策定するに当たり、効果的な立法上、執行上、行政上又は他の措置を採択し及び実施し、並びに、適当な場合には、他の締約国と協力すること。

第8条 タバコの煙にさらされることからの保護
1 締約国は、たばこの煙にさらされることが死亡、疾病及び障害を引き起こすことが科学的証拠により明白に証明されていることを認識する。
2 締約国は、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所及び適当な場合には他の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的な立法上、執行上、行政上又は他の措置を国内法によって決定された既存の国の権限の範囲内で採択し及び実施し、並びに権限のある他の当局による当該措置の採択及び実施を積極的に促進する。

日本および各国の対応状況

我が国の署名、締結および条約の発効

 我が国は、2004年3月9日に署名、2004年6月8日に受諾書を寄託しており、2005年2月27日の条約発効により、日本でもすでに効力が発生しています。

締約国

2017年7月14日現在で181か国 1 です。なお、米国、スイス等は署名済みですが、未締結 2 となっています。

締約国会議(COP)

 第3回会合までは年に1回、以降は2年に1回、現在まで8回の締約国会議が開催され、各条項に関してのガイドライン等が採択されています。第9回会議は、2020年11月9日からオランダで開催予定とされています。

受動喫煙に関するガイドライン

 2007年の第2回締約国会議において、受動喫煙規制(受動喫煙に関するガイドラインでは、「受動喫煙」という用語は使うべきではないとされていますが、本解説では「受動喫煙」のままとします)に関する第8条のガイドライン 3 において、7つの原則が確認されています。このうち受動喫煙法規制に関連して以下の原則が重要です。

原則1

  • 受動喫煙から保護するための有効な方策を実行するためには、100%タバコ煙のない法的環境を作り出す必要がある。
  • タバコ煙曝露に安全レベルはない。
  • 受動喫煙の毒性に閾値があるという考えは棄却されるべきである。
  • 換気、空気清浄機、喫煙区域の指定など100%タバコの煙のない法的環境を実現する以外の解決策が無効であることはこれまでに繰り返し証明されてきた。
  • 工学的解決策は受動喫煙からの保護をもたらさないという科学的な確定的証拠が存在する。

原則2

  • すべての人が受動喫煙から保護されるべきであり、屋内の職場および屋内の公共の場はすべて禁煙とすべきである。

原則 3

  • 受動喫煙から人々を保護するための強制力を持った立法措置が必要である。

原則 7

  • 受動喫煙から人々を保護することは、必要に応じて強化し拡大すべきである。
  • かかる処置には、新法または修正法の制定や施行の改善、あるいは新しい科学的証拠や事例研究の経験を反映させたその他の対策も含まれる場合がある。

効果的な法律の範囲

 さらに、同ガイドラインは、「効果的な法律の範囲」として以下の原則を示しています。

  • 第8条は、すべての屋内の公衆の集まる場所、すべての屋内の職場、すべての公衆のための交通機関そして他の公衆の集まる場所(屋外あるいはそれに準ずる場所)を完全禁煙として「例外なき(受動喫煙からの)保護を実施する義務」を課している。健康か法律かという次元の論議においては、例外を認めることはできない。もし別の次元での論議で例外が必要となったとしても、最小限にとどめなければならない。また、すぐに例外なき保護を実行できない締約国に対して、第8条は、可能な限り早急に例外措置を解消して、例外なき保護を実現するよう行動する義務を課している。すべての締約国は、その国におけるFCTC発効後5年以内に例外なき保護を実現するよう努力しなければならない。
  • 受動喫煙に安全レベルはない。換気、空気清浄装置、喫煙区域の限定、などの工学的対策は、受動喫煙防止対策にならない。
  • 受動喫煙からの保護は、職場として使用する自動車(たとえばタクシー、救急車、輸送車など)を含むすべての室内のあるいは囲まれた職場において実現されなければならない。
  • 本協定の条文は、すべての「屋内」の公衆の集まる施設だけでなく、「他の」(つまり屋外あるいはそれに準ずる)公衆の集まる施設も「適切な」場合は完全禁煙とするよう求めている。

締約国としての義務

 FCTCの19条(責任)1項は、「締約国は、タバコの規制のため、必要な場合には、刑事上及び民事上の責任(適当な場合には、賠償を含む。)に対応するための立法上の措置をとること又は自国の既存の法律の適用を促進することを検討する。」と規定しており、我が国も、締約国である以上、上記ガイドラインに則り、国内法の整備をする義務があります。

国際的評価

 このようなFCTCが要求する受動喫煙対策からすると、我が国の受動喫煙対策は最低基準水準と評価されてきており、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に合わせて、WHOやIOCからの強い要求もあり、健康増進法改正により、罰則付きでの法的整備は進みました。しかし、その内容は当初の想定よりも相当後退した内容となっており、いまだに国際水準には届かない状況となっています。

 国内企業としては、改正健康増進法がFCTCの求める水準から相当後退していることを念頭に置きながら、社内での受動喫煙対策を講じていく必要があると思われます。

 たとえば、東京都受動喫煙防止条例では、改正健康増進法では規制対象とならない飲食店も含めて従業員の有無で規制対象を定めているように、各自治体で上乗せ条例が制定されたり、施行されていくことも十分考えられます。また、健康増進法そのものの改正もあり得るでしょう。

 使用者側に健康増進法等のいわゆる業法違反がなくとも、従業員から「受動喫煙被害による損害を被った」として、安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求されるリスクもあります。その場合、たとえば、「受動喫煙に安全レベルはない」といったFCTCの内容等も踏まえて安全配慮義務違反の有無が判断される可能性があることにも留意が必要です。

 今後、各企業が社内での受動喫煙対策を実施するにあたっては、改正労働安全衛生法や改正健康増進法、その他各条例の規定を守ればよいという考え方にとどまらず、その背景にあるFTCTが求める水準も踏まえたうえで、より効果的な対策を講じておくことが、法的リスクの回避のために望ましいと言えますし、何よりも、大切な従業員の健康を確保することにつながると思われます。


  1. The WHO Framework Convention on Tobacco Control, Parties to the WHO Framework Convention on Tobacco Control(2020年1月16日最終閲覧) ↩︎

  2. United Nations Treaty Collection, 4. WHO Framework Convention(2020年1月16日最終閲覧) ↩︎

  3. WHO たばこ規制枠組条約第8条の実施のためのガイドライン『たばこ煙にさらされることからの保護』」(仮訳 厚生労働省及び独立行政法人国立がん研究センター/「喫煙と健康」WHO 指定研究協力センター) ↩︎

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