採用パターンに応じた外国人雇用の実務ポイント(1)- 外国人留学生のアルバイト採用と新卒採用

人事労務
佐野 誠 株式会社ACROSEED

 当社では、外国人留学生のアルバイト採用を検討しており、留学生が学校を卒業した後は、正社員として採用することも考えています。外国人留学生のアルバイト採用と正社員登用の方法、注意点を教えてください。

 外国人の受入れ方法には、直接雇用、人材紹介などによる方法の2種類があります。外国人留学生のアルバイト採用では、資格外活動許可を取得したうえで、労働時間を原則週28時間以内としなければならないほか(出入国管理及び難民認定法19条)、人材を定着させるため、金銭的な報酬に加えて仕事のやりがいなど、モチベーション面の満足度を高める工夫も必要です。

 外国人留学生を学校卒業後に新卒採用する場合に注意すべきことは、入社後に「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に変更できるかどうかです。在留資格の変更が認めらない場合は、入社後に就労可能な在留資格が取得できないことになりかねないため、慎重に計画したうえで対応することが求められます。

解説

目次

  1. はじめに
  2. ①外国人留学生のアルバイト採用
    1. 特徴
    2. 採用
  3. ②外国人留学生の新卒採用
    1. 特徴
    2. 採用

はじめに

 外国人労働者の受入れ方法は、大きく分けて、以下の4つのパターンがあります。

  1. 外国人留学生のアルバイト採用
  2. 外国人留学生の新卒採用
  3. 中途採用
  4. 海外からの呼び寄せ

 それぞれに「直接雇用」と「人材紹介」を活用した2つのパターンがあるため、合わせて8つの選択肢があることになります。下の表では、各採用パターンのメリットとデメリットを比較しています。

外国人労働者の採用方法のメリット・デメリット比較

メリット デメリット
直接雇用 人材紹介 直接雇用 人材紹介
①外国人留学生のアルバイト採用
  • 採用ノウハウの蓄積
  • 定期採用、大人数の採用が可能
  • 業務の効率化
  • 採用ミスマッチの発生
  • すべてが自己責任
  • 自社での在留手続きの対応
  • 採用コストの増加
  • 採用ノウハウが蓄積されない
②外国人留学生の新卒採用
  • 自社の採用計画で進められる
  • 業務の効率化
  • 優秀な人材の確保
③中途採用
  • 採用ノウハウの蓄積
  • 低コストでの採用
  • 業務の効率化
  • 最適な能力重視の採用
④海外からの呼び寄せ
  • 専門性の高い人材の採用
  • 現地企業との関係強化
  • 業務の効率化
  • 最適な能力重視の採用
  • 海外での求人活動の代行

 本稿では、上記のうち、①外国人留学生のアルバイト採用と、②外国人留学生の新卒採用について解説し、③中途採用、④海外からの呼び寄せについては、「採用パターンに応じた外国人雇用の実務ポイント(2)- 中途採用と海外からの呼び寄せ」で説明していきます。

①外国人留学生のアルバイト採用

特徴

 外国人留学生をアルバイトで採用する場合は、在留資格の関係もあり、短期的な雇用が前提となります。多くのケースでは「留学」の在留資格で滞在している学生が対象となるため、資格外活動許可を取得して、原則週28時間以内のアルバイトとなります(出入国管理及び難民認定法19条)。気を付けるべき点は、就労時間を厳守することです。不法就労とならないように雇用時間をしっかりと管理する必要があります。

 また、外国人留学生のアルバイトにおける最大の問題点は、採用後の定着が難しい点です。正社員と違い、短期的に収入を得ることが目的となるため、他社に100円でも高い求人があればすぐにそちらに移ってしまう傾向があります。これを防ぐためには時給を上げることが効果的ですが、人件費には限度があるほか、条件面の競争で大手企業に勝つことは容易ではありません。

 そこで必要となるのが、金銭的な報酬に加えて、仕事のやりがいなど、モチベーション面の満足度を同時に高めていくことです。仕事から達成感を得るとともに、人から感謝される幸せ、必要とされる充実感、社会に貢献しているという意識などを持ってもらうことが重要です。さらには、学校卒業後の正社員採用へとつながるように、業務内容にステップを設け、徐々に自社に適した人材へと育成する道筋を作るといった工夫も有効です。

 しかしながら、在留資格には制約があるため、正社員になった際にアルバイト時の職務をそのまま継続できるとは限りません。よくあるケースに、アルバイトで採用した外国人留学生がとてもまじめで優秀なため、学校卒業後に正社員として雇用したいという要望があります。学生の間は在留資格「留学」での滞在のため、資格外活動許可を取得すれば風俗業を除き原則として単純労働などにも従事することが可能です(出入国管理及び難民認定法19条)。しかし、卒業後には多くの学生が「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格に変更しなければならなくなるため、結果的に事務職や管理職などの業務にしか就けないケースが大多数を占めます。

 そのため、たとえばコンビニエンスストアでアルバイトをしていた外国人留学生を正社員として雇用し、そのまま以前と同様の品出しや接客担当者として雇用することはできず、正社員採用をあきらめざるを得ないケースも見られます。学校卒業後の正社員採用を視野に入れて外国人留学生をアルバイト採用するときは、長期的な視野のもとで計画を立てることが求められます。

採用

 外国人留学生のアルバイトを自社で採用する場合には、経験を重ねることで採用ノウハウを蓄積できる他、定期的な採用や大人数の採用なども可能となってきます。一方、しばしば自社が求める人材像とのミスマッチが発生することや、採用に関するすべての責任を自ら負わなければならない点がデメリットと言えます。また、中小企業にとっては、在留手続きの対応も小さくない負担となり得ます。

 主な募集方法には、職場の近所の大学や専門学校などを中心に求人広告を掲載してもらうことの他、既存のアルバイト従業員に友人や後輩などを紹介してもらう方法などもあります。既存のアルバイト従業員が職場環境に満足してくれていれば、友人・知人のネットワークを駆使して新しいアルバイト従業員を紹介してくれることもあります。事業継続の観点からも外国人従業員の満足度は非常に重要なポイントとなります。

 人材紹介会社のサービスや求人サイトなどを介して外国人アルバイトを雇用することも可能です。外国人留学生のアルバイト募集の場合は、採用業務の効率化が図れるうえ、数千円から数万円程度といったように比較的リーズナブルな紹介料や広告費が設定されていることが多いです(募集人数が増えるとその分費用は増加します)。しかし、採用を人材紹介会社のサービスに頼りすぎてしまうとノウハウの蓄積が進みません。最初はこのような外部のサービスを利用しながら、徐々に自社の採用ノウハウを培っていく意識が大切です。

②外国人留学生の新卒採用

特徴

 外国人留学生の新卒採用における最大のメリットは日本語ができるという点です。もちろん、人によって程度は異なりますが、数年間にわたり日本の学校で日本語での授業を受けているため、日本語の会話はもちろん、ある程度読み書きができる人材が大多数を占めます。正社員としての業務を行うにあたり日本語能力は非常に重要なポイントとなります。日本語能力に問題がある場合には、採用後の教育コストなどの面で小さくない負担が生じます。その点でも外国人留学生の新卒採用は大きなメリットがあると言えます。

 外国人留学生は、すでに日本での長期滞在を経験しています。そのため、生活習慣や社会常識などを一定程度理解しています。来日したばかりの外国人の場合には、銀行口座の開設、市区町村役場への付き添い、住宅の確保、法令や在留資格などのレクチャーなどを行う必要があることを考えると、雇用企業の負担は、かなり限定されることになります。

 外国人留学生の新卒採用では、いわば「まっさらな状態」から教育することができるため、外国人の中途採用で起こりがちな職場環境への戸惑い、労働に関する考え方の違いなどから生じる文化的な誤解、衝突を避けやすいと言えます。たとえば、お客様が来社した際のお茶出しなども「日々の業務のうち」と就業当初から馴染んでいれば、大きな障害とはなりにくいのですが、職能意識が強い欧米での勤務経験を有する人材などの場合には、「これは私の職務ではない」と考えることが多く、様々な問題に発展しがちです。そのような問題を回避しやすい点も外国人留学生を新卒採用する利点の1つです。

採用

 外国人留学生の新卒人材を自社で直接雇用する場合には、自社の採用計画に基づいて進めることができます。しかし、5年前、10年前と比べて、現在は非常に多くの企業が外国人雇用に着手しており、優秀な外国人留学生の採用競争は激しさを増しています。ITなどの専門分野で高度な能力を持つ人材や有名校を卒業した人材への採用ニーズはとりわけ高く、在学中から有給のインターンシップ制度を用いて候補者に接触する大企業の例も見られます。

 採用ノウハウを持たない中小企業は、業務の効率化と優秀な人材の確保を実現するために、人材紹介会社などを通じて、コストをかけて新卒の外国人材を採用するケースが増加しています。その際に注意すべき点としては、採用する留学生が、学校を卒業して入社した後に「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に変更できるかどうかです。自社で行わせようとする職務が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しなければ在留資格の変更が認められることはありません。つまり、コストをかけて採用したはいいが、入社後に就労可能な在留資格が取得できないということにもなりかねず、採用ノウハウの蓄積も進みません。

 そのようなトラブルを避けるためにも、採用前には必ず自社で行う職務の洗い出しを行い、在留資格の変更に必要な条件を満たす人材を募集するようにします。在留申請における条件は、多くの場合、学校で専攻した内容と職務内容が合致していることが重要なポイントとなります。ここで疑問等がある場合には、採用前に行政書士などの専門家に相談するようにしてください。

 外国人留学生の新卒採用は、在留資格の変更手続きを要するため、一定の条件を満たした人物でなければ採用の意味がなくなります。「やる気がある」「自社を気に入っている」といった人物本位の採用ではなく、「資格試験に合格している」「経済学部を卒業している」などの能力重視、経歴重視の採用が求められます。

 ここまで、「外国人留学生のアルバイト採用」と「外国人留学生の新卒採用」について解説しました。「中途採用」「海外からの呼び寄せ」については、「採用パターンに応じた外国人雇用の実務ポイント(2)- 中途採用と海外からの呼び寄せ」で説明します。

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