2021年3月期決算会社の定時株主総会の動向
コーポレート・M&A
目次
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.182」の「特集」の内容を元に編集したものです。
東京証券取引所(以下、「東証」という)は、2021年3月期決算会社の定時株主総会の動向を取り纏め、4月26日に公表しました(以下、「4月26日付資料」という)。また、第1集中日の集中率等の数値はその後も定期的に更新し公表しています(4月26日付資料およびその後更新された資料を含み、以下、「本調査資料」という)1。
本特集では当該公表内容の概要をご紹介します。なお、以下各項でご紹介する本年の数値は、いずれも各項記載日時点のものであり確定値ではありませんのでご留意ください。
第1集中日の集中率の推移(2021年5月23日時点)
本年の3月期上場会社の定時株主総会の第1集中日は6月29日(火)で、その集中率は、27.3%(前年比▲5.5ポイント)となっています。コーポレートガバナンス・コード(2015年施行)において、株主との建設的な対話の充実の観点から株主総会開催日の適切な設定が求められるようになったことなどを背景に、2016年以降集中率は低下傾向にあります。昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う決算作業等の遅延を受け、開催日を後倒しとする傾向があり集中率が上昇したものの、本年は低下しています。東証によれば、本年の集中率は1983年の集計開始以来最も低いものであるとのことです。また、その理由について東証は、株主との重要な対話の場としての株主総会に対する認識の浸透に加え、カレンダーの影響で第4週金曜日(6月25日)への前倒しが生じたことが要因であると分析しています。
招集通知の早期発送・早期ウェブ開示の状況の推移(2021年5月23日時点)
本年、招集通知を早期発送する予定の会社の割合は、23.7%(前年比+5.8ポイント)、早期ウェブ開示する予定の会社の割合は、72.2%(前年比+6.6ポイント)となっています。いずれの取り組みも、これを求めるコーポレートガバナンス・コードの施行等を背景に進展してきました。昨年は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う決算作業等の遅延を受け一時的な取組みの後退が見られましたが、本年は高い水準となりました。東証によれば、本年の早期発送は過去最高の水準です。
また、令和元年改正会社法に基づく株主総会資料の電子提供制度(2023年6月までに施行予定)により、株主総会開催日の3週間前までに株主総会資料を自社のホームページ等に掲載することが求められるようになるため、東証は、今後早期ウェブ開示の実務定着が進展することが予測されるとしています。
(注)招集通知の早期発送とは、招集通知を定時株主総会の3週間(中15営業日)以上前に発送することをいいます。早期ウェブ開示とは、招集通知を定時株主総会の3週間(中15営業日)以上前に東証のTDnetなどにて電子的に公表することをいいます。
本年の議決権の電子行使の状況(2021年4月23日時点)
本年、機関投資家向けの議決権電子行使プラットフォームを利用する市場第一部上場会社は、62.5%(前年比+9.6ポイント)です。
先般公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂案では、「特に、プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。」(補充原則1−2 ④)とされており、プライム市場上場会社においてさらに議決権電子行使プラットフォームの利用が進むことが見込まれます。
本年の英文招集通知の提供状況(2021年4月23日時点)
本年、招集通知本文および株主総会参考書類の英訳を提供予定の市場第一部上場会社は、65.7%(前年比+8.3ポイント)です。事業報告および計算書類を含むすべての書類の英訳を提供予定の市場第一部上場会社は、17.6%です。
先般公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂案では、「特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。」(補充原則3–1 ②)とされており、プライム市場上場会社においてさらに英文招集通知の開示・提供が進むことが見込まれます。
本年のバーチャル株主総会の開催予定(2021年5月23日時点)
本年、バーチャル株主総会の開催を予定している会社は、14.4%(前年比+9.2ポイント)で、バーチャル株主総会を開催予定の会社の大多数がハイブリッド参加型での開催を予定しています。バーチャルオンリー型を実施する予定と回答した会社は1社にとどまっています。本稿作成日現在、バーチャルオンリー型の開催を可能とする「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が国会審議中です。当初の想定より審議が遅れているため、バーチャルオンリー型の開催を検討していた会社においても、本年6月の実施は見送らざるを得なかったものと思われます。
「コーポレートガバナンス・コード改訂案」でもご紹介したとおり、「投資家と企業の対話ガイドライン」には、「株主の出席・参加機会の確保等の観点からバーチャル方式により株主総会を開催する場合には、株主の利益の確保に配慮し、その運営に当たり透明性・公正性が確保されるよう、適切な対応を行っているか。」と規定される見込みです。ハイブリッド型のバーチャル株主総会の実施を検討する会社においては、経済産業省の「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」や「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」などを参考にその透明性・公正性が確保されるような対応の在り方について検討することが望まれます。
(注)バーチャル株主総会のうちハイブリッド参加型・出席型は、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加・出席することを許容する形態です。議決権行使や質問等ができるものを出席型、審議等を確認・傍聴することができるものを参加型といいます。また、物理的な会場を設けず、インターネット等の手段のみで株主総会を開催するものをバーチャルオンリー型といいますが、現行の会社法上は、株主総会を開催するには株主総会の「場所」を定めなければならないとされているため(会社法298条1項1号)、その実施はできないと解されています。
三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部会社法務・コーポレートガバナンスコンサルティング室
03-3212-1211(代表)
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日本取引所グループ「3月期決算会社株主総会情報」(2021年5月31日更新) ↩︎