米国バイデン政権下で増大が予想 国際カルテルのリスク回避のための競争法コンプライアンス実務(後編)

競争法・独占禁止法

目次

  1. 競争法コンプライアンス対応のポイント
    1. いかなる行為が海外独占禁止法上違反として問題とされるのか
    2. 平時における対応
    3. 有事における対応
  2. おわりに

 本稿では、グローバルにビジネスを展開する日本企業が、海外競争法違反によってどのようなリスクを負うのか、そのリスクを回避するため、平時にどのような対応を行っておくべきか、また、万一海外当局による調査が開始された場合や海外で訴訟を提起された場合にどのような対応を行うべきかという点について、米国において、いわゆるハードコアカルテルによる反トラスト法違反の疑いで反トラスト局の調査対象となり、あるいは集団訴訟を提起されたケースを想定し、その具体的対応について検討します。前編では、国際カルテルが会社に与えるリスクについて解説しました。

 この後編では、グローバルにビジネスを展開する日本企業が、以上のような重大なリスクを回避ないし最小化するために、平時と有事にどのような具体的対応を行うべきかについて検討していきます。

競争法コンプライアンス対応のポイント

いかなる行為が海外独占禁止法上違反として問題とされるのか

 我が国では、日常のビジネスにおいて、役職員が海外競争法違反の重大なリスクを十分認識して行動していることは必ずしも多いとはいえません。これまで慣習的に行ってきた業界団体での活動や同業他社との会合や情報交換などにより、意図せず海外競争法違反に該当する行為を行っているケースもしばしば見られます。競争法は強行法規であり、日本国内で行った行為であっても他国にその影響が及ぶ場合は当該他国の競争法が適用されるため、グローバルにビジネスを展開する日本企業の役職員は、海外競争法違反のリスクを十分認識しておくことが必須です。

 以下、グローバルにビジネスを展開する日本企業が海外競争法違反のリスクを回避ないし最小化するために平時にどのようなコンプライアンス対応を行っておくべきかについて解説し、そのうえで有事の対応についても説明することとします。

平時における対応

(1)役職員のコンプライアンス意識の向上

 平時のビジネス活動において、カルテル等の競争法違反行為のリスクの観点から、日本企業の役職員が注意すべき場面とは、どのようなものでしょうか。それは、同業他社との接触の機会です。従来、我が国では、業界団体の活動などを通じ、同業他社の役職員と接触する機会が頻繁にあるのが通常です。そのような接触が、海外競争法上のコンプライアンスの問題となり得るという意識は希薄であったように思われます。

 しかしながら、我が国のビジネス慣行、あるいはアジア諸国も含めたビジネス慣行が、欧米諸国において競争法コンプライアンス上レッドカードを突きつけられる事態がしばしば発生しています。社内の啓蒙活動を通じ、役職員のコンプライアンス意識をグローバルスタンダードに合わせていく必要があるのです。

(2)競争法ガイドラインの策定と実施

 事業者団体の活動への関与の方法や、同業他社との接触機会における行動の指針について、具体的かつ明確な「競争法ガイドライン」を策定し、役職員に対するコンプライアンス研修を毎年実施するなどして、これを遵守させることが求められます。

 主に製品や部品を日本企業に納入しているような場合であっても、実際に製造販売する製品または部品の海外市場における日本企業の占める割合が大きい場合には、米国反トラスト法をはじめとする海外競争法の域外適用がなされ得ます。これを前提として、競争法ガイドラインでは、実際にどのような行為が海外競争法違反に該当するかについて言及し、これを禁止する旨を明記すべきです。

 違反行為とされるカルテルについて、たとえば米国シャーマン法1条は、以下のように規定しています。

米国シャーマン法1条
数州間または外国との取引または通商を制限するすべての契約、トラストその他の形態による結合または共謀は、これを違法とする。

 しかしながら、カルテルを構成する「結合または共謀」に該当する具体的行為について、文献等における一般的な説明をそのままガイドラインに記載しても有用なものとならないでしょう。自社の営業活動において競合他社との接触や情報収集がなされる場面やそのような場面での役職員の具体的行為を現実的にイメージし、その中で何が違反行為となるかを社内で十分に議論したうえで、役職員に対し、以下の点を示す必要があると思われます。

  • 具体的にどのような行為が違反行為となるのか
  • 違反行為の疑いを避けるためにどのような形で記録を残すべきか

 具体的にいかなる行為が競争法上違法となるかについては、最終的には各国競争法の解釈問題であり、当該競争法に通暁した専門家の判断を待たなければ結論が出ない問題です。また、個々の役職員が、各国競争法違反の有無について常に正確な判断を行えるだけの知識を持って日々のビジネスを行うことは、現実的には極めて困難でしょう。

 しかしながら、グローバルな競争法違反のリスクを冒す場合を極力避けるために、誤解を恐れずに、敢えて2つのポイントがあげます。

  1. 競合他社と価格等に関する協議や情報交換は一切行うべきでない
  2. 文書あるいはメールなどにおいて、競合他社との情報交換に基づいて価格等を決定したかのように誤解される外形を作らない

 1つ目は、当然のことではありますが、価格や数量については自社で一方的に決定すべきであり、競合他社と価格等に関する協議や情報交換は一切行うべきでない、ということです。海外では、カルテルに該当し違法とされる「価格決定(pricing)」あるいは「協定/合意(agreement)」の概念につき、我が国と比べて広い意味で定義されています。競合他社との協議の中で価格等に触れただけでも、海外競争法の下では意図せずしてカルテルに該当し、違法とみなされるリスクがあります。

 2つ目は、文書あるいはメールなどにおいて、競合他社との情報交換に基づいて価格等を決定したかのように誤解される外形を作らないことです。ヨーロッパやアジアの一部の国では、価格等に関する同業者間の「合意」に至らない単なる「情報交換」であっても競争法違反であり違法とされる場合があるため、十分な注意が必要です。

(3)文書管理規程等の整備

 自社の文書管理規程についても、国際的な競争法コンプライアンスの観点やディスカバリー対応の観点から今一度見直しを行い、たとえば以下のようにアップデートすることも忘れてはなりません。

  • 文書管理規程において、法定の保存期間やビジネス上の重要度を勘案のうえ、一定の合理的期間を経過した後の文書・電子メール等については廃棄する(たとえば、社内の定例会議の議事録等のようなものであれば、保存期間は3年程度で十分と考えられる)
  • 不必要に長期間の文書・電子メール等を保存させない
  • 社内のシステムを当該規程に沿う形の設定としておく 1

(3)内部通報制度(ヘルプライン)の設置等

 万一日本企業において海外競争法違反の事実が判明した場合、迅速かつ適切な初動対応(たとえばリニエンシー等)がきわめて重要となります。そのため、平時から違反行為を認識した役職員が当該行為の存在を通報するための内部通報制度(ヘルプライン)を設置するとともに、コンプライアンス研修等を通じて役職員に周知しておくことで、違反行為の早期発見に努めることも重要です。

 また、違反の早期発見の観点からは、以下のような点なども検討すべきです。

  • 営業担当の役職員の定期的な異動
  • 営業担当の役職員の業務に関する外部とのメールのやり取りの検索によりコンプライアンス上疑義のある競合他社との情報交換の早期発見

(5)有事を意識した平時の対応の重要性

 当局の調査が開始されてから対応を検討していたのでは、十分な対応を行うことはきわめて困難です。そのため、有事にどのような対応を行うべきか、その対応のポイントを平時から十分に理解しておくことが肝要です。

 ある国や地域で調査が開始された後に、別の国や地域でも当局の調査が開始されることもしばしばあります。また、競合他社との情報交換など、ある国で問題とならない行為が他の国では違法とされる場合もあり、各国の調査への対応が相互に影響を及ぼし合うおそれがあります。調査対象となった国や地域の競争法を意識するだけではなく、潜在的に問題となり得る他の国や地域の競争法への影響も総合的に検討しながら平時の対応を検討しておく必要があります。

(6)国内外の弁護士との連携等

 平時の対応を行ううえでは、我が国の慣行と海外競争法が遵守を求めるコンプライアンスとの間に相当のギャップが存在します。そのため、実際に国際カルテル事件に関与した経験のある国内外の弁護士に相談しつつ、連携を取って進めることが必須といえます。現実の事件を通じて国際カルテル事件に関与し、シビアな現実を見た弁護士でなければ、我が国の慣行では通常問題ないと考えられるような行為のどこに海外競争法コンプライアンスの観点からの問題点が潜んでいるのか、あるいは、ビジネスの現場で具体的に何に注意すべきかについて、実感を持って伝えることができないためです。

有事における対応

(1)迅速かつ適切な初動対応の必要性

 万一、日本企業において海外競争法違反またはその疑いのある事実が判明した場合、迅速かつ適切な初動対応を行うことがきわめて重要です

 米国では、ある事件のリニエンシーあるいはリニエンシー・プラス(アムネスティ・プラス)など 2 を端緒として、芋づる式に事件が発覚することが少なくありません。一連の自動車部品カルテルでは、調査対象が様々な自動車部品に広がっていったことも、これらの制度によるものと考えられます。

 米国当局が同業他社のリニエンシーを端緒にカルテルの調査を開始した場合、大陪審が発布するサピーナ(subpoena)3 と呼ばれる文書提出命令によって、限られた期間内に大量の文書・データの提出を求められるのが通常です。

 また、事前の予告なしに当該企業への立入調査が行われることもあります。このような場合、迅速かつ適切な初動対応を行わなければ、当該企業の損害が拡大する恐れがあります。対応を誤り、証拠隠滅や調査妨害を行ったとされた場合には、司法妨害罪を問われるなど、厳格な制裁が科され得ることに十分留意すべきです。

 有事における初動対応で最も重要なポイントは、以下の2つです。

  1. カルテル対応について十分な知識・経験を有する現地弁護士を可及的速やかに選任し、その指示を仰ぐ
  2. 役職員に対し、速やかに、文書・データの破棄・削除・変更を禁止する通知を出す

(2)弁護士の速やかな選任

 可及的速やかに現地弁護士を選任すべき主な理由は以下の2つです。

  1. 利益相反のない弁護士の確保
  2. 秘匿特権(Privilege)の確保
① 利益相反のない弁護士の確保

 国際カルテル事案の場合、当局が調査を開始すると、同業他社に先んじてリニエンシー申請を行うべきか否かの判断は一刻を争うため、多数の同業他社が同じタイミングで現地弁護士の確保を試みることとなります。しかしながら、カルテル対応に十分な知識・経験を有し、即座に対応可能な体制を有する有能な弁護士が所属する現地法律事務所の数は限られているため、同業他社との間でいわば「早い者勝ち」の状態となります。これは、米国はもちろん、ヨーロッパ、アジア等でも同様の状況です。

 平時から競争法違反が問題となり得る地域の競争法専門弁護士との関係を構築できていればベストですが、仮にそうでない場合であっても、カルテル対応の知識・経験を有し、現地の競争法専門弁護士との関係を有する日本の法律事務所と関係を持ち、早急に各国弁護士の紹介を依頼し、弁護士の連携によって案件対応を行える体制を普段から構築しておくことが重要です。

② 秘匿特権(Privilege)の確保

 特に米国では、弁護士と依頼者である当該企業との間のコミュニケーションなどは、秘匿特権(Privilege)の対象となります。企業は、刑事手続において文書の提出を求められた場合、あるいは、民事訴訟におけるディスカバリーにおいて文書の提出を求められた場合であっても、秘匿特権の対象となる弁護士と依頼者間のコミュニケーションに関する文書などであれば、一定の条件 4 が満たされれば、当該文書を開示する必要がなくなります

 実務上は、eディスカバリーベンダーと呼ばれる専門のベンダーに依頼し、大量の文書・データの収集・管理を行わせることとなりますが、秘匿特権を確保するためにも、弁護士を通じてeディスカバリーベンダーとのコミュニケーションをとるべきです。

 サピーナと呼ばれる文書提出命令を受領した日本企業 5 が外部弁護士を選任した場合、選任された弁護士は、米国当局の担当者に連絡し、提出すべき文書の範囲の限定・明確化、提出期限の延期や段階的な提出の許可を求めて交渉するのが実務上一般的です。

 通常、サピーナによって提出を求められる文書・情報の範囲は、被疑事実に関係する一定期間における以下のようなものになりますが、解釈の仕方によってはその範囲が際限なく広がり得るため、注意が必要です。

  1. 企業の組織図
  2. 営業責任者の氏名および連絡先
  3. 対象製品の売上・価格表
  4. 同業他社とのコミュニケーション
  5. 事業計画・税務申告書・決算書 など

 サピーナは、広範にわたる文書・情報を短期間で(たとえば1か月以内)提出することを求めるものであるため、具体的に、いつまでに、どのような文書をどの範囲で提出すれば良いのかについて、米国当局の手続に詳しい弁護士の助力を得て当局と交渉しなれば、対応はきわめて困難なものとなるでしょう。

(3)文書保全通知(Litigation hold)への対応

 カルテル事件の初動対応として、弁護士の速やかな選任と並んで重要となるのが、関連する役職員に対して、文書保全通知(Litigation hold)を出し、文書・データの破棄・削除・変更を禁止することです。

 企業は、当局の調査が開始されたことを知った場合、あるいは、民事集団訴訟がいまだ提起されていなくとも、これが合理的に予想される場合には、速やかに、関連する役職員に対して文書保全通知を出す必要があります。当該通知においては、関連する文書・データを現状のまま保管し、破棄・削除・変更等を一切行わないように記載します。社内のシステムとして、一定期間経過後にEメールその他の電子データを自動的に削除するプログラムを用いている場合には、ただちに当該プログラムを停止し、文書・データが誤って破棄されることのないようにしておく必要があります。

 文書保全が重要である理由は、保全義務違反に対し、米国においては我が国とは比べものにならないほど厳しい制裁が用意されているためです。仮に証拠隠滅の疑いが生じた場合、米国裁判所の法廷侮辱罪や司法妨害罪を問われる可能性があります。司法妨害罪の法定刑は、法人に対する50万米ドル以下の罰金、役職員に対する20年以下の禁錮・罰金です。日本と異なり、米国では実際に司法妨害罪で訴追されることは珍しいことではありません。日本企業やその幹部が、カルテル事案において証拠隠滅などを行ったことを理由に、司法妨害罪についても訴追されたケースが複数存在します。

 したがって、証拠隠滅の疑いを持たれないよう、関連情報を保持している可能性のある役職員をなるべく広く文書保全通知の対象者とし、これらの役職員が文書・データの破棄・隠滅などを絶対にしないよう、十分に周知しておく必要があります。

おわりに

 以上、日本企業がカルテル違反の疑いで海外当局の調査対象となり、あるいは集団訴訟を提起された場合にどのように対応すべきかについて、主に米国反トラスト法を念頭において、ポイントとなるところを説明しました。

 日本企業が意図せず行った行為が海外の競争法に抵触し、本業のビジネスに多大な悪影響を与えるリスクがあることを十分に認識し、競争法コンプライアンスの向上を図るきっかけとなれば幸いです。


  1. ただし、後述のとおり、当局の調査が開始されたことを知った場合、あるいは、民事集団訴訟の提起が合理的に予想される場合、速やかに、関連する文書・データを破棄・削除・変更等を一切しないよう関係者に通知するとともに、社内のシステムにおける電子データの自動削除プログラムを停止し、当該時点以降、文書・データが誤って破棄されることのないようにしておく必要がある。 ↩︎

  2. リニエンシー(leniency)とは、企業または個人が、米国当局に対し、最初にカルテルにかかる違反行為を申告し、かつ、米国当局の調査に全面的に協力するなどの条件を充足した場合に、刑事訴追を免れる制度である。
    ある企業が当該事件においてはリニエンシーによる免責を受けられない場合であっても、別のカルテル事件を申告することにより当該事件の罰金額減額等の恩恵を受け得るリニエンシー・プラス(アムネスティ・プラス)という制度もある。 ↩︎

  3. サピーナ(subpoena)およびその別紙には、名宛人、資料を持参すべき場所および日時、米国当局の担当者およびその連絡先、被疑事実、文書保存義務に関する注意事項、提出を求める文書・情報等が記載されている。 ↩︎

  4. 秘匿特権の典型例である弁護士依頼者間秘匿特権(Attorney-Client Privilege)の場合であれば、秘匿特権の主張が認められるための要件は、①コミュニケーションであること、②弁護士と依頼者との間でなされるものであること、③秘密であること、④法的助言を求める目的であること、⑤秘匿特権が放棄されていないこと、である。 ↩︎

  5. 日本企業の場合、サピーナは、日本の本社にではなく、米国所在の子会社・関連会社に送達されるかたちで行われるのが通常である。かかる場合、日本企業は、日本で保存されている文書については文書提出義務を負わないのが原則と考えられるが、日本で保存されている文書を破棄すれば司法妨害となるので、留意する必要がある。 ↩︎

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