米国バイデン政権下で増大が予想 国際カルテルのリスク回避のための競争法コンプライアンス実務(前編)

競争法・独占禁止法

目次

  1. ビジネスのグローバル化による国際カルテルのリスクが増大
  2. 国際カルテルが会社に与えるリスクについて
    1. 海外競争当局による制裁
    2. 米国等における訴訟(クラスアクション)リスク

ビジネスのグローバル化による国際カルテルのリスクが増大

 ビジネスのグローバル化が進展するにつれ、従来想定していなかったコンプライアンス上の重大な問題に直面することが増えてきました。その1つが、海外競争法違反、いわゆる国際カルテルにより日本企業が桁外れの罰金等の制裁を受け得るという問題です。

 近年、日本企業の日本国内における業界団体等における活動を通じたやりとりが、国際カルテルの温床として、日本のみならず、米国やEUはもちろんアジア諸国を含む世界各国の競争当局の調査対象となることが多くなっています。これは見落としがちな点ですが、それほどグローバルにビジネス展開をしておらず、主に日本企業に納入しているような場合であっても、実際に製造販売する製品または部品の海外市場における日本企業の占める割合が大きい場合には、海外の競争当局の対象となりうることに注意が必要です。

 米国競争当局である米国司法省反トラスト局(以下「反トラスト局」といいます)の摘発した一連の自動車部品カルテルの対象企業の中に多数の日本の中小企業も含まれていたことは記憶に新しいところです。トランプ政権の下で国際カルテル事件の摘発は下火となっていましたが、バイデン政権の誕生によって、今後は再び摘発が活発化することが予想されます。

 日本企業が国際カルテルの疑いを理由に海外競争当局の調査対象となった場合、その対応を誤ると、日本では想定できないような桁外れの罰金等の厳しい制裁を科される可能性があります。米国の場合には、役員個人の刑事責任が問われる恐れもあります。仮に海外競争当局の調査で問題とされなかったとしても、米国の裁判所で訴訟(クラスアクション)が提起されれば、高額の賠償金の支払いを余儀なくされるケースも考えられます。実際に高額の罰金等を課せられた場合には、日本でも株主代表訴訟等によって役員が善管注意義務違反による責任を追及されるリスクもあります。

 そこで、本稿では、グローバルにビジネスを展開する日本企業が、海外競争法違反によってどのようなリスクを負うのか、そのリスクを回避するため、平時にどのような対応を行っておくべきか、また、万一海外当局による調査が開始された場合や海外で訴訟を提起された場合にどのような対応を行うべきかという点について、米国において、いわゆるハードコアカルテルによる反トラスト法違反の疑いで反トラスト局の調査対象となり、あるいは集団訴訟を提起されたケースを想定し、その具体的対応について検討します。前編では、国際カルテルが会社に与えるリスクについて解説します。

国際カルテルが会社に与えるリスクについて

海外競争当局による制裁

 日本企業によるカルテル等の競争法違反行為に対し、米国、EU、アジア諸国など、各国競争当局の制裁が厳格化しています。特に、日本企業が米国競争当局やEU競争当局から高額な罰金ないし制裁金など、厳しい制裁を課されるケースが相次いでいます 1。また、個人に対する実刑が科されることも稀ではありません 2

 たとえば、先に述べた自動車部品カルテル事件において、2011年度以降、米国競争法違反 3 があったとして5,000万米ドルを超える罰金が科された日本企業の数は、合計17社に及び、最高額で4億7,000万米ドル(当時の為替レートで約360億円)の罰金を課されています。また、これらの日本企業において、20名以上の役職員が、米国で1年から2年の禁錮刑に処せられ、実際に米国の刑務所に収監されています。

 近年の米国における競争法違反による制裁の概要は、以下の図表に示すとおりです(反トラスト局のウェブサイト掲載の図表を当職らにおいて加工したもの)。

 以上のとおり、2017年以降、トランプ政権の誕生とともに摘発が下火となっていましたが、今後は、民主党のバイデン政権の誕生によって摘発が活発化する可能性が高いものと思われます。

米国等における訴訟(クラスアクション)リスク

(1)高額の賠償金と膨大なコスト

 米国では、当局による国際カルテルの調査が開始されると、これを契機として、ほぼすべての事案において、当該カルテルによって損害を被ったと主張する私人により(実際には当局のカルテル調査を把握した弁護士が、原告となる私人を探し出すことにより)、民事上の集団訴訟(いわゆるクラスアクション)が提起されます。また、米国でクラスアクションが提起された場合、米国と同様にカナダでも、弁護士主導により、ほぼ同じ内容のクラスアクションが提起されるのが通例です。

 集団訴訟が一旦提起されると、日本企業は、何年にもわたって訴訟対応に膨大な費用を支出することを余儀なくされます。とりわけ、近時重要性が増しているeディスカバリー対応の費用は膨大な額に膨れ上がります。eディスカバリーとは、関係する役職員のメールやその添付文書など、役職員のパソコン等に存在する膨大な電子データを収集・分析し、当該事件に関連する文書・データを相手方に提出する手続であり、証拠開示手続の一環として行われます。

 ディスカバリー 4 では、当該事件において争点となる主張・反論に関連するすべての文書・データの開示が必要となりますが、カルテルについては、事実上、当該企業のビジネスに関するほぼすべての側面に関する文書・データが、争点となる主張・反論に関連するものとして、相手方に提出を要求されることとなります。対象となる文書・データは、担当弁護士等が個々にその内容を確認し、提出の要否と秘匿特権の有無を判断して選別する必要があり、膨大なコストがかかります(「ディスカバリー対応だけで月1億円かかる」と指摘されることもあるように 5、ディスカバリー対応に合計で億単位のコストがかかる場合も多いことは事実です)。このような過程を通じ、膨大な量の文書・データの提出を1年あるいは数年にわたり提出する必要が生じることも多く、日本の民事訴訟手続とは比べものにならない量の文書・データが相手方に開示されることとなります。

 また、日本企業が被告となる場合、提出を要求される文書・データの多くは日本語で記載されたものとなりますが、現地弁護士とともにそれらの提出の要否を検討する過程で、膨大な数の文書・データを翻訳しなければならず、そのコストもかなりの額に及ぶこととなります。

 このようなeディスカバリー対応の膨大な費用は、カルテルを行ったとされる対象企業が負担しなければなりません。また、カルテルに基づく損害額の算定やクラス範囲の確定については、専門家証人(Expert Witness)に意見書(Expert Report)の作成や証言を依頼する必要があり、その費用も複雑なケースだと数千万円から数億円に上る場合もあることなどから、民事上の集団訴訟の追行には、巨額な訴訟防御コストがかかります。

 これに加え、集団訴訟の原告(いわゆるクラス原告)は、一定の利害を共通にする「クラス」に所属する多数の者を代表して損害賠償を請求できるため、高額の損害賠償を請求できます。その他、米国の法制度上の理由により、集団訴訟の訴訟追行や判決には、以下のような多大なリスクを伴います。

  • カルテルによって損害を被った者は実損害額の3倍額の損害賠償請求が認められている
  • 共同被告の各社は他社の損害賠償義務についても連帯責任を負う
  • トライアル(正式事実審理)において一般市民から選ばれた陪審員がどのような判断をするかが予測不可能である(この点、事実認定の専門的訓練を積んだ裁判官が判断を行う我が国とは異なる)
  • 共同被告である同業他社が先に和解を成立させた場合、残った被告会社は先に和解を成立させた会社の損害賠償義務についても連帯責任を負わされる など

(2)役職員の負担と会社への影響

 調査や訴訟に対応する役職員の負担も無視できないものがあります。弁護士との日々のコミュニケーションに対応する法務部あるいは法務担当職員の負担のみならず、カルテルが問題となっている期間中(かかる期間が10年以上に及ぶことも珍しくありません)、当該事案に直接ないし間接に関係していた多数の役職員が、弁護士のインタビューに応じたり、関連書類の探索・提出を行ったりすることに多大な時間と労力を費やすことを強いられます。その結果、本来のビジネスに集中できなくなり、日々の業務に支障が生じる事態となります。

 カルテルによる集団訴訟の被告会社となった日本企業は、集団訴訟に内在する多大なリスクを回避するため、トライアル(正式事実審理)6 や評決 7 に至る前に、多額の和解金を支払ってでも早期に訴訟を終結させたいというインセンティブが働くこととなります。しかし、和解金額は数十億円ないしそれを大きく超えることも多く、和解金額の当否の判断について日本企業の経営陣の善管注意義務違反の有無が問題となります。場合によっては、代表訴訟が提起される事態に発展する可能性すらあるのです。

 さらに、海外当局による調査の開始や集団訴訟の提起が公表されることにより、自社の企業価値やレピュテーションが大きく毀損されるおそれもあります。

 後編では、グローバルにビジネスを展開する日本企業が、以上のような重大なリスクを回避ないし最小化するために、平時と有事にどのような具体的対応を行うべきかについて検討していきます。


  1. たとえば、米国におけるハードコアカルテル事案(シャーマン法1条違反の場合)については、法人に対する刑事罰は、1億米ドルまたは違反行為による総利得額の2倍もしくは被害を与えた総損失額の2倍が制定法の上限額とされている。
    実務では、量刑マニュアル(Guidelines Manual)により、カルテルによって影響を受けた取引額の20%を基礎罰金額として、有責性スコア(①役員の関与・企業規模、②前科、③裁判所の命令違反、④司法妨害、⑤効果的なコンプライアンスプログラム、⑥報告、協力、責任の引受を勘案して決定される)を所定の倍数表に当てはめることにより決定される最低倍率および最高倍率を乗じることにより計算された罰金額の範囲内で、具体的な罰金額が決定される。
    なお、シャーマン法1条違反については、倍率は0.75を下回ってはならないとされているため、実際の罰金額は、上述の制定法の上限額の範囲内で、取引額の15%~80%の間で決定されることとなる。 ↩︎

  2. たとえば、米国におけるハードコアカルテル事案における個人に対する刑事罰は、100万ドル以下の罰金もしくは10年以下の禁錮刑またはその併科、および、法人に対する1億ドル以下の罰金である。 ↩︎

  3. 米国連邦法レベルの競争法は、一般に反トラスト法(antitrust law)と呼ばれる。これは、主にシャーマン法(Sherman Act)、クレイトン法(Clayton Act)および連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act)の総称である。これに加え、多くの州において州法としての反トラスト法が制定されているが、それらの内容は、連邦法としての反トラスト法と類似する。 ↩︎

  4. ディスカバリーは、上述した電子データを対象とするeディスカバリーのほかに、役職員の手帳や手書きメモ等のハード文書もその対象となる。 ↩︎

  5. 「実務担当者が知っておくべき国際カルテル対応のポイント」ビジネスロー・ジャーナル101号9頁 ↩︎

  6. 裁判所の面前でなされる審理で、典型的は陪審を付して行われるもの。事実について争点の審理を主目的とする。 ↩︎

  7. 裁判において陪審の判断に付された問題について陪審が下す正式の決定のこと。 ↩︎

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