吉本興業と京都市の事案をもとに考える、ステルスマーケティングの法令上の留意点 過去の問題事例もふまえ、事案の概要と未然防止策を弁護士が解説

競争法・独占禁止法

目次

  1. ステルスマーケティングはどのような法令・ガイドラインに抵触するか
  2. 広告主からブロガーへの根拠の乏しいブログ記事の執筆依頼や、口コミサイトのサクラ記事は景品表示法違反に
  3. 自主規制ガイドラインも参考に、ステルスマーケティングを行ったと疑われぬような対策を

 2018年度に京都市から吉本興業株式会社(以下、吉本興業)へ有償で委託された京都国際映画祭のPR施策において、施策の一環として吉本興業の所属タレントが行ったツイートに、広告であることや広告主が明示されていなかったと2019年10月に報じられ、いわゆるステルスマーケティングに該当するのではないかと議論を呼びました。

 本稿では同事案をもとに、ステルスマーケティングの概要や抵触する規制、また企業がとるべき防止策について、三浦法律事務所の松田 知丈弁護士が解説します。

ステルスマーケティングはどのような法令・ガイドラインに抵触するか

この度の京都市と吉本興業による事案の概要と問題点を教えてください。

 議論の対象になったのは、吉本興業の所属タレントによるツイートです。たとえば、「京都最高―♪ みんなで京都を盛り上げましょう!!京都を愛する人なら誰でも,京都市を応援できるんです!詳しくはここから!」に続けて、京都市のふるさと納税のページのリンクが掲載されたツイートが発信されました。

吉本興業の所属タレントによる当該ツイート例
(京都市情報館「京都新聞に掲載された吉本興業と京都市との広報契約について」 2019年10月28日、2019年12月4日最終閲覧)

吉本興業の所属タレントによる当該ツイート例 (京都市情報館「京都新聞に掲載された吉本興業と京都市との広報契約について
2019年10月28日、2019年12月4日最終閲覧)

 これは、吉本興行が京都市から委託を受けたプロモーション業務の一環で、京都市から吉本興行には対価が支払われていました。上記のツイートには、「#京都市盛り上げ隊」、「#京都国際映画祭2018」、「#京都市ふるさと納税」のハッシュタグも付けられていましたが、「#PR」といった広告であることを示すハッシュタグは付けられていませんでした。そのため、このツイートは京都市出身のタレントが自発的に行ったものと誤認されるもので、京都市が依頼主のプロモーションであることが隠された広告(「ステルスマーケティング」や「ステマ」などと呼ばれる広告)ではないかとの議論が起きました

ステルスマーケティングを行った場合、どのような法令やガイドラインに抵触しますか。

 広告として情報発信をする場合には広告であることを明示しなければならない、と規定する法令はありません。そのため、ステルスマーケティングを直接禁止している法令はないとされています

 ただし、ステルスマーケティングの中でも、対象の商品やサービスを実際よりも良い品質であったり、実際よりもお得であったりするかのように広告することは、景品表示法によって禁止されています(景品表示法5条1号、5条2号)。景品表示法は、一般消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選択できるようにすることを目的に、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示することを禁止しています。ステルスマーケティングは、実際は広告主から依頼を受けたプロモーションですが、あたかも情報発信者が対象の商品やサービスについて自発的に好意的な評価をしているかのように見せることで、商品やサービスの品質、内容、価格等について実際よりも良いものと一般消費者を誤認させるものであれば、景品表示法に違反することになります。

 消費者庁は、ガイドライン(「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」1)を公表し、口コミサイトにおけるサクラ記事など、広告主から報酬を得ていることが明示されないカキコミ等が景品表示法に違反するとの考え方を明らかにしています。また、消費者庁の担当課長による景品表示法の解説文献 2 では、著名人が自己の利用体験に基づくものではない使用感や効果等を、自己の利用体験に基づく使用感や効果等として表示することにより、対象商品の推奨を行う場合には、景品表示法に抵触するとの考え方を明らかにしています。
 なお、景品表示法違反が問われるのは広告事業者ではなく、商品やサービスを提供している広告主です

 また、景品表示法以外にも特定の商品やサービスについて虚偽・誇大広告を禁止している法律として、たとえば、医薬品や化粧品の広告に関する医薬品医療機器等法(薬機法)健康食品の広告に関する健康増進法などがあります。これらの法律は、景品表示法とは異なり、虚偽・誇大な広告を依頼した広告主だけでなく、広告事業者もその責任を問われることに注意が必要です

消費者庁によるガイドラインや上記の解説文献の内容をふまえると、この度の京都市と吉本興業による事案については景品表示法等の法令に抵触する可能性があると考えられますか。

 問題になったツイートは、京都を盛り上げることや京都市へのふるさと納税などを促すものであって、京都市が一般消費者に供給する商品やサービスについての品質や取引条件を誤認させるものではなかったことからすれば、ステルスマーケティングに該当するか否かにかかわらず、景品表示法等の法令には抵触していなかったと解することに合理性があります。

この度の事案について、吉本興業は「ステルスマーケティングに該当しない」という見解を示したことが報じられています。これはどのような考えにもとづくものでしょうか。

 吉本興業のプレスリリースでは、「#京都市盛り上げ隊」などのタグ表示によって京都市との連携を示していたことをステルスマーケティングに該当しない理由としてあげています。また、京都市盛り上げ隊は吉本興行が京都市重要施策のプロモーション業務を実施する前提として結成したものであり、そのことはプレスリリースや京都市役所の表敬訪問といった活動を通じて周知されていたため、問題となったツイートが京都市のためのプロモーション業務であるということは理解できるものであった、という考えも公表しています 3

広告主からブロガーへの根拠の乏しいブログ記事の執筆依頼や、口コミサイトのサクラ記事は景品表示法違反に

過去のステルスマーケティングの事例や処分例において、本事案の参考となるものについて教えてください。

 ステルスマーケティングという言葉が広く知られるきっかけになった事例として、平成23年ごろのペニーオークション事例があります。ペニーオークションとは、入札するたびに入札手数料が必要となるインターネットオークションを指します。本事例では、消費者に影響力のある芸能人が、ペニーオークションサイトの運営事業者から謝礼を受け取ったうえで、実際には落札していないのにもかかわらず、著しく安価で商品を落札できたと装う旨のブログ記事などを投稿したため、社会的に問題視されました。なお、これらの投稿が直接の処分対象になっているものではありませんが、サイト運営事業者は、たとえば「最大9割引!」などの広告が景品表示法に違反するとして行政処分を受けています。

 平成24年には口コミサイトにおけるやらせ投稿が問題になりました。飲食店が、口コミ投稿の代行事業者に好意的な口コミの投稿を依頼し、ランキング操作をしていることが疑われた事例です。消費者庁が調査をしましたが、複数の飲食店が口コミの投稿を依頼していたことが確認されたものの、景品表示法に違反する事実までは確認されず、行政処分の対象にはなりませんでした。

 その後、消費者庁は前述のガイドライン(「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」)を公表し、たとえば口コミサイトにおけるサクラ記事や、広告主が(ブログ事業者を通じて)ブロガーに、広告主が供給する商品・サービスを宣伝するブログ記事を執筆するように依頼し、依頼を受けたブロガーをして、十分な根拠がないにもかかわらず、「△◻︎、ついにゲットしました~。しみ、そばかすを予防して、ぷるぷるお肌になっちゃいます!気になる方はコチラ」と表示させることなどは景品表示法に違反するとの考え方を明らかにしています。

 なお、本事案が話題になった後にも、映画の感想を漫画で描いたものが複数の漫画家によって同時にツイッターで展開され、ステルスマーケティングではないかとの議論を呼びました。この映画を配給するウォルト・ディズニー・ジャパンは、広告であることがわかる表示をすることについて伝達ミスがあったと謝罪するとともに、再発防止策を講じると公表しました 4。ステルスマーケティングが直近で相次いで話題になったことから、こうしたプロモーションに改めて注目が集まっており、問題として取り上げられやすくなっています。

自主規制ガイドラインも参考に、ステルスマーケティングを行ったと疑われぬような対策を

広告主、および広告事業者がステルスマーケティングに関与することを未然に防ぐためには、どのような考えに基づき対応すべきでしょうか。

 まず広告主についてですが、故意か過失かにかかわらず、その広告が一般消費者を誤認させるものであれば、景品表示法違反として行政処分を受けることになります。

 また、広告主が広告事業者に広告の作成を委ねていた場合、広告事業者が作成した広告物についても広告主は景品表示法上の責任を負うことになります。その意味で、景品表示法は一般消費者を誤認させない広告を作成するという結果責任が求められています。また、景品表示法に違反している疑いがあれば、結果として行政処分を受けないとしても、期待したプロモーション効果が得られないばかりかマイナスの宣伝にもなりかねません。

 したがって、広告主は広告事業者に対して、プロモーションであることについて疑義が生じないように、「広告」や「PR」などを必ず明記するようあらかじめ要請するとともに、広告物が公表される前にチェックをしておくことが対策として考えられます。

 広告事業者については、まさに今回の吉本興行のケースがそうであったように、景品表示法との関係では責任を問われない広告事業者のほうが目立つことは少なくありませんし、その社会的信頼を失うことにもつながりかねません。

 また、医薬品や化粧品、健康食品の広告であれば、広告事業者もその責任を問われる立場にあります。自主規制ではありますが、WOMマーケティング協議会(WOMJ)によるガイドラインではクチコミマーケティングやステルスマーケティングについての考え方や対応法が公表されています 5。また一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)による「ネイティブ広告に関する推奨規定」(2015年3月18日、2019年12月4日最終閲覧)も、広告の掲載場所にあわせた広告表記の方法等を整理しており参考となるでしょう。
 炎上リスクを踏まえると、WOMJやJIAAに加盟している場合はもちろんのこと、加盟していない場合にも、同ガイドラインで示された考え方を積極的に活用するなど、ステルスマーケティングを行ったと疑念を持たれないようにすることを意識しておくことが重要といえます。


  1. インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(平成23年10月28日 消費者庁、平成24年5月9日一部改定) ↩︎

  2. 大元 慎二消費者庁表示対策課長 編著「景品表示法[第5版]」(商事法務、2017)322頁。なお、役職は出版当時のものです。 ↩︎

  3. 吉本興行「京都市からの受託事業に関するSNS発信について」(2019年10月30日、2019年12月4日最終閲覧) ↩︎

  4. ウォルト・ディズニー・ジャパン「「『アナと雪の女王2』感想漫画企画」に関するお詫び」(2019年12月5日、2019年12月11日最終閲覧)
    ウォルト・ディズニー・ジャパン 「「『アナと雪の女王2』感想漫画企画」にご参加いただいたクリエイターのみなさま、そしてファンのみなさまへ」(2019年12月11日、2019年12月17日最終閲覧) ↩︎

  5. WOMマーケティング協議会「WOMJガイドライン」(2017年12月4日、2019年12月4日最終閲覧) ↩︎

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