インドの法制度
第2回 外国直接投資規制について
国際取引・海外進出
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連載2回目は、外国直接投資規制について解説します。インド進出の入り口の規制であり、インドの会社に出資を検討している場合には必ず検討すべきものです。
外国直接投資規制 FDIポリシーによる様々な投資規制
外国企業がインドの会社の株式を取得するときには、外国直接投資規制を検討する必要があります。外国直接投資は、英語ではForeign Direct Investmentであり、FDIと略されます。
インドにおける外国直接投資は、法令の委任に基づき、「統合版外国直接投資方針(Consolidated FDI Policy)」と呼ばれる政府通達により規律されています。以下では、この通達のことを「FDIポリシー」といいます。
FDIポリシーは毎年の更新が予定されています。最新のFDIポリシーは2016年6月7日付けで発行されています。当事務所で参考和訳を作成しております。
FDIポリシー上、インドへの外国直接投資については、個別に外国直接投資が規制されている業種を除いて、全て自動ルートにより最大100%まで外国直接投資を行うことができる(完全子会社とすることも可能)旨が規定されています。
「自動ルート(Automatic Route)」とは、インド政府の事前承認なくして外国直接投資を行う場合の投資方法をいいます(中央銀行への一定の事後報告は必要です)。他方で、一定の事業に対する投資については、外国直接投資にあたって事前の政府承認が必要とされており、こちらは「政府ルート(Government Route)」と呼ばれています。
FDIポリシーの5.1、5.2は、外国直接投資について、禁止業種であるか、政府ルートであるか、出資比率の上限があるかなどを規定しています。
外国直接投資が禁止されている業種としては、宝くじ事業、不動産事業、たばこ事業などがあります。政府ルートの対象業種の例としては、製薬業(既存会社への投資)、マルチブランド小売事業に対する投資(出資比率上限は51%)などが挙げられます。また、外国直接投資の出資比率の上限を設け、上限を超える投資のみを政府ルートの対象としている場合もあります。このような業種の例としては、シングルブランド小売業(49%まで自動ルート、49%超は政府ルート)、電気通信事業(49%まで自動ルート、49%超は政府ルート)などが挙げられます。また、政府ルート・自動ルートの別、出資比率の上限以外にも、様々な条件が課されていることがあります。たとえば、マルチブランド小売事業に対する投資については、外国直接投資の最低額は1億米ドルでなければならないとされており、また、調達先、出店場所についての制約も定められており、外国投資家による出資を極めて困難にしています。
したがって、インドの会社の株式の取得を検討する場合には、対象会社の業種について、禁止業種とされていないか、政府ルートとされていないか、出資比率の上限が規定されていないか、特別な条件が付されていないかを検討する必要があります。
投資規制のない分野
この点、自動車やその部品類の製造業や、電子機器の製造業などは、規制業種としては指定されておらず、したがって100%まで自動ルートで外国直接投資が可能です。また、一般的なサービス事業も100%まで自動ルートで外国直接投資が可能です(通信、印刷出版業など規制のある業種もあります)。そのため、多くの外国直接投資は、政府の承認を取得する必要はなく、100%まで可能であり、現在においては、外国直接投資についてインド政府の承認を得なければならない取引は決して多くはありません。政府はさらなる規制緩和を企図しており、インドの市場は相当程度開かれていると言ってよいでしょう。
さらなる規制緩和が求められる
もっとも、私個人の意見としては、小売業や製薬業の外国直接投資はさらなる緩和があってもよいのではないかと思っています。小売業は小規模の商店経営者の反対も多く、政治的になかなか緩和が進んでいません。また、製薬業については、インドがジェネリック大国であることから既存の製薬業者の抵抗が強いようです。もっとも、いずれも規制を緩和する方向では進んでいますので、いずれ規制が大幅に緩和ないし撤廃されることも期待されます。
と、この原稿を執筆しているときに思っていたのですが、その後、製薬業やシングルブランド小売業等について規制を緩和するプレスノートが発行されました。製薬業(既存会社への投資)については、これまで出資比率を問わず政府ルートでしたが、74%までは自動ルートになりました。歓迎すべき改正だと思います。シングルブランド小売業については国内調達義務について一定の場合の適用猶予期間が定められましたが、未だ義務として重く、より一層の規制緩和が求められるところです。
おまけ−製造業か小売業か
なお、小売業についてFDI規制による制約があることに関連して、「うちはインドの製造業者を買収してインドに進出するのだけれど、作ったものを直接消費者に売ろうとすると小売業の規制がかかってしまうの?」といったご質問をよく頂きます。この点、製造業者が自身で製造したものを直接消費者に売っても、それは小売業ではないと整理されており、小売業のFDI規制がかかることはありません。この扱いは従前の実務においても確立しておりましたが、現在のFDIポリシーでは、明確に規定されています(FDIポリシー5.2.5)。
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