平成30年の知財関連判決を振り返る

第3回 著作権法およびその他の知財法制に関する裁判例4選

知的財産権・エンタメ

目次

  1. レコード製作者の複製権の範囲(「ジャコ・パストリアス」事件・大阪地裁平成30年4月19日判決)
  2. リツイートと著作者人格権侵害(「ツイッター」事件・知財高裁平成30年4月25日判決)
  3. 育成者権の範囲および損害の認定(「しいたけ」事件・東京地裁平成30年6月8日判決)
  4. フラダンスの振付の著作物性(「フラダンス」事件・大阪地裁平成30年9月20日判決)

 「イノベンティア・リーガル・アップデート」で紹介した平成30年の知財関連裁判例を紹介するシリーズの最終回です。今回は、著作権法およびその他の知財法制に関する裁判例4件の要点を解説します。

レコード製作者の複製権の範囲(「ジャコ・パストリアス」事件・大阪地裁平成30年4月19日判決)

 「ジャコ・パストリアス」事件・大阪地裁平成30年4月19日判決は、音楽の音源についてレコード製作者の権利を有する原告が、その音源を無断使用した映画を複製した映画配給会社に対し、損害賠償を求めた事案です。争点の1つは、映画制作会社がマスターテープを使用して新たにミキシング等をして作成した音源にもレコード製作者の権利が及ぶか、という点でした。

「ジャコ・パストリアス」事件・大阪地裁平成30年4月19日判決

 判決は、まず、著作権法2条1項6号は、「レコード製作者」に該当するために、テープ等に収録されている音を最初に収録した者であることを要求していることを示しました。そのうえで、ある固定された音を加工したとしても、加工された音が元の音を識別し得るものであるかぎり、なお元の音と同一性を有する音として、元の音の「複製」にあたるとし、元の音を録音したレコード製作者の権利が及ぶとの判断を示しました。

 著作権侵害の認定においては、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるかが侵害成否のメルクマールとされ(「江差追分」事件・最高裁平成13年6月28日判決・民集55巻4号837頁)、被疑侵害著作物が既存の著作物に新たに創作性を付与した場合には翻案権侵害、新たな創作性がない場合には複製権侵害が成立すると解されます。これに対し、レコード製作者の権利(著作者隣接権)に翻案権はなく、本判決は、加工後の音について、元の音を識別できるかという観点から複製の成否を判断するという考え方を示したといえます。

リツイートと著作者人格権侵害(「ツイッター」事件・知財高裁平成30年4月25日判決)

 知財高裁平成30年4月25日判決は、ツイッター上でリツイートをした者の発信者情報開示(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条)の可否の判断に際し、他人の写真を無断使用したツイートをリツイートした場合に、著作権ないし著作者人格権の侵害が生じるかが争われた事件の控訴審判決です。

 原判決である東京地裁平成28年9月15日判決・平成27年(ワ)第17928号は、リツイートで表示される写真は、ツイートで発信された写真へのインラインリンクと呼ばれるリンクの一種(ユーザーがリンクをクリックすることによってリンク先の情報が表示されるハイパーリンクと異なり、リンク元の情報が表示されると、ユーザーの操作を経由せずに自動的にリンク先の情報が表示される形態のリンク)であって、公衆送信に該当せず、いずれについても侵害は生じないと判断しました。

出典:経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2018年7月)

出典:経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2018年7月)

 これに対し、本判決は、著作権侵害は否定したものの、リツイートに際し、ツイッターのプログラムにより、ツイートで送信された画像がトリミングされたことや、ツイート時に表示されていた著作者の氏名も切除されたことを捉え、リツイートをした者による著作者人格権(同一性保持権および氏名表示権)の侵害を肯定しました。

 リンクと著作権・著作者人格権の関係については、欧州司法裁判所が、2016年、ハイパーリンクが適法であるためには、リンク先のコンテンツが違法であることを知らず、または合理的に知り得なかった者が経済的目的でなく提供したものであることを要し、また、経済的目的がある場合には、違法コンテンツであったことを知っていたと推定される、との判断を示すなど、議論が分かれるところです 1

育成者権の範囲および損害の認定(「しいたけ」事件・東京地裁平成30年6月8日判決)

 植物の新品種にかかる育成者権を保護する種苗法は、知的財産法の一分野に位置づけられるものの、純然たる無体物を保護する特許制度などとは異なる固有の特徴があります。

 その1つとして、「しいたけ」事件・東京地裁平成30年6月8日判決では、育成者権の権利範囲を、品種登録簿の特性表の記載に基づいて定めるのか(特性表主義・クレーム主義)、登録品種の現物が共通して備える主要な特徴によって定めるのか(現物主義)が争点となりました。この点については、「なめこ」事件・知財高裁平成27年6月24日判決が現物主義を採用しており、本判決も、これを踏襲しました。

国内外における品種保護をめぐる現状

出典:農林水産省食料産業局「国内外における品種保護をめぐる現状」(2017年12月15日)

 具体的には、品種登録簿に複数の栽培方法のうち1つ(原木栽培)の特性表しか添付されていなかったとしても、本件の被告が採用していた菌床栽培で育成された品種にも権利行使が可能であると判示しています。なお、損害賠償請求との関係では、菌床栽培の特性表が添付されていなかったことが過失覆滅事由として考慮されています。

 種苗法の他の特徴として、育成者権は、種苗、収穫物および一定の加工品の生産等に対して行使することができるものの(種苗法2条5項)、収穫物の生産等に対する権利行使は、種苗に対する権利行使の適当な機会がなかった場合にかぎられ(同項2号かっこ書)、また、加工品の生産等に対する権利行使は、種苗および収穫物の生産等に対する権利行使の適当な機会がなかった場合にかぎられています(同項3号かっこ書)。これを権利の段階的行使の原則(カスケイドの原則)といいます。

     本判決は、上記の「権利を行使する適当な機会がなかった場合」の解釈として、
  1. 育成者が第三者による種苗の無断増殖、販売を知らず、収穫物が流通した段階で初めて当該種苗が無断で増殖され、その収穫物が販売されていることを認識した場合
  2. 登録品種の種苗が海外で無断増殖されたことから、育成者権がその事実を認識し、権利行使をすることが法的または事実上困難である場合
  3. などを含むと解すべきであるとし、事実認定のうえ、収穫物に対する権利行使を認めました。

 結論として、被告の種苗を用いて得られる収穫物の譲渡の申出、譲渡、貸渡しの申出、貸渡しまたはこれらの行為をする目的による保管等の差止めのほか、6678万余円の損害賠償請求も認容されています。

フラダンスの振付の著作物性(「フラダンス」事件・大阪地裁平成30年9月20日判決)

 大阪地裁平成30年9月20日判決は、フラダンスの振付に著作物性を認められたことで話題になった事件です。著作権法は、著作物の類型として「舞踊又は無言劇の著作物」を規定していますが(著作権法10条1項3号)、実際の適用においては、身体動作の自由とのバランスの観点から、既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であるなどとされ(「Shall we ダンス?」事件・東京地裁平成24年2月28日判決・平成20年(ワ)第9300号等)、著作物性が認められにくい類型となっています。

 本判決は、歌詞をハンドモーションで表現しつつステップで流れを作るボディランゲージとしてのフラダンスの特性を踏まえながら、著作物性が問題となるハンドモーションとの関係で歌詞をアイデアに位置付け、ハンドモーションが歌詞から想定される既定のものでも、その類例でも、それらと有意な差のないものでもない場合には、その動作は作者の個性を表したものといえるとの考え方を示しました。また、ステップについても、既存のものとは顕著に異なる新規なものである場合や、ハンドモーションとの組合せにより、歌詞の表現を顕著に増幅したり、舞踊的効果を顕著に高めたりしている場合には、作者の個性の表れといえるとの考え方を示しました。

 さらに、本判決は、上記基準によって作者の個性が表れていると認められる部分とそうでない部分があいまった一連の流れとしての振付けの中で、作者の個性が表れている部分が一定程度にわたる場合には、舞踏の著作物性が認められるとの考え方を示し、原告の創作にかかる具体的な振付けについて著作物性の存否の認定を行っています。

 このような著作物性の認定手法は言語の著作物や美術の著作物などには見られないもので、身体動作の不当な制限の防止と振付けの保護の間で利益衡量を図ったものといえます。


 本連載では3回にわたって、平成30年の知財関連判決の中から参考になりそうなもの15件について、要点をお知らせしました。昨年も種々興味深い判決が現れており、絞り込むには迷いがありましたが、最終的には個人的な興味で選択しました。お読みいただいた方の業務の参考になれば幸いです。


  1. GS Media BV v. Sanoma Media Netherlands BV and Others, C-160/15, ECLI:EU:C:2016:644 ↩︎

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