ソフトバンクの事例に見る 株主総会直前での議案の撤回への対応方法

コーポレート・M&A

(写真:GongTo / Shutterstock.com

 6月21日、ソフトバンクグループは代表取締役副社長であるニケシュ・アローラ氏の退任を公表しました。株主総会前日に行われた突然の発表は大きな話題となりましたが、総会実務上はどのような手続きが必要なのでしょうか。
 株主総会の実務に詳しい桃尾・松尾・難波法律事務所の三谷革司弁護士に話を聞きました。

ソフトバンクグループは株主総会前日での議案の撤回となりましたが、総会実務上はどのような手続きが必要なのでしょうか。

 招集通知の発送後、総会開催までの間には、上場会社の場合少なくとも2週間以上の期間がありますから、その間に事情が変わり、総会直前のタイミングで議案を撤回しなければならない事態が生じることがあります。今回の事例は、まさにそのような場合で、招集通知の発送時の株主総会参考書類に記載された取締役選任議案のうち、特定の候補者に関する議案を撤回したものです。

 上場会社における議案の撤回の手続ですが、まず、 撤回について取締役会決議が必要です。当該議案は、総会招集決定時の取締役会において決議されたものであり、代表取締役がこれを勝手に撤回することはできないのです。
 取締役会決議後は、 可及的速やかに、株主に撤回を周知しなければなりません。招集通知が発送されており、当該議案が上程されることを前提とした議決権行使書の提出やインターネットによる議決権行使がすでに進んでいるからです。

 実務的には、議案の撤回の取締役会決議の直後にプレスリリースを行って公表することが多く見られます。ソフトバンクでは総会前日の21日にニケシュ・アローラ氏の退任と取締役会開催、総会決議の変更予定についてリリースを行い、翌日、取締役会決議の内容を公表しました。

 また、撤回が比較的早い段階で行われた場合は、株主に対して訂正後の議案を記載した書面を再送付することも考えられます。

 なお、最近では多くの会社でWeb修正の制度が利用されていますが、これによって対応できるのは軽微な修正に限られると考えられていますので、もちろん、周知の方法としてWeb修正のために指定されたアドレスに修正内容を掲載することは考えられますが、これによって議案の撤回が効力を生じるというものではありません

では、総会当日はどのような対応が必要なのでしょうか。

 次に、総会当日の対応ですが、ここは幾つかの考え方があるところです。現在の総会実務では、議長が議案の撤回について宣言し、当該議案を上程せずに議事を進行することによって、議案の撤回がなされたものとして取り扱うのが一般的だろうと考えます。

 これに対し、議案の撤回を総会の議場に諮り、株主の承認を得て撤回するという考え方もあります。議場に諮る場合には、議決権行使書等によって原案に対して賛成として行使された議決権数は、議案の撤回について賛成として取り扱えないことに注意が必要です。

 私見では、会社として当該議案を付議する必要性がない状況ですから、あえて撤回を議場に諮る必要もないと考えていますが、手続について株主の確認を得るために念のため議場に諮るという対応をしておく場合はあるだろうと考えます。

 なお、その他、総会当日の受付において来場株主に議案の撤回に関する説明書面を配付しておくことが考えられます。

総会前日での議案の撤回は異例のことなのでしょうか。

 異例といえば異例ですが、ないわけではありません。

 議案の撤回が必要となる場合として、①役員選任議案に関して、選任予定者に事故があったり、翻意したりしたような場合、②会社提案議案について当初の想定より株主の反対票が多く、総会当日において可決される見込みが立たないような場合(特別決議が必要な議案について、反対する大株主がいるような場合に起こります)、③議案の内容に問題があったことが判明したような場合が考えられます。

 この点、②のようなケースは、議決権行使書や委任状等の提出がある程度進み、票読みに関する大勢の状況が判明した段階で撤回の判断がされることから、結果として、総会直前、場合によっては総会前日での撤回となる場合があります。また、①のような役員個人に関する問題は、招集通知の発送後、いつであるかにかかわらず発生する可能性があります。

 しかし、総会当日が近づくに従って、議決権行使書等によって議決権行使をすでに終えた株主も多くなります。議案の撤回は、そのような株主による議決権行使を無駄にするものとなりますから、撤回の法的効力に問題はないとしても、②のようなケースで、賛成が得られる見込みがないからという理由のみで安易に撤回することが妥当であるかは、慎重に検討する必要があると思います。

ソフトバンクではホームページによる公表、総会当日での説明がなされましたが対応としては十分だったのでしょうか。

 今回の事例は、当日の総会直前に取締役会を開催して議案の撤回を決議し、総会の場で議長が撤回を宣言しており、現在の一般的な実務上の法解釈を前提とする限り、法的な手続には問題ないと考えます。
 なお、正式な取締役会決議を経る前に、当該候補者が退任し、それに伴って選任議案を取り下げる予定であることがリリースされていますが、株主にできるだけ早期に周知する必要性が高い状況であることも考えると、望ましい対応であったものと考えます。

 加えて、総会当日の議場には当の候補者本人も登場して、本人が退任する理由を説明するという対応もしており、株主に対しては、できる限りの手は打ったという一応の評価はできるのではないでしょうか。

 もっとも、そもそも論として、当該候補者はもともと後任の経営者候補として社会的に耳目を集めながら選任され、当該候補者の行為に関する特別調査委員会が設置される中で、議案の決定時には当然選任される予定であった状況からの急遽の事態ですから、コーポレート・ガバナンスの観点から今回の事象がどのように評価されるべきか等、別の観点からの問題はあるだろうと思います。

その他、総会で役員を選出する場合に気をつけるべきポイントはありますか。

 今回の事例は、議案の撤回という取扱いでしたが、役員選任議案の候補者に事故があったときに、代替の候補者の選任をしたいという場合もあり、議案の変更を検討することがあります。
 この場合も、議案の変更となるので、Web修正で対応できる範囲にはありませんが、総会当日において、一般に、候補者を入れ替える旨の議案の修正動議は許されると解されていることから、そのような修正動議を株主から提出してもらう方法によって対応することが考えられます。

 以上、法的な手続について説明しましたが、通常、招集通知発送後の議案の撤回、変更等を行うことは、株主に無用な混乱を生じさせることになり、法的な面でも慎重な対応を求められますから、できるだけ避けたい事態です。
 特に、総会の実務担当部門は、連日その対応に追われて大変な状況になることが容易に想像されます。役員選任議案については、総会直前になって候補者が翻意したりすることのないよう、前もって会社と候補者のコミュニケーションの機会を十分に確保し、候補者に会社の経営方針等への理解を深めてもらうことが必要だろうと思います。

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