働き方改革関連法が目指す社会

第1回 働き方改革関連法 - 長時間労働を是正するための規制

人事労務 公開 更新

目次

  1. 時間外労働の上限規制の導入
    1. 現行法のもとでの労働時間規制
    2. 改正法のもとでの労働時間規制
  2. 一定日数の年次有給休暇の確実な取得
  3. 労働時間の状況の把握の実効性確保
  4. 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
  5. 勤務間インターバル制度の普及促進等
  6. 産業医・産業保健機能の強化

2018年4月6日、政府は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」案を閣議決定し、国会に提出しました。

この法律案は、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する「働き方改革」を推進するため、

I  長時間労働の是正

II 多様で柔軟な働き方の実現

III 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

を目的とするものです。

当記事では、改正法案のうち、Iの「長時間労働の是正」を目的とした規定について解説します。

時間外労働の上限規制の導入

現行法のもとでの労働時間規制

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案の概要

出典:厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案の概要

現行法のもとでは、労働時間は、1日8時間、1週40時間が原則とされ(労働基準法32条)、これを超えた時間外労働や休日労働のためには、36協定の締結と労働基準監督署(労基署)への届出が必要です(労働基準法36条)。

36協定で定める延長時間については、労働省告示1が、1か月あたり45時間、1年間360時間等の限度を定めています。労働省告示は、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付きの協定を結んでおけば、年間6か月以内に限り、限度を超えた時間を延長時間とすることを認めています。

もっとも、現行法のもとでは、

  • 法律(労働基準法)が時間外労働の限度を定めていないこと
  • 時間外労働の限度を定める労働省告示に法的拘束力がないこと(限度を超えた時間数であっても、36協定の締結・届出が可能であること)
  • 労働省告示は、特別条項による延長時間について限度を定めていないこと

といった問題点がありました。

大手広告代理店従業員の過重労働による労災事件が社会問題化したこと等を背景として、2017年3月、日本労働組合総連合会(連合)と日本経済団体連合会(経団連)との間での労使合意が成立し、政労使の三者が、働き方改革実現会議に対する「時間外労働の上限規制等に関する政労使提案」を行うなど、時間外労働の上限規制を法制化する機運が高まりました。

改正法のもとでの労働時間規制

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案の概要

出典:厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案の概要

改正法案のもとでは、時間外労働の限度について、以下のとおり、法律の定めが設けられます(改正労働基準法36条2項以下。2019年4月1日施行予定(ただし、中小企業に対する適用は2020年4月1日から))2。なお、36協定に定める時間外労働の限度を超えた時間外労働が、労基署による是正勧告等や罰則(懲役または罰金)の対象となることは、現行法と変わりありません。

原則 36協定に定める時間外労働の限度は、月45時間、年360時間までとする。
例外 臨時的な特別な事情がある場合においても、36協定に定める時間外労働の限度は、年720時間を上回ることができない。また、以下の要件を満たさなければならない。
  • 例外が適用できるのは、年間6か月以内に限る。
  • 2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の期間のいずれにおいても、休日労働を含んで月平均80時間以内であること。
  • いずれの月も、休日労働を含んで月100時間未満であること。

これまで「青天井」とも言われていた時間外労働の限度が法律に定められ、罰則の対象となったことは、時間外労働の抑制策としての実効性を有するものとして、評価するべきものだといえます。

改正法の施行後には、改正法の内容を踏まえた内容の36協定の締結が必要となります。なお、改正法の下での原則的な上限時間である月45時間、年360時間までの間で時間外労働を行わせるためにも、36協定の締結が必要です。

一定日数の年次有給休暇の確実な取得

現行法のもとでは、一定日数の有給休暇を付与することは使用者の義務ですが(労働基準法39条)、付与した有給休暇を実際に消化させることは、使用者の義務とはされていません。

改正法案のもとでは、10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、毎年、時季を指定して5日の有給休暇を与えることが、使用者の義務となります(ただし、労働者の時季指定権や計画的付与制度3により取得された有給休暇の日数分は、この義務はなくなります。改正労働基準法39条7項、8項)(2019年4月1日施行予定)。

有給休暇の取得率を上げ、職場から離れる時間を確保できるようにすることは、労働者の健康確保等の観点からも望ましいものです。また、改正法による有給取得の義務付けが、「とにかく休まないことが美徳である」という、旧来的(学校的・部活動的)な固定観念からの脱却につながることも期待したいところです。

労働時間の状況の把握の実効性確保

改正法案のもとでは、労働者の労働時間の状況を、省令で定める方法(使用者による現認や客観的な方法等)により把握することが、労働安全衛生法上の使用者の義務となります(改正労働安全衛生法66条の8の3)(2019年4月1日施行予定)。

労働時間の状況の把握については、当初は省令で規定されることが予定されていましたが、与党から労働者の健康確保措置の強化を求める声があり、法律(労働安全衛生法)に盛り込むこととされたものです。

中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

2010年施行の労働基準法改正では、1か月60時間を超える時間外労働に対しては50%以上の率の割増賃金の支払いが義務化されていますが、中小企業については「当分の間」その適用が猶予されています(労働基準法37条1項ただし書、同法附則138条)。

改正法案のもとでは、この中小企業への猶予措置が廃止され、中小企業においても、1か月60時間を超える時間外労働に対して50%以上の率の割増賃金の支払いを行うことが義務化されます(2023年4月1日施行予定)。

勤務間インターバル制度の普及促進等

「勤務間インターバル」とは、勤務終了後、一定時間以上の休息期間(インターバル)を設けることで、労働者の睡眠時間や生活時間を確保するものです。勤務間インターバルを設けることにより、労働者が最低限の睡眠時間やワーク・ライフ・バランスを確保しながら働くことができるようになると考えられています。

勤務間インタール

出典:厚生労働省「「勤務間インターバル」とは」

改正法案のもとでは、健康および福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間(勤務間インターバル)の設定に努めることが、事業主に求められます(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法2条1項)(2019年4月1日施行予定)。

産業医・産業保健機能の強化

産業医・産業保健機能の強化のため、改正法案は、以下のような規定を設けています(2019年4月1日施行予定)。

  • 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならないこと(改正労働安全衛生法13条3項)
  • 事業者は、産業医に対し、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報(労働者の労働時間に関する情報等、厚生労働省令で定められるもの)を提供しなければならないこと(改正労働安全衛生法13条4項)
  • 事業者は、産業医が行った労働者の健康管理等に関する勧告を尊重しなければならず、勧告の内容等を衛生委員会等に報告しなければならない(改正労働安全衛生法13条5項、6項)
当記事公開後、衆議院で若干の修正が加えられて成立し、2018年7月6日に公布されています。衆議院での修正を踏まえたアップデート版の記事をおって掲載予定ですが、取り急ぎ、厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の概要」の、「(衆議院において修正)」と記載がある箇所もご参照ください。

  1. 労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号) ↩︎

  2. 自動車運転業務、建設事業、医師等については、適用猶予期間が設けられる等の例外があります。新技術・新商品等の研究開発業務については、医師の面接指導等の健康確保措置を設けた上で、適用除外とされています。 ↩︎

  3. 年次有給休暇の付与日数のうち、5日を除いた残りの日数については、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度(参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「事業主の方へ」 ) ↩︎

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する