「一人法務」として民法改正に挑む!その戦略とは? 元インハウスロイヤーが現場目線で語る、「本当に必要なこと」
取引・契約・債権回収
目次
- 法律知識と法務ノウハウの2つをバランスよく習得する
- 企業勤務経験がある弁護士を雇うのが良い法務への近道
- 民法改正対応は「何をどこまでやるか」「どうやって進めるか」から考える
会社に法務担当が一人しかいない「一人法務」
一人法務の不安
2017年は企業の不祥事が多くの関心を集めた年でした。世の中にはコンプライアンス重視の機運が高まり、法務機能の拡充・強化が多くの会社にとって重要課題になっています。他方で、企業法務を担う人材は必ずしも潤沢とは言えず、多くの会社が人手不足の問題を抱えています。会社に法務担当者が一人しかいない「一人法務」の会社も決して少なくないのが現状です。
「知識も経験も少ない。にもかかわらず、法律やガイドラインを読むと極めてハイレベルな対応が求められている」
このギャップが多くの一人法務を悩ませています。
一人法務が目指すべき方向性
そもそも企業における法務の役割とは何でしょうか。
私たちは、事業にまつわる法律問題に対処し、最終的に会社の事業に貢献することだと考えています。インハウスロイヤーになったばかりのころ、法律論だけの紋切り型の回答をして事業部の重役にひどく叱られました。いくら難しい知識を披露したところで、それが最終的に会社の利益になるということを事業部門に“腹落ち”させられなければ、十分に法務としての役割を果たしたとはいえないのです。
事業に貢献できる法務に必要なものは、大きく分けて2つあります。
1つめは、法律の知識です。インターネットの発達により、知識を習得するだけであれば、さほど苦労することも無くなりました。専門的な分野であっても、インターネットで検索すれば、その分野に詳しい弁護士にすぐにたどり着けるでしょう。
2つめは、法務ノウハウです。企業法務の仕事は、法律知識があればうまくいくというものではありません。事業部との円滑なコミュニケーションの仕方や、法的にグレーで結論が出せない問題とどう向き合うか、効率的な弁護士の使い方といった「法務ノウハウ」もまた、「事業に貢献できる法務」のために必要不可欠なものです。
ただ、法律知識と異なり、「法務ノウハウ」は、目に見えない経験や感覚として各社の担当者の中に眠っていることが多く、一人法務の場合にこれを習得するのは容易ではありません。逆に言えば、法務ノウハウをいかに収集して蓄積するかが、会社に貢献できる一人法務にとって重要なのです。
一人法務のための法律事務所の選び方
法律事務所(弁護士)であれば、必ず一定の法律知識を有しています。したがって、一人法務が法律事務所(弁護士)を選ぶのであれば、法律知識に加えて法務ノウハウを豊富に有している法律事務所を選ぶとよいでしょう。
法務ノウハウの有無は、弁護士によって相当の差があります。法律事務所に所属し、企業での勤務経験がない弁護士は、法律的知見の収集と提供に専従していて、法務ノウハウにアクセスする機会を持たないからです。他方で、インハウスロイヤーとして企業での勤務経験を有する弁護士は、「法務の担当者」として自身で培った法務ノウハウを有していますから、一人法務のサポート役として適任といえるでしょう。
業界の商慣習等に詳しくても、企業法務の現場の経験や感覚を伴っていなければ、一人法務にとって本当に役に立つサポートとはなりません。まずは一人法務が「事業に貢献できる法務」となるために足りないものを補う、という視点で法律事務所を選ぶとよいでしょう。
「一人法務」と民法改正
2018年4月25日に開催を予定しているセミナー「一人法務のための民法改正 改正論点の総ざらいとプロジェクトマネジメント」では、このような一人法務が民法の改正という120年ぶりの一大プロジェクトにどのように対処していくべきか、私たちのインハウスロイヤーとして培った法務ノウハウを活かし、実務的な視点から明快かつ実践的に解説していきます。
ゴールをどこに設定するか?
そもそも、なぜ民法改正に対応しなければならないのでしょうか。また、「民法改正に対応済み」とはどういう状態なのでしょうか。
一人法務には、法律知識も法務ノウハウも人手も予算も足りないのが通例です。しかも、民法改正への対応以外にも、処理しなければならない重要な業務が山ほどあります。したがって、すべての契約について、主要な改正点をチェックし、必要な修正を施すというのは、そもそも不可能です。達成不可能なゴールを設定しても意味がありませんから、現実的なゴールを設定する必要があります。
各社のビジネスや社内の実情に合わせた「現実的なゴール」の設定は、ビジネス、法律、社内事情のすべてを幅広くカバーする法務にしかできません。セミナーでは、現実的なゴール設定について、「どの改正項目について優先的に対応すべきか」「どの取引を優先するか」という2つの視点から解説します。
どの改正項目について優先的に対応すべきか?
主要な改正点は20項目以上に及び、どれも重要な改正といわれています。しかし、改正項目を眺めても一体それが自社のビジネスにどの程度影響があるのか皆目見当がつかないという人も多いのではないでしょうか。
民法の守備範囲は、個人間の契約を含めた取引全般です。企業活動にまつわる取引は、そんな民法の広範な守備範囲の一部にすぎません。つまり、民法にとって重要な改正点の中には、企業の取引にはあまり影響のないものも含まれているのです。
もちろん、中にはどの会社にとっても重要な改正点も存在します。どの改正点が自社にとって重要なのかを見極めることが、改正対応をスムースに進める第一歩です。
改正民法の改正点を「どの会社にとっても重要な影響がある改正点」「取引内容によっては重要な影響がある改正点」「それ以外の改正点」の3つに分類した「改正点一覧表」を使って、優先的に対応すべき改正点をあぶりだしていきます。
どの取引を優先するか?
企業の取引は、1回数万円のものから億単位のものまで様々です。また金額は少なくとも、ビジネス上非常に重要な意味を持つ取引も存在します。場合によっては契約書が存在しない取引もあるでしょう。
すべての取引について一律に対応していては、いくら人手があっても足りません。重要な取引から優先的に対応していく必要があります。
では、「重要な取引」とは何でしょうか。
いくつか頭に判断基準が浮かんだ方もいると思います。しかし、それは「法務が考える重要な取引」ではありませんか?たとえば、その判断基準に基づいて「重要な取引」の定義を法務で作成し、事業部に「この定義に当てはまる取引を列挙してくれ」というお願いをするということをイメージしてください。事業部の目から見ると、取引の当事者である事業部を差し置いて、管理部門である法務が「この取引は重要」と決めつけている、と映る可能性はありませんか?
繰り返しになりますが、一人法務だからといって、すべてを自己完結させる必要はありません。何が重要なのかは本質的にはビジネス上の問題なのですから、事業部に聞けばよいのです。もし、事業部に気軽に聞ける環境がないのであれば、民法改正対応プロジェクトを一つのチャンスととらえて、まずは一歩を踏み出してみましょう。
マネジメント層や事業部の協力を得るために、どのような社内説明をするかを中心にご説明します。併せて、私たちがインハウスロイヤー時代に事業部の信頼を勝ち取るためにどのような工夫をしたかもお話しします。
どうやってゴールを達成するか?
目指すべきゴールが決まったら、必要な工程を洗い出し、社内外のリソースを割り当て、プロジェクトを進めていきます。具体的には、社内説明、要対応契約書の洗い出し、修正事項の確定などの作業に、法務、事業部、外部法律事務所等の各プレイヤーをそれぞれ割り当てていきます。
法務、事業部、法律事務所にはそれぞれ得意分野と不得意分野があります。たとえば、一般的に法律事務所は契約書の作成といったPure-Legalな業務は得意ですが、社内で使われるビジネス文書の作成といったSemi-Legal、Non-Legalの領域の業務は不慣れなことも多いです。不得意分野の仕事を依頼してしまうと、せっかく費用をかけたのに思うような成果が得られない、ということになりかねません。
各プレイヤー同士の連携を取り持つのも法務の重要な役割です。目の前の作業に没頭し過ぎて周囲が見えなくならないように、常に全体の進捗に気を配り、必要なケアをしていくことが大切です。
ここまでくればゴールの達成はさほど難しくはないでしょう。
改正対応に必要なタスクリストとロードマップの例をあげ、各タスクの性質に応じたリソースの配分方法を解説します。併せてプロジェクトを進めていくうえで必要となる進捗管理表のサンプルもお配りします。
おわりに
民法改正は大きなイベントではありますが、早い段階から戦略的に動くことで、一人法務でも十分に対応が可能です。こうしたプロジェクトを実施すると、これまで見えてこなかった新たな法務の課題が見つかったり、事業部門が気軽に法務に話しやすい環境が整ったりするなど、様々な副次的効果も期待できます。
民法改正対応プロジェクトを、事業に貢献できる一人法務になるためのチャンスと捉え、前向きに取り組んでいきましょう。

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