法務のキャリアの築き方 これから選ばれる法務部員になるためには?
法務部
2017年12月15日に、「BUSINESS LAWYERS」は第1回となるユーザーイベント「法務トーク」を開催しました。テーマは「法務のキャリアを考える」。アパレル業界、メディア業界、人材業界で活躍する30代の現役法務パーソン3名を招いて、トークセッションを行いました。モデレーターは「サインのリ・デザイン」編集長の橋詰が担当。当日は26名の方にお越しいただきました。
今回は、第1回「法務トーク」でパネラーの方に語っていただいた内容をご紹介します。
- 太郎さん
新卒でゲーム会社へ入社し、法務部・知財部で約5年勤めた後、アパレル業界へ転職。社内から法務相談を受けたり、契約法務に携わるほか、商標の取得や模倣品対応など知的財産に関する業務に携わっている。アパレル企業特有の業務として、ビンテージ商品を扱うため古物商も取得している。法務のキャリアは10年。 - 優子さん
司法試験に挑戦していたが、残念ながら合格には至らず、第二新卒としてメディア業界へ就職。以来、約12年勤務し転職はしていない。入社当初は人事や総務に関する業務も含めた「なんでも屋さん」状態だったが、現在は法務に注力。個人情報を含めた情報資産に関する規程作成や、監査、教育などを行っている。 - サトシさん
多数の子会社を抱える人材サービス会社に勤務。本社機能として、事業提携など子会社では解決できない事案や、最近ではHRテックサービス立ち上げの際のリスク洗い出し、価値向上・リスク低減のための提案などを行っている。転職経験はないものの、株主が何回か変わるような、変化の激しい環境で働いてきた。営業職からのスタート。
課題はそれぞれ、知識の高め方
法務の能力や知識はどのように鍛えているのでしょうか。
優子さん
司法試験の勉強をしていたので、新しく学ばないといけない法律でも、わりと勉強の仕方はわかるような気がしています。むしろ法律以外のところで、自分の会社のビジネスを理解するために勉強することが重要なんじゃないかと思います。たとえば、システムエンジニアと話をするうえで、相手の使っている用語がわかるように勉強するとか。
サトシさん
もともと人材紹介事業や求人広告事業がメインの担当領域でしたので、人材紹介契約や業務委託契約、また外部のウェブサービスを導入する機会も多いので、その際の契約の審査に必要な法律知識や業務内容など、担当領域が狭かったとしても、その領域については体系的に深く勉強してきました。
最近は、「HRテック」と呼ばれるサービスの立ち上げに関わる機会が多くなってきているので、そのあたりの分野について勉強しています。たとえば、AIに関しては、本を読んでも真に知りたい内容について書かれているものが少なく、たとえば、ウェブサイト上の著作物を学習用データとしてAIのプログラムにインプットさせる際に著作権法の問題はあるのか、またその著作物を掲載しているサイトがある場合、サイトの規約との関係で問題はないのかなど、不明瞭なことがたくさんあります。本やネット検索、ブログなどでも情報収集しつつ、外部の弁護士にも話を聞きながら、体系化して社内に共有し、法務部門のナレッジとして蓄積していくようにしています。
太郎さん
僕は自分一人ではコツコツと勉強できないタイプなので(笑)、知財学会や商標協会などに参加するようにしています。最近では、知財教育協会が母体のFashion Law Institute Japanで研究員として、積極的に手をあげて発表をするようにしています。そうやって「期限を決めてやる!」と決意して勉強するのが自分のスタイルになっています。
あとは必要に駆られてですね。一人法務はありがちだと思いますが、「イシューが起きてから短期間で押さえる!」そんな具合です(笑)。
キャリア構築の中で考える「転職」
転職についてどのようにお考えですか。
太郎さん
ゲーム会社で働いていた3年目の時に転職したいと思って、転職活動をしていたことがあったんですが、当時は著作権関係の実務を2年やって、やっと契約業務を始めたところだったため、エージェントから「契約業務1年で転職できるところはない」とはっきり言われました。確かにそうだなと思い、しばらくは同じ会社で働き続けて。5年目でちょうど30歳になり、30代という10年間のキャリアプランを改めて考え、転職を決意しました。前職では法務と知財の両方を経験しましたが、ジョブローテーションがなく、さらに会社の中に法務・知財で数十名が勤めているような環境だったため、このままここにいても幅広く業務に携わることは無理だと感じ、なんでもやれるような小さい企業で働きたいと思いました。
自分のテーマとしてある「日本のものづくりを知財で守る」という思いを実現できるところ、という観点から結果的にファッション業界へ転職しました。
転職する際に自分にとってメリットだと感じたのは、スタートがゲーム会社だったので、ITに対して拒否感がないということ。ファッション業界もeコマースやファッションテックといったテクノロジーが流行ってきているので、ゲーム業界で培った知識や経験、リテラシーがそのまま活かせたのはラッキーでしたね。
サトシさん
リーマンショックの頃、企業は採用をほぼストップしたため、業績が景気に連動してとても悪くなり、このままだと会社が潰れるんじゃないかと不安を感じたこともありました。でも不景気の中、コストを抑えるために業務効率化をチームで企画し、推進できたことは良い経験です。不景気にもなり、株主が何回か変わりましたが、それらを変化できるチャンスだと捉えたこともあり、会社を辞めようとは思わなかったですね。
弁護士資格がなくても評価される
これから法務はどう変わっていくと思いますか。
サトシさん
ITやAIなどのテクノロジーを使った新しいサービスを提供していきたいと考える経営者が増えてきていて、そうなると通り一辺倒の法律の回答は求められていないように思います。「これを実現するためにはどういう法律の解釈ができる? 押さえるべきところは?」といったことを事業開発者と一緒に考えていける人が求められています。
昔は、新しいサービスを企画して、システム開発をして、システムができあがった後に法務へ相談という流れでした。その段階だと、法務としては規約を作るくらいになってしまい、事前に新サービスのリスクの洗い出しや、価値向上やリスク低減のための業務プロセス変更の提案などはできませんでした。今では法務部門への信頼感がだいぶ醸成されてきたこともあり、新しい企画が立ち上がった時点で、企画者とIT部門と法務とが膝を交えながら、社会や顧客にとってより高い価値があるサービスとは何かを話すような環境になっています。そういった動き方が、法務により求められてきているように思います。
優子さん
企業の法務部に弁護士資格を持っている方が増えてきていますが、私の周りの法務の方に聞くと、仕事への取り組み姿勢や事業部との付き合い方を重視する方が多いです。弁護士資格はないけれど、これまでのキャリアを評価してくれる会社はあると思いますし、資格を持たない法務部員の強みだと思います。インハウスロイヤーに淘汰されるわけではないかな。
太郎さん
法務人員は減っていくと思っています。色々な会社を見て思いますが、極端な言い方をすると、法務部の仕事はクリエイティブじゃない雑務のような仕事が多く、早ければ2〜3年、中長期的には5〜6年でなくなると思っています。そうなると、作業労働の時間が減り、そこにかけていた人員も減ることになるでしょう。一方、法務部には弁護士が増えていくと。じゃあどうすれば差別化していけるかというと、今お二人がされた話に尽きると思います。
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(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)