独占禁止法上問題となり得る流通段階の取引行為とは?

競争法・独占禁止法 公開 更新

目次

  1. 独占禁止法と流通・取引慣行ガイドラインの概要
    1. 高まるコンプライアンス意識と独占禁止法
    2. メーカーや流通業者にとって重要な「流通・取引慣行ガイドライン」
  2. 取引先事業者の事業活動に対する制限について
    1. 再販売価格維持行為
    2. 自己の競争者との取引等の制限
    3. 販売地域に関する制限
    4. 流通業者の取引先に関する制限
    5. 小売業者の販売方法に関する制限
    6. 抱き合わせ販売
  3. おわりに

独占禁止法と流通・取引慣行ガイドラインの概要

高まるコンプライアンス意識と独占禁止法

 今日の企業活動は、独占禁止法(以下「独禁法」といいます)に対する関心・懸念が従前よりも強くなっています。独禁法違反は、課徴金命令などの行政処分を受けるだけでなく、コンプライアンス意識を欠いた企業と見られてレピュテーション(評判)の低下を招きます。
 このため、企業法務に携わる方々にとって、独禁法の考え方を理解しておくことは非常に有益です。もっとも、独禁法の条文は、他の法令と比べて文言が抽象的ですので、個別具体的な事案において、どの条文が、どのような解釈により、適用されるのかが、分かりにくいと言われています。

メーカーや流通業者にとって重要な「流通・取引慣行ガイドライン」

 このような独禁法を理解する上で参考となるのが、公正取引委員会(以下「公取委」といいます)が定めるガイドラインです。数あるガイドラインのうち、流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下「流通・取引慣行ガイドライン」といいます)は、流通・取引慣行に関し、独禁法の一般的な考え方を示すとともに、問題となり得る具体的な行為を例示していますので、とても参考になります。
 流通・取引慣行ガイドラインは、第1部「取引先事業者の事業活動に対する制限」、第2部「取引先の選択」、第3部「総代理店」の3部構成となっています。直近では、2017年6月16日に改正されています。当該改正は、従来のガイドラインの構成を変えるものでしたが、適法・違法性判断基準が同一の行為類型を統合する等、ガイドラインの内容が分かりやすいものとなりました。
 本稿では、部品メーカーと完成品メーカー、メーカーと流通業者、流通業者と流通業者といった事業者間の取引で問題となり得る行為と関係する、第1部「取引先事業者の事業活動に対する制限」について、取り上げることとします。

取引先事業者の事業活動に対する制限について

 メーカー等の事業者が卸売業者や小売業者といった流通業者に対して、販売価格、取扱商品、販売地域、取引先等の制限(これらの行為を総称して「垂直的制限行為」といいます)や、リベートの供与を行うと、ブランド間競争(異なるブランドの商品を取り扱う事業者間の競争)やブランド内競争(同一ブランドの商品を取り扱う事業者間の競争)を減少・消滅させる効果が生じることがあると言われています。
 流通・取引慣行ガイドラインの第1部では、大別すると、垂直的制限行為(第1部第1および第2)およびこれと同様の効果を持つようなリベートの供与(第1部第3)について定めていますが、以下では、垂直的制限行為の例を取り上げることとします。

再販売価格維持行為

再販売価格拘束は原則違法

 事業者が流通業者に対し、自社製品の販売価格(再販売価格)を示し、これに拘束させること再販売価格の拘束といいます。このような再販売価格の拘束は、流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになるので、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となります(独禁法2条9項4号〔再販売価格の拘束〕)。

例外:「正当な理由」がある場合

 再販売価格の拘束が行われる場合であっても、「正当な理由」がある場合には違法とはならないとされています。
 この「正当な理由」については、2015年の流通・取引慣行ガイドライン改正で考え方が明確化されており、以下の要件が充足された場合に「正当な理由」があり違法とならないとされています。

「正当な理由」の要件
  1. 再販売価格の拘束によってブランド間の競争が促進されること
  2. 当該商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られること
  3. 他の方法によっては当該競争促進効果が生じ得ないこと
  4. 必要な範囲および必要な期間の拘束であること

 もっとも、実務家からは、現実的にこれらの要件をすべて満たす場面は極めて限定的であると考えられ、実際の価格戦略としては、「正当な理由」に依拠するのでなく、「拘束」の要件を満たさないという点を根拠にすることが、現実的な選択であるとも指摘されています 。

価格拘束があると再販売価格の拘束があるとみなされる

 文書によるか口頭によるかを問わず、事業者と流通業者との間の合意によって、当該事業者の示した価格(確定した価格のみならず、条件付や一定の幅のある設定も含みます)で販売するようにさせている場合や、メーカーの示した価格で販売しない場合に経済上の不利益を課し、または課すことを示唆する等、何らかの人為的手段を用いることによって、当該価格で販売するようにさせている場合には、再販売価格の拘束があるものとされています。

委託販売や取次販売の場合における価格指示は通常違法とならない

 事業者からの委託販売や事業者の直接の取引先が取次ぎとして機能し、実質的にみて当該事業者が販売していると認められる場合には、メーカーが直接の取引先に対して価格を指示しても、通常、違法とはならないとされています。

流通調査は通常独占禁止法の問題とならない

 事業者が自社の商品を取り扱う流通業者の販売価格、販売先等を調査することがあります。このような流通調査については、2015年の流通・取引慣行ガイドライン改正により考え方が明確化され、「当該事業者の示した価格で販売しない場合に当該流通業者に対して出荷停止等の経済上の不利益を課す、又は課す旨を通知・示唆したりする等の流通業者の販売価格に関する制限を伴うものでない限り、通常は独禁法上の問題とはならない」とされています。

自己の競争者との取引等の制限

 ガイドラインが指摘する「自己の競争者との取引等の制限」とは、たとえば、事業者が、マーケティングの一環として、取引先事業者に対し、自己の競争者との取引を禁止・制限する、自社商品のみの取扱いを義務付ける、競争関係にある商品(以下「競争品」といいます)の取扱いを禁止・制限する、取引先事業者の取扱能力の限度に近い販売数量の義務付けを行う等、競争者との取引や競争品の取扱いを制限するような場合をいいます。

原則違法となる場合

 ①市場における有力な事業者が、②取引先事業者に対して自己の競争者との取引や競争品の取扱いを制限し、③これによって新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合(市場閉鎖的効果を生じる場合)には、不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定 2項〔その他の取引拒絶〕、11項〔排他条件付取引〕または12項〔拘束条件付取引〕)。

 「市場閉鎖的効果を生じる場合」に当たるか否かは、次の事項を総合的に考慮して判断されます。

市場閉鎖的効果を生じるかどうかの判断基準
  1. ブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
  2. ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)
  3. 事業者の市場における地位(市場シェア、順位、ブランド力等)
  4. 取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
  5. 取引先事業者の数および市場における地位

例外1:市場におけるシェアが20%以下

 「市場における有力な事業者」とは、市場閉鎖的効果が起こり得る場合を想定して、競争関係にある商品の市場におけるシェアが20%を超えることが一応の目安となるとされています。
 言いかえれば、市場におけるシェアが20%以下である事業者は、取引先事業者に対して自己の競争者との取引や競争品の取扱いを制限する場合であっても、通常、公正な競争を阻害するおそれはなく、違法とはならないとされています。

例外2:正当と認められる理由がある場合

 以下の場合には、正当と認められる理由があるとして、独禁法上違法とはならないとされています。

  • 完成品メーカーが部品メーカーに原材料を支給して部品を製造している場合に、その原材料を使用して製造した部品を自己にのみ販売させること
  • 完成品メーカーが部品メーカーに対し、ノウハウを供与して部品を製造させている場合で、そのノウハウの秘密を保持し、または流用を防止させるために必要と認められるときに自己にのみ販売させること

販売地域に関する制限

 事業者が販売店の営業地域をテリトリー制によって制限することはよくあるかと思いますが、これを「販売地域に関する制限」といいます。流通・取引慣行ガイドラインでは、次の制限が例示されています。

責任地域制 一定の地域を主たる責任地域として定め、当該地域内において、積極的な販売活動を行うことを義務付けること
販売拠点制 店舗等の販売拠点の設置場所を一定地域内に限定したり、販売拠点の設置場所を指定すること
厳格な地域制限 一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること
地域外顧客への受動的販売の制限 一定の地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること

責任地域制、販売拠点制

 事業者が、商品の効率的な販売拠点の構築やアフターサービス体制の確保等のため、流通業者に対して責任地域制や販売拠点制を採ることは、厳格な地域制限または地域外顧客への受動的販売の制限に該当しない限り、違法とはならないとされています。

厳格な地域制限

 市場における有力な事業者が、流通業者に対し厳格な地域制限を行い、これによって価格維持効果が生じる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となります(一般指定12項〔拘束条件付取引〕)。

地域外顧客への受動的販売の制限

 事業者が流通業者に対し地域外顧客への受動的販売の制限を行い、これによって価格維持効果が生じる場合にも、不公正な取引方法に該当し、違法となります(一般指定12項〔拘束条件付取引〕)。なお、この類型においては、地域外の顧客からの求めに応じた販売をも制限している分、ブランド内競争を制限する効果が大きいため、他の類型と異なり、規制主体が「市場における有力な事業者」に限定されていません(市場におけるシェアが20%以下であっても違法となる可能性があります)。

価格維持効果が生じる場合とは

 「価格維持効果が生じる場合」とは、非価格制限行為により、当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ、当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し、当該商品の価格を維持しまたは引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいい、前記の「市場閉鎖的効果を生じるか否かを判断する際の判断基準」に従って判断されます。

当該商品の価格が維持されるおそれがある場合の判断基準
  1. ブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
  2. ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者等の業態等)
  3. 事業者の市場における地位(市場シェア、順位、ブランド力等)
  4. 取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
  5. 取引先事業者の数および市場における地位

流通業者の取引先に関する制限

流通業者の取引先に関する制限の例

 流通・取引慣行ガイドラインでは、次の3類型が挙げられています。

帳合取引の義務付け 事業者が卸売業者に対して、その販売先である小売業者を特定させ、小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること
仲間取引の禁止 事業者が流通業者に対して、商品の横流しをしないよう指示すること
安売り業者への販売禁止 事業者が卸売業者に対して、安売りを行う小売業者への販売を禁止すること

帳合取引の義務付け

 帳合取引の義務付けを行い、これによって価格維持効果が生じる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定12項〔拘束条件付取引〕)。帳合取引の義務付けは、これが行われると、義務づけられた卸売業者は、他の卸売業者の帳合先となっている小売業者から取引の申出があっても、その申出に応じてはならないこととなりますので、前記の「地域外顧客への受動的販売の制限」と同様の行為といえます。

仲間取引の禁止

 仲間取引の禁止は、取引の基本となる取引先の選定に制限を課すものであり、販売段階での競争制限に結びつく可能性があることから、これによって価格維持効果が生じる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定12項〔拘束条件付取引〕)。

安売り業者への販売禁止

 事業者が卸売業者に対して安売りを行うことを理由に小売業者へ販売しないようにさせたり、事業者が従来から直接取引している流通業者に対して安売りを行うことを理由に出荷停止を行ったりすることは、前記の「再販売価格維持行為」に準じ、通常、価格競争を阻害するおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定2項〔その他の取引拒絶〕、12項〔拘束条件付取引〕)。

選択的流通について

 事業者が自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し、この基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合、当該流通業者に対し、自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止することがあります。これを「選択的流通」といいます。
 このような「選択的流通」については、2015年の流通・取引慣行ガイドラインの改正により考え方が明確化され、①流通業者に関して設定される基準が、商品の品質保持、適切な使用の確保等、消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、②他の流通業者に対しても同等の基準が適用される場合には、通常、独禁法上の問題とはならないとされています。

小売業者の販売方法に関する制限

 事業者の小売業者に対する販売方法の制限として、次のような態様が挙げられます。

  1. 商品の説明販売を指示すること
  2. 商品の宅配を指示すること
  3. 商品の品質管理の条件を指示すること
  4. 自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示すること

適法となる場合

 事業者が小売業者に対して、上記のような態様で販売方法を制限することは、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、①当該商品の適切な販売のためのそれなりの合理的な理由が認められ、かつ、②他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、それ自体は独禁法上問題となるものでないとされています。

違法となる場合

 小売業者の販売方法に関する制限を手段として、事業者が小売業者に対して、販売価格、競争品の取扱い、販売地域、取引先等についての制限を行っている場合には、独禁法上違法となる可能性があり、前記の「再販売価格維持行為」から「流通業者の取引先に関する制限」の考え方に従って違法性の有無が判断されることとされています(独禁法2条9項4号〔再販売価格の拘束〕、一般指定11項〔排他条件付取引〕または12項〔拘束条件付取引〕)。

抱き合わせ販売

 複数の商品を組み合わせることにより、新たな価値を加えて取引の相手方に商品を提供することを「抱き合わせ販売」と言います。
 このような行為は、技術革新・販売促進の手法の一つとして、それ自体がただちに独禁法上問題となるものではないとされていますが、当該事業者のある商品(主たる商品)の市場における地位等によっては、主たる商品と併せて提供される他の商品(従たる商品)の市場における既存の競争者の事業活動を阻害したり、参入障壁を高めたりするような状況等をもたらす可能性があると指摘されています。

違法となる場合

 ある商品(主たる商品)の市場における有力な事業者が、取引の相手方に対し、当該商品の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることによって、従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となるとされています(一般指定10項〔抱き合わせ販売等〕)。

 「市場閉鎖効果が生じる場合」に当たるかどうかについては、前記の「自己の競争者との取引等の制限」の箇所で紹介した考え方に基づき判断されることになりますが、抱き合わせ販売を行う事業者の主たる商品の市場シェアが大きいほど、当該行為が長期間にわたるほど、対象とされる相手方の数が多いほど、そうでない場合と比較して、市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなります。また、従たる商品の市場における商品差別化が進んでいない場合には、そうでない場合と比較して、当該事業者の従たる商品が購入されることにより競争者の従たる商品が購入されなくなるおそれが高く、市場閉鎖効果が生じる可能性が高くなります。

おわりに

 以上のとおり、流通・取引慣行に関して独禁法上問題となり得る行為を見てきましたが、自社の取引行為が独禁法に違反していないか、違反のおそれがないか、見直してみてはいかがでしょうか。公取委の考え方は、ガイドラインのほか、毎年度公表される相談事例集や、電話・来庁による相談でも把握することができますので、これらも活用されることをお勧めします。

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