最新判例による税務コンプライアンス

第5回 節税目的の養子縁組は無効となるのか?

税務

目次

  1. 節税目的の養子縁組は無効ではないとされた事例
    1. 節税目的で利用される養子縁組
    2. 節税目的の場合でも養子縁組は有効か?
  2. 控訴審は養子縁組をする意思を否定
    1. 祖父の孫が養子になった事例
    2. 最高裁は控訴審の判断を覆した
  3. 最高裁は養子縁組をする意思を認める
    1. 節税の動機と養子縁組をする意思とは併存可能
    2. 養子縁組をする意思が認められない場合
  4. これからの税務コンプライアンス
    1. 養子縁組が相続税の負担を不当に減少させる場合
    2. 養子縁組が無用の相続争いを招かないように留意すべき

節税目的の養子縁組は無効ではないとされた事例

節税目的で利用される養子縁組

 養子縁組とは、血のつながりではなく、お互いの意思によって親子関係を成立させることをいいます。養子縁組はさまざまな目的によりなされますが、相続税対策として利用されることもあります

 たとえば、相続税を計算する場合、一般に,被相続人の遺産総額から、3,000万円+600万円×相続人数の合計額が控除されます(遺産に係る基礎控除額)。すなわち、被相続人の子が4人いれば、遺産総額から3,000万円+600万円×4=5,400万円が控除されます。養子の場合、他に実子がいれば養子のうち1人まで、実子がいなければ養子のうち2人までしか、ここにいう相続人に含まれないという制約はありますが、養子縁組をすると相続人数が増えるので、遺産総額から控除される金額が大きくなるという節税効果があります。

節税目的の場合でも養子縁組は有効か?

 もっとも、養子縁組は、人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないときは、無効となります(民法802条1号)。それでは、もっぱら節税目的で養子縁組をする場合は、有効な養子縁組となるでしょうか。本件(最高裁平成29年1月31日判決・裁時1669号43頁)では,まさにこの点が問題となりました。節税目的で利用されている養子縁組に影響を及ぼしうる判決として、注目されています。

【本件の構図】

控訴審は養子縁組をする意思を否定

祖父の孫が養子になった事例

 本件では、祖父に3人の実子(長男・長女・次女)がいました。また、長男には、祖父の孫にあたる子がいました。祖父は、長男夫婦や孫と共に訪れた税理士から、孫を祖父の養子とした場合の相続税の節税効果の説明を受けました。その後、養子となる孫の親権者である長男夫婦と養親となる祖父が、それぞれ署名押印して養子縁組届を作成し、区役所に提出しました。

 これに対し、長女と次女は、この養子縁組は縁組をする意思を欠くものであると主張して、その無効確認を求めました。裁判では、もっぱら節税目的のために養子縁組をした場合、当事者間に縁組をする意思がないといえるかが争点となりました。

最高裁は控訴審の判断を覆した

 この点について、控訴審(東京高裁平成28年2月3日判決)は、この養子縁組はもっぱら相続税の節税のためにされたものであると指摘しました。そして、そのような場合は当事者間に縁組をする意思がないので、養子縁組は無効と判示しました。

 これに対し最高裁は、もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、ただちに当該養子縁組について当事者間に縁組をする意思がないとすることはできないと指摘しました。そして、本件においては、養子縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はないとし、控訴審の判断を覆しました。

最高裁は養子縁組をする意思を認める

節税の動機と養子縁組をする意思とは併存可能

 最高裁は、その理由を次のように説明しています。すなわち、養子縁組は嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となります。他方、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生しうるものです。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と養子縁組をする意思とは、併存しうるものです。

 このように、最高裁は、養子縁組の動機と養子縁組の意思とを区別し、養子縁組の動機が節税目的であることは、養子縁組の意思を否定するものではないと判断したといえるでしょう。

養子縁組をする意思が認められない場合

 なお、最高裁は、本件の事実関係の下では養子縁組をする意思がないとはいえないと結論づけましたが、養子縁組の意思の有無は、事実認定の問題です。たとえば、養親となる者が認知症を患っており意思能力が著しく減退しているような場合には、養子縁組をする意思が認められず、養子縁組は無効となりうることに留意が必要です(東京高裁平成21年8月6日判決・判タ1311号241頁など)。

これからの税務コンプライアンス

養子縁組が相続税の負担を不当に減少させる場合

 最高裁は、節税目的の養子縁組も無効ではないと判示しただけであり、養子縁組によって節税効果が発生するかどうかについては何ら言及していません。

 この点について、相続税法63条は、遺産に係る基礎控除額を算出する際に養子を相続人の数に算入することが相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、養子を相続人の数に算入しないで相続税額を計算できると定めています。

 相続税の負担を不当に減少させる場合かどうかは、養子縁組に至った経緯、養子縁組後の生活状態、相続開始後の遺産分割の状況などを総合的に勘案して判断することになりますが、養子縁組の動機がもっぱら節税目的であるような場合は、この規定の適用により節税効果が発生しない可能性があることに留意すべきです。

養子縁組が無用の相続争いを招かないように留意すべき

 さらに、養子縁組をすると、養子は養親の相続人となるので、実子の相続分が減少します。このため、影響を受ける実子との間で相続争いが生じる可能性があります。実際、本件も、養子縁組後に養子と実子との間で相続争いが生じた事例でした。もし節税も念頭に置いた養子縁組を検討する場合には、無用の相続争いを招かないように、他の実子の意思を事前に十分に確認しておくべきでしょう。

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