法務部に必要な税務に関する基礎知識

第4回 組織再編税制の基礎と注意すべき否認規定

税務

目次

  1. 組織再編税制の概要
    1. 組織再編成にかかる法人税法の基本的な考え方
    2. 組織再編税制の定め
    3. 組織再編税制の対象
    4. 税制適格要件
  2. 組織再編成にかかる否認規定

組織再編税制の概要

組織再編成にかかる法人税法の基本的な考え方

 法人税法では、資産を移転する際にその含み益や含み損を譲渡損益として計上することが原則となっています。これは合併や会社分割などの組織再編成に伴う資産の移転でも同様であり、結果として資産は時価で承継されることになります。

 株式交換や株式移転のように他の会社の全部の株式を取得する組織再編成は、完全子会社の資産の移転は伴わないものの、完全親会社が株式保有を通じて完全子会社を取得するという点において合併と同様の経済的効果が認められることから、完全子会社の保有資産の時価評価が必要とされています。

 このほか、税務上の赤字である繰越欠損金は、それが発生した法人の所得から控除されるものであり、原則として合併などの組織再編成によって承継できないとされています。

組織再編税制の定め

 法人税法における組織再編成にかかる課税上の原則的な取扱いは上記のとおりですが、一方で、一定の要件(「税制適格要件」といいます)を満たす組織再編成(「適格組織再編成」といいます)については、経済的な実態に即した課税を行うべく、例外的な取り扱いを定めることによって、譲渡損益などの繰り延べ(下記(1)、(2))や繰越欠損金の引き継ぎ(下記(3))などを認めています。

(1)譲渡損益の取扱い

 法人がその保有する資産を移転する場合、原則として移転した資産の時価と帳簿価額の差額(含み損益)が譲渡損益として計上されます。しかしながら、組織再編成の実態に照らして移転する資産に対する支配が継続していると認められる場合には、移転する資産がその帳簿価額のまま引き継がれ、譲渡損益の計上が繰り延べられることになります

(2)完全子会社での時価評価

 株式交換等(株式併合などいわゆるスクイーズ・アウトの手法も含まれます)や株式移転は、完全親会社が株式保有を通じて完全子会社を取得したといえることから、合併や会社分割などの他の組織再編成による資産の取得との整合性を担保するため、法人税法は、株式交換等や株式移転の完全子会社の資産を時価評価して評価損益を計上することとしています。しかしながら、この点に関しても、適格組織再編成については、経済的実態に照らして評価損益を計上しないことになっています

(3)繰越欠損金の承継

 組織再編成による繰越欠損金の承継は認められないのが原則ですが、適格組織再編成となる合併では、一定の制限はあるものの被合併法人の繰越欠損金の承継が認められています

【組織再編成の契約当事者の課税関係の取扱い】

組織再編成の態様(例) 原則 例外(適格組織再編成)
合併
  • 移転した資産の時価と帳簿価額の差額(含み損益)を譲渡損益として計上する
  • 繰越欠損金の承継は認められない
  • 移転する資産がその帳簿価額のまま引き継がれ、譲渡損益の計上が繰り延べられる
  • 一定の制限はあるものの、被合併法人の繰越欠損金の承継は認められる
会社分割
  • 移転する資産がその帳簿価額のまま引き継がれ、譲渡損益の計上が繰り延べられる
  • 繰越欠損金の承継は認められない
株式交換等・株式移転
  • 完全子会社の資産を時価評価して評価損益を計上する
  • 繰越欠損金の承継は認められない
  • 評価損益を計上しない
  • 繰越欠損金の承継は認められない

 組織再編成の契約当事者の課税関係の取扱いのほか、一定の要件を満たすことにより株主の課税関係も変わります。具体的には、合併や株式交換など株主に組織再編成の対価が交付される場合、その対価の種類(合併法人等の株式のみか否か)や税制適格要件を満たすか否かによって、被合併法人等の株式にかかる譲渡損益の繰り延べやみなし配当 1 の有無が異なってきます。

組織再編税制の対象

 組織再編税制は、合併、会社分割、株式交換および株式移転といった一般的に「組織再編」と言われる行為のみならず、これらと同様の経済的効果が生ずる行為についても同様の課税関係となるよう、下記の行為も対象としています。

  • 現物出資
  • 現物分配(金銭以外の資産を交付する剰余金の配当や解散による残余財産の分配など)
  • 株式分配(剰余金の配当または利益の配当にかかる現物分配のうち完全子会社株式の全部を移転するもの)
  • 完全子会社化の手段となる全部取得条項付種類株式にかかる取得決議
  • 株式併合および株式売渡請求にかかる承認

税制適格要件

 適格組織再編成となる税制適格要件は、大きく①企業グループ内の組織再編成と②共同事業を行う場合の組織再編成に区分されます。ただし、分割の対価が分割会社の株主に交付される会社分割は、③特定の事業部門または子会社を切り出し、独立会社とする場合も税制適格要件を満たします。株式分配については上記③のみが税制適格要件となります。
 以下では合併の税制適格要件について説明します。

企業グループ内の組織再編成 共同事業を行うための組織再編成
完全支配関係
(持株比率100%)
支配関係
(持株比率50%超100%未満)
  1. 金銭等不交付要件
  1. 金銭等不交付要件
  2. 従業者引継要件
  3. 事業継続要件
  1. 金銭等不交付要件
  2. 従業者引継要件
  3. 事業継続要件
  4. 事業関連性要件
  5. 事業規模要件または特定役員引継要件
  6. 株式継続保有要件

(1)企業グループ内の組織再編成(合併の場合)

 組織再編成の実態や移転する資産に対する支配の継続の観点から、一定の要件を満たす企業グループ内の合併では、譲渡損益の計上が繰り延べられるとともに、繰越欠損金の承継が認められています。
 この場合の税制適格要件は、合併法人と被合併法人が経済的に完全に一体と考えられる完全支配関係(持株比率100%)下の合併と、完全に一体とまでは認められない支配関係(持株比率が50%超100%未満)下の合併で異なっています。

 具体的には、完全支配関係下での合併は、①被合併法人の株主に合併法人の株式以外が交付されないこと(金銭等不交付要件)のみが税制適格要件となります。一方、支配関係下での合併では、①金銭等不交付要件に加えて、②被合併法人の合併直前の従業者のおおむね80%以上が合併法人の業務に従事することが見込まれていること(従業者引継要件)、および③被合併法人の主要な事業が合併法人において引き続き行われることが見込まれていること(事業継続要件)が税制適格要件とされています。

(2)共同事業を行うための組織再編成(合併の場合)

 共同で事業を行うための合併についても、移転の対価として取得された株式の継続保有等が認められる場合には、移転した資産に対する支配が継続しているものとして譲渡損益の計上が繰り延べられるとともに、繰越欠損金の承継が認められています。

 この場合の税制適格要件は、上記(1)の①から③に相当する要件に加えて、④被合併法人の主要な事業のいずれかが合併法人の事業のいずれかと相互に関連するものであること(事業関連性要件)、⑤合併法人と被合併法人の売上金額、従業者数等の規模の割合がおおむね5倍を超えないこと(事業規模要件)または被合併法人のいずれかの特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役もしくは常務取締役またはこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者)と合併法人のいずれかの特定役員が合併後の合併法人の特定役員になることが見込まれていること(特定役員引継要件)、および⑥被合併法人の発行済株式の50%超を保有する企業グループ内の株主がその交付を受けた合併法人の株式の全部を継続して保有することが見込まれていること(株式継続保有要件)とされています。

組織再編成にかかる否認規定

 法人税法では、適格組織再編成となる場合であっても、課税上の弊害を避けるため、個別的な否認規定を設けることで、含み損がある資産の譲渡損失や繰越欠損金の承継などを一定程度制限しています。しかしながら、組織再編成の形態や方法は、複雑かつ多様であり、資産の売買取引を組織再編成による資産の移転にするなど、租税回避の手段として濫用されるおそれがあるため、個別的な否認規定に加えて、組織再編成にかかる包括的な租税回避防止規定が設けられています。具体的には、組織再編成の当事者などの行為・計算で、これを容認した場合には、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものについて、税務署長がその行為・計算にかかわらず、その認めるところにより法人税額等を計算することができる旨の組織再編成にかかる行為・計算の否認規定(法人税法132条の2)が定められています。

 この点、最高裁平成28年2月29日判決・民集70巻2号242頁は、以下のように判示しています。

否認の対象となる「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為または計算が組織再編税制にかかる各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいい、その濫用の有無の判断にあたっては、①当該法人の行為または計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為または計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうかなどの事情を考慮したうえで、当該行為または計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制にかかる各規定の本来の趣旨および目的から逸脱する態様でその適用を受けるものまたは免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

 組織再編成の手段・方法を決定するに際して税負担の多寡を考慮に入れることは当然のことですが、税負担の減少のみを目的とするような組織再編成は「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」として否認の対象となりえますので、組織再編成の手順や方法が不自然なものとなっていないか、税負担の減少以外の合理的な理由が認められるかなどを検討することが求められることに留意が必要です。


 次回は、法務の視点を交えた税務調査対応について解説を行う予定です。


  1. 剰余金の配当ではないものでも法人税法や所得税法では剰余金の配当と同様の課税関係として扱われるもの ↩︎

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