法務部に必要な税務に関する基礎知識

第5回 税務調査への対応

税務

目次

  1. 税務調査とは
    1. 税務調査手続の流れ
    2. 税務調査の根拠と範囲
  2. 税務調査対応と取締役の責任
    1. 法務の視点を交えた税務調査対応の重要性
    2. 税務調査対応と取締役の善管注意義務

税務調査とは

税務調査手続の流れ

 税務調査とは、申告内容が適正であるか否かについて、国税局や税務署の職員が納税者に対して質問への回答や資料の提出を求めるなどして確認し、申告内容に誤りが認められた場合にその是正を求める一連の手続をいいます。
 税務調査の一連の手続は、国税通則法に基づき、大要、以下の流れにしたがって実施されます。

税務調査手続の流れ 出典:国税庁「税務手続について〜近年の国税通則法等の改正も踏まえて〜」(2016年4月)をもとに筆者作成

出典:国税庁「税務手続について〜近年の国税通則法等の改正も踏まえて〜」(2016年4月)をもとに筆者作成
手続 内容
①事前通知 原則として、納税者に対して、調査の開始日時・開始場所・調査対象税目・調査対象期間などが事前に通知されます(国税通則法74条の9)。
②身分証明書の提示等 調査担当者は、身分証明書と質問検査章を携行しなければならず、納税者から請求があった場合はこれらを提示しなければなりません(国税通則法74条の13)。
③質問検査権の行使 調査担当者は、納税者または納税者の取引先に質問、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、または当該物件の提示もしくは提出を求めることができます(国税通則法74条の2~74条の6)。
④帳簿書類の預かり 調査担当者は、税務調査において必要がある場合には、納税者の承諾を得たうえで、提出された帳簿書類などを留め置くことができます(国税通則法74条の7)。
⑤調査結果の内容説明と修正申告の勧奨 税務調査において、申告内容に誤りが認められた場合、調査担当者は、調査結果の内容(誤りの内容、金額、理由)を説明し、修正申告を勧奨します(国税通則法74条の11)。
⑥更正または決定 納税者が修正申告の勧奨に応じない場合、税務署長は更正または決定を行い、更正または決定の通知書を送付します(国税通則法24条、25条)。
⑦更正または決定をすべきと認められない場合の通知 税務調査の結果、申告内容に誤りが認められない場合、税務署長はその旨を書面により通知します(国税通則法74条の11)。

税務調査の根拠と範囲

 国税当局は、税務調査において、質問検査権の行使として、納税者(役員、従業員を含む)やその取引先に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、またはその物件の提示、提出を求めることによって、事実認定のための証拠資料の収集を行うことが認められています(国税通則法74条の2~74条の6)。
 質問検査権の行使は、納税者の意思に反して直接強制できないという意味では「任意調査」といえます。ただし、正当な理由なく調査担当者の調査を拒絶し、また、虚偽の回答を行うことなどにより調査を妨害した場合には罰則の適用があるため(国税通則法128条)、結果的に納税者は質問や資料提供の依頼などの調査手続を受忍する義務を負うことになります。

 税務調査手続に関して、しばしば国税当局と納税者との間で見解の相違が生じることがあります。質問や資料提供の要請が広範にわたる場合などにおいて、納税者が国税当局の依頼にどこまで応じなければならないのかという点は特に問題となります。
 この点、質問検査権の行使は納税者に一定の義務を課すものであることから、その行使は、諸般の具体的な事情に鑑みて、客観的に調査の必要があると判断される場合にのみ認められると解されており(最高裁昭和48年7月10日決定・刑集27巻7号1205頁)、調査担当者の自由な裁量に任せられているわけではありません。
 しかしながら、具体的な調査方法は調査担当者の合理的な選択に委ねられていることから(前掲・最高裁決定)、国税当局は調査の必要性を広く捉えようとする傾向が認められます。

 客観的に調査の必要がないことを国税当局に説明することは難しい場合が多いと思われます。しかし、税務調査はその公益的必要性と納税者の私的利益との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内であって、かつ、納税者の理解と協力を得て実施されるものです(国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達(平成24年9月12日制定、平成30年3月9日最終改正))。したがって、国税当局が求める調査手続の範囲・対象に疑義がある場合には、国税当局と充分に議論を尽くすべきといえます。

税務調査対応と取締役の責任

法務の視点を交えた税務調査対応の重要性

 税務調査対応は、基本的に経理部・財務部が中心となって担うものではありますが、全社的なコンプライアンス上の問題として法務部門も積極的に関与していくことが求められます。なぜなら、税務調査によって申告漏れや所得隠しの事実が明らかとなれば、追加的な納税や加算税の賦課といった財産的な損失の発生に留まらず、企業体質そのものに問題があるのではないかというレピュテーショナルリスクを招くおそれがあるからです。

 特に附帯税として課される重加算税は、納税者がその国税の課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を故意に隠蔽・仮装していることを賦課要件とするものであって(国税通則法68条)、「申告漏れ」よりも悪質な印象を伴う「所得隠し」として報道されることになります。納税者は、重加算税の指摘を争わずに課税処分を受け入れることが、取締役の善管注意義務(会社法330条、民法644条)に違反しないかという観点から慎重に検討する必要があります。

税務調査対応と取締役の善管注意義務

 取締役は、株主利益の最大化を目的として善管注意義務を負っています。国税当局から申告内容に誤りがあると指摘された場合に、それに従うか否かを判断するに際しては、いずれの対応が株主利益の最大化に資するかという観点から検討することになります。

 更正処分や重加算税の賦課決定処分などの取消しを求めて争う不服申立てや取消訴訟は、実質的には債務不存在確認を求める争訟手続と言い得ます。争いのある債務の存在を認めて弁済するか否かは、会社の事業活動に関する決定の場面であることから、かかる取締役の意思決定が善管注意義務に反するものか否かの判断には、いわゆる「経営判断の原則」の適用があると考えられます。
 そのため、国税当局が指摘する税務処理の当否に見解の相違がある場合には、取締役は、指摘を受け入れるかどうかの判断の前提となる事実関係を正確に調査して認識したうえで、いずれの選択が株主利益の最大化に繋がるかという観点から意思決定すべきといえます。

 したがって、国税当局から更正処分や重加算税などの附帯税の賦課決定処分を行う旨の意向が示された場合、以下の点を検討する必要があります。

  • 事実関係に照らして法的な観点から、処分対象となる課税要件が満たされているか。
  • 取締役の意思決定が、不服申立て・訴訟により争った場合に納税者の主張が認められる可能性や、それらの係争に要するコストなどを比較考慮してなされたものか。
  • 上記の意思決定の過程、内容に著しく不合理な点がないか。

 綿密な法令解釈や事実認定が求められる課税要件の充足の判断はもとより、取締役の意思決定が善管注意義務に照らして疑義がないかという検証についても、法務部門がよく関与するところです。この観点からも法務部門が経理部・財務部と協働して税務調査対応にあたる意義は大きいといえます。


 全5回にわたって、法務担当者にとって必要と思われる税務の基本的な知識や考え方を取り上げてきました。本連載が税務に関連する業務に取り組まれる際の一助となれば幸いです。

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