法務部に必要な税務に関する基礎知識
第3回 印紙税法の基本と課否判定が問題となる事例
税務
シリーズ一覧全5件
目次
印紙税法の概要
課税文書とは
印紙税は、印紙税法別表第一の課税物件表に掲げられている下記の20種類の文書によって課税事項を証明する目的で作成されたもののうち、非課税文書に該当しない課税文書に課税されます(印紙税法2条)。
(※)詳細は国税庁ウェブサイトなどをご参照ください。
番号 | 課税物件名 | 番号 | 課税物件名 |
---|---|---|---|
1 |
|
11 | 信用状 |
2 | 請負に関する契約書 | 12 | 信託行為に関する契約書 |
3 | 約束手形または為替手形 | 13 | 債務の保証に関する契約書 |
4 | 株券、出資証券もしくは社債券または投資信託、貸付信託、特定目的信託、もしくは受益証券発行信託の受益証券 | 14 | 金銭または有価証券の寄託に関する契約書 |
5 | 合併契約書または吸収分割契約書もしくは新設分割計画書 | 15 | 債権譲渡または債務引受けに関する契約書 |
6 | 定款 | 16 | 配当金領収証、配当金払込通知書 |
7 | 継続的取引の基本となる契約書 | 17 |
|
8 | 預金証書、貯金証書 | 18 | 預金通帳、貯金通帳、信託通帳、掛金通帳、保険料通帳 |
9 | 貨物引換証、倉庫証券、船荷証券 | 19 | 消費貸借通帳、請負通帳、有価証券の預り通帳、金銭の受取通帳などの通帳 |
10 | 保険証券 | 20 | 判取帳 |
そして「非課税文書」とは以下の文書をいいます(同法5条)。
- 課税物件表の非課税物件欄に規定される文書
例:記載された受取金額が5万円未満の受取書 - 国、地方公共団体または印紙税法別表第二に掲げる者が作成した文書
例:国立大学法人、信用保証協会、株式会社日本政策金融公庫 - 印紙税法別表第三の上欄に掲げる文書で、同表の下欄に掲げる者が作成した文書
例:日本銀行が作成する国庫金または地方公共団体の公金の取扱いに関する文書
課税文書に該当するか否かの一般的な考え方
契約書が課税文書に該当するか否かを判断する際の一般的な留意点をいくつかご説明します。
(1)「契約書」の意義
印紙税法が課税文書として定める「契約書」は、当事者間で契約の成立、更改または内容の変更もしくは補充の事実を証明する目的で作成される文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書や当事者の全部または一部の署名を欠く文書であっても、当事者間の了解または商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものも含まれます(印紙税法・課税物件表の適用に関する通則5)。
したがって、一方当事者から相手方当事者に差し入れる差入方式の文書であってもその文書によって契約の成立が証明されるものであれば課税文書に該当することになります。
(2)課税事項が記載されているか否かの判断
印紙税の課税の可否は、契約書の全体的な評価によって決められるのではなく、当該契約書に記載されている個々の事項のすべてについて検討し、その中に課税事項が一つでも含まれていれば課税文書となります。このとき、課税事項が記載されているかの判断は、当該契約書に表わされている事項に基づいて判断することとなり、その契約書に記載されていない事項は、原則として判断の要素にはなりません。
そのため、たとえば、「金100万円を受領しました」と記載された文書があるときに、文書に表れない当事者間のやり取りから貸付けの意思で授受されたものと判断されたとしても、当該文書に記載されている事項が100万円を受領したということのみであれば、「消費貸借に関する契約書」(第1号文書)ではなく、「金銭の受取書」(第17号文書)として扱われることになります。
(3)予約契約書・仮契約書の取扱い
印紙税法では、契約を将来成立させることを約する「予約」であっても本契約と同様に扱われることになります(印紙税法・課税物件表の適用に関する通則5)。
また、後日、正式に文書を作成されることが予定されており、一時的に作成する仮の契約書であっても、当該文書が課税事項を証明する目的で作成されている場合には課税文書に該当することになります。
課税標準および税率
印紙税の課税標準および税率は、課税物件表に掲げられる20種類の文書ごとに定められており、それぞれ固定額の定額税率(例:1通につき◯円)または一定額ごとに税率が定められた階級定額税率(例:契約金額が◯円以下のもの ◯円、契約金額が◯円を超え◯円以下のもの ◯円)が設けられています(印紙税法別表第一の課税物件表。詳細は国税庁ウェブサイトなどをご参照ください)。
印紙税の納付が漏れていた場合の取扱い
課税文書を作成したにもかかわらず、印紙が貼られていなかった場合には、納めなかった印紙税額の3倍の過怠税が課税されます(印紙税法20条1項)。過怠税は、印紙税の納付漏れという事実があれば課されるものであり、故意・過失があることは要件となっていませんので、印紙税の課否判断は慎重に行う必要があります。
もっとも、課税文書に対する印紙の貼付が漏れていることに気付き、印紙税を納付していないことを所轄の税務署長に申し出た場合には、過怠税は印紙税額の1.1倍に軽減されます(同条2項)。ただし、当該申出は、印紙税についての調査があったことによりその課税文書に過怠税の賦課決定があるべきことを予知してなされたものである場合には過怠税の軽減措置は適用されません。
印紙税の課否判定が問題となる事例の留意点
混合契約の「請負に関する契約書」(第2号文書)の該当性
企業の取引では、民法上の典型契約である請負契約と委任契約が混在した混合契約と評価されるものが多くあります。印紙税法が定める「請負」は民法上の請負と同じ意義を有しますので、そのような取引の契約書の印紙税の課否判定も民法上の解釈に従うこととなります。
しかしながら、印紙税法は、一つの文書に2以上の印紙税法別表第一の課税物件表記載の各号に掲げる事項が併記または混合して記載されている場合にはそれぞれの号に該当する文書に該当するとされていることから(印紙税法・課税物件表の適用に関する通則2)、請負とその他の事項が混然一体となって記載された契約書であっても「請負に関する契約書」(第2号文書)に該当することになります。したがって、委任契約に近い混合契約であっても印紙税法上は「請負に関する契約書」に該当すると判断されることがありますので注意が必要です。
リベートに関する契約書
いわゆるリベートとは、売買における継続的な取引について、メーカーや卸売業者が流通経路内での協力を得て販売を促すことを目的として、メーカーなどがその販売先に対して一定の基準に従って算定される金額を支払う取引をいいます。
このリベートの算定方法や支払時期を定める契約書は、基本的には、「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)の要件の一つである「2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法、再販売価格のうちの1以上の事項を定める契約であること」(印紙税法施行令26条1号)を満たさないため、「継続的取引の基本となる契約書」にあたらず、また、その他の課税文書にも該当しません。
しかしながら、リベートに関する契約書のなかには、「仕入予定額」などが記載され、売買契約の目的物の取扱数量や取扱金額が記載されていると判断し得るものもありますので、課税文書に該当するか否かの判断では各条項を慎重に確認する必要があります。
外国企業と取り交わす契約書
印紙税法の適用地域は日本国内に限られますので、課税文書の作成が国外で行われる場合には、その契約書に基づく権利の行使が国内で行われる場合や文書の保存が国内で行われるとしても、印紙税の課税関係は生じません(印紙税法基本通達49条)。
そのため、外国企業と取り交わす契約書は、その作成の場所が日本国内であるか否かを判断する必要があります。具体的には、当事者の意思の合致を証明したとき(契約書への最終の署名、押印したときなど)を文書の作成時として判断することになります。
次回は、企業組織再編に関する税務の解説を行う予定です。
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