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第1回 ニデック会計不正・品質不正の原因と教訓 調査報告書を解説

危機管理・内部統制

目次

  1. 事案の概要
    1. 会計不正
    2. 品質不正
  2. 事案の原因
    1. 会計不正・品質不正共通の原因
    2. 品質不正の原因の特異性
  3. 本件から学ぶ不正防止のポイント
    1. 適切な業績目標の設定と管理
    2. 急成長企業における管理部門の強化
    3. 「コンプライアンス」という言葉に何を込めるか
    4. 社外役員の質の向上

 日本を代表する上場グローバルメーカーであるニデック株式会社では、2025年に会計不正が、2026年には品質不正が表面化し、それぞれ第三者委員会・調査委員会による調査報告書が公表されました。2つの不正の共通原因が創業オーナー社長による過度な業績プレッシャーに求められるという点で、多くの企業の参考になると思われます。本稿では、ニデックの会計不正と品質不正の概要と発生原因を調査報告書に基づいて整理したうえで、企業が取り組むべき教訓を解説します。

※本連載では、近時注目を浴びた企業不祥事を取り上げ、企業が学ぶべきポイントを連載形式で解説していきます。

事案の概要

会計不正

 2025年6月に表面化した会計不正では、2026年4月に第三者委員会の調査報告書(最終報告) 1 が公表され、過年度決算訂正の規模は、当期利益で1,607億円とされ、のれんおよび固定資産の減損の検討対象は約2,500億円とされました。会計不正の主な手口は、固定資産の減損回避、費用の資産計上、棚卸資産の評価損の計上回避、引当金・負債の過少計上などです。

 2025年10月に東京証券取引所はニデックを特別注意銘柄に指定しました。

 2026年9月の決算発表では、2026年3月期決算で減損損失として約6,300億円を計上し、会計監査人は「意見不表明」としました。

 2026年10月に役員責任調査委員会の調査報告書が公表され、永守重信氏ら歴代社長5人を含む役員9人に損害賠償責任が認められました。ニデックは10月27日に同役員9人に対し損害賠償請求訴訟を提起することを決定した旨を開示しました。

品質不正

 2026年5月に表面化した品質不正では、同年9月に調査委員会の調査報告書が公表され2、品質不適切行為が844件、うち、重要品質事案(役員・拠点長の関与、海外の公的機関向け製品、法令・認証等の違反疑い、製品のリコール可能性、製品の安全性に影響を及ぼすリスクが高い)は60件、一般品質事案は784件でした。また、行為類型では4M変更違反(顧客の承認なき人(Man)・機械(Machine)・材料(Material)・方法(Method)の変更)が805件(95.4%)を占めました。

事案の原因

会計不正・品質不正共通の原因

 永守氏という創業オーナー社長が、日本を代表するグローバルメーカーにニデックを急成長させ、「名経営者」「カリスマ」と呼ばれるようになりました。しかし、企業規模が急拡大しすぎて、永守氏によるマイクロマネジメントでは追いつかなくなりました。

 にもかかわらず、永守氏が「3K(高収益、高成長、高株価)企業」を標榜し続けた結果、永守氏が投資家目線で決めた業績目標は、各事業本部や国内グループ会社の実力を大きく超える非現実的なものとなり、また永守氏の不興を買うことを恐れて不都合な情報が上がらない状態となった結果、近年の永守氏は事業の真の実力を把握できていないという状況が生まれました。そして、過度な業績プレッシャーに耐えかねた現場の多くで、無理な業績目標と現場の実力値との隙間を埋めようとして、多くの会計不正と品質不正が横行しました。

 調査報告書では、会計不正と品質不正の原因について、以下のように指摘しています。会計不正と品質不正の共通原因が、経営からの過度な業績プレッシャーに求められている点が、本件の顕著な特徴です。

会計不正の原因 品質不正の原因
  • ニデックグループの規模が拡大する中、永守氏において「ハンズオン」の経営を独断的に行うことには限界があった
  • 株価を意識した業績目標がトップダウンで設定され、それが事業本部や国内グループ会社の実力や事業環境と乖離しているにもかかわらず、その達成のために永守氏をはじめとするニデック本社の経営幹部から苛烈ともいえる強いプレッシャーが事業本部や国内グループ会社に対して日々かけられていた
  • グループの規模が拡大していく中で、永守氏への権限集中とマイクロマネジメントを基礎とする経営体制を維持し、グループの急速な規模拡大に見合う体制を整備しなかった
  • 事業の実力・実態に見合わない利益目標を設定し、短期的な業績目標の達成およびコスト低減を強く求め続けた

品質不正の原因の特異性

 会計不正の原因が過度な業績プレッシャーに求められることは、一般的です。しかし、品質不正の原因が過度な業績プレッシャーに求められることは、極めて稀といえます。

 メーカーの生産管理の指標としてQCD(品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery))が用いられる中で、納期を守るための品質不正が多く見られ、その手口は検査データの改ざん・ねつ造が一般的です。
 ところが、本件は、コストを下げるための品質不正であり、その手口も4M変更違反が95.4%を占め、検査データの改ざん・ねつ造はわずか2.6%でした。つまり、製造原価を下げて営業利益を上げるために、顧客の承認を得ることなく、製造工程における人(Man)・機械(Machine)・材料(Material)・方法(Method)を勝手に変更してしまうという稀な手口の品質不正が横行していたのです。

 この点について、品質不正の調査報告書は、以下のとおり描写しています3。

BU・拠点層において、業績目標の達成、コスト低減、納期遵守、供給継続等のプレッシャーの下、顧客合意等又は法令・認証等の遵守や品質保証プロセスの一部が業績目標達成の要請に劣後する状態であった。その結果、品質不適切行為等は、製造現場や品質保証部門の役職員にとって「(業績目標の達成やコスト低減のためには)仕方がない」「(この程度であれば)問題ない」と受け止められ、透明性の低下と相俟って業務の一環として反復・継続し、ときに後任者や移管先にも承継される状態が定着していた。

※上記引用中の「BU」は、調査報告書上「ビジネスユニット(Business Unit)」の略称です。

本件から学ぶ不正防止のポイント

適切な業績目標の設定と管理

 多くの企業では、経営が期初に業績目標を設定し、期中に業績の進捗管理を行っています。しかし、経営が事業の実力・実態に見合わない業績目標を期初に設定すれば、期中に未達になるのは必然であり、経営が未達を強く叱責すれば、現場は逃げ場を失い不正に走ってしまいます。

 そうならないためには、経営が事業の実力・実態をよく理解し、これに見合った業績目標を設定することです。また、期中に未達になったら、経営が一方的に叱責するのではなく、未達になった要因を現場とともに分析し、その対応策を協議し、必要に応じて経営資源を投入して現場を支援することが大事です。未達の原因を現場に押し付けるだけでは、責任ある経営とはいえません。

急成長企業における管理部門の強化

 ベンチャー企業やIPO準備中の企業では、事業が急成長して業容が拡大し、あるいは新規参入やM&Aで事業スパンが急拡大することがあり、リスク管理部門(第2線)の事業部門(第1線)に対する牽制・支援が追いつかなくなることがあります。
 これを放置しておくと、事業部門が取ってはいけないリスクを取ってしまう状況が生まれ、リスク管理が後手に回って、多くの過誤や不正が起きてしまいます。

 そうならないためには、事業の急拡大に追いつけるように、経営資源を投入してリスク管理部門も急速に強化し、プロアクティブに事業リスクをマネジメントしていくことが大事です。

「コンプライアンス」という言葉に何を込めるか

 会計不正の調査報告書の中に、ニデックの国内グループ会社幹部の次の肉声が紹介されています4。

永守氏ら経営陣は、「王道経理」、「コンプライアンス遵守」と繰り返し述べているが、同時に、不正を引き起こすような非常識な業績目標を設定し、それを絶対に達成するよう強いプレッシャーをかける。「自分は正しいことをしろと指示したが、不正をしたのはお前たちである。」と言っているのに等しく、「狡(ずる)い」と思う。

 この肉声は、業績重視・コンプライアンス軽視という統制環境の下で、現場の幹部や社員にとって「コンプライアンス」という言葉がどのように映っているかをリアルに表しています。現場の幹部や社員は、経営陣が「コンプライアンス」という言葉を、タテマエ(=自分を守る)で言っているのか、それともホンネ(=社員を守る)で言っているのかを、経営陣の一挙手一投足から敏感に嗅ぎとり、これに沿うように行動します。経営者は、「コンプライアンス」という言葉に何を込めるかを真剣に考える必要があります。

社外役員の質の向上

 会計不正の調査報告書では、社外役員の存在感が皆無に近かったと指摘されました。社外役員は量から質が問われる時代に入ったといわれています。
 ここで注目すべきは、コーポレートガバナンス・コードが2015年の初版から、以下のとおり述べている点です5。

取締役・監査役は、その役割・責務を実効的に果たすために、能動的に情報を入手すべきであり、必要に応じ、会社に対して追加の情報提供を求めるべきである。

 ニデックでは、業績予想の大幅未達が繰り返されており、また外部から招聘した社長が2人続けて退任するという、経営の異常な兆候が顕れていました。このときに社外役員が能動的に情報を入手し、異常の原因をしっかり究明していれば、今回明らかになった過度な業績プレッシャーという不正の原因にたどり着くことができ、第三者委員会の手を借りずとも取締役会が自浄作用を発揮して改善につなげることもできただろうと思います。
 今後は、社外役員が能動的に情報を入手して、企業価値の維持・向上に寄与しているかが、社外役員の「質」として厳しく問われることになると思います6。


  1. ニデック株式会社「第三者委員会の調査報告書(最終報告)の受領及び当社の対応に関するお知らせ」(2026年4月17日) ↩︎

  2. ニデック株式会社「調査報告書の公表及び当社の対応に関するお知らせ」(2026年9月4日) ↩︎

  3. 調査委員会「調査報告書(概要版)」(2026年9月2日)7頁 ↩︎

  4. 第三者委員会「調査報告書(公表版)」(2026年2月27日)89頁 ↩︎

  5. 株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(2026年7月21日)原則4-14(2) ↩︎

  6. より詳しい解説は、拙稿「企業不祥事の事例分析~ニデック会計不正問題」(月刊監査役2026年9月号)を参照 ↩︎

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