内部通報の対応実務FAQ

第3回 内部通報のヒアリングのやり方は?録音していい?Q&Aで解説

危機管理・内部統制
福田 政人弁護士 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 清原 善美弁護士 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

目次

  1. 内部通報における調査の目的と流れ
  2. 客観証拠の収集・分析とヒアリングに関する悩み
    1. Q 客観証拠と供述証拠の違いは何ですか。
    2. Q 客観証拠の収集・分析とヒアリング調査は、どちらを先に行ったほうがいいですか。
  3. ヒアリングの録音に関する悩み
    1. Q 録音することをヒアリング対象者に告知せずに録音してもいいですか。
    2. Q ヒアリングを録音する旨を告げたところ、対象者から難色を示されました。どのように説得すればいいですか。
    3. Q ヒアリング対象者から録音することについて了承が得られなかった場合、どう対応すればいいのでしょうか。
    4. Q 対象者から、私物レコーダーでヒアリングを録音したいと言われました。どう対応すべきですか。

 内部通報制度において、「いつ、どういった場合にヒアリング調査をすべきなのか」「ヒアリング対象者に録音拒否をされた場合はどうすればいいのか」など、内部通報を調査するフェーズで担当者が悩むケースは少なくありません。
 本記事では、内部通報のヒアリング調査に関して実務担当者が抱えがちな悩みについて、Q&A形式で解説します。

内部通報における調査の目的と流れ

 内部通報窓口に寄せられた通報に係る調査は、不正事実や是正が必要な事象(以下「不正事実等」といいます)の有無など会社側において確認すべき事象を早期に把握するとともに、その原因や背景事情を究明して有効な是正措置・再発防止策等を講じることを目的として行われます。
 迅速かつ適切な調査を実施するためには、平時から実効的な調査の勘所を押さえておく必要があります。

内部通報における調査の目的と流れ

 上図の「調査の実施」のフェーズで会社が行う調査の中でも重要なものとして、不正事実等に関係する資料などの客観証拠の収集・分析と、関係者に対するヒアリングが挙げられます。
 以下では、この2つを中心に、実務担当者から多く聞こえてくる悩みについて、現場で役立つ視点や思考法を解説します。

客観証拠の収集・分析とヒアリングに関する悩み

Q 客観証拠と供述証拠の違いは何ですか。

A
客観証拠はその存在や状態から事実を確認できる証拠資料(物、記録)であり、供述証拠は人の記憶や認識に基づいた言葉や文書(ヒアリングによって得られた説明内容)を指します。
大きな違いは、情報源が人か物かという点と、供述証拠には記憶や表現の誤りや虚偽が含まれるリスクがあり、その信用性を慎重に検討する必要がある点です。

(1)客観証拠

 「客観証拠」とは、供述証拠以外の物や記録、データなど、存在および状態から事実関係を確認できる証拠資料のことです。「非供述証拠」「物的証拠」「物証」などと呼ばれることもあります。
 議事録や社内保管資料、監視カメラ映像、録音データ、メッセージや日記など物の内容から事実関係について確認できるものだけでなく、物の存在や不存在自体が証拠になることもある点に留意が必要です。たとえば、保管義務がある資料が保管されていないケースでは、この「保管されていない」という不存在自体が保管義務違反の証拠になり得ます。

(2)供述証拠

 これと対比されるのが「供述証拠」です。人が体験した事実をその記憶に基づいて言葉や動作によって説明する証拠のことで、ヒアリングによって得られた説明内容が典型例です。
 この供述証拠は、内容がわかりやすい反面、正確でない内容が含まれることが珍しくない点に留意が必要です。すなわち、供述者が故意に虚偽の事実を説明する場合や、故意でなくても、物事を体験した段階で生じる誤解(知覚段階の誤り)、体験した事実を記憶する段階で生じる誤解(記憶段階の誤り)、記憶した内容を説明する段階で生じる誤解(表現・叙述段階の誤り)を含んだ情報を説明する場合もあるため、不正確な内容が含まれるリスクがどうしても生じてしまいます。そのため、供述の信用性を慎重に検討する必要がある点に留意が必要です。

Q 客観証拠の収集・分析とヒアリング調査は、どちらを先に行ったほうがいいですか。

A
理想的には、客観証拠の収集・分析を先行させたいところです。
ただし、どのような客観証拠が存在するのかわからないケースや、客観証拠の分析に専門的な知見が必要であるなど、客観証拠の収集・分析が難しいケースについては、ヒアリング調査を先行させたほうがスムーズに調査が進むこともあります。事案に応じて、どちらを先行させるか、あるいは並行して進めるかを検討する必要があります。

(1)客観証拠の収集・分析を先行したほうがいい場合

 客観証拠は、捏造などの例外的な事情がない限り、供述証拠にあるような知覚・記憶・表現・叙述段階での誤りや虚偽情報が混ざり込むおそれが小さいため、一般的に客観証拠には高い信用性が認められるものと考えられます。そのため、この客観証拠からうかがい知ることができる事実を「動かし難い事実」として把握し、この事実に軸足を置いて調査を進めるのが理想的と思われます。

 実際、「動かし難い事実」が多く把握できるケースの場合には、この事実に基づいた時系列表を作成して事案を的確に把握することができますし、関係者のヒアリングにおける説明内容が客観証拠と整合しているのかも判断しやすくなります。
 このように、ヒアリング調査に先立って客観証拠を収集・分析をしておくことが実効的なヒアリングに結びつくことも少なくありません。

 なお、関係者の供述内容が符合せず、「誰の供述が信用できるのか」と悩むケースも多いと思います。供述の信用性を検討するに際しては、客観証拠との整合性という観点があります。すなわち、関係者の説明内容が客観証拠と整合していれば、「動かし難い事実」と整合する供述であるため、信用性が高いと評価できます。また、記憶の忘却などの事情により正確な供述が得難い事例の場合、客観証拠の一部を伝えるなどして記憶喚起のきっかけをつくることで多くの情報が得られるケースもあります。
 ただし、正しい手続で客観証拠を確認しなければ、不正確な供述を誘導してしまうリスクがあります。客観証拠の内容を確認する際には、入念な準備が不可欠である点に留意が必要です。

(2)ヒアリング調査を先行あるいは並行したほうがいい場合

 調査の初期段階では、どのような客観証拠が存在するかわからないケースも少なくありません。その場合、まずは事案の詳細を知っている通報者や被害者などの関係者に対するヒアリングを先行させて、客観証拠の存在について質問しておくほうがスムーズに重要な客観証拠を発見できることもあります。
 また、次のように収集した客観証拠の意味内容を正確に把握するために、客観証拠の分析と並行して関係者のヒアリングを実施することが有用なケースもあります。
 事案の個別事情に応じて、どちらを先に行うのか、あるいは並行して実施するのかを検討し、柔軟に対応することが望ましいです。

客観的証拠の性質・状況 必要な対応ポイント 実施順序の推奨・留意点

① 会計帳簿など、専門知識がないと内容の理解が難しい証拠

証拠内容の正確な把握 専門的知見を有する人へのヒアリングを先行させたほうが、証拠の正確な理解にたどり着きやすい

② 日記やメモなど、作成者本人に解説してもらわなければ意味内容を正確に理解できない証拠

記載内容の正確な理解 作成者本人へのヒアリングが有効

③ メールやメッセージなど、関係者でなければ内容を正確に理解できない証拠

内容の正確な理解 送信者・受信者、CC受信者などの関係者へのヒアリングが有効

④ 客観証拠が捏造された疑いがある

事実関係の確認 作成者に対するヒアリングを先行させて作成経緯などを確認し、真正に作成されたと評価できるかを判断する必要がある

⑤ 客観証拠によって事案全体のごく一部しか把握できない場合

事実と事実の関連性の把握 事案をよく知る関係者に対するヒアリングをすることで、客観証拠で把握できた「点」を「線」で結び、全体像を把握することが有効

 監視カメラ映像のように、前提知識がなくても内容を確認すればある程度事情がわかる客観証拠であれば問題ありませんが、会計帳簿のように、専門知識がないと確認しても内容を理解することが難しい証拠もあります(上記①)。このような場合には、専門的知見を有する人のヒアリングを先行させたほうが証拠の正確な理解にたどり着きやすいことも多いです。
 また、ITに関する知識が必要となる事例においては、事前にITに詳しい者のヒアリングを実施して、あらかじめ最低限の知識を得ておくのがよいこともあります。

 次に、日記やメモのように、その記載内容について作成者本人に解説してもらわなければ意味内容を正確に理解できないケースもあります(上記②)。同様に、メールやメッセージなど他人に読んでもらうことを前提としたものであっても、メールの送信者・受信者、CCで受信した上司などの関係者でなければ内容を正確に理解することができないケースもあります(上記③)。
 さらに、客観証拠が捏造された疑いがあるようなケースでは、先にその作成者に対するヒアリングをして、作成経緯を確認するなどして真正に作成されたものであるかどうかを確認する必要もあります(上記④)。

 別の視点としては、問題言動をとらえた監視カメラ映像のように、その客観証拠のみで一連の事実関係を相当正確に把握できるものもありますが、実際は、客観証拠によって把握できるのは事案全体のごく一部のみであることが圧倒的多数です(上記⑤)。そのため、こうした客観証拠によって把握できた事実と事実の関連性を把握するために、事案をよく知る関係者にヒアリングをするのが有効なことも多いです。客観証拠によって把握できる「点」と「点」を、関係者のヒアリングによって「線」で結んでいくイメージです。

ヒアリングの録音に関する悩み

 ヒアリングにより得られる証拠(供述証拠)は、客観証拠の収集・分析と並んで不正に関する事実関係の解明や原因の分析等を行うための重要な情報となります。そのため、ヒアリングの内容を録音する(リモート会議システムを利用して実施する場合に録音録画する場合も含む)ルールを採用して、ヒアリング実施後に正確な供述内容を確認できるようにしている会社も多くあります。

 しかし、ヒアリングの録音に関しては、主にヒアリング対象者(通報者、被通報者、調査協力者を含むヒアリング対象者全般を指します)との関係で対応に困る場面にしばしば遭遇します。
 以下では、その中でも頻出と思われる4つのケースについて、考え方や対応を解説します。

Q 録音することをヒアリング対象者に告知せずに録音してもいいですか。

A
秘密録音はおすすめできません。
秘密録音を実施した場合、録音データの証拠能力が否定されてしまうリスクや、ヒアリング対象者の人格権・プライバシー侵害等を理由に不法行為となるリスクがあります。また、秘密裡に録音するという行為は、調査の適正性について疑義を生じさせることにつながりかねず、会社への不信感を招く危険性も含んでいます。

(1)秘密録音の違法性と証拠能力

 「秘密録音」とは、会話の当事者の一方が、相手方の同意や了解を得ずに、その会話を秘密裡に録音することをいいます。「無断録音」と呼ばれることもあります。

 一般的に、会社の調査等の対応として行われる秘密録音は、盗聴(他人の会話を秘密で録音すること)とは区別され、原則として違法とは評価し難いと考えられており、ヒアリングで秘密録音を行った場合、その秘密録音の証拠能力が直ちに否定されることにはなりません
 ただし、裁判例の判断基準に照らして証拠能力が否定される可能性がある点には注意が必要ですし、態様によっては不法行為となるリスクもゼロではありません 1。内部通報の調査との関係では、秘密録音の内容を事実認定の根拠として行った懲戒処分の効力を争われたり、不正に関与した者への責任追及等の裁判においては、秘密録音の内容を証拠とすることが認められるかといった形で問題(争い)になったりするケースがあります。

 民事訴訟における秘密録音の証拠能力(証拠として事実認定のために用いることができる適格)に関しては、裁判例や主な学説上、一定の制限があるという考え方は共通しているものの、現時点で画一的な基準が定まっているわけではなく、秘密録音の証拠能力は個別事情に応じて判断されている印象です。

 たとえば、従来の裁判例としては下記の①〜④、近時の裁判例としては⑤〜⑧などが挙げられます。

裁判例 概要

東京地裁昭和46年4月26日判決・判時641号81頁

無断録音の違法性を公序良俗違反の有無により判断し、会談が行われている部屋の隣室から会談の相手方に無断で録音したテープの証拠能力を肯定した。

大分地裁昭和46年11月8日判決・判時656号82頁

無断録音は特段の事情がない限り人格権侵害となる不法な収集手段であり、無断録音の証拠能力は原則として否定するとして原告が被告の同意なく密かに会話を録音したテープの反訳書の証拠能力を否定した。

東京高裁昭和52年7月15日判決・判時867号60頁

録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とした上で、酒席での会話を相手が知らない間に録音した無断録音テープの証拠能力を肯定した。

盛岡地裁昭和59年8月10日判決・判時1135号98頁

会話の内容が個人の秘密として保護に値するか、およびその内容が公共の利害に関する事実かという点と、訴訟での当該証拠の重要性等を総合考慮した上その証拠能力の有無を決するのが相当としつつ、主に当該事案の公共性及び証拠としての重要性を重視して無断録音テープの証拠能力を肯定した。

東京高裁平成28年5月19日判決

証拠収集の方法および態様、証拠収集により侵害される権利利益の要保護性や訴訟での当該証拠の重要性等の諸般の事情を総合考慮し、訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反する場合には例外的に証拠能力が否定されるとして、非公開である大学のハラスメント防止委員会の審議内容を無断録音した媒体の証拠能力を否定した。

東京地裁令和5年2月3日判決

録音の手段・方法に照らして著しく反社会的な手法で人格権を侵害して取得されたとまでは認められないとして、ラーメン店の従業員が共同で使用する休憩室での会話を被告に無断で原告が録音した録音媒体およびその反訳書の証拠能力を肯定した。

東京地裁令和5年3月15日判決・労経速2518号7頁

著しく反社会的な手段を用いて採取されたとはいえないとして、歯科医院内にある控室でのスタッフの会話を原告が秘密録音した録音の反訳書の証拠能力を肯定した。

大阪地裁令和5年12月7日判決・判時2612号55頁

原告が、職場の休憩室内に人に気付かれない位置に録音機を設置して不特定多数者の会話を無断録音した録音の証拠能力については、主に不特定多数の者のプライバシー権を著しく侵害するものとして否定した。他方、原告が、同休憩室内で原告と他人との会話を日常的、習慣的に無断録音していた録音については、決して適切な態様であるとはいえないとしつつも、証拠能力を肯定した。

 以上のように、人格権侵害やプライバシー侵害を主な判断の拠り所としつつ、近時では、訴訟上の信義則に反するかという観点もとり入れ、その考慮要素として上記⑤で挙げたような事情を総合的に考慮する裁判例が出てきている状況です。

(2)実務的な対応

 上述のとおり、ヒアリングで秘密録音を行った場合、その秘密録音の証拠能力が直ちに否定されることにはなりませんが、(1)で紹介した裁判例の判断基準に照らして証拠能力が否定される可能性があります。
 また、証拠能力とは別の観点として、そもそも秘密録音は他者の人格権やプライバシーを侵害し得るものであることに注意が必要です。そのため、社内調査において会社が秘密録音をしていたということ自体が、「社員の人格やプライバシーを尊重しない会社」と評価され、会社のレピュテーションに悪影響を生じさせる可能性があり、態様によっては不法行為に該当するリスクもあります。
 さらには、通報窓口に対する信頼を確保する視点も大切でしょう。すなわち、会社として適正手続による調査を行う必要があるところ、録音をしている旨の告知をせずに録音をすることにより、社員から「適正手続をしない会社は信用できない」などと評価され、会社としての姿勢自体を疑問視されることも否定できません 2

 以上の観点からすれば、社内調査として行うヒアリングでは、秘密録音は行わない運用としておくことを強くおすすめします

Q ヒアリングを録音する旨を告げたところ、対象者から難色を示されました。どのように説得すればいいですか。

A
ヒアリング対象者のプライバシー保護やトラブル防止の観点から、録音に関する了承を得てからヒアリングを実施するのが穏当です。了承を得るにあたっては、できる限りヒアリング対象者の不安や心配を取り除くという視点が重要です。たとえば、録音に関する拒否感や不安感の理由・原因を親身に聞いて共感を示した上で、それを踏まえて録音の趣旨・目的について丁寧に説明する姿勢が肝要です。

 会話を録音されることは、多くの人にとって非日常的で、抵抗感を伴うこともあり 3、ヒアリング対象者が録音について難色を示すケースは珍しくありません。このように録音について難色を示された場合、担当者はどのように対応すればいいでしょうか。

(1)ヒアリング対象者からの同意取得の要否

 会社の調査として行うヒアリングでは、録音することへの同意や許可を取得することまで法的に求められてはいません。もっとも、3-1で述べたとおり、ヒアリング対象者に無断で録音をした場合には秘密録音として問題となり得ます。対象者のプライバシー保護の観点やヒアリングの録音をめぐる対象者とのトラブルを防止する観点から、基本的なスタンスとしては、録音に関する了承を得てからヒアリングを実施することが穏当です。

(2)同意取得のための実務ポイント

 調査担当者は、ヒアリング対象者に対して、以下のように録音する旨を伝えるのが一般的です。

録音する旨の伝え方の例
  • ヒアリングの場で、「正確な記録に残すために録音します」とヒアリング対象者に伝えて録音を開始する
  • あらかじめ録音を開始した上で、「既に録音していますので、ご承知おきください」などとヒアリング対象者に伝えて聴取に入る

 ヒアリングの冒頭で「録音しますが、同意してもらえますか」などとヒアリング対象者に確認することは、シンプルでわかりやすくはあります。その反面、こうした聞き方はヒアリング対象者に「録音を拒否する権利があるのだろう」といった誤解を与えて、録音の拒否を招くおそれがあります。また、ヒアリング対象者が過度に身構えてしまったり、自身が疑われていると誤解されたりするおそれもあります。

 こうしたケースを未然に防ぎ、録音を受け入れてもらいやすくする工夫としては、ヒアリング実施のルールの中に録音することをあらかじめ組み込んだ上で、「当社のヒアリングのルールとして、録音をする決まりがあります。ヒアリングを実施する皆さまに一律的に実施しているものですので、ご了承願います」などと説明することが考えられます。

 こうした説明をしてもなお、対象者から録音に難色を示される、あるいは拒否される場合には、まず担当者が録音に関する拒否感や不安感の理由・原因を親身に聞いて共感を示すことをおすすめします。相手の立場になって考えることにより、その拒否感や不安感を除去できるのかどうかを検討し、相手の立場や録音に対する考え方を踏まえて説得をすることが可能になりますし、親身に対応することで信頼関係が構築され、結果として録音への抵抗感が小さくなることもあります。
 また、自分の話したことが他の人に漏れるのではないかと不安を抱えているケースについては、録音内容は担当者限りで扱うとともに情報管理を徹底していることを伝えて、安心感を与える説明をすることが考えられます。

Q ヒアリング対象者から録音することについて了承が得られなかった場合、どう対応すればいいのでしょうか。

A
了承のないまま録音を拒否するヒアリング対象者に対して録音を実施した場合、事後に紛争が生じる可能性があるため、録音なしでのヒアリングに切り替えるとともに、正確な記録を残すための工夫をすることが穏当です。

(1)説得や録音を強行するリスク

 3-2(2)で述べたような親身かつ丁寧な説得を試みても、ヒアリング対象者から同意を得られないことはあります。無理に説得を続けると、「録音を拒否しているのに強制的に録音した」などと受け取られるおそれがあり、事後の紛争に発展するリスクが否定できません。
 また、対象者に不安感や抵抗感がある中で録音を強行すれば、担当者に対する不信感にもつながります。不信感を持った相手からヒアリングで有益な情報は得ることは難しく、ヒアリング調査の実効性という観点からも無理矢理に録音下でのヒアリングを実施することは避けたいところです。

 そのため、こうした場合には、録音に応じるよう無理に説得せず、録音を伴わないヒアリング実施への切替えを検討することが望ましいでしょう。

(2)録音なしでのヒアリングのポイント

 録音を伴わないヒアリングを行う場合には、録音に代わって正確な記録を残すための工夫が必要となります。
 具体策としては、ヒアリングの正確な内容を記録する担当者を同席させることが有用です 4。また、録音を実施しなかった理由について事後的に確認できるようにするため、ヒアリングメモなどに、録音を実施しなかった理由も含めて記載をしておく運用が望ましいです。整理をすると以下のようになります。

対処法 具体例・留意点

① ヒアリング担当者のうち1名は記録役にするなどして、質問に集中する者と正確に記録する者とに分ける

担当者分けは、厳格な要求ではない
  • ヒアリング担当者のほうが対象者の回答内容を正確に把握していること多いため、ヒアリング担当者が記録をすることを妨げるものではない
  • 記録担当者が、正確な記録を残すための補充質問することや記録している際に気付いた違和感を質問すること等が有用なこともある

② ヒアリングメモに、録音を実施しないこととした経緯を記載しておく

「録音については、対象者への説得を試みたものの、〇〇という理由で対象者から了承が得られなかった。そのため、対象者の心情等に配慮して録音は行わないこととした」などと記載する

 そのほか、ケースによっては供述録取書(ヒアリング対象者の供述を聞き取って記載した内容について、ヒアリング対象者がその記載内容に誤りがないことを確認した上で作成する書面)が有用なこともあります。
 ただし、供述録取書の作成や手続には一定の知見や技術が要求されることもありますので、必要に応じて専門家に相談等するのが望ましいでしょう。

Q 対象者から、私物レコーダーでヒアリングを録音したいと言われました。どう対応すべきですか。

A
調査の密行性や情報管理の観点から、対象者のレコーダーでの録音は許可しない対応が望ましいです。仮に録音を許可する場合には、録音データが流出しないようにするなどの措置を講じる必要があります。

 ヒアリングの冒頭で録音することを会社側から告げた際などに、ヒアリング対象者から「私物レコーダーでも録音してよいか」などと聞かれることがあります。

(1)私物レコーダーでの録音のリスク

 調査の密行性や情報管理の観点から、対象者の私物レコーダーでの録音は許可しないほうがよいでしょう。
 調査の過程で収集する情報には、関係者・調査協力者のプライバシー、企業の機微情報や秘密情報など、会社として適切に管理すべき情報が含まれていることがほとんどです。調査の過程で実施するヒアリングについても同様に、関係者・調査協力者のプライバシーや企業の機微情報や秘密情報が含まれることが大半であり、私物レコーダーでの録音を許可した場合、こうした情報が漏えいするリスクを高めることとなるからです。

(2)私物レコーダーでの録音を禁止とするポイント

 このような情報漏えいを未然に防止するため、ヒアリング対象者から録音希望の申し出があった場合には、「情報管理のため、録音はご遠慮いただいています」などと伝えて、ヒアリング対象者による録音を禁止することが基本的な姿勢となります。

 これに対して、「調査側で録音をするのであれば、調査を受ける側も録音できるのではないか」「こちら側も録音できないのは不平等ではないか」などの反論が少なくありません。たしかに、両者が対等な立場であることを前提とすると、一見合理的な主張であるようにも見えます。
 しかしながら、そもそも両者は対等な立場にはなく、このような主張は成り立ちません。すなわち、社内調査の担当者は、「調査情報の取得や保存をする立場」であり、ヒアリングの情報を録音する必要があります。他方、ヒアリングを受ける社員の多くは、調査協力義務により「調査に協力する立場」です。担当者は対象者に対して、ヒアリング調査に関する情報管理にも同様に協力してもらうよう、可能な限り丁寧に説明するのが穏当と思います。
 この点の説明の仕方は非常に難しく、説明の仕方を誤った場合には、ヒアリング対象者から「調査担当者の態度が横柄だった」「調査担当者の圧力がひどかった」などと不満や事後の紛争につながるリスクがありますので、必要に応じて、事前に専門家等に相談しておくのが有用なことも多いです。

(3)私物レコーダーでの録音を前提とした対応のポイント

 仮に、録音を許可する場合には、調査担当者として適切な情報管理措置を講じる必要があります。たとえば、あらかじめヒアリング対象者と誓約書等の書面を交わしておくなど、録音データが流出しないように具体的な措置を検討すべきです。

 もっとも、上記(2)のように録音を禁じたとしても、最近は、録音・録画機能のあるスマートフォンや小型のレコーダーが普及した影響で、無断で録音されることも珍しくなく 、また、ヒアリング担当者が録音されていることに気づいていてもそれを止められないケースがあります。
 そのため担当者は、録音がされていても問題のない丁寧な姿勢・言葉遣いでヒアリングに臨むことが重要です。イメージとしては、ヒアリングのやり取りがSNSや動画サイトにアップロードされても問題がない(むしろ丁寧な対応であることが視聴者にわかる)態様で進めるとよいでしょう。こうした想定の下でヒアリングに臨むことは、担当者の自衛にもつながります。


  1. 永滋康ほか『第三者委員会マニュアル』(創耕舎、2022)116頁では、「内容にかかわらず、同意を得ずに秘密録音・録画を行う以上、そのこと自体が不法行為であるとして、ヒアリング実施者や第三者委員会の責任が肯定されたり、当該録音・録画を資料とした懲戒処分の効力が否定される危険性もないわけではない。」として、秘密録音が不法行為になり得ることを示唆しています。 ↩︎

  2. SNSなどのツールの発展により情報発信が容易な現代においては、社員に対する言動を拡散されることを通じて、ステークホルダーから会社の姿勢を疑問視されるという事態にも配慮する必要があります。 ↩︎

  3. その理由はさまざまであり、たとえば、録音されると緊張してしまって思うように話せない、録音されるとなると自分の発言が誰かの利害関係につながる証拠として残るので躊躇を覚える、関係者からの報復の理由となる音声が残ることを恐れるなどがあります。 ↩︎

  4. 「無理矢理事実を認めさせられた」と主張するなど、事後にヒアリングの適正性が争われるケースもあります。録音がある場合には、録音内容自体がヒアリングの適正性を証明する証拠にもなりますので、担当者1名による実施でも問題がないことが多いです。しかしながら、録音ができないケースでは、担当者の自己防衛の観点からも、ヒアリングの正確な内容を記録する担当者を同席させることにより、担当者2名間で相互に適正性について説明できるようにしておくことが望まれます。 ↩︎

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する