重要裁判例を読み解く

第3回 退職金の全額不支給を認めた最高裁判決からみるコンプライアンスの引き締め方 最高裁令和5年6月27日判決、最高裁令和7年4月17日判決

人事労務
鈴木 翼弁護士 田辺総合法律事務所

目次

  1. 事案の概要
    1. 飲酒運転事件(最高裁(三小)令和5年6月27日判決・労判1297号78頁)
    2. 着服事件(最高裁(一小)令和7年4月17日判決・労判1339号5頁)
  2. 裁判所の判断ポイント
    1. 飲酒運転事件
    2. 着服事件
    3. 公務員事案の特殊性
  3. 両判決の注目ポイント
    1. これまでの「引き締め」の経緯を重視している
    2. 発覚後の本人の態度にも着目している(着服事件)
    3. 両判決ともに、退職金不支給条項につき言及している
  4. 両判決を踏まえたコンプライアンスの引き締め方
    1. 「当たり前」のこともルール化(規程化)し、従業員に周知する
    2. ルールどおりに運用する
    3. 退職金不支給条項の整備
    4. 「本人の言い訳」の重要性

 最高裁では、近年、公務員事案ですが、問題行為を起こした職員に対する退職金(退職手当)の全額不支給を認める判断が続いています。最高裁(三小)令和5年6月27日判決・労判1297号78頁(以下「飲酒運転事件」といいます)では飲酒運転による物損事故を起こした教員について、最高裁(一小)令和7年4月17日判決・労判1339号5頁(以下「着服事件」といいます)では運賃1,000円を着服したバス運転手について、退職金の全額不支給を有効としました。

 両判決ともに、控訴審では、退職金の全額不支給を違法と判断していましたが、最高裁では有効と判断しました。最高裁判決の理由付けを読み解くと、飲酒運転に対する厳格運用を通知したこと(飲酒運転事件)、規程にも言及して日ごろから公金を厳格に管理してきたこと(着服事件)等といった、これまでのコンプライアンス上の取組みを考慮していることがわかります。

 退職金の不支給は、コンプライアンス違反に対する最も重いペナルティです。労働法分野における議論では、退職金の賃金後払い的性格もあって、退職金の全額不支給の有効性は、懲戒解雇よりも高いハードル(懲戒解雇が有効であっても、必ずしも退職金の全額不支給が有効とはならない)と考えられています。
 両判決は、いずれも公務員事例であり、民間企業における退職金不支給事案にそのまま適用されるものではありませんが、民間企業におけるコンプライアンスの引き締め方を検討するのに示唆的です。

事案の概要

飲酒運転事件(最高裁(三小)令和5年6月27日判決・労判1297号78頁)

 公立の高校教諭として勤務していた教職員Aが、勤務先の歓迎会に参加して飲酒した後に帰宅のため自家用車を運転し始めてすぐに、交差点で右折時に車両と衝突する物損事故を起こしました。これを受けて、県教育委員会(以下「県教委」といいます)はAを懲戒免職にするとともに、退職金(退職手当)の全額不支給処分としたところ、Aがこの全額不支給処分の取消しを求めた事案です。
 なお、懲戒免職処分についても争われましたが、第一審 1、控訴審 2 ともに懲戒免職を有効と判断し、最高裁では争点になりませんでした。

昭和62年4月1日 A、県公立学校教員に任命。高校教諭として勤務開始。
以降、懲戒処分歴もなく、勤務状況に特段の問題なし。
(同県の教職員が酒気帯び運転や酒酔い運転により検挙されるなどの事例が相次ぐ)
平成28年5月16日 県教委、飲酒運転に対する懲戒処分についてはより厳格に運用していく方針を示す通知
同年7月14日 県教委、上記と同旨の通知(この通知のきっかけは、教員の酒酔い運転が検挙されたため)
同月 県教委、飲酒運転につき免職または5か月以上の停職とする旨の懲戒処分の量定に係る基準に改正するなど、今後は厳格に対応する旨を記載した文書を周知
平成29年4月28日 A、勤務先(高等学校)における歓迎会に参加するため、勤務先(高等学校)から自家用車を運転し、会場付近の駐車場に駐車。午後6時20分から午後10時20分まで飲酒。帰宅のため自家用車で運転し始めたところ、午後10時30分に、交差点で物損事故(呼気1リットル当たり0.35mgの高いアルコール分)。現行犯逮捕され4月30日に釈放。
5月13日 A、退職届を提出
同月17日 県教委、懲戒免職処分・退職金全額(1,724万余円)不支給処分
10月30日 上記事故につき、道交法違反(酒気帯び運転)で罰金35万円(なお、事故の被害弁償済)

着服事件(最高裁(一小)令和7年4月17日判決・労判1339号5頁)

 バスの運転手として勤務していた職員Bが、バス運賃1,000円を着服しました。地方公営企業(京都市交通局)は懲戒免職にするとともに、退職金(退職手当)の全額不支給処分としたところ、職員がこの全額不支給処分の取消しを求めた事案です。
 なお、懲戒免職処分についても争われましたが、第一審 3、控訴審 4 ともに懲戒免職を有効と判断し、最高裁では争点になりませんでした。

平成5年3月頃 京都市交通局の職員として採用。以後、バスの運転手として勤務。
乗車中の事故を理由とする4件の戒告処分・注意歴あり(なお、処分歴は、勤続25年以上の運転士99名の中で10番目に多い)。
一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分歴なし。
令和4年2月11日 乗客から5人分の運賃(合計1,150円)の支払いを受けた際、硬貨を運賃箱に入れさせた上で、千円札1枚を手で受け取り、その後、これを売上金として処理することなく着服。
同日~17日 乗客のいない停車中のバスの運転席において、合計5回、電子タバコを使用
同月18日 ドライブレコーダーの記録により発覚(乗客の通報、苦情等ではない)
上司との面談の際、Bは、着服につき、当初「千円札については、運行を終了してバスのメインスイッチを切った後に運賃箱に投入した」として否認。上司が「当該スイッチを切った後に運賃箱に金銭を投入することは不可能である」旨を指摘したところ、着服を認める。
同月21日 弁明の機会
この際に、Bは「着服金を自分の小遣いとしてたばこ2箱を購入するのに使った」旨説明。
同月28日 B、上記弁明の機会に関する議事録への署名を拒否。
着服金の使途として「着服金をたばこを買ったと言ったが、何に使ったか覚えていない」と記載した書面を提出。
また、被害弁償として1,000円を支払う。
3月2日 懲戒免職処分・退職金全額(1,211万余円)不支給処分

裁判所の判断ポイント

飲酒運転事件

 控訴審判決(仙台高裁令和4年5月26日判決・労判1297号98頁)では、教職員A が30年間勤務し、懲戒処分歴がないことや事故後の真摯な反省、事故の被害弁償をしていることに触れつつ、同種事案(いずれも停職処分)との対比に言及して、退職金の全額不支給を違法として、退職金の3割は支給すべきとしました。
 これに対して、最高裁は、県教委が相次ぐ飲酒運転への厳格対応をしていたことも重視して、退職金の全額不支給を有効と判断しました。

控訴審
  • 同種事案では停職処分であった(平成30年5月発生の警察官の同種事案でも停職3か月であったことを強調)
→ 退職手当の3割は支給すべき
最高裁
  • 県教委が、相次ぐ飲酒運転への厳格対応をしていたことを重視
※他方、これまでの同種事案では停職処分であったことには言及せず
→ 退職手当の全額不支給を認める

 なお、同様の公務員の飲酒物損事故事案に関する判断として、最高裁(一小)令和6年6月27日判決・判タ1529号52頁があり、この最高裁判決においても、退職金の全額不支給を有効としています。

着服事件

 控訴審判決(大阪高裁令和6年2月16日判決・労判1339号14頁)では、実際にバスの運行等に支障が生じておらず、公務に対する信頼が害されてはいないこと、被害金額は1,000円にとどまり被害弁償済であること、職員Bについて運転に関する懲戒はあれども、一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分歴がないこと等に言及して、退職金の全額不支給を違法としました。
 これに対して、最高裁は、職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され、規程上、勤務中の私金の所持が禁止されていること、発覚直後の上司との面談の際にも、当初はBが否認しようとするなど、その態度が誠実なものではなかったことに言及し、退職金の全額不支給を有効と判断しました。

控訴審
  • 実際にバスの運行等に支障が生じていない
  • 公務に対する信頼が害されていない
  • 被害金額が僅少(1,000円)、被害弁償済
  • 一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分歴がない
  • → 退職手当全額不支給は違法
最高裁
  • 公務遂行中に職務上取り扱う公金を着服したこと自体、重大な非違行為
  • 運転手は、乗客から直接運賃を受領し得る立場であり、通常1人で乗務することから、職務の性質上、運賃の適正な取扱いが強く要請
  • 規程上、勤務中の私金の所持が禁止

    ※ これらをもって、「自動車運送事業の運営の適正を害するのみならず、同事業に対する信頼を害する」と評価

  • 発覚直後の上司との面談の際にも、当初否認し、誠実ではない
  • → 退職手当の全額不支給を認める

公務員事案の特殊性

 なお、両事案は公務員事案であり、判断枠組みが異なる(労働契約法15条に定める懲戒処分の権利濫用性では判断をしていない)点に注意が必要です。両判決では、退職金の不支給について裁量を認めていますが、これは公務員事案ならではですので、両判決をもって「飲酒運転事案や着服事案であれば、必ず退職金不支給が有効」と考えるのは早計です。

両判決の注目ポイント

これまでの「引き締め」の経緯を重視している

(1)飲酒運転事件

 飲酒運転に対しては、2000年代になり厳罰化が進んだこともあり、「飲酒運転は許されない」ということ自体は世間では「当たり前」の社会常識となっています。
 懲戒処分や退職金の不支給の文脈においても、飲酒運転は重大な問題行為と考えられるようになってきましたが、それでも、業務上の問題行為そのものではないこともあってケースバイケースの判断であり、懲戒解雇を有効としても、退職金は一部支給を認めるものもありました。

裁判例 概要
東京地裁平成19年8月27日判決・労判945号92頁 大手貨物運送事業者におけるセールスドライバーの帰宅途上での飲酒運転につき、懲戒解雇を有効としつつも、退職金請求は3分の1の限度で認容した事例
東京高裁平成25年7月18日判決・判時2196号129頁 郵便事業会社における従業員(内務業務)の私生活上の飲酒運転での物損事故につき、懲戒解雇を有効としつつ、退職金請求は約3割(400万円)の限度で認容した事例

 このような中、飲酒運転事件の判決では、県教委が、次のような周知を繰り返し、飲酒運転根絶に向けたコンプライアンスの引き締めをしていたことを重視して、退職金の全額不支給を有効としています。

平成28年5月16日付け「飲酒運転根絶及び交通安全規範の遵守の徹底について」(各教育機関の長あて)より一部抜粋
  • 「昨年度は、本県教職員による飲酒運転が3件発生するという非常に残念な状況にあり、飲酒運転の根絶に至っていません。この非常事態を受けて、今後飲酒運転に対する懲戒処分については、規準をより厳格に運用していく」
平成28年7月14日付け「職員の皆さんへ」(全教職員への配布資料)より一部抜粋
  • 「『飲酒運転』は、断じて許されない悪質な犯罪行為です。本県においては平成27年度に教職員の飲酒運転懲戒事案が立て続けに3件発生し、非常事態として注意喚起をしていた中で、今回再び教職員による飲酒運転が繰り返されたことは極めて遺憾です。」
  • 「皆さんにおかれましては、児童生徒の心身の健全な育成を担う教職員という重要な職にあることを改めて自覚し、服務規律の遵守を一層徹底願います。」
  • 「なお、今後とも、同様の事案が発生した場合においては厳正に対処していきますが、特に飲酒運転については、一向に根絶に至らない現状を踏まえ、免職又は5月以上の停職としている懲戒処分の基準を改正するなど、今後はより厳格に対処することとします。」

(2)着服事件

 売上金を着服・横領することが重大な問題行為(非違行為)であることは「当たり前」ですが、本件のように着服金額が僅少(1,000円)である事案での退職金の全額不支給は類例がありませんでした(着服金額18万円で退職金全額不支給を有効とした事例(ただし公務員事案)として、札幌高裁平成27年9月11日判決・労判1129号49頁)。

 このようなこともあり、着服事件の控訴審では、「非違行為の程度及び内容に比して酷に過ぎる」等として、退職金の全額不支給を無効としました。これに対して、最高裁では、運転手の業務実態(1人で運賃を受け取る)や以下の職員服務規程にも言及して、着服行為の悪質性そのものに着目して、退職金の全額不支給を有効としました。

京都市交通局職員服務規程
第20条

1項 乗務員は勤務中私金又は職務上不必要なものを所持又は携帯してはならない。

2項 やむを得ない理由により私金その他を所持した場合は、出勤と同時に、私金については金額を明示のうえ、その全部を係員に預け、その他については適切な措置を講じなければならない。

 なお、着服事件の最高裁判決では直接は言及していませんが、着服に関しては、次のような懲戒処分に関する指針を定めていました。

京都市交通局職員の懲戒処分に関する指針
第1 目的
 この指針は、京都市交通局職員懲戒規程第3条第2項に基づき、局職員の懲戒処分の基準を定めることを目的とする。
第2 処分基準
1 一般服務関係
 (中略)
(16)無断私金所持

ア 勤務中私金の所持を禁じられているにもかかわらず、私金であることを証明できない金銭を所持していた職員は、免職又は停職とする。

イ 勤務中私金の所持を禁じられているにもかかわらず、届け出ることなく私金を携帯していた職員は、減給又は戒告とする。

 (以下略)
2 公金及び公物の取扱い関係
(1)横領等
 公金又は公物を横領、窃取若しくは詐取し、又はなさんとした職員は、免職とする。
 (以下略)

発覚後の本人の態度にも着目している(着服事件)

 着服事件では、「それらが発覚した後の上司の面談の際にも、当初は本件着服行為を否認しようとするなど、その態度が誠実なものであったということはできない」と言及し、発覚後の本人の態度にも着目して退職金の全額不支給を有効としています。
 この発覚直後の上司(営業所の所長と副所長)との面談は、次のようなやり取りでした。

  • Bは、着服につき、当初「千円札については、運行を終了してバスのメインスイッチを切った後に運賃箱に投入した」と説明。
  • これに対して、上司(副署長)が「当該スイッチを切った後に運賃箱に金銭を投入することは不可能である」と指摘。所長は、Bに対して、よく思い出して時系列に沿って事実関係を記載するように指示して退席。
  • 副所長も退席しようとしたところ、Bは、「運行中に業務かばんから取り出し、乗務後の車内点検の際に上着のポケットに収納した」として、着服を認める。

 なお、飲酒運転事件でも、本人(A)は飲酒運転の動機について虚偽申告をしています(事故前に運転代行業者に電話をかけていないのに、そのような電話をしていたとみせかけようとした)。ですが、本人(A)が、その直後に現場に臨場した警察官に飲酒の事実を直ちに認めたことから、控訴審ではこの虚偽申告を「些細な嘘」と評価し、最高裁判決では「反省の情を示している」としています。
 この点、飲酒運転事件では、問題行為(飲酒運転)そのものは認めたので「反省の情を示している」となり、着服事件では、問題行為(着服行為)そのものを明白な嘘で否認したので「誠実ではない」となったようにも読み解けます。

両判決ともに、退職金不支給条項につき言及している

 飲酒運転事件も着服事件も、退職金不支給条項に言及しつつ、同条項に記載された考慮要素を意識して判断しています。同条項は国家公務員退職手当法と同旨であり、次のようなものでした。

飲酒運転事件における退職手当不支給条項
(懲戒免職等処分を受けた場合等の退職手当の支給制限)

第12条 退職をした者が次の各号のいずれかに該当するときは、当該退職に係る退職手当管理機関は、当該退職をした者(当該退職をした者が死亡したときは、当該退職に係る一般の退職手当等の額の支払を受ける権利を承継した者)に対し、当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任、当該退職をした者の勤務の状況、当該退職をした者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職をした者の言動、当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、当該一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる。

 一 懲戒免職等処分を受けて退職をした者
 二 (略)

両判決を踏まえたコンプライアンスの引き締め方

「当たり前」のこともルール化(規程化)し、従業員に周知する

 飲酒運転事件の最高裁判決では、県教委が飲酒運転は断じて許されないこと、重い懲戒処分とする旨を通知していたこと、つまり厳しい内容のルール化をしていたことに着目して、退職金の全額不支給を有効としています。
 また、着服事件でも、単に「横領は重大な問題行為」だけではなく、職員服務規程に言及しつつ、勤務中の私金の所持禁止にも言及して、公金(売上金)に関するルールを重視しています。

 飲酒運転も着服も厳禁であることは、今日では「当たり前」の社会常識といえますが、両判決ともに通知文書や規程にわざわざ言及していることからもわかるように、社内でも「当たり前」のルールとしなければ、違反者に対する厳しい懲戒処分や退職金の不支給等といった踏み込んだ対応をすることが難しくなってしまいます
 そして、社内でも「当たり前」のルールにするためには、「規程化」と「従業員への周知」が重要です。

ルールどおりに運用する

 ルール(規程)どおりに運用することも重要です。厳格な内容の規程を制定したとしても、緩やかな実務運用だと、緩やかな実務運用が「ルール」になってしまいます。
 実際、飲酒運転事件の控訴審では、過去の同種事案で停職処分であったこと、当該処分後も飲酒運転をした警察官に停職3か月としたことを重視して、退職金の全額不支給を無効と判断しました。

 個別の事案対応では、紛争化を回避するために、ルール(規程)よりも軽い処分とする実務対応はよく見聞きしますが、安易に軽い処分を繰り返してしまうと、その後、ルールに従った厳正な処分をしようとする際に無効となってしまうリスクが生じかねないことに注意が必要です。

退職金不支給条項の整備

 懲戒解雇された者に対して退職金不支給とするには、原則として、就業規則において、退職金を支給しない旨を明記した「退職金不支給条項」が必要であると考えられています。飲酒運転事件も着服事件でも、退職金不支給条項に言及し、同条項に記載の考慮要素を意識しながら検討しています。

 また、退職金不支給条項の内容にも工夫が必要です。厚生労働省のモデル就業規則では「懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある」とされていますが、この記載では、以下のような問題があります。

  • 退職金不支給とできるのが懲戒解雇に限られてしまう
  • 退職後に問題行為が発覚した場合の取扱いが定められていない

 このような問題に配慮しつつ、国家公務員退職手当法と同様に考慮要素を列挙するバージョンとしては、たとえば、次のような規程例が考えられます。

第〇条(退職金の不支給等)

1 懲戒解雇された者または懲戒解雇事由に相当する行為を行った者には、次の各号に定める事由を考慮して、退職金の全部または一部を支給しないものとする。

(1)その者の職務および責任
(2)その者の勤務の状況
(3)その者が行った当該行為の内容および程度
(4)当該行為に至った経緯
(5)当該行為の後におけるその者の言動
(6)当該行為が業務の遂行に及ぼす支障の程度
(7)当該行為が会社に対する信頼に及ぼす影響

2 労働者が解雇されまたは退職した後に、在職期間中に懲戒解雇事由に相当する行為があったことが判明した場合には、退職金の全部または一部の返還を請求することがある。

「本人の言い訳」の重要性

 着服事件の興味深い点は、最高裁判決が、「本人の言い訳」(発覚直後の上司との面談の際に本人(B)が着服行為を否認)に言及し、誠実ではないと評価して、退職金の全額不支給を有効とする一要素として考慮している点です。

 実務上、相応の懲戒処分を行う際には、違反者本人への手続保障や、より正確に事実認定する観点から、ヒアリング(弁明の機会の付与)を行います。着服事件の最高裁判決のように、発覚直後の「本人の言い訳」も退職金の全額不支給の有効性の考慮要素になり得ますので、本人にヒアリングをする際には、丁寧に事実関係を質問し、本人の「言い訳」を明確にして、その言い訳が納得できるものか(同情できるものか)、嘘を述べていないか等をチェックしていくことも重要です。


  1. 仙台地裁令和3年12月2日判決・労経速2528号14頁 ↩︎

  2. 仙台高裁令和4年5月26日判決・労判1297号98頁 ↩︎

  3. 京都地裁令和5年7月18日判決・労判1339号19頁 ↩︎

  4. 大阪高裁令和6年2月16日判決・労判1339号14頁 ↩︎

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