アプリ開発で見落とされがちな法的リスクの回避術を伝授『新アプリ法務ハンドブック』PR
知的財産権・エンタメ
スマートフォンアプリは企業にとって、ユーザーとの重要な接点の一つであり、多くのビジネスチャンスが潜む領域です。一方で、デジタルプラットフォーマーによる市場独占や数々の法改正などにより、アプリ法務を取り巻く環境は年々複雑化しています。
それだけに、現場は数多くのトラブルと隣り合わせであり、「アプリストアから突然アプリを削除された」「新機能のUIが著作権侵害だと言われた」「利用規約の内容でユーザーから訴えられた」など、場合によっては事業に大きく影響を与える問題に発展しかねません。
そこで今回は、2022年11月に刊行された『新アプリ法務ハンドブック』(日本加除出版)の編著者である森・濱田松本法律事務所 増田雅史弁護士、STORIA法律事務所 杉浦健二弁護士、弁護士ドットコム 政策企画室 橋詰卓司氏に、アプリ法務に関する近年の動向や本書発刊の経緯、見どころについて聞きました。
増田 雅史弁護士
森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士、一橋大学大学院法学研究科特任教授。IT・デジタル分野を一貫して手掛け、業種を問わず数多くの案件に関与。特にゲームおよびウェブサービスへの豊富なアドバイスの経験を有する。金融庁でのブロックチェーン関連法制の立案担当を経て、Fintechにも精通。 コンテンツ分野とブロックチェーン分野の双方に精通した稀有な弁護士として、Web3・メタバース領域で多くの情報発信を行い、中央省庁や業界団体におけるルールメイキングにも積極的に参画。
杉浦 健二弁護士
STORIA法律事務所パートナー弁護士。経済産業省設置のデジタルプラットフォーム取引相談窓口(アプリストア利用事業者向け)法律顧問。アプリやウェブサービスを中心としたオンラインビジネスをめぐる法的問題、個人情報保護法制を踏まえた個人データの利活用を主に取り扱う。主な関与先企業はウェブサービス、アプリ、データ、AI/ITベンダ、SNS、コンテンツビジネス、マスメディアなど。BUSINESS LAWYERSでもこれまでセミナーや特集記事を担当。
橋詰 卓司氏
弁護士ドットコム株式会社政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、ウェブサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小さまざまな企業で法務を担当。前著である『アプリ法務ハンドブック』(レクシスネクシス・ジャパン)の共著者でもある。
前著『アプリ法務ハンドブック』のコンセプトを踏襲しつつ内容をアップデート
まずは本書発刊の経緯について教えてください。
杉浦弁護士:
デジタルプラットフォーム取引透明化法(以下、透明化法)とアプリストアのデベロッパー向け規約を解説するセミナーに登壇した際に、書籍出版のお声がけをいただいたのがきっかけでした。
当時はデベロッパー向け規約を解説した書籍が乏しい状況で、唯一詳細に解説されていた本が、2015年に刊行された前著『アプリ法務ハンドブック』(レクシスネクシス・ジャパン)でした。そこで、前著の著者の1人であり、アプリビジネスに事業部の立場で関わったご経験もある橋詰さんとであれば、法務面と事業面双方の視点をカバーできる良書が実現できるのではないかと考え、橋詰さんをお誘いすることにしました。
橋詰氏:
当初の企画は、透明化法とデベロッパー向け規約の話題に絞るというアイデアでしたが、周辺領域まで広げて前著でも触れた領域もカバーしてはという議論を進めるなかで、前著のコンセプトを踏襲する方向性が見えてきました。前著の版元が出版事業から撤退する都合で改訂が難しくなり、残念に思っていたこともその理由の一つです。そして広範囲をカバーするとなると、アプリ法務の分野で実績のある増田先生を誘うべきだろうという話になりました。
増田弁護士:
前著の評判は知っていたので、同じコンセプトの書籍をこんな豪華なメンバーで執筆できるのであれば、ぜひ引き受けようと思いました。執筆メンバーについては、アプリ法務を広く横断的に扱う本ということもあり、当事務所でチームを組み、私のほか6名を追加することにしました。
橋詰氏:
前著の構成や趣旨は踏襲しているものの、刊行当時から頻繁に法改正が行われたため、先生方お二人には、内容はまっさらな状態から書き直していただいています。増田先生ご担当の第1章(アプリ開発前に知っておくべき契約・権利保護の基礎)にも書いてあるように、知的財産法も法改正が重なりましたし、杉浦先生ご担当の透明化法は当時そもそも存在しなかった法律です。
増田弁護士:
「改訂版」ではなく「新」というタイトルを付けているのは、そういう理由からです。
実務経験豊富な著者陣の知見を結集!
前著から大きく内容もアップデートされているということで、ぜひ本書ならではの見どころについても教えてください。
増田弁護士:
第1章の冒頭では「法律・契約の基礎と、アプリ法務の全体像」というパートを設けて、まずは基本的な事項として、契約・知財・規制に関するエッセンスを理解していただけるようにしました。アプリ法務には、契約関係を規律する民法や、知的財産に関する各法律のほか、個人情報保護法、特定商取引法、消費者契約法などかなり広範な法律が関係してきますので、まずはその全体像を含めて理解していただこうというわけです。
そのうえで、本章では知財を重点的に取り上げるわけですが、アプリを含むウェブ業界では、知財関連の紛争が非常に多いです。とりわけ著作権は、何らかの創作性のある表現物をつくった時点で自動的に発生するものであり、アプリ開発の際にいつのまにか権利を侵害してしまっていることもあります。しかし、実際に権利侵害となるかどうかは、判断が難しいことが少なくありません。また、人材の流動性が激しいアプリ業界では、従業員が他社の著作物を流用していることに社内で気付きにくいという問題もあります。
そこで、第1章では、著作権関連の記述に多くのページを割き、近時の裁判例などの情報も盛り込む形で全面的に改訂を行っています。
自社が訴えられないためにも、アプリならではの事例を知っておくことは必要ですね。
橋詰氏:
続く第2章で注目していただきたいのは、AppleやGoogleといったデジタルプラットフォーマー(以下、DPF)が定めている「デベロッパー向け規約」の解説です。本章では、デベロッパーが知っておくべき規約の骨組みやエッセンスを押さえました。
というのも、規約に違反すると、アプリの削除やアカウントの停止措置といったペナルティを受けるんです。そうとは知らずにDPFの審査に引っかかってしまいますと、修正には膨大なコストがかかりますし、予定のリリース日に間に合わせるためのエンジニアの作業日程も厳しくなります。アプリ事業者にとって、規約違反で販売停止というのは死活問題ですから、「踏んではいけない虎の尾がどこにあるのか」を事前に把握しておくことが必須なんです。
しかし、DPFが定める規約は長文かつページリンクによる重層構造になっているので、全文読み通すのは大変な作業になります。まずは本書で要点をおさえてもらうのが良いのではないかと思います。
DPFとアプリ提供者とが、うまく渡り合っていくことはできないのでしょうか。
杉浦弁護士:
そこでポイントとなるのが、透明化法です。透明化法は、2019年に公正取引委員会が公表した実態調査報告書を踏まえて成立した、DPFの透明性や公正性の向上を図ることを目的とした法律です。
同報告書では、DPFが巨大化していくにつれ、アプリストアによってデベロッパー向け規約が一方的に変更されたり、アプリが突然削除されてしまったりといった形でアプリ提供者のリスクが高まってきたことが指摘されていました。
こうした問題に対し透明化法では、アプリストア提供者がアプリの削除を行う場合、その理由を通知する義務が定められているほか、アプリ提供者が日本語の翻訳文を請求できることなどが定められています。
また、アプリストア提供者がデベロッパー向け規約を含むアプリ提供条件の変更を行う場合には、遅くとも15日前の告知が義務付けられています。2022年9月に、Appleがデベロッパーに指定するアプリの価格テーブル(Tier)の変更を行った際には、15日間の猶予が設けられました。かつては数日以内の対応が求められたこともあったのを考えると、透明化法が施行された効果のひとつといえるのではないかと思っています。
「DPF透明化法」によって以前よりもデベロッパーに歩み寄る姿勢があらわれてきたのですね。
橋詰氏:
また、第3〜4章に利用規約およびプライバシーポリシーのサンプルを記載している点も、本書のポイントです。編著者3人が議論に最も力を入れたところですね。解説を見ながら自社にあった利用規約・プライバシーポリシーを作成できるよう意識しました。
杉浦弁護士:
前著発刊時に比べて利用規約やプライバシーポリシーに関する本は増えてきていますが、本書はアプリに特化している点が特長ですね。
橋詰氏:
アプリに関する法務は、ウェブサービスとは一味違う配慮が必要であり、さまざまな法律や規約を意識していなければ気付けないリスクも多くあります。本書では、杉浦先生や増田先生がクライアントのお困りごとを解決されてきた経験が存分に活かされています。
法改正や技術面など、本書に関する領域で今後どのような変化があると予想されていますか。
杉浦弁護士:
直近では、アプリ法務の分野で重要な法律である電気通信事業法が改正され、2023年6月16日に施行されます。本書のなかでも改正法のエッセンスについて触れているので、基本的な考え方は十分ご理解いただけると考えています。
橋詰氏:
個人情報保護法や著作権法、資金決済法もここ数年で大きく変わり続けてきましたが、本書では、法律が変わっていくことを前提として基本的な考え方をまとめています。
増田弁護士:
本書はスマートフォン向けアプリを主に念頭において制作されていますが、昨今メタバースが注目されているように、今後のアプリの提供形態はスマートフォン経由にとどまらなくなってくることが予想されます。ただ、そうした形態でのアプリの利活用はまだ黎明期にありますので、本書は現時点でのアプリ法務に関する最高到達点になっていると思います。
「アプリ事業者ではないから関係ない」と思っている方こそ本書でセルフチェックを
まさに現時点のアプリ法務の知見をほぼすべて網羅したような本書ですが、読者にはどのように活用してもらうことを望まれますか?
増田弁護士:
法務担当者はもちろんですが、開発の現場でも活用していただきたいですね。本書ではフローチャートを各所に配置し、法規制の適用の有無がわかるようにしています。本書を見ながら現場のルールを決めていただくことで、開発のコストアップやハードルになる要因を回避しやすくなると考えています。また、特にみなさまの関心の高いテーマや問題に直面しやすいポイントなどは、コラムとして掲載しているので、こちらも見どころです。
杉浦弁護士:
実際、大手企業において本書を社内研修資料としてご利用いただいている例もありますね。
増田弁護士:
まさに「ハンドブック」としての使い方を意識しているので、アプリ開発の現場に1冊置いていただけると良いと思います。
橋詰氏:
アプリ法務で気をつけるべきポイントは、法律を順に読んでいてもわかりません。本書は、開発からリリース、運用までの業務の流れのなかでアプリ法務を理解していけることが特長です。「法律書はちょっと…」という方にも、ぜひ手にとっていただきたいですね。
最後に、BUSINESS LAWYERSの読者にメッセージをお願いします。
橋詰氏:
最近ではどんな会社でもアプリを作る可能性があります。たとえば食品メーカーが自社のECで直販や顧客対応を行う流れがありますが、そうしたサービスを、アプリを介して提供することで、ブラウザベースのサービス以上に強力な顧客の囲い込みが狙えます。
しかし、「ブラウザでやっていたことをアプリにするだけ」という認識ですと、開発現場がわざわざ法務部門への相談は必要ないだろうと考え、落とし穴に落ちてしまうということもあり得ます。
ですので、「自社はアプリビジネス専業ではないから関係ない」と思っている業種・業界の方にこそ、ぜひ本書でセルフチェックをしていただきたいです。
増田弁護士:
アプリはいまや、多くの消費行動の起点となっています。それにいち早く気付いた企業は、日本を代表するような伝統的企業であったとしても、積極的にアプリを活用したビジネスを進めています。アプリ法務の重要性は今後ますます高まっていくでしょう。
杉浦弁護士:
スマートフォンの特徴は、「1人1台」であることです。スマートフォンさえあれば、位置情報やショッピング履歴、閲覧情報まで、その人のあらゆる行動がわかるようになりました。これは、ビジネスチャンスが溢れている領域である一方で、プライバシーを中心とした個人の権利を侵害しやすい領域であるといえます。
だからこそ、アプリでビジネスを展開する事業者の方には、事業成長の道を踏み外さないよう、本書でアプリ法務の基本をひととおり押さえていただけたら嬉しく思います。

- 参考文献
- 新アプリ法務ハンドブック
- 編・著:増田雅史・杉浦健二・橋詰卓司
- 出版社:日本加除出版株式会社
- 発売年:2022年