リーガルテックへの期待を現役法務パーソン3名が語る 法務の価値を高めるツール活用の秘訣

法務部

目次

  1. リーガルテックを導入した理由
  2. リーガルテックベンダーはユーザーと一緒に法務機能を強くしてほしい
  3. リーガルテック活用を文化として育て、「売れる」法務人材へ

コロナ禍で注目を浴びた「リーガルテック」。さまざまなサービスが生まれていますが、活用できている企業はどの程度いるのでしょうか?

実際にリーガルテックツールを導入している株式会社SHIFTの照山 浩由氏、法務組織の構築に取り組む株式会社京王エージェンシー 三木 翔太氏、伝統的な商社の法務部門で働く福田 一郎氏(仮名)はツール、ベンダー、そしてユーザーに対する期待を抱いています。

リーガルテックは法務人材の未来をどう変える可能性があるのか、お話を伺いました。

プロフィール

照山 浩由氏
株式会社SHIFT 経営管理部 法務G長
2004年に慶応義塾大学法学部を卒業した後、不動産会社を設立、経営。
リーマンショックを契機として、企業における組織管理および企業法務の重要性を認識し、30歳で日本大学法科大学院へ入学。卒業後、IT系上場企業2社で法務業務に従事した後、2019年2月に株式会社SHIFTに参画。ゼロから法務組織を立ち上げ、法務マネージャーとして10名の組織をマネジメントする。

三木 翔太氏
(株) 京王エージェンシー 経営管理本部 管理部 課長代理。2014年に明治大学文学部を卒業し、同年に京王電鉄に入社。鉄道・バスの現場実習後、同社の法務・コンプライアンス部で6年間、契約書審査や法律相談等を担当。2021年より現職に着任し、左記業務に加え、債権回収、知的財産権対応も新たに手掛ける。行政書士、宅地建物取引士、二級知的財産管理技能士に合格。

福田 一郎氏
商社法務勤務、法務部門では15年の経験を有しており、コンプライアンス関連の業務に7年、契約関連業務に8年間取り組んでいる。マネージャー経験は5年。
主に国内の契約、紛争対応、コンプライアンス体制構築や監査指導、稟議書のチェックなどに従事。リーガルテックツールの社内導入の立上げに携わり、最近では契約審査の効率化に関わるAIツールの導入を行った。

リーガルテックを導入した理由

照山氏:
前半では法務組織の定義と遂行する人材の話をしました。後半では業務を遂行していくためのリーガルテック活用について話をしましょう。

法務組織の能力をエンハンス(拡大)する要素はリーガルテック、外部弁護士、外部のネットワークがあると私は考えています。

それぞれたっぷり語れるテーマになりますが、今回はリーガルテックにフォーカスして、大きく以下3つの観点をアジェンダにします。

  1. リーガルテックツールそのものに対する期待
  2. リーガルテックツールのベンダーに対する期待
  3. リーガルテックツールのユーザーに対する期待

リーガルテックを使って法務の組織や業務をどのように変革したいか、そのためにベンダー各社に我々はユーザーとして何を期待するのか、他のユーザー、法務に関わる人達にはどういう姿勢で望んでほしいのか、という話をしたいと思います。

前半でお話した組織の定義、求める人材が違うからこそ微妙なズレがあるはずです。

福田さん、三木さんはどのようなツールを入れているか教えていただけますか?

福田氏:
当社ではAI契約書レビューサービスを活用しています。また、内部統制を目的として、締結した契約書の管理サービス、法改正情報や様々な事件情報を収集できるサービスも取り入れています。

三木氏:
当社でもAI契約書レビューサービスを活用しています。2019年に出向元の京王電鉄で導入し、出向しても同じサービスを利用させていただいています。

背景には業務効率化や働き方改革の流れがありました。事業拡大に伴い法律相談が増えてきたので、その時間を創出するべく、契約書審査の制度を整える動きに乗せた形です。

照山氏:
SHIFTでもAI契約書レビューサービスと電子契約サービスを利用しています。
AI契約書レビューサービスは過去の業務を蓄積して引き出す、ナレッジマネジメントとして活用しています。

電子契約はコロナ禍で全社一斉に在宅勤務となった際に導入しました。

各社、利用されているツールの導入に至るまでに様々な検討をしたと思います。導入の決め手、検討をしたけど導入しなかったツールの理由など伺えればと思いますがいかがでしょうか?

福田氏:
ツールを導入した一番の目的は、法務の承認者から審査担当者への権限移譲を、システムを活用して行うことです。従来、審査ノウハウの承継は口伝や教育で行われていましたが、ノウハウ承継の行く末は審査担当者の自発的なスキル向上の啓蒙に過ぎず、標準化や承認者がもつ審査結果に対する承認権限の委譲まではたどり着きませんでした。

私どもはAI契約書レビューサービスの中に自社のプレイブック(契約審査マニュアル)を入れてシステム化しています。

法務担当者がプレイブックを読まずに意見を出してきた場合、上の人間は内容の精査をすることなく担当者の手元へ返します。

自分達のプレイブックを必ず見なさい、ツールでチェックをかけて自分の理解の漏れや間違いを必ず潰し込みなさい、というシステムを使った法務部門内の内部統制としての意味合いが大きいです。

全社に内部統制を伝える側の法務の人間がルールを守らず、過去のトラブルなどを参照しないで意見を書くことは、ゲートキーパーとしての一貫性や正当性の不足につながります。

社内のノウハウが増えるほど、それを守るのは負担になり、自分の手癖や慣れでやろうとしてしまいます。それらを承認者が正していたのですが、一方で効率化や世代交代も考えなければならないため、そこをアシストするために、システム化を目論見ました。

照山氏:
属人化をシステムで排除する、ということですね。

福田氏:
そうです。なので、どこの業界にも当たらない汎用的かつ独自で作成した雛形を網羅的に掲載して、一般的なリスクを提示するようなサービスは当社には合いません。

システムから提示されるリスクを鵜呑みにしたら逆にノイズになってしまい、自社の事業環境にあったリスクを見落とします。また、情報が多ければ多いほど良いというものではなく、辞書的なものになればなるほど人間は見なくなります。

ツール上では業界団体や公官庁が、その業務に関係する業界の商慣習や法令が押さえられており、それに関係する判例に基づく最低限の注意点が見えればよくて、踏み込んで調べたい時は他の手段に当たたればいいのです。

リーガルテックベンダーはユーザーと一緒に法務機能を強くしてほしい

照山氏:
福田さんがおっしゃる通りで、法務は事業を遂行していく役割を担っています。あらゆる業態に対応する契約雛形を社内で用意する必要はありません。

あくまでシステム上には各社の事業に必要な情報の蓄積があり、出し入れでき、人が入れ替わっても継続してナレッジが維持されることを求めます。

雛形が網羅されていることは弁護士事務所の方が求めるものでしょうね。本当に企業が求めるものとニーズのずれがあるようにも思います。ただ、それができているサービスがあるかと言うとそうではない。

この流れを受けて、ベンダーに対する期待について話していきましょう。

福田氏:
知見がない事業に踏み込まないといけない時に最低限押さえておくべき官公庁や業界標準、標準の契約モデルは押さえておいてほしいですね。

雛形だけでなく、標準モデルの背景にある法令、判例をもとに気をつけないといけない点の解説はほしいです。

また、IT慣れしていない法務であっても使いこなすための工夫をしてほしいです。これはユーザーインターフェースの問題ではなく、マスタデータの設定などの話です。

ツールの販売をするのであれば、法人内で活用できるところまでコンサルティングしていくべきです。これができないとリーガルテックはIT企業のものではなく、弁護士のサイドビジネスで終わってしまうと思います。

照山氏:
三木さんはリーガルテックベンダーに何を求めますか?

三木氏:
かなり個別の話ですが、AI契約書レビューサービスは各契約条項の解説を充実させてほしいですね。業務効率化を目的に入れているので、解説が充実すれば1つあたりの契約書の検討に割く時間が短くなります。

また、開発会社が用意してくれているプレイブックはもっと充実してほしいです。開発会社主催で開催しているセミナーで出てきた質問と回答、悩みをプレイブックに反映してくれたらいいのにと思いますね。

照山氏:
それは間違いない。もっとユーザーの率直な疑問に答えてほしいという意味ですね。

三木氏:
それもサービスの価値になると思うのですよね。生身のタイムリーな疑問ですからね。

あとはノウハウの共有に関する期待です。契約書の審査だけでなく、法律相談対応もノウハウとして貯まる部分は多いと思うのです。

当社は各方面にお客様と接点があるので、その客様とのやりとりを通じて得られたノウハウも登録できるようにしたいです。

また、これはリーガルテックツール全般の話なのですが、導入ハードルが高いです。

担当者がツールを気に入っても、ベンダーさんから出ている情報が少ないと魅力を会社に伝えるプロセスが大変です。

サービス自体が良いのはわかるのですが、導入した後の変化、残業時間の削減など数値で伝わる情報が一番上司には刺さるのですよね。社内に説明する資料を分けて用意すると良いと思います。僭越ながら、ベンダー側にも資する話だと思います。

照山氏:
法律家が作っているリーガルテックサービスも多いので、社内で通す発想が不足しがちですよね。

僕たちがツールを導入する際はAs-Is/ To-Beでどれだけ効率化できるか、人件費とツール導入コストの差分を算出して社内に提案する必要があります。そのデータがほしいです。

三木氏:
電子契約の締結サービスで「決裁に必要な情報をここまで出してくれているの?」というものもありましたね。

稟議書を書いたことのある方が社内の動きを考えて資料を作成してくれているなと思いました。これはものすごくありがたかったです。

今以上にベンダーが企業側の社内導入について労力をかければ導入ハードルが下がり、ツールはもっと普及すると思います。リソースを割いていないのは勿体無いと率直に感じます。

照山氏:
そうですね。ベンダーの努力は見えますが、やはり今以上にユーザーに寄り添ってユーザーと一緒に作る姿勢、導入しやすい方法を考えてユーザーと一緒に法務機能を強くする姿勢がほしいですね。

ユーザーフレンドリーに、小さくリリースしてユーザーの声を拾って開発する方が皆に売れる、僕たちにとって必要なサービスになります。

三木氏:
ユーザーの声を拾うことは重要であるとはいえ、紙中心で仕事をしてきた法務の人たちの声が全て妥当かはわからない部分もあります。

ユーザー側が考えてもいなかったような解決策を見せてくれるのがリーガルテックの魅力とも思っています。それは失ってほしくない、早い段階からツールを導入している僕にとってはある種の夢ような存在であってほしいです。

目先のユーザーの声だけ聞いて丸くなるんじゃなくて「俺たちにとってのリーガルテックはこれだ」と我が道を突っ走る部分も求めたいです。求めることが多くて実現は難しいでしょうけどね(笑)。

(株) 京王エージェンシー 経営管理本部 管理部 課長代理 三木 翔太氏

(株) 京王エージェンシー 経営管理本部 管理部 課長代理 三木 翔太氏

照山氏:
少し視点が変わりますが、自社サービスをどう売るか、というスタンスのベンダーがリーガルテック業界には多い印象があります。

ツールベンダーに求めるのは難しいかもしれませんが、ITベンダーがやっているように、基幹システムや他のツールも含めた、企業全体での統制や効率化につなげていく全社を横断した導入コンサルティングをリーガルテックベンダーにも求めたいですね。

福田氏:
僕はそもそもベンダーという言い方が嫌いで、パートナーであってほしいのですよね。

そういう意味では、他社サービスとの連携や、他に機能を持っているプロダクトを紹介する、という思想はアリだと思います。

日本のIT業界が自社の統合パッケージを売ろうとして苦戦した状況がある一方、商社は生き残っています。世界中のありとあらゆるものを繋いで紹介してコネクションを作っている。

今のビジネスは、相談できる相手としてコンサルタントが求められています。

照山氏:
リーガルテックコンサル、ほしいですね。

福田氏:
サービス自体は安価で提供して、情報提供によってユーザーを支援してコンサルティングフィーを得るビジネスもできると思います。リーガルテックベンダーが自社で全部開発して丸いサービスになることは望んでいません。各社が尖ったサービスで突き進み、連携できるようになればいいですね。

株式会社SHIFT 経営管理部 法務G長 照山 浩由氏

株式会社SHIFT 経営管理部 法務G長 照山 浩由氏

リーガルテック活用を文化として育て、「売れる」法務人材へ

照山氏:
市場を作るにはユーザーを育てないといけません。リーガルテック浮沈の分岐点がここにあります。

福田氏:
今、さまざまな開発会社さんがユーザーコミュニティを作っています。マーケットインの発想でユーザーの声を聞くコミュニティは確かにいいものですが、内部の満足度を上げるだけの時代遅れの取り組みに思えます。

市場が広がっていくには、オープンなサロンのようなコミュニティが理想です。

開発会社は協働してテックミーティングを開催し、ユーザーも含めて色々な会社が入って知見が共有されていく。ライトニングトークやミートアップのように、ツールを組み合わせた新しい使い方をユーザーが発見、発信して開発会社が参入する。正式に開発するのが大変だったらβ版やOSSのような発想で展開していく。

10年後、それができていない会社は大手SIerに飲まれてしまうでしょう。

有益なコミュニティを育てるには、文化として定着していくことが求められると思います。

法務の中に「リーガルテックを使うのは良いことだ」「あのコミュニティに入らないと僕たちの業務はいつまでもつまらないことをやり続けることになる…」と思わせる。まだツールの活用に至ってなかったとしても、コミュニティに入りたい人間を増やせるかが決め手です。

ツールの採用を検討しない、コミュニティにも入ろうとしない法務部員はいつか淘汰されてしまうと思います。

照山氏:
おっしゃるとおりで、リーガルテックがさらに普及するにはまだツールの検討にも入っていない、「どうしようかな?」と考えている中間層を口説くことが大切です。

ところが、ベンダーからの発信はアーリーアダプターへの訴求が多い。すでに検討済みの企業は製品説明を聞き飽きています。

そこから先に行けないとアーリーアダプターとしてツールを導入した企業、担当者でもリーガルテックの未来がないのかな?という気持ちになってしまう。

中間層に広げていくには福田さんがおっしゃったようなコミュニティが必要で、ユーザーが育っていく世界観があればいいですよね。

三木さんはリーガルテックツールのユーザーに対する期待はありますか?

三木氏:
目の前に課題があった時、どこかにテクノロジーを使って上手くいく方法があるのでは?とアンテナを張っていて欲しいですよね。これだけテクノロジーや通信技術が進化している中で、法務界隈だけ何も使える技術がないということはないと思いますので。究極的には、「気づくか、気づかないか」の問題だと思います。昔のやり方に拘泥せず、良いものがあれば取り入れる。そのような姿勢が重要だと思います。自分自身もそのように実践していきたいです。

そして、目的にかなうツールに出会ったら、自分が心底上手くいく、という思いを持って社内にプレゼンして欲しいです。

また、ツールを導入されている方はぜひ使い倒して欲しいです。使い倒すと見えていなかった景色が見えて自分の問題意識も変わるでしょう。

ツールを使い倒した先に生じる新しい課題を見つけ、解決していくことがこれから求められる法務人材の姿だと思います。

そうやってリーガルテックユーザーとして成熟し、ベンダーに声を届けていく。その声をベンダーが拾っていくと、より良いサービスになると考えています。

照山氏:
ツールを使いこなすことで法務の能力がエンハンス(拡大)されますよね。

ツールの導入を検討している企業はある程度サービスのことは理解しています。体感では様子を見ている企業が4割、全く興味のない企業が3割くらいです。

その7割の方々に対して、ツールの導入は特別なことじゃないよ、と私は言いたいです。
日々の業務の中でどうやって自分達の業務能力をエンハンス(拡大)するのか。エクセル、ワード、パワポ、自動化ツールの延長線上にリーガルテックがあるわけです。自分達の業務を改善していく過程にリーガルテックがある。

だから過剰なサービスはいらないのです。会社に求められる機能に合わせて自由にカスタマイズすればいいし、そのソースをGitHubに上げたっていい。

そうやって業務の改善を重ねて法務の能力、組織の力が付いていけば、僕たち自身が売れる人材になります。会社は法務人材に投資することになり、リーガルテック業界は盛り上ります。

リーガルテックを使いこなし、自分達の業務を改善・拡大していけば明るい法務の未来に繋がるでしょう。

(文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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