令和4年民事訴訟法改正(民事訴訟手続のIT化等)の概要

訴訟・争訟

目次

  1. 改正の背景・経緯
  2. 民事訴訟手続のIT化
    1. 訴状等のオンライン提出
    2. 訴訟記録の電子化
    3. 情報通信技術を活用した期日進行
  3. 法定審理期間訴訟手続(ファスト・トラック)
  4. 施行日

改正の背景・経緯

 令和4年5月18日、「民事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第48号)(以下「改正法」といいます)が成立し、同月25日に公布されました。改正法は、公布の日から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日までの間に、段階的に順次施行されることとされています(後記4参照)。

 改正法は、以下のような経緯を経て、衆議院および参議院での審議の結果、可決・成立に至ったものです。

  1. 令和2年2月、法務大臣から法制審議会に対し、「近年における情報通信技術の進展等の社会経済情勢の変化への対応を図るとともに、時代に即して、民事訴訟制度をより一層、適正かつ迅速なものとし、国民に利用しやすくするという観点から、訴状等のオンライン提出、訴訟記録の電子化、情報通信技術を活用した口頭弁論期日の実現など民事訴訟制度の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい」との諮問(諮問第111号)がなされる
  2. 上記①の諮問を受け、法制審議会において専門部会(「民事訴訟法(IT化関係)部会」)が設置され、23回にわたる会議を経て、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案」が取りまとめられる
  3. 法制審議会が上記②の要綱案を原案どおり採択して法務大臣に答申し、これをもとに法務省民事局が「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」を立案、令和4年3月8日、第208回国会に提出する

 改正法は、民事訴訟法等を多岐にわたって改正するものです。一例をあげれば、DVや性犯罪の被害者を念頭に、かかる被害者が民事訴訟を提起する場合に、訴訟記録記載の住居所の情報を、第三者のみならず相手方当事者に対しても秘匿する旨の決定を裁判所に求めることができるルールなども新設されています。

 それら改正点の中で、本稿では、企業法務に特に関係が深いと思われる民事訴訟手続のIT化に関する改正(後記2)、および審理期間短縮等を企図する特別な審理手続(ファスト・トラック)である法定審理期間訴訟手続の創設(後記3)について解説します。
 なお、本稿では、改正後の民事訴訟法を「新法」、現行の民事訴訟法を「現行法」と記載します。

民事訴訟手続のIT化

訴状等のオンライン提出

(1)現行法下の状況

 もともと、民事訴訟に関する手続における申立て等については、書面をもってしなければならないこととされているものが多かったところ、平成16年の民事訴訟法改正によって電子情報処理組織による申立て等(オンライン申立て等)についての規定が新設され(現行法132条の10)、上記申立て等の一部については、最高裁判所規則で定めるところにより、オンラインで行うことができるとされました。
 もっとも、上記法改正に先行して札幌地方裁判所で一部文書のオンライン提出が試行されたものの、利用については振るわないまま運用が停止され、その後、10年以上にわたってオンライン申立て等の実務への展開は進みませんでした。

 そのような状況下、内閣官房「裁判手続等のIT化検討会」が平成30年3月に検討結果を取りまとめ、「e提出」等の実現を図っていくことが相当と提言したことなどもあり、「民事訴訟法第132条の10第1項に規定する電子情報処理組織を用いて取り扱う民事訴訟手続における申立てその他の申述等に関する規則」(令和4年最高裁判所規則第1号)が定められ、令和4年4月1日に施行されました。同規則に基づく裁判書類のオンライン提出を実現する「民事裁判書類電子提出システム(通称「mints(ミンツ)」)の運用は、東京地方裁判所など一部の裁判所で開始されています。

 しかしながら、上記システムを利用してオンライン提出することができるのは、現行法下でファクシミリ送信によって裁判所に提出することが可能とされている裁判書類(準備書面や書証の写し等)に限られています。たとえば、訴えの提起は、書面である訴状を裁判所に提出してしなければならないとされているため(現行法133条1項)、上記システムを利用したとしても、民事訴訟の提起自体をオンラインで行うことはできないのが現状ということになります。

(2)改正の概要

 改正法により、現行法132条の10の文言が若干変更され、民事訴訟に関する手続における申立て等のうち、裁判所に対して書面をもってするものについては、最高裁判所規則で定めるところにより、「最高裁判所規則で定める電子情報処理組織」(俗に「事件管理システム」と呼ばれます)を使用して、当該書面に記載すべき事項を、裁判所の使用に係る電子計算機に備えられた「ファイル」に記録する方法によって行うことができる旨が定められました(新法132条の10)。かかる規定(および最高裁判所規則)により、準備書面や書証の写し等のみならず、訴状のオンライン提出(オンラインによる民事訴訟の提起)も可能となります

 かかる裁判書類のオンライン提出については、訴訟の当事者本人が訴訟活動を行う場合には、あくまで権利として認められるものであり、従来どおり書面提出も可能ですが、当事者が弁護士に訴訟活動を委任する場合には、当該オンライン提出が義務付けられることとなります(新法132条の11第1項1号)。
 また、上記のオンライン提出された裁判書類のうち、送達が必要なものについては、原則的には、ファイルに記録された事項を出力して作成した書面によって送達することとされていますが(新法109条)、送達を受けるべき者が事件管理システムを使用してオンラインで行う送達(俗に「システム送達」と呼ばれます)を受ける旨の届出をしている場合には、かかるシステム送達が行われます(新法109条の2)。そして、弁護士が訴訟代理人に就く場合には、システム送達を受ける旨の届出をすることが義務付けられることとなります(新法132条の11第2項)。

オンライン提出
  • 本人訴訟の場合:従来どおり書面提出も可能
  • 弁護士に委任する場合:オンライン提出が義務

送達が必要な書類
  • 原則:書面によって送達
  • 送達を受けるべき者が届出をしている場合:システム送達(弁護士が代理人に就く場合は届出義務

訴訟記録の電子化

(1)現行法下の状況

 現行法下では、訴状や準備書面、書証の写し等、訴訟の当事者が裁判所に提出する書類はもちろん、期日の呼出状や期日調書、判決書等の裁判所が作成する書類も含め、裁判書類はすべて紙で作成され、裁判所内に保管されています。

 そして、上記の裁判書類一式(訴訟記録)については、原則として誰でも閲覧することができ(現行法91条1項)、また、訴訟の当事者および利害関係を疎明した第三者は、訴訟記録を謄写することもできます(同条3項)。しかしながら、訴訟記録は紙である以上、当事者でさえ、記録閲覧のためには裁判所に出向く必要がありますし、記録謄写は(コピー代を負担して)ハードコピーを受領する方法によっています。

(2)改正の概要

 改正法により、訴訟記録の電子化に係る手続が整備されました。すなわち、オンライン提出(前記2-1)された裁判書類は当然にファイルに記録されますが、それだけでなく、書面で提出されたものも、裁判所書記官が当該書面に記載された事項を電子化してファイルに記録することとされました(新法132条の12第1項)。また、期日の呼出しは、ファイルに記録された電子呼出状をシステム送達する方法によって行うことができることとされ(新法94条1項1号)、期日調書についても、電子調書として作成されることになりました(口頭弁論期日に係る調書につき、新法160条1項)。さらに、電子判決書に係る規定も設けられました(新法252条)。

 訴訟記録の閲覧・謄写に関しても、訴訟記録の電子化に伴う法改正が行われています。すなわち、電子化された訴訟記録については、以下のことが可能となります(新法91条の2第1項、2項)。なお、具体的な内容は、最高裁判所規則において規律される予定です(法制審議会「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案」第10の1(注)参照)。

  1. 誰でも裁判所に設置された端末を用いた閲覧を請求することができる
  2. 当事者および利害関係を疎明した第三者は、裁判所に設置された端末および裁判所外の端末(自ら使用する端末)を用いた閲覧等を請求することができる
  3. 当事者は、いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧または複写をすることができる

情報通信技術を活用した期日進行

(1)現行法下の状況

 現行法下では、口頭弁論期日は公開の法廷で行われ、当事者(訴訟代理人弁護士含む)は、現実に裁判所に出頭して期日に参加しなければなりません(現行法87条1項本文)。
 また、争点整理のために実施される弁論準備手続(現行法168条)については、裁判所が「当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」に、ウェブ会議や電話会議によって実施することができますが、それでも当事者の一方は裁判所に出頭しなければならないこととされています(現行法170条3項ただし書)。これに対し、同趣旨の手続である書面による準備手続(現行法175条)が行われる場合の裁判所・当事者間の協議は、当事者のいずれも裁判所に出頭することなくウェブ会議等で実施することができ(現行法176条3項)、新型コロナウイルスの感染拡大を機に近時多用されるようになりましたが、同協議では書証の取調べができないという難点もありました。

 さらに、証人尋問は、遠隔地に居住する証人の負担の軽減または(当事者等から圧迫を受けることによる)証人の精神的な不安等の軽減に必要な場合に限り、テレビ会議システムを利用して行うことができるとされていますが(現行法204条)、この場合も、証人は、訴訟を審理している裁判所(受訴裁判所)とは別の裁判所、または受訴裁判所内で当事者等がいるのとは別の場所に出頭しなければならないこととされています(現行の民事訴訟規則123条1項、2項)。なお、当事者尋問にも、上記の証人尋問についての規定が準用されています(現行法210条、現行の民事訴訟規則127条)。

(2)改正の概要

 改正法は、ウェブ会議による口頭弁論期日についての規定を新設しました。そこでは、裁判所が、相当と認めるときに、当事者の意見を聴いたうえで、ウェブ会議による口頭弁論期日を実施することができるとされています(新法87条の2第1項)。
 また、ウェブ会議による弁論準備手続につき、当事者の一方が裁判所に出頭しなければならないという要件も撤廃されました(新法170条3項)。加えて、裁判所が「相当と認めるとき」の例示であるところの「当事者が遠隔の地に居住しているとき」という語句も削除され、ウェブ会議による弁論準備手続がより利用されやすくなるものと思われます。

 さらに、証人尋問等についても、当事者に異議がない場合で、裁判所が相当と認めるときは、広くウェブ会議による尋問を実施することができることとされました(新法204条3号)。このことを前提に、民事訴訟規則が見直され、裁判所以外の一定の場所に証人が所在することが認められる予定です(法制審議会「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案」第7の1(注))。
 なお、現行法下では明文規定がないウェブ会議等による和解期日についての定めも新設されています(新法89条2項)。

法定審理期間訴訟手続(ファスト・トラック)

(1)現行法下の状況

 現行法下では、訴えの提起から判決の言渡しに至るまでの審理期間は特に法定されておらず、訴訟が裁判をするのに熟したと裁判所が認めるときに終局判決をするとされているのみです(現行法243条)。
 一般的な民事訴訟では、第一審の審理期間は1年前後のことが多いですが、事件の内容によってはこれよりも長くかかることも当然あり、訴訟の当事者は、必ずしも終局までの期間を見通すことはできないのが現状です。

(2)改正の概要

 前記2で述べた民事訴訟手続のIT化に伴い、柔軟で機動的な期日の指定および運営、裁判所・当事者間の緊密で即応性の高い口頭議論・争点整理手続が実現されることから、かかるITツールの特性を十分活用することを前提に、改正法は、訴訟の当事者が望む場合に終局までの期間を見通すことのできる特別な審理手続(法定審理期間訴訟手続)を創設しました(新法381条の2以下)。かかる手続により、終局までの期間についての当事者の予測可能性および迅速性が高められることとなります。

 法定審理期間訴訟手続は、消費者契約に関する訴えおよび個別労働関係民事紛争に関する訴え以外の訴えによる事件を対象とします(新法381条の2第1項)。

 そして、当事者の双方が法定審理期間訴訟手続による審理および裁判を求める申出をしたとき、または当事者の一方が当該申出をして相手方がそれに同意(書面ですることが必要)したときは、裁判所は、「事案の性質、訴訟追行による当事者の負担の程度その他の事情に鑑み」同手続を行うことが「当事者間の衡平を害し、又は適正な審理の実現を妨げると認めるときを除き」同手続を行うことを決定しなければならないとされています(新法381条の2第2項、3項)。

 上記決定があったときは、裁判長は、当該決定日から2週間以内に初回期日を指定し(新法381条の3第1項)、同期日から6か月以内の口頭弁論終結期日を指定するとともに、当該期日から1か月以内の判決言渡期日を指定しなければなりません(同条2項)。また、当事者は、上記初回期日から5か月以内に攻撃防御方法(準備書面や証拠)を提出しなければなりません(同条3項)。
 もっとも、法定審理期間訴訟手続による審理中に、当事者の一方でも通常の手続に移行したい旨の申出をしたときは、裁判所は、通常の手続に移行する旨の決定をしなければならないとされています(新法381条の4第1項1号)。

 なお、法定審理期間訴訟手続の終局判決に対しては、却下判決を除き、控訴をすることができないとされていますが(新法381条の6)、電子判決書の送達日から2週間以内に異議を申し立てることはでき(新法381条の7第1項)、かかる異議が申し立てられたときは、訴訟は口頭弁論終結前の程度に復し、そこから通常の手続によって審理されることとされています(新法381条の8第1項)。

法定審理期間訴訟手続の流れ

法定審理期間訴訟手続の流れ

 上記のとおり、法定審理期間訴訟手続は、当事者双方が一貫して当該手続を利用する意思を有しない限り、(通常の手続に移行する等して)完結しないものであり、新法施行後、どの程度利用されることになるかは未知数です。なお、法制審議会「民事訴訟法(IT化関係)部会」においては、「当事者間において事実関係に争いがないが契約条項の解釈や法適用について争いがある事案」や、「当事者間において訴訟前の交渉がされていることによって事実関係の争いが絞られているような事案」で当該手続が利用されることを念頭に置いているようです(同部会資料30・第5の補足説明2)。

施行日

 改正法は、その全体としては、公布の日(令和4年5月25日)から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされています(改正法附則1条柱書)。
 ただし、前記 2-3 (2) で述べた、当事者双方が裁判所に出頭しないウェブ会議等による弁論準備手続についての規定、およびウェブ会議等による和解期日についての規定は、先行的に、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされています(改正法附則1条3号)。
 また、同じく前記 2-3 (2) で述べた、ウェブ会議等による口頭弁論期日についての規定も、先行的に、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされています(改正法附則1条4号)。

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