『Q&A 競業避止、営業秘密侵害等の不正競争に関する実務』著者に聞く 転職が当たり前の時代における企業のリスクマネジメントとはPR

競争法・独占禁止法

目次

  1. 新卒入社の30%以上が3年以内に離職。人材の流動化は、企業に恩恵も不安要素ももたらしている
  2. 「実務で使える」ことを考慮し、80問のQ&Aにまとめる
  3. 「こんな書籍を待っていた」 弁護士と法務担当者から寄せられる、喜びの声
  4. 円満退職が実はヘッドハンティングだったら…。不正競争の予防は経営のリスクマネジメント

 ある日、突然、「社員が競業他社に転職し、顧客を奪い取られた」ことがわかり、あわてて人事規程や就業規則を見直す、最近、ビジネス法務の実務でそんな事例が増えているようです。転職や中途採用が一般化するなか、同業他社への転職や営業秘密の持ち出しといった「不正競争」が問題となるケースが増えてきました。

 「不正競争」に関する事件は大企業だけのものではない。企業規模にかかわらず適切な認識がなされなければならない。
このような問題意識を抱え岡本 直也弁護士は『Q&A 競業避止、営業秘密侵害等の不正競争に関する実務』を上梓しました。転職が当たり前となった時代に、営業秘密の侵害をどう予防し、万が一の事態に備えるべきなのでしょうか。

 岡本弁護士、編集を担当した佐伯 寧紀氏、渡辺 直樹氏に本書の見所と活用のポイントを聞きました。

プロフィール
岡本 直也弁護士
岡本政明法律事務所。学習院高等科卒業、慶應義塾大学法学部法律学科卒業、早稲田大学大学院法学研究科修了、東京大学法科大学院修了。
著書に『Q&A 競業避止、営業秘密侵害等の不正競争に関する実務』(日本加除出版、2021年)。

佐伯 寧紀氏
日本加除出版株式会社編集部企画・編集第4グループ課長。同グループでは家事・少年事件の裁判例雑誌「家庭の法と裁判」ほか、相続等家事関係の単行本を多く手がける。

渡辺 直樹氏
日本加除出版株式会社編集部企画・編集第2グループ主任。同グループでは信託雑誌「信託フォーラム」ほか、企業法務、信託等の単行本を多く手がける。

新卒入社の30%以上が3年以内に離職。人材の流動化は、企業に恩恵も不安要素ももたらしている

まずは、発刊の経緯を教えてください。

佐伯氏:
企画の発端は、2020年に厚生労働省から発表された「新規学卒就職者の離職状況」の調査結果です。大卒でも就職後3年以内の離職率が30%を超え、転職による人材の流動化は一層激しくなっています。競業避止義務は企業を守るための大切なルールですが、厳格にすると中途採用活動もしぼんでしまう。企業でも悩んでいる方が多いだろうと感じ、不正競争のうち競業避止、営業秘密侵害をメインテーマにした書籍を発刊したいと思いました。

転職が一般的になった今、営業秘密をどうやって守っていくのか、企業の法務担当者の悩みは深いと思います。書籍の執筆を岡本先生にお願いしたのはなぜですか?

佐伯氏:
当社では戸籍、相続等家族法、不動産登記などの書籍を出版してきましたが、近年は弁護士実務関連の書籍を数多く発刊しています。著者候補を探していたところ岡本直也先生がホームページにいくつかのコラムを書かれていて、裁判例に触れつつ、とてもわかりやすくまとめられていたので執筆を打診しました。

※参考:岡本政明法律事務所HP コラム

岡本先生はもともと不正競争の問題を扱ってきたのですか?

岡本弁護士:
訴訟で勝訴したこと等によって企業から競業避止の相談を寄せられることが多くなり、事件の担当も多くなっていきました。一般的に、顧問弁護士であっても競業避止の案件には積極的に対応しないことが多いようです。営業秘密などを転職先の競合他社に渡されても立証が難しく、裁判所に訴えを起こしても証拠を揃えていなければ企業側が負けるからです。また、社外秘の情報をもって転職しようとする方は関係者への根回しなども事前に行っている場合が多く、敗訴すれば逆にお墨付きを与えてしまうばかりか、損害賠償の金額も高額になりにくいため、弁護士は二の足を踏むことが多いようです。
しかし、弁護士に断られても「感情的に許せない」という経営者は大勢います。「あんなに面倒をみたのに顧客も営業秘密も全部持って行ってしまった…」と。その気持ちを慮るとやるせないですよね。

そうした相談が立て続けに舞い込んでいたため、メールやLINEの履歴など情報漏洩の証拠保全やデジタルフォレンジックも含め、様々なアドバイスをしていました。その経験を少しずつコラムにまとめていたのです。

渡辺氏:
この書籍を社内の企画会議に通したのは2021年1月でした。ちょうど大手通信会社間で転職した人物が不正競争防止法違反の容疑で逮捕された事件があり、ニュースでも連日取り上げられていました。競業避止、営業秘密侵害、不正競争といった事案に対する世間の関心の高さに改めて気付き、この書籍の必要性を強く感じました。

岡本政明法律事務所 岡本 直也弁護士

岡本政明法律事務所 岡本 直也弁護士

「実務で使える」ことを考慮し、80問のQ&Aにまとめる

書籍の企画を提案された時はどのような印象を抱かれましたか?

岡本弁護士:
最初は少し迷いました。競業避止の裁判例は多く、先行業績があるうえに、競業避止なのか、営業秘密なのか、引き抜きなのか、法的に整理されていないようにみえる裁判例も少なくなかったからです。

そこで、弁護士や企業法務に携わっている方にわかりやすく伝えるために80問のQ&Aにまとめ、裁判で有効とされた就業規則や誓約書はあえてそのまま掲載しました。これから競業避止関連の就業規則をつくるなら、有効な規定がわかった方が参考にしやすいだろうと思ったからです。

「弁護士が実務で使える」という点がまさに本書の特徴だと思います。

岡本弁護士:
答えをわかりやすく明示するため、学説の対立などは排除し、裁判例を中心に構成しています。私が勝手に要約したせいで「このケースではどうなるのだろう?」と迷ってしまうよりも、引用した方が裁判でも社内でも使い勝手が良いだろうと考えました。その他、民事保全手続における主文など、実務に寄与することを考慮して執筆しています。

佐伯氏:
先生には本書の内容に関連する裁判例に徹底的に目を通していただき、内容を固めていきました。執筆期間は半年ほどでしたが、打合せでは先生からも内容や構成について意見を出していただき、そのおかげでイメージを共有できたと思います。

本書では競業避止とともに営業秘密侵害も扱っていますよね。

岡本弁護士:
情報を持ち出される営業秘密侵害に関しては、裁判例だけではなく行政のガイドラインもたくさんあります。そこで、設問ごとに関連する裁判例とガイドラインを入れ、解説の根拠がわかるように意図しました。

渡辺氏:
ガイドラインは法改正により取り扱いが変わるので、最新情報を確認しながら進めました。

日本加除出版株式会社 佐伯 寧紀氏

日本加除出版株式会社 佐伯 寧紀氏

「こんな書籍を待っていた」 弁護士と法務担当者から寄せられる、喜びの声

この書籍をどのような方々に読んでほしいですか?

岡本弁護士:
やはり転職が多い企業の顧問弁護士や法務担当者に読んでほしいです。中途採用者や退職者が多いと情報の管理は難しくなります。営業秘密侵害をどう予防し、万が一の事態に備えるか。本書を参考に検討してほしいです。

これまで先生が取り組まれた事案の中で、営業秘密侵害の予防策として効果のあった施策はどのようなものですか?

岡本弁護士:
就業規則や誓約書の他、最近は営業秘密管理規定をつくることが多いです。裁判所は企業内のすべての情報が重要だとは考えず、重要な情報とそうでない情報を切り分けます。そこで、会社にとって何が重要な情報なのか区分し、社内に周知しておくことが大切です。
社員に「それほど重要な情報だとは思わなかった」と裁判で言われれば負けてしまいます。「これは営業秘密に該当する重要な情報だ」と社員に伝え、認識してもらわなければなりません。

社員に営業秘密を認識してもらうための処方箋はありますか?

岡本弁護士:
やはり教育・研修でしょう。個人情報保護に関しては小テストなどを実施して社員の意識を高めている企業も多いですが、営業秘密も同じように教育することで社内の重要な情報を守ることができます。

佐伯氏:
競業避止や営業秘密侵害という文字だけを見ると難解そうで自分とは無関係のように感じるかもしれませんが、多くの人が転職するいまの時代ではとても身近な話なんですよね。だからこそ、1人でも多くの人に読んでほしいと思っています。

本書の発刊後、読者の方からはどのような声が届きましたか?

岡本弁護士:
弁護士や法務担当者から「裁判例をはじめ、こういう情報量の多い書籍が欲しかった。とても役に立った」という声をいただき、執筆して良かったと思いました。法務部の方が社長に本書を見せ、予防策の構築に乗り気になってくれたという話も伺いました。問題が起こってから対応できることには限りがありますが、予防措置はいくらでも作れる。そのことに気付いていただけたことが嬉しいです。

佐伯氏:
今後も人材の流動化によって社会的にさまざまな問題が生じるかもしれませんが、単に訴訟が増えるだけではなく、本書で適切な予防がなされるようになれば編集者冥利に尽きますね。

渡辺氏:
反響が大きく、私にとっては読者の方から愛読書カードをいただけた初めての書籍になりました。多くの裁判例を網羅しながらとても読みやすく、わかりやすい仕上がりになっているので、これから他の先生に書籍の執筆をお願いする際も本書を参考にしてもらおうと思っています。

日本加除出版株式会社 渡辺 直樹氏

日本加除出版株式会社 渡辺 直樹氏

円満退職が実はヘッドハンティングだったら…。不正競争の予防は経営のリスクマネジメント

最後に、競業避止や営業秘密侵害などの不正競争に関して、岡本先生が現在感じている企業の課題を教えください。

岡本弁護士:
転職や中途採用が一般化し、コロナ禍でリモートワークや副業が進み働き方も大きく変わっています。その中で、不正競争はもはや大企業だけの問題ではなく、中小企業にとってもいつ顕在化してもおかしくない問題へと変質しました。中小企業の顧問弁護士や法務担当者の方も、不正競争を自社に降りかかる可能性がある問題として捉え、予防しなければなりません。

人材の流動化や働き方の多様化に伴い、企業も社員がどんどん入れ替わっていくことを前提に就業規則などを設計しなければならない、ということですね。

岡本弁護士:
「会社設立の時に作った後は、法改正に対応してきただけで、就業規則をしっかり見直していない」という企業はまだたくさんありますし、まじめに経営している方ほど「不正競争なんてうちには関係ない」と考えてしまうでしょう。しかし、円満退職だと思っていた社員が実はヘッドハンティングで同業他社に営業秘密を持っていく可能性もあります。リスクマネジメントの一環として予防策の構築に取り組んでほしいです。

『Q&A 競業避止、営業秘密侵害等の不正競争に関する実務』
編・著:岡本 直也・著
出版社:日本加除出版株式会社
発売年月:2021年

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