「複業社長」はサイボウズ社員 知財塾代表に聞くキャリアの選択肢

法務部 公開 更新

目次

  1. 知財に興味を持った学生時代 知財へのこだわりを捨ててサイボウズへ
  2. サイボウズだから実現できた「キャリアの選択肢を持つこと」
  3. 知財業界の課題を解決するために「知財塾」の代表へ
  4. 知財塾での学びは大変だけど楽しい 塾生が語る面白さ
  5. 知財塾の活動が本業に与える影響
  6. 「自分が何をしたいか」を言語化し、キャリアの選択肢を広げる

複業(副業)が一般的となり多様な働き方を選択する人が増えてきました。サイボウズ株式会社で働く上池 睦さんもその1人です。

本業としてサイボウズの特許業務を牽引する傍ら、IPTech特許業務法人の知財コンサルタントや株式会社知財塾の代表取締役も務めています。

幅広い活動の背景には「変化に備えて選択肢を持っておく」上池さんの考えがありました。

上池 睦さん
東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科知的財産戦略専攻を修了後、2015年サイボウズ株式会社に入社。
品質保証部で自社クラウド基盤の品質保証に従事。異動後は知財・法務業務に幅広く取り組み、2021年は知財業務をメインとして体制整備などを行う。2022年からは開発部門に移り、エンジニアと近い距離で特許業務に従事。
2019年 IPTech特許業務法人 参画、2021年株式会社知財塾の代表取締役就任。

サイボウズ株式会社 法務部門の組織構成
法務部門 10名(商標含む)
特許 2名

知財に興味を持った学生時代 知財へのこだわりを捨ててサイボウズへ

上池さんが知財に興味を持ったきっかけについて教えてください。

上池氏:
大学時代、専門性を深めたくて知財に興味を持ちました。音楽、ゲーム、漫画をはじめとするコンテンツや最新技術が好きだったことも理由の1つです。

当時は、知財に興味があっても何をやればいいかわからず、とりあえず弁理士試験の勉強を始め、並行して知財専攻のある大学院に進学しました。

東京理科大の大学院は生徒の半分くらいが社会人で、社会人をターゲットにした授業も多かったので、ビジネスに関する知見もかなり広がりました。

上池 睦さん

上池 睦さん

大学院卒業後の進路はサイボウズを選ばれています。決め手はどこにありましたか?

上池氏:
運と縁です。元々は知財職の新卒で就活をしていたので、大手機械系、自動車系で探していましたが、全然決まらず。志望をIT業界にシフトして、最初に受けたのがサイボウズでした。サクッと決まったので「もういいかな」みたいな(笑)。

サイボウズでは知財職を募集していたんですか?

ビジネス職の枠でした。IT業界に行くと決めた時点で、知財へのこだわりはなかったです。

内定後は品質保証部門に配属されます。

上池氏:
長期的には特許に関わりたいと思っていたので、技術の知見を得られる、システムコンサルタント部門か品質保証部門のいずれかで配属希望を出しました。

志望を聞いてくれるのはサイボウズの良いところで、品質保証部門の中でも特に技術が求められる、クラウドサービスの安定運用を目標としているチームに配属されました。自社の仕組みが不具合なく動くか試験をしたり、自動試験をするためのプログラムを書いたりする仕事です。

技術職だったのですね。そこから知財法務分野にシフトされます。希望は出していたのでしょうか?

上池氏:
全然出していなくて、品質保証の仕事は力がつくまではやろうと思っていたんですよね。

段々と技術的な理解も深まり、チームリーダーも務めるようになっていたのですが、考え始めたのは、クラウドシステムのインフラ基盤を移し替えるプロジェクトの立ち上げをしていた時期です。

技術的にすごく価値が高いことに関われるチャンスだったので悩んでいたのですが、3年目研修でキャリアのことを考える機会があって、知財法務と兼務するところから始めようかなという感じでした。

サイボウズだから実現できた「キャリアの選択肢を持つこと」

知財法務に異動してからは契約書のチェックなどをされていたのですか?

上池氏:
最初は品質保証と知財法務を兼務しながら、元々知っている知財の知識で最低限の対応をしていました。

徐々に比重を変え、1〜2割だった知財の仕事が半分くらいの割合になってから法務の仕事である契約書対応も始めました。

知財法務の業務は「やりたかったことだな」と思いましたか?

上池氏:
そうですね……。法務は合わないなと思いました(笑)。

上池 睦さん

そうだったんですね(笑)どういうところが合わなかったですか?

上池氏:
なんですかね……。私は自分でゴールを決めるか、もしくは決まったゴールへ自分で段取りを立てるみたいなことをやりたいし、好きです。

事業部を支援するモチベーションの人には契約書審査の仕事もすごく合っていると思うんですけれど、私は合わなくて、自分でやりたくなってしまうんです。

一方で、リーガルテックサービスの導入にあたり、選定から運用までを考えて業務効率化を進めることは、私に向いてるなと思いました。

知財のお仕事はやりがいを感じますか?

上池氏:
特許の話になりますが、エンジニアのアイディアに触れられるのはすごく楽しいです。アイディアを入力する過程も面白いですし、それを「権利として認められるための謎の文章」にするというアウトプットも専門的で、学んだからこそできる仕事なので楽しいですよね。

楽しいと思える仕事ができるのは素晴らしいです。サイボウズに入られてから今までのキャリア選択で心がけていることはありますか?

上池氏:
「選択肢を持つようにする」ことは意識しています。普通に世間で言われていることだと思いますが、先のことはわからないので、何かあったときに対応できるようにすること。何かあっても大丈夫なような変化できる力を身につけることです。複業もその一環ですね。

今、上池さんはどういう選択肢を持っていますか?

上池氏:
企業知財でやっていくことと、複業である知財塾の会社経営。あとはもしかしたら、品質保証の仕事に戻るとか、資格の勉強を再開して特許事務所で働くとかも考えられます。

複業を含めて複数の選択肢を持てるのは、サイボウズならではだと思います。

上池氏:
そうですね。やりたいと思ったときの抵抗やハードルは何もなかったです。

サイボウズは「100人100通りの働き方」を目指しているので、私が複業を始める時点で先例はたくさんありました。

社内でも多様なキャリアを支援する動きがあり、労務の体制も整っています。何かあったときの相談先についても全部明文化されていました。

複業の話をするときに「サイボウズだからできているよな」ということが多くて、苦労して得たノウハウを他の方に伝えられないんですよね(笑)。

複業も含めて、本当に良い環境ですね。

上池氏:
本業が複業に与えるプラスの要素もあります。

サイボウズは社内のやりとりをグループウェアで行っているので、テキストコミュニケーションのスキルがかなり鍛えられていました。

複業だとリアルに集まる機会を作りにくいので、オンラインのやりとりが多くなりますが、非対面のコミュニケーション方法が本業を通じて身についていましたね。

知財業界の課題を解決するために「知財塾」の代表へ

複業として知財実務スキル向上のためのゼミを展開する株式会社知財塾の代表もされています。どのような経緯があったのですか?

株式会社知財塾 ホームページ

株式会社知財塾 ホームページ

上池氏:
IPTech特許業務法人に参画したのがきっかけです。

理科大時代の教授の縁でIPTech特許業務法人 COOの湯浅さんとつながりができ、「サイボウズで知財の仕事をするならIPTechで複業しない?」と湯浅さんから誘っていただきました。

サイボウズだと先輩から特許の実務を学ぶこともなかったので、良い機会だなと思って複業を始めたんですよね。

知財塾はIPTechの教育事業として始まって、1年間ほど運用したところで別法人化しました。

上池さん自身の「実務を学ぶことがなかった」という思いと知財塾の活動がリンクしそうですね。

上池氏:
最初は知財塾の活動自体にモチベーションはなかったです。IPTechで有益な経験を得られ、たくさんの情報を与えてもらい、どんな雑務をやってもペイできるくらいのリターンをもらっていたので、湯浅さんから「これ手伝って」と言われたら「やります」という感じで(笑)。

知財塾の活動をしているうちに業界の課題が見えてきて、社長をやることに決めました。

どのような課題なのでしょうか?

上池氏:
業界全体で体系的な教育方法がなくて実務ノウハウが口伝で伝えられている。その結果、各人の成長が遅く給料もなかなか上がらない。そういう良くない風潮が見えてきました。

大企業で知財部員がたくさんいるところは、社内教育が行われていると思いますが、そこまでの規模がない企業や特許事務所では体系的な教育をしていないようです。

知財塾を始めてみて手応えを感じていますか?

受講生の満足度はかなり高いと感じています。広く取り組めれば、業界のためにもなると思います。

知財塾での学びは大変だけど楽しい 塾生が語る面白さ

ここからは知財塾塾生の小川さんにもお話を伺いたいと思います。小川さんはメーカーの知財法務部門にお勤めで、知財塾の塾生として受講されているそうですね。

小川氏:
通い始めてから1年くらい経ちました。商標と意匠、特許の講義を受講しています。

知財塾 塾生 小川さん

知財塾 塾生 小川さん

受講してみていかがですか?

小川氏:
知財塾では、実際に知財実務の最前線で活躍されている講師から、明細書や意見書などの成果物を作成するための模擬練をしてもらえます。

あくまで主体は受講生自身であり、自ら課題に取り組み、講師はその手助けをするという形です。

実際、講師のことをファシリテーターと知財塾では呼んでいます。このような実践式のカリキュラムは、ほかにはなかなかありません。実務スキルを磨きたいと思っていた私にとってはとてもよい方法でした。

週1回の講義は夜10時までみっちりあり、予習もしなければいけないので大変です。学習に時間を割くには家族の理解も必要ですが、得られるものは大きいです。知財塾で学んだことで商標や意匠の意見書は、一定程度のレベルで書けるようになったかなと思います。

継続的に講師の方や、受講された方との人間関係を築けていける点も良かったです。

ホームページを拝見するとカリキュラムが多いですね。

小川氏:
商標、意匠、特許。特許の中でも明細書の書き方、リサーチ、発掘などラインナップも多く、ニーズに合ったコンテンツを提供されています。

参考:株式会社知財塾 開講スケジュール

上池氏:
「受講生に何を持って帰ってもらうか」を決めて、設計するところはたしかに大変ですが、結局は実務の再現なんですよね。

実務の第一線で活躍されている講師の方に1〜2時間程度時間をもらい「このアウトプットを出すためにどういうことをやっていますか?」とヒアリングして、ステップにしていきます。

あとは講師の方に事例を用意してもらい、講義では「その事例に当てはめて、このステップを踏むだけです」みたいな状態までにしています。

簡単なように聞こえますけど、相当すごいことをされています。

小川氏:
上池さんは品質保証をやられていたから、フレームにしていく作業が染みついている感じがします。

上池氏:
レトリックや感情が大事な業種でなければ、このやり方で社内教育は形になります。知財に限らず、契約書作成もいけると思います。

大切なことは、仕事のアウトプットを決めることです。

知財塾の講義は、順番に進めていけば材料が勝手に揃っていき、最後はそれをまとめる流れになっています。

小川氏:
知財塾の講義は頑張った分だけ力がつくので、社会人で知財をやっていて、伸び悩んでいる、成長している実感を得られていない人は、得るものが多くあると思います。僕は毎回授業が楽しいです。

知財塾の活動が本業に与える影響

知財塾代表としての活動は本業に影響を与えていますか?

上池氏:
教育カリキュラムを策定する知見は本業でも生きると思います。

また、本業だとなかなか身につかないものが、複業を通じて身についています。視座が上がったというか。物事を長期で考える訓練ができています。

あとは、お金まわりも気にするようになりましたね。

特許の仕事をやっていても「ここに価値が発生しているから、自分はこの給料をもらえている」「外部の弁理士さんと比較した時に、自分の方がコストが安くて社内のこともわかっているから価値がある」と考えるようになりました。

普通はそこまで思わないですよね。視座を上げろと言われても…。

上池氏:
「経営者目線を持て」とか「経営○○人材」とか世間でよく言われていると思うんですけれど、言われてできれば苦労はありません。経営者をやったうえで文句を言おうと思いまして(笑)。

実際、経営者をやっているのはものすごい説得力だと思います。複業によるマイナスの影響はありますか?

上池氏:
やることが増えるくらいです(笑)。土曜は潰れていますね。

そうなりますよね。本業と複業を両立するために心がけていることがあれば教えてください。

上池氏:
休むことです。体を大事に、いのちだいじに。サイボウズでは、いざというときには本業を休んで、複業の稼働を増やすこともできます。

今は本業の方も業務量をコントロールできる立場なので、忙しくなりすぎないように調整しています。

「自分が何をしたいか」を言語化し、キャリアの選択肢を広げる

最後に、キャリア選択に悩んでいる方に向けたメッセージをいただけますか。

上池氏:
自分がやりたいことを明らかにした方が良いと思います。

仕事を楽しくやりたい人は楽しくやれば良いし、楽しくなくてもお金が稼げればそれで良い、という人はそれでも別に良い。複業だって皆がやる必要はありません。

ただ、理想と現実のギャップがあると辛いので、「自分が何をしたいか」はちゃんと言語化したうえで、選択肢を持っておけるように手を広げておくのが良いと思っています。

知財塾で学ぶことは選択肢を広げることにつながりますか?

上池氏:
知財塾で実務を学んでもらうと、そのあとのキャリアにもつながっていくと思います。

実務を学ぶ楽しさを伝えていきたいですね。アウトプットが明確で仕事につながるので、経験値を貯めて強い敵を倒せるようになる。ゲームみたいで楽しいじゃないですか(笑)。

(写真:岩田 伸久、取材・文・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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