企業文化は戦略に勝る - 変革の時代における「企業文化調査」のすすめ

危機管理・内部統制
渡辺 樹一 一般社団法人GBL研究所

目次

  1. 今、企業が「企業文化調査」に取り組むべき理由
  2. 「企業文化調査」の具体的な実務
    1. 企業文化への直接的アプローチ
    2. 「企業文化(組織の在り方)のベンチマーク」と「組織の実態の見える化」
    3. 企業文化調査の要領とアンケートの様式
    4. アンケート結果のまとめ
    5. 適切な企業文化を醸成するまでのプロセス
  3. おわりに

 マネジメントの父、ピーター・ドラッカーは「企業文化は戦略に勝る(Culture eats strategy for breakfast)」という有名な言葉を残しています。また、経営学者のマイケル・ポーターは著書「競争の戦略」において、戦略の定義を次のように述べています。

  • 戦略とは、独自の地位を築くためのフレームである。
  • 戦略とは、競合よりも優位なポジションを築くためのフレームである。
  • 戦略とは、持続的な発展、持続的な競争優位を構築するためのフレームである。

 「戦略」が企業の持続的な成長に向かって発射されるロケットであるとするならば、「企業文化」は「戦略」の実現を図るための発射台、つまりこれら3要素を構築、実現するための土台であるといえるでしょう。企業文化の醸成や変革にいかに取り組んでいくかは、企業の未来を左右します。本稿では、従来、企業経営では焦点が当てられてこなかった「企業文化」に光を当て、「企業文化調査」を行う意義と目的、具体的手法をテーマにお話しします。なお、本稿は、【連載】「企業不祥事から学ぶ企業変⾰・組織開発への施策」の第9回を補完するものです。本稿と合わせて第9回をお読みいただければ幸いです。

今、企業が「企業文化調査」に取り組むべき理由

 上述の連載第9回では、今、企業が「企業文化調査」に取り組むべき理由等について以下の4つをお伝えしました。

(1)「組織文化」は「組織においてその構成員が共有する価値観・行動様式」をいい、「企業文化」は企業内の組織ごとに存する組織文化の集合体を意味する。


(2)企業が企業文化に取組む場合、障壁となるのは、企業文化そのものを担当する部門がないこと(企業文化から染み出てくる「従業員のコンプライアンス意識」は法務部等のコンプライアンス部門、企業文化から生み出される「従業員のエンゲージメント」は人事部門がおのおの担当し、企業文化から創り出される従業員の業務遂行上のビヘイビアは、内部監査部門が業務監査としてチェックしているが、これら3つのアプローチは、いずれも企業文化そのものまでに直接踏み込むものではない)。この障壁と課題を解決するのが、企業文化への直接的アプローチである「企業文化調査」である。


(3)現在、企業経営における企業文化の重要性が急激に高まっている。企業価値向上の観点からは、コーポレートガバナンスコード(以下「CGC」)基本原則2の後段にて提唱されている「取締役会・経営陣による企業文化・風土の醸成に向けてのリーダーシップの発揮」に加えて、①コロナ禍での組織開発の必要性や②ESG経営や第4次産業革命(DX)が叫ばれる中での、目指すべきビジネスモデル、経営戦略と保有人材、人材戦略の乖離の拡大、③CGC改訂に伴う多様性のある人材確保の重要性の増大という近時の3つの環境の変化から重要性が増していることがあげられる。また、企業価値の毀損防止の観点からは、従業員不正の背景的な原因として不健全な企業文化が多くの事例で指摘され、それが組織の生産性の低下や、不正の早期発見の困難さを誘発している事実があげられる。

 今、企業が「企業文化調査」に取り組むべき理由は、他にもあります。それは、企業文化の形成要素のうち企業が能動的に統制可能な要素を知り、それらの実態を把握し、実態に課題があればそれらに的確に対応することにより、企業価値の向上を実現する企業風土醸成の加速化が容易になるという理由です。以下、わかりやすく解説します。

 下記の2つの図は、組織運営上のどのような要素が企業文化を形作り、企業経営にどのような影響を与えているのかについて図解したものです。これらのうち企業が能動的に統制可能な要素であるグレーで示した3点について解説します。

企業文化の形成要素と企業経営への影響(その1)

 初めに1についてですが、「経営理念は立派だが組織に根付かず、形式だけが整えられている」、「組織創設の理念とかけ離れた行動が現場で横行している」、そういった現象は、不祥事を起こした企業でよく見られます。これは、「企業全体および各組織における行動文化の実態を把握し、会社の経営理念や行動指針との間に乖離がないかどうかを確認し、問題が存在する場合に、その原因を明らかにすることには大きな意義がある」ことを示唆するものです。乖離した行動文化が醸成されてしまう主たる要因として図にある3つが指摘されています。
 まず(1)の「明示的な倫理・行動基準の有無」ですが、経営者が役職員に期待する行動指針につき、社会からの期待や社会的要請も含めて明確にし、その期待との整合や乖離を表す観察可能な行動を明示することが理想的です。これらの不明確さが企業不祥事の発生やそれによる組織生産性の低下を招く場合があります。
 次に(2)の「数値目標達成へのプレッシャー」ですが、数値目標達成への合理的なプレッシャーが、従業員のアカウンタビリティを醸成する一方で、数値目標達成への過度なプレッシャーは経営理念や行動指針に反する従業員の行為を誘発させます。「こんな不条理な数字を押し付けるのならば数字を作るしかない。悪いのは上層部であり、私は悪くない。」といった心理です。
 最後に(3)の「業界や組織の慣行」ですが、業界や組織の慣行を旧来のまま引きずっている企業においては、往々にして説明責任の制度化を阻む企業文化があり、それは上層の組織階層への責任転嫁を容易にし、権限行使についての説明責任が問われないような企業文化を伴うことが多いです。それに対して、業界の慣行にかかわらず、自社の適切な組織慣行を経営トップの方針として明確化している企業には、ジョイントアカウンタビリティーが根付きます。これら3つの要素の良しあしにより、図にありますように、企業価値の向上に向かうのか、不正の誘発等により企業価値の毀損に向かうのかという方向性が定まると言えましょう 1

組織文化の形成要素と企業経営への影響(その2)

 次に3の「下層文化」ですが、管理職は上層、下層を問わず、自らの影響力が及ぶ範囲で下層文化を作ることがあり、それがその組織体や企業全体の文化と相いれない場合、企業体に様々な問題を発生させることとなります。管理職研修等によりハラスメントの防止も含め企業は対策を講じているわけです。
 最後に5の「役員間のコミュニケーション」ですが、経営上層部の役員が双方向、縦横無尽にコミュニケーションを深め、経営チームとして共創力を高めている状況は、企業価値向上を大幅に加速化させる可能性を高め、配下の組織文化・風土に多くのポジティブな影響を与えます。健全な企業文化醸成のために経営者が認識すべき非常に大切なポイントであり、また、社外取締役や監査役の監督、監査対象ともなりうる重要な項目です。

「企業文化調査」の具体的な実務

 それでは、本稿の結論に入ります。

企業文化への直接的アプローチ

 適切な企業文化を醸成するための最も効果的な方法は、ベンチマークにより明らかにした「『会社が期待する企業文化』に合致した役職員の価値観・行動文化を反映した組織の在り方」と「自社の役職員が実際に保持している価値観や行動文化が現れている組織の実態との乖離を測定、把握し、乖離が大きい事項については、その理由を明らかにするとともに解決方法につながる情報を従業員から集め、改善策を提案することであると考えます。
 実施者については、企業文化の実態に日頃接している人事部門、法務部門、内部監査部門がチームを組み(各事業部門の管理職の代表を加えるのも一考)、執行トップのスポンサーシップの下で実施することが考えられます。

「企業文化(組織の在り方)のベンチマーク」と「組織の実態の見える化」

 「企業文化調査」の具体的な実務の解説に入る前に、調査結果のイメージをつかんでいただきたいと思います。
 たとえば、ベンチマークする企業文化が連載第9回で述べた企業価値向上の企業風土を持つ企業文化であった場合には、下図の左に記載した通り、目標とする「組織の在り方」が6つの要素に分解されています。上から、「高い責任意識を育む組織」、「風通しの良い組織」、「多様性を活用する組織」、「例外対応ができる組織」、「個別最適より全体最適を優先できる組織」、「摩擦を乗り越えて相互理解が深化する組織」、の6つです 2。これに、上記の1で述べた、企業が統制可能な3つの要素を「組織の在り方」に転換した組織、すなわち、「下層文化が同化された組織」、「行動準則と実際の行動文化が同化された組織」、「執行役員間の良好なコミュニケーションがある組織」を加えた9のカテゴリーについての調査結果をレーダーチャート化し、それらを組織ごとに、また企業体全体として把握することが考えられます。

企業文化のベンチマークと実態の見える化(企業文化調査の成果物)

 レーダーチャート化するためには、これら9のカテゴリー(組織の在り方)についての実態を測定するための適切な質問群を設定することが肝要で、それさえできれば、カテゴリーごとの定量的な評価が可能となります。

企業文化調査の要領とアンケートの様式

 それではどのような要領で企業文化調査を行うのが良いのかということですが、下図が考えられます。
 下図に記載のうち、最も重要な項目は太字で下線を引いた(1)の執行トップのスポンサーシップの取得と(6)の「自由記入欄を設け、特に評価の低い項目にいては、「なぜそう思うのか」、「どうすれば良いと考えられるか」等についての従業員の意見を引き出す」というところです。企業文化調査では、評価の低い項目については、原因や課題、あるべき施策等に関する意見を、従業員に求め、従業員参加型の調査として次のステップ(施策の立案)につなげるというところがポイントとなります。

企業文化調査の要領

 アンケートの様式については、以下、表紙(趣旨説明)と回答欄の例としてあげましたのでご参考してください。

(参考)質問票のイメージ(サンプル)− 趣旨説明(表紙)

(参考)質問票のイメージ(サンプル)− 回答欄

 なお、上図の回答欄は企業文化を問う質問票の一部のみの例であり、実際には、自社の状況に合わせて、すべてのカテゴリー(本稿の例では9のカテゴリー)に及ぶような網羅性のある質問票を作成することが必要です。

アンケート結果のまとめ

見える化のイメージ(ヒートマップによる全体把握)

 上図は、質問票の回収結果をまとめたもので、部署ごとに作成し、評価項目ごとに結果の見える化を行う一例となります。ヒートマップを活用するのがわかりやすいです。評価(平均点)の縦の列が項目ごとの回答の評点分布の平均点ですが、1~5の平均が3ですから、3を下回った項目は、改善対象とすべき項目となるでしょう。ちなみに上図の組織については、評価結果から、高い責任意識を育む組織ではあるが、風通しの良さについては課題のある組織であることが浮き彫りにされています。

 また、上図は評価カテゴリーごと、部署ごとのまとめを行い、レーダーチャートで見える化したもので、部門ごとまでまとめたものの例です。一定程度360°評価の要素も入れると評価結果の精度を高めることができます。重要なポイントは、評価点もさることながら、図のブルーの欄に記載されることとなる従業員からの重要度の高いコメントや、緑色の欄に記載する、事務局のコメントや課題です。それらが施策を検討するための元となる情報となるわけです。

適切な企業文化を醸成するまでのプロセス

 適切な企業文化を醸成するまでのプロセスは、以下のようなものとなると思います。

  1. 企業文化調査の実施(質問票の配布と回収)
  2. 企業文化調査の結果のまとめとプロジェクトチームによる施策案の策定
  3. それらについての執行トップへの報告と施策案についての承認取得(施策案について施策担当部署以外の部署の実施事項が絡む場合(事業部門など)は、必要に応じて経営会議などに諮られることとなる)
  4. 企業文化調査の結果のまとめと施策についての取締役会への報告
  5. 企業文化調査の結果と施策についての従業員へのフィードバック(社員研修とセットで行うのが効果的)
  6. 施策に基づいた適切な企業文化の醸成
  7. 1年後等の企業文化調査の再実施、経年評価と取締役会への報告
  8. PDCAの実施

 繰り返しとなりますが、コーポレートガバナンスコードの補充原則2−2①では、「取締役会は、行動準則が広く実践されているか否かについて、定期的にレビューを行うべきである。その際には、実質的に行動準則の趣旨・精神を尊重する企業文化・風土が存在するか否かに重点を置くべきであり、形式的な遵守確認に終始すべきではない。」としており、上記の④と⑦における取締役会への報告はこのコードに沿ったものとなります。
 なお、下図は、調査結果を踏まえた、適切な企業文化醸成への施策例ですが、企業文化の組織の在り方の9のカテゴリーとのマトリックスとなっています。

適切な企業文化の醸成に向けた施策(例)

 上から見ていくと、まず「人事考課制度の見直し(共創マインド・共創プロセスの奨励と評価)」とありますが、実はこれが最も重要です。設定した9のカテゴリーのすべての評価が高くなるように従業員を誘い、期待に沿う従業員をより良く処遇するような人事考課制度とすることには大きな効果があります。
 なお、取締役会や経営陣のスポンサーシップをより強固な基盤とするために、企業文化調査結果の総合評点を役員報酬に反映させる非財務情報のKPIの一部として位置付けることが考えられます。従業員のエンゲージメントサーベイの結果を役員報酬のKPIの一部(たとえば5%~10%)としている企業が増え始めていますが、企業文化の総合評点の方が、企業価値向上との相関は格段に高いものと思料されます。

 次の「情報の体系化・共有化」、これは、インサイダー情報や営業機密などをしっかり分類したうえで、従業員のジョイントアカウンタビリティが醸成され、発揮されるべく、本来共有すべき情報のすべてが従業員に容易に共用できるような、必要に応じてITも駆使した職場環境を整えることが肝要です。その下の「期間限定の組織を跨る社内プロジェクトの推進」は、企業文化の全社的な健全化と企業価値の機動的な向上に大きく貢献する施策です。サステナビリティ委員会、リスクマネジメント委員会などの部門横断組織の設置は、全体最適に向けた施策としてすでに行われているものと思います。「部門を跨がる中堅社員チームによる、役員への社内改善策のプレゼンテーションの実施」は多くの企業で効果を上げているようです。1 on 1ミーティングはすでに定着している施策ですが、行うことが目的化してマンネリ化も起き始めており、ミーティング後のフォローアップに課題が出始めていると聞いています。

おわりに

 最後になりますが、企業文化は企業価値の原動力であり、健全な企業文化が定着すれば経営戦略は容易に浸透します。今こそ、企業文化に携わっている複数の部門(人事部門、法務部門、内部監査部門など)が、その総合力を発揮し、執行トップのスポンサーシップを得て、企業文化調査により企業の組織に存在し得る隠れた課題を発見してそれらに対する施策を求め、よりイノベーティブで生産性の高い企業文化の醸成に寄与すべきではないでしょうか。

問い合わせ先

合同会社御園総合アドバイザリー
代表社員 武田智行
t-takeda@misonosogo-advisory.jp
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  1. (1)と(3)が具現化する事例としては、たとえば談合や贈賄がある。ジョイントアカウンタビリティーについては、【連載】「企業不祥事から学ぶ企業変⾰・組織開発への施策」の第9回をご参照。 ↩︎

  2. 図では、「個別最適より全体最適を優先できる組織」、「摩擦を乗り越えて相互理解が深化する組織」を束ねる形で「組織の閉鎖性の弊害が克服された組織」としているが、「組織の閉鎖性の弊害」については、【連載】「企業不祥事から学ぶ企業変⾰・組織開発への施策」の第7回をご参照。 ↩︎

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