海外市場で販売を行うために販売店・代理店を選任する場合の留意点

国際取引・海外進出

 海外市場で自社の商品を販売するために、現地の企業を自社の販売店・代理店として選任して営業活動を行ってもらいたいと考えています。海外市場で販売店・代理店を選任する場合には、どのような点に注意すればよいでしょうか。

 販売店・代理店は、異なる法的性質・経済的機能を有していますので、自社のニーズに合わせて適切な形態を選択することが必要となります。

 また、両者に適用される規制は、当該海外市場国の法令(たとえば、独占禁止法や代理店保護法等)となるため、販売店・代理店を選任する際には当該国の法令調査を行ったうえで、適切な内容の販売店契約・代理店契約を締結することが望ましいといえます。

解説

目次

  1. 販売店(ディストリビューター)の法的性質・経済的機能
  2. 代理店(エージェント)の法的性質・経済的機能
  3. 販売店・代理店のどちらの形態でも留意すべき点
    1. 独占権の設定
    2. 総代理店に関する独占禁止法上の規制
    3. 並行輸入の不当阻害に関する独占禁止法上の規制
  4. 代理店(エージェント)の場合(販売店の場合もありえる)に留意すべき規制
    1. 代理店保護法が制定されている地域における規制
    2. 代理店契約を終了しようとする場合に、補償や損害賠償を求められる地域における規制
  5. まとめ

 国際取引において、自社の海外拠点を設置するのは多額の資金を伴うため、海外の現地企業と提携して、自社商品の市場開拓や販売促進を任せる場合があります。このような現地企業を「販売代理店」「特約店」等と呼ぶことがありますが、法律的には、販売店(ディストリビューター)にあたる場合と代理店(エージェント)にあたる場合がありますので、両者を混同しないようにしなければなりません。両者は以下のような法的性質・経済的機能を有していますので、自社のニーズに合わせて適切な形態を選択することが必要となります。

販売店(ディストリビューター)の法的性質・経済的機能

 販売店(ディストリビューター)は、売主から一定の商品を一定の販売地域で販売をする権利を得て、自己の名前と計算で、その商品を販売地域の顧客に販売します。売主と販売店との間では、販売店契約が締結されます。そして、販売店契約においては、①売主と販売店(買主)との間の商品の売買の条件を規律する条項と、②販売店が売主のために販売活動を行う際の権利義務を規律する条項が定められます。また、販売店と顧客との間では別途商品に関する売買契約が締結されます。

 このように、販売店は、売主から購入した商品を顧客へ転売するため、商品の転売差益を得ることになります。他方、販売店は自己のリスクで商品を売主から購入して、顧客に販売するため、商品の在庫リスクと商品代金の回収リスク(顧客の信用リスク)を負うことになります。

 また、販売店は顧客からの商品に関するクレームについて、商品に関する売買契約の売主としての責任を負うことになります。もしこのような商品クレームについて、販売店が売主に対して遡って請求をすることができない場合には、販売店においてこのリスクを負担することになります。

販売店に関する法律関係

販売店に関する法律関係

代理店(エージェント)の法的性質・経済的機能

 代理店(エージェント)は、本人(売主)の商品の販売を拡大するために、本人と顧客との間で商品販売契約の媒介または代理を行います。本人と代理店の間では、代理店契約が締結され、代理店が本人のために販売活動を行う際の権利義務を規律する条項が定められます。また、商品の売買契約は、本人と顧客との間に直接に成立します。

 このように、代理店は、自己が関与した取引に関して一定の料率で計算した手数料(コミッション)を報酬として得ることとなります。また、この場合、代理店は商品の売買契約の当事者とならないため、別段の合意をしないかぎり、商品の在庫リスクや商品代金の回収リスク(顧客の信用リスク)を負いません。さらに、顧客からの商品に関するクレームについても、別段の合意をしないかぎり、本人が責任を負うことになります。

代理店に関する法律関係

代理店に関する法律関係

 なお、業界や商品によって、販売店や代理店の期待利益の水準は異なりますが、販売店の方が大きなリスクを負うため、その分、得られる利益水準を高い水準で想定していることが多いように思われます。

 以上のように、典型的な販売店(ディストリビューター)と代理店(エージェント)の違いは次の通りとなります。

販売店と代理店の違い

販売店(ディストリビューター) 代理店(エージェント)
顧客との法律関係 売買契約の当事者となる 本人(売主)が契約当事者であり、あくまで媒介や代理
在庫リスク 販売店 本人(売主)
代金回収リスク 販売店 (代理店が負うのでなければ)本人(売主)
販売店のマージン 転売差益 手数料(コミッション)
商品に関する責任 売主および販売店 本人(売主)

販売店・代理店のどちらの形態でも留意すべき点

独占権の設定

 販売店・代理店どちらの形態においても、一定の商品に関して一定の地域において専属的な独占権を与えるべきかは重要な決定事項となります。独占権を与える場合には、売主(本人)は、自己の商品について、一定の領域内において他の者に販売させないようにする義務を負います。また、売主(本人)自身も販売できないという義務を負うことを合意する場合もあります。なお、契約書上、独占代理権の設定と記載しただけでは、売主(本人)自身による販売も規制されるかは明確ではないため、その点を明記することが望ましいです。

 このように独占権を与える場合には、自己の販売チャンネルを限定することになるため、販売数量について一定のコミットメントを求める等、販売拡大という目的を達成できない場合に専属的な独占権を解除することができるようにしておくべきです。

総代理店に関する独占禁止法上の規制

 販売店・代理店に独占権を与える場合には、販売店・代理店の販売地域の独占禁止法に抵触しないかを検討する必要があります。特に、かかる契約の条項が独占禁止法上違法となる場合には、(現地法の規制によるものの)当該条項は無効、執行不能となることがあるため、そのような規制に抵触しないように注意が必要となります。

 たとえば、日本の独占禁止法においては、ある事業者に日本国内市場全域を対象とする一手販売権を与える場合(かかる販売店を「総代理店」といいます)には、以下の点が独占禁止法上問題となります(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」第三部第1「総代理店契約の中で規定される主要な事項」)。

  1. 総代理店または総代理店から購入して販売する事業者(以下「販売業者」といいます)の販売価格(再販売価格)を制限すること
  2. 総代理店または販売業者の競争品の取扱いを制限すること(特に、契約終了後において制限すること)
  3. 総代理店または販売業者の販売地域に関して制限すること
  4. 総代理店または販売業者の取引先を制限すること
  5. 総代理店または販売業者の販売方法を制限すること

 日本の独占禁止法とまったく同じ規制が販売地域の独占禁止法に定められているとは限りませんが、このような制限を設けようとする場合には留意する必要があります。たとえば、販売店契約の場合に、売主が販売店への売却後にも、販売店から顧客への販売価格を拘束することは、国によって違法となる可能性がある(そのため、そのような事項を検討している場合には法令調査を行うことが望ましい)と考えておくべきでしょう。

並行輸入の不当阻害に関する独占禁止法上の規制

 並行輸入の不当阻害も独占禁止法上の問題となる場合があります。すなわち、総代理店契約が輸入品について行われる場合において、第三者が契約当事者間のルートとは別のルートで契約対象商品(商標権を侵害しないいわゆる真正商品を前提とします)を輸入することがあります。このような真正商品が並行輸入されて販売されると価格競争を促進し、商品価格が下落することになります。そのため、総代理店としてはこのような真正商品を阻害したくなることがありますが、そのような行為は、日本の独占禁止法においては、以下の点で問題となります(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」第三部第2「並行輸入の不当阻害」)。このような制限についても留意しておくべきと考えられます。

  1. 海外の流通ルートからの真正商品の入手を妨害すること
  2. 販売業者に対して並行輸入品の取り扱いを制限すること
  3. 並行輸入品を取り扱う小売業者に対して契約の対象とする商品の販売を制限すること
  4. 並行輸入品を偽物扱いすることによって販売を妨害すること
  5. 並行輸入商品を買い占めること
  6. 並行輸入品の修理などを拒否すること
  7. 並行輸入品の広告宣伝活動を妨害すること

代理店(エージェント)の場合(販売店の場合もありえる)に留意すべき規制

代理店保護法が制定されている地域における規制

 日本には代理店を保護する特別の法令はありませんが、日本国外ではその地域の代理店(国によっては販売店を含む)を保護するために、代理店保護法が制定されている場合があります。かかる法令は、契約の性質上、外国企業(本人)より弱い立場に置かれやすい自国の事業者(代理店・販売店)を保護することを目的としています。そのため、代理店保護法は、代理店の選任や代理店契約の終了等の場合について契約の内容を上書きする効力を有する場合があります

 たとえば、アラブ中東諸国や中南米の代理店保護法においては、該当国において代理店(販売店)を選任する場合にはその代理店(販売店)を当局に対して登録する必要があり、また、登録を変更する場合には代理店(販売店)の関与が必要とされる場合があります。このような法令がある地域においては、一度代理店(販売店)を選任してしまうと変更することが困難になるため、選任の段階から注意を払う必要があります

代理店契約を終了しようとする場合に、補償や損害賠償を求められる地域における規制

 期間満了・不更新・最低購入義務の不達成等により本人から代理店契約を終了しようとする場合に、補償や損害賠償を求められる地域もあります。これは代理店の努力によって現地市場が開拓された後に、本人が代理店を外して直接取引を行うことを制限し、代理店に対して正当な利益を保証することを目的とするものです。

 たとえば、EUにおいては、代理店についての法律を域内各国で統一するために、理事会指令86/653/EEC(1986年12月18日付)が制定されており、各加盟国においては当該指令に基づいて代理店保護法を制定することが求められています。当該指令に示されたEUのモデル法においては、代理店との間の契約期間に応じて解除のための通知期間が延長されており、また契約の終了にあたり本人に対して一定の補償を求めることができることとなっています。

 代理店保護法は国によってその内容が異なるため、代理店(販売店)を選任する際には当該国の法令を調査することが望ましいといえます。

まとめ

 上記のように法的な留意点を述べてきましたが、販売店・代理店に関してもっとも重要なのはその地域において十分な販売能力を有するかという点です。販売店・代理店の販売能力をよく調査することなく選任してしまった後に、販売促進が十分になされず、また、販売店・代理店との契約を解消することもできないという事態に陥ることはよくあるトラブル類型といえます。

 実務的には、販売店・代理店の販売能力を確認したうえで、上記のような法的性質および経済的機能を踏まえて、自社のニーズに合わせて適切な形態を選択することになります。また、実務においては、上記のような典型的な販売店・代理店の形態だけではなく、両者の中間のような形態で取引を行うこともあるため、少なくとも上記のような法的規制により問題が生じないかを検討する必要があります。

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する