損害論の審理における損害額の立証手段

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 特許権侵害訴訟の損害論の審理において、損害額の立証をするためにはどういった手段がありますか。

 原告による特許権侵害が認められ、審理が損害論に進む場合、必要に応じて、原告において、その主張を整理し、また、関連証拠を提出することもあります。
 そのうえで、原告の主張に対して、被告から認否・反論がなされます。その反論に先立ち、あるいは同時に、裁判所から、被告に対しては、任意の資料開示が促されることが通常です。仮に、任意の開示がなされない場合には、文書提出命令の申立ても可能ですし、開示された資料の評価のために、計算鑑定人が選任されることもあります。

解説

目次

  1. 損害論とは
  2. 損害額の立証のための手段
    1. 書類提出命令(特許法105条)
    2. 計算鑑定(民事訴訟法213条、特許法105条の2)
    3. 裁判所による相当損害額の認定(特許法105条の3)

損害論とは

 特許権侵害訴訟において、損害賠償請求を求める場合、東京地方裁判所知的財産権部(民事第29部・第40部・第46部・第47部)および大阪地方裁判所知的財産権専門部(第21民事部・第26民事部)のいずれも、原則として2段階審理方式を採用しています(なお、差止請求のみを求める場合には、下記の第1段階の侵害論のみでその帰趨が定まります)。

 第1段階は「侵害論」と呼ばれ、特許権侵害の有無を判断する段階です。侵害が認められる場合には、損害論に進みますが、侵害論が認められない場合には、審理を終了し、原告の請求は棄却されます。侵害論の詳細は「特許権侵害訴訟の流れ」を参照ください。

 第2段階は「損害論」と呼ばれ、特許権侵害を前提としたうえで、これにより生じた損害額を認定する段階です。損害論の詳細は「損害論の審理の進行とは」を参照ください。

 東京地方裁判所は、特許権侵害訴訟の審理モデルを公開しており、判決までの全8回の弁論準備期日のうち、5回を侵害論(心証開示を含みます)にあて、残りの3回を損害論の審理にあてることを想定しています(参照:東京地方裁判所「特許権侵害訴訟の審理要領」)。

特許権侵害訴訟の審理モデル(損害論)
第6回弁論準備手続期日 原告 ①請求の整理(根拠規定の変更の有無などの検討)
②利益額等の主張
被告 ①原告の損害額の主張に対する認否、反論
②整理された請求を前提に譲渡数量額等の開示
第7回弁論準備手続期日 原告 ①原告・被告の主張した数額等に基づいた損害額の主張の整理
②(原告の主張した数額等について争いがあれば)当該数額等の裏付け資料の提出
被告 ①(被告の主張した数額等について争いがあれば)当該数額等の裏付け資料の提出
②原告の損害額の主張に対する反論および被告の主張(抗弁)
第8回弁論準備手続期日 原告 被告の主張に対する反論および立証の補充
被告 原告の反論に対する再反論および立証の補充

(出典:東京地方裁判所「特許権侵害訴訟の審理要領」を参考に作成)

損害額の立証のための手段

 特許法は、権利者による損害額の立証を容易とするために、①書類提出命令、②計算鑑定、③裁判所による相当損害額の認定等の各種手段を用意しています

書類提出命令(特許法105条)

 特許法105条1項は、特許権侵害訴訟において、当事者の申立てにより、裁判所が、侵害行為について立証するため、または、侵害行為による損害の計算をするために必要な書類の提出を命ずることができる旨を定めており、民事訴訟法220条以下の特則です(なお、本稿では、侵害立証のための書類提出命令に関する説明は割愛します)。

 これに対して、相手方は「提出を拒むことについて正当な理由」がある場合には、書類の提出を拒むことができますが(特許法105条1項ただし書)、その判断をするために必要な場合には、裁判所は、裁判所限りにおいて、その書類の提示を求めることができます(特許法105条2項。いわゆる「インカメラ手続」)。そして、相手方が正当な理由なく書面提出を拒否した場合には、 当該文書の記載に閲する申立人の主張を事実と認めることができます(民事訴訟法224条)。

 なお、上述のとおり、特許法105条2項は、ある書類の「提出を拒むことについて正当な理由」の有無の判断についてのみ、インカメラ手続を定めていますが、当該書類が「損害の計算をするため必要な書類」であるかについては、その申立人が疎明する必要があり、インカメラ手続の対象外でした。
 しかし、実務上は、ある書類が、「損害の計算をするため必要な書類」であるかについて、裁判所がこれを見たうえで判断することが適切な場合があります。そこで、2019年7月1日に施行 1 される改正特許法105条2項では、「損害の計算をするため必要な書類」であるかの判断についても、インカメラ手続を用いることができるようになります。また、このインカメラ手続には、裁判所が必要と判断した場合に、当事者の同意の下、民事訴訟法上の専門委員が関与できるようになり、より実効的な判断を下すことが可能となります(改正特許法105条4項)。

計算鑑定(民事訴訟法213条、特許法105条の2)

 実務上、被告から、会計帳簿等や売上台帳等が開示されることは少なくありませんが、これらの書類については、量が多く、また、その正確な分析・理解のためには、経理・会計に関する専門的な知識が必要となる場合もあります。
 このような場合には、原告の申立てにより、民事訴訟法上の鑑定人(民事訴訟法213条)として、公認会計士等の計算鑑定人が選任されることがあります。なお、 東京地方裁判所および大阪地方裁判所の知的財産権専門部では、日本公認会計士協会の協力を得て、公認会計士からなる鑑定人名簿を作成して、損害計算のための鑑定の態勢を整備しています。
 また、 特許法は、当事者に対して、 裁判所の選任した鑑定人に対する説明義務を課すことで(特許法105条の2)、 鑑定の実効性を担保しています。

裁判所による相当損害額の認定(特許法105条の3)

 特許法105条の3は、 損害が生じたことが認められる場合において、 損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上きわめて困難であるとき、裁判所が、口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果にもとづき、相当な損害額を認定することができると定める規定です。 同条の適用がある場面としては、次の場面が想定されています(参照:特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕」(2017年3月))。

  1. 侵害行為があったため、製品の値下げを余儀なくされた場合
  2. 製品に対する特許発明の寄与度の算定が困難な場合
  3. 一部の地域における侵害品の販売数量は立証できたが、さらにそれ以外の地域の販売数量を立証しようとすると相当コストがかかってしまい、一定の努力を払ってもなおすべてを証明することがきわめて困難である場合

  1. 不正競争防止法等の一部を改正する法律(平成30年法律第33号) ↩︎

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