特許権侵害訴訟の提起と訴状の記載事項
知的財産権・エンタメ特許権侵害訴訟を提起したいと考えていますが、管轄裁判所はどこになりますか。また、特許権侵害訴訟の訴状には、どのような内容を記載すればよいのでしょうか。
特許権侵害訴訟は、当該事件の土地管轄に応じて、東京地方裁判所または大阪地方裁判所に提訴する必要があり、専門部である知的財産部が審理を担当します。
特許権侵害訴訟の訴状には、当事者の表示などのほか、請求の趣旨と、その理由を記載する必要があります。なお、訴えを提起するには、訴額に応じた手数料を納付しなければなりません。
解説
特許権侵害訴訟の管轄裁判所
特許権、実用新案権、回路配置利用権またはプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」といいます)については、民事訴訟法において、専属管轄が定められています(民事訴訟法6条1項)。
同条項によれば、特許権等に関する訴えについては、下記高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所が管轄権を有する事件は、東京地方裁判所の専属管轄に属するとされています。
- 東京高等裁判所
- 名古屋高等裁判所
- 仙台高等裁判所
- 札幌高等裁判所
同様に、下記高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所が管轄権を有する事件については、大阪地方裁判所の専属管轄に属するとされています。
- 大阪高等裁判所
- 広島高等裁判所
- 福岡高等裁判所
- 高松高等裁判所
東京地方裁判所および大阪地方裁判所に係属した特許権等に関する訴えは、知的財産権に関する訴訟を専門的に取り扱う知的財産部において審理されます。現在、東京地方裁判所知的財産権部では、民事第29部・第40部・第46部・第47部が、大阪地方裁判所知的財産権専門部では第21民事部・第26民事部が専門に取り扱っています。
特許権侵害訴訟の訴状の記載事項
特許権侵害訴訟の訴状には、当事者の表示などのほか、何を請求するのかということと(請求の趣旨)と、その根拠(請求の理由)を記載する必要があります(民事訴訟法133条2項等)。
請求の趣旨
特許権侵害訴訟において請求することができる事項、つまり、請求の趣旨に記載する事項は、大きく、侵害行為の差止と損害賠償の2つに分かれます。また、差止請求は、より具体的には、発明の実施行為を禁止する不作為請求と、製品や生産設備の廃棄といった作為請求に分かれます。
これらの請求は常に全部をしなければならないわけではなく、事案に応じてその両方または一方のみが請求されることになります。たとえば、訴え提起時に既に被疑侵害品の販売が終了しているような場合や、特許権の存続期間が満了している場合には損害賠償のみが請求されますし、差止だけで目的を達することができるようなケースでは差止のみが請求されることもあります。
請求の理由
請求の理由としては、原告の特許と被告の製品・方法とを対比するとともに、被告が侵害製品を製造販売したり、侵害方法を使用したりしている事実を特定することにより、特許権侵害がなされていることを具体的に記載する必要があります。
さらに、損害賠償請求をする場合には、損害の計算根拠も記載することになりますが、訴状段階での損害計算は、概括的記載にとどまることもよくあります。
手数料の算定方法
訴状を提出する際には、裁判所に法律で定められた手数料を納付しなければならず、通常は収入印紙を訴状に貼付して納付します。ただし、手数料の額が100万円を超える場合には、収入印紙ではなく現金での納付が可能です(民事訴訟費用等に関する法律8条)。
手数料は、その訴訟の値段である訴額によって決まり、損害賠償請求については、請求額が訴額となります(民事訴訟費用等に関する法律4条1項、民事訴訟法8条1項)。
他方、差止を求める場合における訴額の算定基準は、下記のいずれかとなります(参照:東京地方裁判所「知的財産権法に基づく請求等の訴額の算定基準」)。
- 原告の訴え提起時の年間売上減少額×原告の訴え提起時の利益率×権利の残存年数×8分の1
- 被告の訴え提起時の年間売上推定額×被告の訴え提起時の推定利益率×権利の残存年数×8分の1
- (年間実施料相当額×権利の残存年数)-中間利息
差止と損害賠償の両方を請求する場合には、それぞれにつき算定された訴額のうち多額である方を基準に訴訟印紙の額が算出されます(民事訴訟費用等に関する法律4条3項)。
その他検討すべき事項
訴訟と並行または先立って、特許権侵害品の販売の禁止を求める仮処分を申し立てるべきかについても検討する必要があります。
特許権侵害訴訟の訴え提起後の流れについては、「特許権侵害訴訟の流れ」を参照ください。

弁護士法人イノベンティア 東京事務所
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