特許権侵害訴訟を提起された被告の防御方法(2)- 侵害論における抗弁
知的財産権・エンタメ 公開 更新特許権侵害訴訟を提起された被告の防御方法として、侵害論の段階ではどのような主張があるか教えてください。
特許権侵害訴訟において、被告は、原告(特許権者等)の請求原因事実の否認、または、これら事実と両立する抗弁事実の主張立証により、原告の主張を退けることができます。 侵害論の段階で考え得る抗弁としては、文言侵害・均等侵害の成否に関するもの以外では、①権利消滅の抗弁、②権利喪失の抗弁、③特許無効の抗弁、④特許権の効力制限、⑤実施権の存在、⑥特許権の消尽等があります。
解説
審理構造
特許権侵害訴訟は、一般的に、特許権侵害の有無について議論する侵害論と、特許権侵害が認められることを前提として、具体的な損害額を議論する損害論の2段階に分かれます。
仮に、原告(特許権者または専用実施権者)による被告(被疑侵害者)に対する請求が特許権侵害に基づく差止請求である場合には、侵害論の終了により、訴訟も終結します。他方、損害賠償請求の場合、侵害論で侵害が認められたときには、損害論まで審理が継続します。
侵害論 | 損害論 | |
---|---|---|
特許権侵害に基づく差止請求 | 差止請求、損害賠償請求のいずれでも審理される | - |
損害賠償請求 | 侵害論で侵害が認められた場合に審理継続) |
侵害論における抗弁
侵害論に関しては、次の各抗弁を主張することが可能です。これら事実が認められる場合には、原告の請求は棄却されます(なお、文言侵害・均等侵害に関しては、「特許権侵害訴訟を提起された被告の防御方法(1)- 侵害に関する請求原因事実の否認」で述べたとおりであり、割愛します)。
- 権利消滅の抗弁
- 権利喪失の抗弁
- 特許無効の抗弁
- 特許権の効力制限
- 実施権の存在
- 特許権の消尽 等
権利消滅の抗弁
被告は、原告の特許権の消滅を抗弁として主張可能です。消滅事由としては、たとえば、有効期間の経過が考えられます。特許権は、出願の日から20年間のみ有効なため(特許法67条1項)、出願の日の翌日から20年が経過していれば無効となります。
ただし、医薬品関連の特許については、特許延長の出願がなされていれば、最大5年間、その有効期間が延長されている可能性があるため留意が必要です(特許法67条4項)1。詳細は「特許権の存続期間延長登録とは」「特許法67条4項により延長登録された特許権の効力の及ぶ範囲」を参照ください。
権利喪失の抗弁
被告は、原告が特許権を事後的に喪失したことを主張可能です。その典型例としては、特許権の譲渡があった場合です。なお、特許権の譲渡が効力を有するためには、移転登録が必要ですので(特許法98条1項1号)、特許公報の記載を確認することが重要です。
特許無効の抗弁
原告が権利行使をしている特許権について、特許無効理由がある場合には、特許無効の抗弁を主張することができます(特許法104条の3)。無効理由としては、新規性・進歩性の欠如あるいは記載要件違反等がよく主張されます(参照:「特許無効の抗弁とは」)。
なお、近時、審決取消訴訟に関して、知財高裁平成30年4月13日判決・平成28年(行ケ)第10182号等は、次のとおり、進歩性の主張立証責任について判断をしました。本判決は、特許無効の抗弁を主張する際の主張立証責任を直接判示していませんが、同様に考えられると思われます。
特許権の効力の制限
特許権は、特許権者に独占排他権を与えるものの、他方で、無制限の独占を許すことが必ずしも望ましくない場面があるため、特許法69条等において特許権の効力の制限が定められています。たとえば、特許法69条1項では、試験・研究のための特許発明の実施について、特許権の行使が制限されています。
実施権の存在
被告が特許発明の実施権を有する場合には、実施権の範囲内の実施は、特許権侵害を構成しません。実施権には、法定実施権と、約定実施権(契約による実施権)があります。
法定実施権として、実務上重要なのは先使用権(特許法79条)です(参照:「先使用による法定通常実施権とは」)。他方、約定実施権としては、専用実施権(特許法77条)や、通常実施権(特許法78条)等の種類があります(参照:「特許発明の実施権の類型」)。
特許権の消尽
特許法には明示されていませんが、実務上、特許発明の実施品がいったん適法に流通に置かれたときは、その実施品をさらに第三者に販売する行為には特許権の効力は及ばないと考えられています(これを「特許権の消尽」といいます。参照:「特許権の消尽(国内消尽)とは」)。
そのため、たとえば、侵害が疑われる特許権の対象が物の発明である場合であり、その発明の実施品を被告が入手して使用している場合、原告がこれを流通においたとの事情があるときには、被告は、消尽を主張し、特許権侵害の主張を退けることができます。
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環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)が、2018年12月に施行されたことにより、条文番号が特許法67条2項から同条4項に変更となりました。 ↩︎

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