損害論の審理の進行とは

知的財産権・エンタメ

 特許権侵害訴訟において、損害論の審理はどのように進行しますか。

 原告による特許権侵害が認められ、審理が損害論に進む場合、必要に応じて、原告において、その主張を整理し、また、関連証拠を提出することもあります。
 そのうえで、原告の主張に対して、被告から認否・反論がなされます。その反論に先立ち、あるいは同時に、裁判所から、被告に対しては、任意の資料開示が促されることが通常です。
 以上のプロセスを経て、主張立証が尽きたと裁判所が判断した場合には、弁論準備手続および弁論が終結し、判決が言い渡されることになります。もっとも、弁論準備手続および弁論を終結する前に、裁判所から和解勧奨がされ、和解の協議がされることもあります。

解説

目次

  1. 損害論とは
  2. 原告による主張・証拠提出
    1. 請求原因事実
    2. 原告による主張の整理
  3. 被告による主張・資料提出
    1. 被告による認否反論
    2. 被告による資料開示
  4. 損害論の終結

損害論とは

 特許権侵害訴訟において、損害賠償請求を求める場合、東京地方裁判所知的財産権部(民事第29部・第40部・第46部・第47部)および大阪地方裁判所知的財産権専門部(第21民事部・第26民事部)のいずれも、原則として2段階審理方式を採用しています(なお、差止請求のみを求める場合には、下記の第1段階の侵害論のみでその帰趨が定まります)。

 第1段階は「侵害論」と呼ばれ、特許権侵害の有無を判断する段階です。侵害が認められる場合には、損害論に進みますが、侵害論が認められない場合には、審理を終了し、原告の請求は棄却されます。侵害論の詳細は「特許権侵害訴訟の流れ」を参照ください。

 第2段階は「損害論」と呼ばれ、特許権侵害を前提としたうえで、これにより生じた損害額を認定する段階です。

 東京地方裁判所は、特許権侵害訴訟の審理モデルを公開しており、判決までの全8回の弁論準備期日のうち、5回を侵害論(心証開示を含みます)にあて、残りの3回を損害論の審理にあてることを想定しています(参照:東京地方裁判所「特許権侵害訴訟の審理要領」)。

特許権侵害訴訟の審理モデル(損害論)
第6回弁論準備手続期日 原告 ①請求の整理(根拠規定の変更の有無などの検討)
②利益額等の主張
被告 ①原告の損害額の主張に対する認否、反論
②整理された請求を前提に譲渡数量額等の開示
第7回弁論準備手続期日 原告 ①原告・被告の主張した数額等に基づいた損害額の主張の整理
②(原告の主張した数額等について争いがあれば)当該数額等の裏付け資料の提出
被告 ①(被告の主張した数額等について争いがあれば)当該数額等の裏付け資料の提出
②原告の損害額の主張に対する反論および被告の主張(抗弁)
第8回弁論準備手続期日 原告 被告の主張に対する反論および立証の補充
被告 原告の反論に対する再反論および立証の補充

(出典:東京地方裁判所「特許権侵害訴訟の審理要領」を参考に作成)

原告による主張・証拠提出

請求原因事実

 不法行為(民法709条)にもとづき、損害賠償請求をする場合、原告は、その損害額を主張立証する必要があります。このうち、特許権侵害に関しては、被告の侵害により何らかの支出をしたこと(積極損害)よりも、むしろ、被告の侵害により得ることができなかった逸失利益(消極損害)が重要な損害項目です。

 もっとも、逸失利益はあくまでも、将来的な予測にとどまり、しかも、マーケットにおける競合状況や、営業努力、需要者の嗜好等の多種多様な要素による影響を勘案する必要もあるため、特許権者の立証は必ずしも容易ではありません。
 そこで、特許法は、次のとおり、特許権者が損害賠償請求をする際の損害額の算定・推定規定を設けています(特許法102条)。

(損害の額の推定等)
第102条 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

 その結果、特許権者は、次のいずれかの手段により、損害額を主張できます。

  1. 特許法102条1項にもとづき、被告製品の販売数量を自らが販売できたものとして、損害額を算定する
  2. 特許法102条2項にもとづき、被告の利益額を原告の利益額を損害額とする
  3. 特許法102条3項にもとづき、ライセンス料相当額を損害額とする
  4. 民法709条にもとづき、得べかりし利益を損害額とする

原告による主張の整理

 原告は、訴訟提起に際して、損害の発生および損害額について、すでに整理をしたうえで主張をしていることが一般的です。もっとも、侵害論における被告の認否の内容等によっては、これまでの主張の維持が難しくなることもあり、また、より適切な構成が見出されることも少なくありません。心証開示を受けて、請求の拡張または減縮をすることも考えられます。

 そのため、裁判所による心証開示後、必要に応じて、原告において、その主張を整理し、また、関連証拠を提出することもあります

被告による主張・資料提出

被告による認否反論

 被告の側では、原告が主張する損害論に関する事実について、これまでに十分な認否をしていないのであれば、この時点で認否をします。加えて、後述する、被告による資料提出と並行して、あるいは、これに先立ち、被告から、原告の主張に対する法的な反論をします

 たとえば、原告の主張が、①特許法102条1項にもとづく場合には、その損害額は次の式で計算されます。

損害額=被告による侵害物件の譲渡数量×原告の単位数量あたりの利益(≦原告の実施能力)-原告が販売できない数量に相当する利益

 これに対して、被告は、一般的に、自己の譲渡数量や原告の単位数量あたりの利益額を否認し、また、原告の主張額が、原告による実施能力の範囲を超えることや、譲渡数量の全部または一部に相当する数量を原告が販売することができない事情を主張します。

 また、仮に、原告の主張が、②特許法102条2項にもとづく場合には、その損害額は、次の額と推定されます。

損害額=被告が侵害行為により利益を受けた額

 もっとも、原告に対する損害の発生自体は推定されないため、被告は、損害の不発生を主張できます。

 また、特許法102条2項の適用には、特許権者による自己実施は不要であるものの、他方で、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」(知財高裁平成25年2月1日判決・判時2179号36頁)が存在することが必要ですので、被告の対応としては、その存在を否認することも考えられます。

 さらに、同項は推定規定にとどまるため、推定の覆滅事由を主張することで、推定額の認定を妨げることが考えられます。

被告による資料開示

 もしも、原告が主張する、被告製品の販売数量や、販売額、利益額等を被告が否認するのであれば、それを根拠づける資料提示が求められることが一般的です。被告がこれらの資料を任意に開示するのであれば、当該資料をもとに、原告は、さらなる主張をすることになります。
 他方、仮に、被告が任意の開示を拒む場合、または、その開示が不十分な場合、原告の申立てにより、「損害論の審理における損害額の立証手段」にあるように文書提出命令(特許法105条)の発令等が検討されます。

損害論の終結

 上記の原告・被告の主張や資料提出の状況を踏まえて、裁判所が、原告・被告双方の主張が尽きたと判断した場合には、弁論準備手続および弁論を終結し、判決が言い渡されることになります。なお、弁論準備手続および弁論を集結する前に、裁判所から和解勧奨がされ、和解の協議がされることもあります。

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