民泊管理事業者に参入する場合の登録方法
取引・契約・債権回収当社では、新規ビジネスとして、民泊の管理事業者への参入を検討しています。管理事業への参入には登録が必要とのことですが、どのような条件がありますか。
2017年6月に公布された、いわゆる民泊新法(正式名称は住宅宿泊事業法)は、これまで固有の法規制のなかった民泊事業を正面から規制する立法で、旅館業法の特則と位置付けられています。同年10月には施行令・施行規則(住宅宿泊事業法施行規則、国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則、厚生労働省関係住宅宿泊事業法施行規則)が、12月には住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)が公表されました。民泊新法の施行は、2018年6月15日です。民泊に関しては、この他に地方条例で規律される事項も多いため、規制内容を正確に確認するためには、法律以外の確認も欠かせないので注意が必要です。
民泊の管理事業者には、事前の登録が義務付けられており、登録申請は民泊制度運営システムを利用します。登録された場合の有効期間は5年間で、5年ごとの更新が必要です。民泊新法25条1項各号のいずれかに該当する場合、申請書・添付書類の重要事項について虚偽記載がある場合あるいは重要な事実の記載が欠けている場合、登録は拒否されます(民泊新法25条1項)。
解説
民泊の管理事業とは
民泊新法では、民泊サービスを提供する事業者(個人、法人の区別を問いません)である住宅宿泊事業者から委託を受けて、報酬を得て、住宅宿泊管理業務を行う事業を住宅宿泊管理業と定め、これを行う事業者(住宅宿泊管理業者)に、国土交通大臣による、事前の登録を義務付けています(民泊新法2条6項・7項、22条1項)。
「住宅宿泊管理業務」とは、以下の各業務 および住宅宿泊事業の適切な実施のために必要な届出住宅の維持保全に関する業務をいいます。
義務の項目と根拠条文 | 主な義務の内容 |
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宿泊者の衛生の確保(民泊新法5条、厚生労働省関係民泊新法施行規則、ガイドライン2-2(1)) |
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宿泊者の安全の確保(民泊新法6条、国土交通省関係民泊新法施行規則1条、ガイドライン2-2(2)) |
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外国人宿泊者に対して、外国語で情報提供する義務(民泊新法7条、ガイドライン2-2(3))および周辺地域の生活環境への悪影響防止に必要な事項についても、外国語で説明する義務(民泊新法9条2項、ガイドライン2-2(5)⑤) |
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宿泊者名簿の作成・保存(民泊新法8条1項、民泊新法施行規則7条、ガイドライン2-2(4)) | 外国人宿泊者に関しては、旅券の写しを名簿とともに保存する義務。 |
周辺地域の生活環境への悪影響防止に必要な事項を、宿泊者に対し説明する義務(民泊新法9条、民泊新法施行規則8条2項、ガイドライン2-2(5)) | 悪影響防止に必要な事項
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周辺地域の住民からの苦情および問い合わせに対して、適切かつ迅速に対応する義務(民泊新法10条、ガイドライン2-2(6)) |
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このうち、周辺地域の住民からの苦情対応のために、宿泊者に対して退室を求めなければならない場合に備えて、住宅宿泊業者は、宿泊契約解除の権限をあらかじめ、委託者である住宅宿泊事業者から得ておく必要性が指摘されています(ガイドライン2-2(6))。
また、「住宅宿泊事業の適切な実施のために必要な届出住宅の維持保全」とは、具体的には、以下が想定されています(ガイドライン1-1(3)①)。
- 届出住宅に設ける必要がある台所、浴室、便所、洗面設備が正常に機能するものであるほか、人が日常生活を営む上で最低限必要な水道や電気などのライフライン、ドアやサッシ等の届出住宅の設備が正常に機能するよう保全すること。
- 空室時における施錠の確保
- 住宅または居室の鍵の管理
住宅宿泊管理業の登録を行うには
登録手続
登録申請は民泊制度運営システムを利用します。登録された場合の有効期間は5年間で、5年ごとの更新が必要です(民泊新法22条2項)。登録後は登録簿に申請書記載事項等が公開されます(民泊新法24条)。
申請書類
(1)申請書の記載事項
申請書の記載事項は、以下の通りです(民泊新法23条1項)。
- 商号、名称または氏名および住所
- 営業所または事務所の名称および所在地
なお、申請者が法人である場合は、その役員の氏名、申請者が個人かつ未成年者である場合は、法定代理人の氏名および住所(法定代理人が法人である場合は、その商号または名称および住所ならびにその役員の氏名)も必要になります。
(2)添付書類
添付書類に関しては、申請者が法人の場合と個人の場合で異なります(民泊新法23条、国土交通省関係民泊新法施行規則6条)。
申請者が法人の場合 | 申請者が個人の場合 |
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定款または寄付行為 | - |
登記事項証明書 | - |
法人税の直前一年の各年度における納付すべき額および納付済額を証する書面 | 所得税の直前一年の各年度における納付すべき額および納付済額を証する書面 |
役員が、成年被後見人および被保佐人に該当しない旨の後見等登記事項証明書 | 登録申請者が、成年被後見人および被保佐人に該当しない旨の後見等登記事項証明書 |
役員が、民法の一部を改正する法律(平成11年法律第149号)附則3条1項および2項の規定により成年被後見人および被保佐人とみなされる者ならびに破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村の長の証明書 | 登録申請者が、民法の一部を改正する法律附則3条1項および2項の規定により成年被後見人および被保佐人とみなされる者ならびに破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村の長の証明書 |
第2号様式による役員ならびに相談役および顧問の略歴を記載した書面 | 第2号様式による登録申請者の略歴を記載した書面 |
- | 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者であって、その法定代理人が法人である場合においては、その法定代理人の登記事項証明書 |
第3号様式による相談役および顧問の氏名および住所ならびに発行済株式総数の100分の5以上の株式を有する株主または出資の額の100分の5以上の額に相当する出資をしている者の氏名または名称、住所およびその有する株式の数またはその者のなした出資の金額を記載した書面 | - |
最近の事業年度における貸借対照表および損益計算書(最新の確定決算書。新規設立の法人については、開業貸借対照表で足りる) | 第5号様式による財産に関する調書 |
住宅宿泊管理業を的確に遂行するための必要な体制が整備されていることを証する書類 | 住宅宿泊管理業を的確に遂行するための必要な体制が整備されていることを証する書類 |
第4号様式による法25条1項2号から4号まで、6号および8号から11号までのいずれにも該当しないことを誓約する書面 | 第6号様式による法25条1項1号から7号までおよび9号から11号までのいずれにも該当しないことを誓約する書面 |
(3)住宅宿泊管理業を的確に遂行するための必要な体制が整備されていることを証する書類
このうち、「住宅宿泊管理業を的確に遂行するための必要な体制が整備されていることを証する書類」については、①「管理受託契約の締結に係る業務の執行が法令に適合することを確保するための必要な体制」(国土交通省関係民泊新法施行規則9条1号関係)を証する書類、②「住宅宿泊管理業務を適切に実施するための必要な体制」(国土交通省関係民泊新法施行規則9条2号関係)を証する書類から、構成されます。
①については、申請者が法人の場合と個人の場合で異なります(ガイドライン3-1(3))。
②については、人員体制図、ICT等を用いて遠隔で業務を行うことを予定している場合には使用する機器の詳細を記載した書面があげられています。
申請者が法人の場合 | 申請者が個人の場合 |
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住宅の取引または管理に関する2年以上の事業経歴が記載された事業経歴書 | 住宅の取引または管理に関する2年以上の実務経験が記載された職務経歴書 |
宅地建物取引業法に規定する宅地建物取引業の免許証の写し | 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号) に規定する宅地建物取引士証の写し |
マンションの管理の適正化の推進に関する法律に規定するマンション管理業の登録の通知書の写し | マンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149号)に規定する管理業務主任者証の写しまたは一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会の賃貸不動産経営管理士資格制度運営規程に基づく賃貸不動産経営管理士証の写し |
賃貸住宅管理業者登録規程(平成23年国土交通省告示第998号)に規定する賃貸住宅管理業の登録の通知書の写しまたは要件を満たす従業者を有する場合における当該従業者についての上記の書類 | - |
登録拒否事由
(1)登録が拒否される場合
申請者について、①民泊新法25条1項各号のいずれかに該当する場合、②申請書・添付書類の重要事項について虚偽記載がある場合あるいは重要な事実の記載が欠けている場合、登録は拒否されます(民泊新法25条1項)。1項各号の事由は多岐にわたりますが、実務では以下の点がとりわけ注意が必要です。
- 債務超過または支払い不能である場合(民泊新法25条1項10号、国土交通省関係民泊新法施行規則8条)
- 管理受託契約の締結に係る業務の執行が法令に適合することを確保するための必要な体制が整備されていると認められない場合(民泊新法25条1項11号、国土交通省関係民泊新法施行規則9条)
ここでいう「必要な体制」とは、「住宅の管理に関する責任の所在および費用の負担等について契約上明らかにし、適切に契約締結できる人的構成が確保されていること」をいい、具体的には、「住宅の取引または管理に関する契約に係る依頼者との調整、 契約に関する事項の説明、当該事項を記載した書面の作成および交付といった、契約実務を伴う業務に2年以上従事した者であることまたはそれらの者と同等の能力を有すると認められること」が必要です。以下のいずれかを充足すれば、同等の能力があるものと認められます(ガイドライン3-1(7))。
申請者が法人の場合 | 申請者が個人の場合 |
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従業員が、宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)に規定する宅地建物取引士の登録を受けていること。 | 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)に規定する宅地建物取引士の登録を受けていること。 |
従業員が、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149号)に規定する管理業務主任者の登録を受けていること。 | マンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149号)に規定する管理業務主任者の登録を受けていること。 |
従業員が、一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会の賃貸不動産経営管理士資格制度運営規程31条に基づく登録を受けていること。 | 一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会の賃貸不動産経営管理士資格制度運営規程31条に基づく登録を受けていること。 |
(2)住宅宿泊管理業務を適切に実施するための必要な体制が整備されていると認められない場合(民泊新法1項11号、国土交通省関係民泊新法施行規則9条)
この点をクリアするためには、民泊新法7条の措置、同8条の規定による宿泊者名簿の正確な記載を確保するための措置、同9条の宿泊者への説明、同10条の規定による苦情および問合せへの応答について、ICT等を用いて遠隔で業務を行うことを予定している場合には、 宿泊者との連絡の必要が生じた場合にすみやかに、かつ、確実に連絡がとれる機能を備えた機器の設置等を行う必要があります。
そして、登録の申請の際に、それぞれ具体的な方法を明らかにする必要があります。再委託先の事業者がこれらの方法を用いる場合には、 再委託が予定される者の情報を含めて登録の申請を行う必要があります。
また、これらの場合において、住宅宿泊事業者との間で住宅宿泊管理業務の委託を受けている間、常時、宿泊者と連絡を取ることが可能な人員体制を備える必要があり、住宅宿泊管理業者(自社の従業者を含む)または再委託先の従業者の交代制によって、従業者が苦情対応で現地に赴いている間も、別の苦情に応答可能であるような体制を常時確保することが求められているので、注意が必要です。
申請から登録までの期間
申請から処分(登録または登録拒否)の標準処理期間は90日間とされています(ガイドライン3-1(1)③)。これは、申請が適正に行われることを前提とした期間であり、申請書類の不備で補正を求められたり、形式上は適正な申請であっても、補足の資料提供を求められる場合があり、この場合はそれらがすべてそろってから処理期間のカウントが開始されますので、申請には余裕をもってのぞみましょう。

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