民泊新法によって、住宅宿泊事業者に求められることは
取引・契約・債権回収当社では、新規ビジネスとして、民泊のホスト事業を行おうと考えています。民泊と認められるためには、どのような条件がありますか。また、ホスト事業を開始するための手続、開始後の規制、違反した場合の罰則についても教えてください。
2017年6月に公布された、いわゆる民泊新法(正式名称は住宅宿泊事業法)は、これまで固有の法規制のなかった民泊事業を正面から規制する立法で、旅館業法の特則と位置付けられています。民泊新法の施行は、2018年6月15日です。パブリックコメントの手続きを経て、2017年10月27日に、施行令・施行規則が公表されました。民泊新法ではその内容の大部分が施行令・施行規則に委ねられている他、ガイドライン・地方条例で規律される事項も多いため、規制内容を正確に確認するためには、法律以外の確認も欠かせないので注意が必要です。
解説
目次
民泊事業を行うには
「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」すなわち客を反復継続して宿泊させるサービスを有償で提供する場合、旅館業法上の許可が原則として必要です。民泊は、住宅を活用して宿泊させるサービスですので、旅館業法上の許可が原則として必要ですが、一般的な住宅設備をもって旅館業法上の要件を充足するのは現実的ではありません。このため、民泊に関して、旅館業法上の許可を受けるのは事実上不可能に近い状況です。
いわゆる民泊新法(正式名称は住宅宿泊事業法)が施行される2018年6月15日以降は、旅館業法上の許可がなくとも、都道府県知事への届出等を行うことで、住宅宿泊事業として、「民泊」のホスト事業を行うことができるようになります。
「民泊」と認められるためには
民泊新法では、民泊は、(ア)旅館業法上の営業者以外の者が、(イ)宿泊料を受けて、(ウ)「住宅」に人を宿泊させる宿泊サービスで、(エ)1年間あたりの宿泊させる日数が180日を超えないもの、とさだめられました(民泊新法2条3項)。
ここで肝となるのが、(エ)の日数制限です。住宅宿泊事業は、あくまで、一時的に人を宿泊させる事業であるという性質上、1年間の過半は宿泊事業が行われないように、年間180日間が上限とされました。営業日数ではなく、実際に宿泊させた日数を基準とします。
日数制限を超える場合は、原則に戻って、旅館業法上の許可が必要です。日数は、毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの期間で、算定されます(民泊新法施行規則3条)。日数制限とは別に、地方自治体は条例によって、区域ごとに、独自に期間を制限することが可能です(民泊新法18条、民泊新法施行令1条)。「住宅」の要件については、「民泊新法の概要について」をご参照ください。
届出に関する留意事項と添付書類
住宅宿泊事業を営もうとする場合、あらかじめ、都道府県知事(保健所設置市(政令市、中核市等)、特別区)に届出(インターネット経由も可能)を行い、受理される必要があります(民泊新法3条)。
自治体や施設の状況等により異なりますが、一般的な許可取得までの流れは以下のとおりです。
「民泊サービスを始める皆様へ ~ 簡易宿所営業の許可取得の手引き ~」(平成28年11月)
届出が受理されないまま、住宅でホスト事業を行った場合、民泊新法は適用されず、旅館業法の原則に戻り、旅館業法上必要な許可を得ないまま旅館業を営んだことになるため、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金(あるいは両方)を課される可能性があります(旅館業法10条1号)。また、届出の受理後、届出番号の交付を受ける前に事業を開始することは、後述する標識の掲示義務違反として罰則の対象になるので、注意が必要です(民泊新法13条)。
届出書には、以下の書類を添付する必要があります(民泊新法施行規則4条)。詳細はガイドライン等で示される予定です。
- 登記事項証明書
- 住宅の図面
- 住宅が賃借物件である場合は、転貸の承諾書
- 住宅が区分所有建物である場合は、規約の写し(規約に住宅宿泊事業に関して定めがない場合は管理組合に禁止する意思がないことを、管理組合の理事会や総会における住宅宿泊事業を禁止する方針の決議の有無により確認したことを証する書類)
申請書の様式や申請書に添付する書類は自治体ごとに異なるので、事前相談の際に都道府県等の旅館業法担当窓口(前掲:「民泊サービスを始める皆様へ ~ 簡易宿所営業の許可取得の手引き ~」10ページ参照)にご確認ください。
住宅宿泊事業者の義務
義務の概要
民泊新法に基づいて住宅宿泊事業を行う事業者は住宅宿泊事業者と呼ばれます。住宅宿泊事業者は、住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置として、宿泊者の衛生・安全の確保、外国人宿泊者への外国語による案内、宿泊者名簿の備付け・提出、宿泊者に対するマナーの説明、周辺住民からの苦情等への対応、標識の掲示、都道府県知事に対する定期報告の義務を負います(民泊新法5条、6条、7条、8条、9条、10条、13条、14条)。
宿泊者の衛生・安全の確保
宿泊者の衛生の確保のため、住宅宿泊事業者は、届出住宅について、①居室の床面積(押し入れ、床の間等、通常、宿泊者が利用できないスペースは含まれませんが、浴室、便所、板間等は含まれます)として、宿泊者一人あたり3.3平方メートル以上を確保すること、②定期的な清掃および換気の実施の義務を負います(民泊新法5条、厚生労働省関係民泊新法施行規則)。
また、宿泊者の安全の確保のために、住宅宿泊事業者は、届出住宅について、非常用照明器具の設置、避難経路の表示等、災害が発生した場合における宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置を講じる義務を負います(民泊新法6条、国土交通省関係民泊新法施行規則1条)。
外国人観光客を意識した対応
外国人観光客である宿泊者に対しては、届出住宅の設備の使用方法の案内や交通手段等に関する情報を外国語で提供する義務も負うとされています(民泊新法7条)。「外国語」が英語、あるいは中国語や韓国語といった特定の言語で足りるのかを含め、その範囲についてはパブリックコメントでも様々な意見が提出されましたが、詳細な運用等については、ガイドライン等で示される予定です。
4-5で説明する、周辺地域の生活環境への悪影響防止に必要な事項についても、外国語で説明する義務を負います(民泊新法9条2項)。
宿泊者名簿の作成、保存、備え付け、提出
住宅宿泊事業者は、正確な記載を確保するための措置を講じたうえで、宿泊者名簿を作成し、3年間保存する必要があります(民泊新法8条1項、民泊新法施行規則7条1項)。宿泊者名簿は、届出住宅または営業所・事務所に備え付けることが義務づけられています(民泊新法8条1項、民泊新法施行規則7条2項)。日本国内に住所を有しない宿泊客の本人確認手法としては、旅券の提示および写しの保存が想定されています。本人確認方法については、ガイドライン等で示される予定です。
宿泊者名簿の記載事項は、宿泊者の氏名、住所、職業、宿泊日、宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときは、これらに加えて、国籍および旅券番号が必要ですが、一定の条件を満たせば、電子ファイルへの記録で代替することも可能です(民泊新法8条1項、民泊新法施行規則7条3項・4項)。
宿泊者名簿は都道府県知事の要求があった場合、提出する必要があります(民泊新法8条1項)。
周辺地域への配慮
住宅宿泊事業者は、届出住宅の周辺地域の生活環境への悪影響防止に必要な事項を、宿泊者に対し説明する義務を負います(民泊新法9条)。悪影響防止に必要な事項としては、騒音防止、ごみ処理、火災防止等が定められています(民泊新法施行規則8条2項)。住宅宿泊事業者は、また、周辺地域の住民からの苦情および問い合わせに対して、適切かつ迅速に対応する義務を負います(民泊新法10条)。具体的な考え方についてはガイドライン等で示される予定です。
標識の掲示
住宅宿泊事業者は、届出住宅ごとに、玄関等の公衆の見やすい場所に、所定の様式の標識を掲示する義務を負います(民泊新法13条、民泊新法施行規則11条)。
住宅宿泊管理業者への委託
これらの義務のうち、4-2から4-5で説明した義務については、届出住宅の居室数が5を超える場合、あるいは、人を宿泊させる間、不在となる場合は、原則、住宅宿泊管理業者に委託する必要があります(民泊新法11条1項)。ただし、住宅宿泊事業者が住宅宿泊管理業の登録業者でもある場合、不在が一時的である場合、自宅と届出住宅が同一建築物あるいは同一敷地内にある場合、隣接している場合は、委託することなく、自ら当該義務を履行することも可能です(民泊新法11条1項、民泊施行規則9条2項・3項・4項)。
条例による制限
民泊新法は、都道府県(保健所設置市等の区域にあっては、当該保健所設置市、特別区)に対し、条例により、住宅宿泊事業が行える区域と住宅宿泊事業を実施してはならない期間を指定して、住宅宿泊事業の実施を制限する権限を付与しています(民泊新法18条)。実際に、京都市や新宿区で、条例による制限の検討が進められていることが報道されています。このため、住宅宿泊事業を検討する場合は、事業の予定地域の条例の制定状況や将来の制定の可能性を十分に確認・調査する必要があります。
どのような場合に制限できるかについては、民泊新法施行令において、「区域の指定は、土地利用の状況その他の事情を勘案して、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止することが特に必要である地域内の区域について行うこと」、「期間の指定は、宿泊に対する需要の状況その他の事情を勘案して、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止することが特に必要である期間内において行うこと」が示され、不必要・不合理な制限は認めないという姿勢がうかがわれます(民泊新法施行令1条)。
監督
定期報告
住宅宿泊事業者は、届出住宅ごとに、毎年2月、4月、6月、8月、10月および12月の15日までに、直前の2か月における、①届出住宅に人を宿泊させた日数、②宿泊者数、③延べ宿泊者数、④国籍別の宿泊者数の内訳を、都道府県知事に報告する義務を負います(民泊新法14条、民泊新法施行規則12条1項・2項)。
報告徴収・立入検査
都道府県知事は、住宅宿泊事業の適正な運営を確保するため必要があると認めた場合、住宅宿泊事業者に対し、業務に関する報告の徴収、届出住宅その他の施設への立ち入り、業務の状況・設備・帳簿書類等の検査、関係者への質問を実施する権限を有します(民泊新法17条)。
改善命令
都道府県知事は、住宅宿泊事業の適正な運営を確保するため必要があると認めた場合、その必要の限度において、住宅宿泊事業者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営の改善に必要な措置をとるべきことを命じる権限を有します(民泊新法15条)。
業務停止
住宅宿泊事業者が、住宅宿泊事業に関し法令違反または6-3の改善命令に違反した場合、都道府県知事から最大1年以内の期間の業務停止命令、あるいは、事業の廃止命令を受ける可能性があります(民泊新法16条)。

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