製造物責任の免責事由

取引・契約・債権回収
村松 頼信弁護士 祝田法律事務所

 当社の製造物を購入した消費者から、製品に欠陥があったとして製造物責任に基づく損害賠償請求の訴訟を提起されました。当社としては、持てる技術のすべてを注ぎ込んで設計し製造した製品なので、欠陥があったとの主張は受け入れられません。訴訟では、どのような反論が可能でしょうか。

 実際には製造物を製造していない場合には、「製造業者等」に該当しないことを裏付ける主張立証を行うことが考えられます。また、欠陥の存在を否定する方向での主張立証を行うことが考えられます。なお、製造物責任法では「開発危険の抗弁」および「部品製造業者の抗弁」が定められていますが、いずれも極めて限定的な場合に限って認められるものであることから、そうした場合に該当するケースを除いて、これらの免責事由によって製造物責任を否定することは困難と考えられます。

解説

目次

  1. 製造物責任に基づく損害賠償請求に対し、製造業者等からはどのような反論が考えられるか?
    1. 欠陥の有無
    2. それぞれの主張立証
  2. 「開発危険の抗弁」とはどのようなものか?
  3. 「部品製造業者の抗弁」とはどのようなものか?
    1. 「部品製造業者の抗弁」とは
    2. 部品製造業者の抗弁が定められている理由
    3. 部品製造業者の抗弁の要件
  4. おわりに

製造物責任に基づく損害賠償請求に対し、製造業者等からはどのような反論が考えられるか?

欠陥の有無

 まず、製造物責任の要件に該当するという原告の主張を否定する反論を行うことが考えられます。
 特に、「欠陥」についてはその定義が漠然としていることもあり、原告および被告の双方から「欠陥」の存在を基礎付ける方向の事実と「欠陥」の存在を否定する方向の事実を主張立証する中で、裁判所が「欠陥」の有無について判断することになります。

それぞれの主張立証

 「欠陥」の存在を基礎付ける方向の事実としては、欠陥の各類型の判断基準をクリアするのに必要な事実(たとえば、「製造上の欠陥」であれば、設計・仕様の内容および問題の製造物は当該設計・仕様から逸脱したものであったこと)のほか、原告は製造物を通常の用法どおりに使用したことを主張立証することが考えられます。
 他方、「欠陥」の存在を否定する方向の事実としては、被告が製造物を販売した後の要因によって不具合が発生したことや、通常の用法から逸脱した方法での使用方法(誤使用)によって事故が発生したことなどを主張立証することが考えられます。
 そのほか、製造物責任法上、製造物に欠陥があったとしても製造物責任が否定される免責事由として、「開発危険の抗弁」と「部品製造業者の抗弁」が規定されています。

「開発危険の抗弁」とはどのようなものか?

 「開発危険の抗弁」とは、製造物に欠陥があったとしても、製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学または技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったことの主張立証により、製造物責任が否定されるという免責事由です(製造物責任法4条1号)。
 この「科学または技術に関する知見」とは、科学または技術に関する諸学問の成果を踏まえて当該製造物の安全性の判断に影響を与えるような世界最高水準の科学知識または技術知識であって、その時点において入手可能なものの総体を指しており、そうした科学技術に関する知見に照らして認識できなかったことの主張立証は困難を極めます。そうしたこともあり、開発危険の抗弁が認められて製造物責任が否定された裁判例は存在しません

「部品製造業者の抗弁」とはどのようなものか?

「部品製造業者の抗弁」とは

 「部品製造業者の抗弁」とは、製造物に欠陥があったとしても、製造物が他の製造物の部品または原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないことを主張立証することにより、製造物責任が否定されるという免責事由です(製造物責任法4条2号)。

部品製造業者の抗弁が定められている理由

 完成品の製造業者(A)と部品・原材料の製造業者(B)との間には、BがAの継続的な下請業者であり、部品・原材料についてAから設計上の指示を受け、これに従って部品・原材料を製造して納入するという関係にある場合も多く存在します。
 また、部品・原材料の製造業者には中小零細業者も多く、納入する部品・原材料が完成品のどの部分にどのように使用されるかについて詳細を知らず、Aの設計上の指示の当否を判断できるだけの知識、能力に欠けることも少なくありません。
 そうした事情を考慮して、部品製造業者の抗弁が定められています。この抗弁は、完成品の欠陥の被害者が部品・原材料の製造業者に対して製造物責任を問う場合に加えて、完成品の製造業者が部品・原材料の製造業者に対して製造物責任を問う場合にも問題となり得ます

部品製造業者の抗弁の要件

 部品製造業者の抗弁の要件としては、欠陥が「専ら」他の製造物の製造業者の行った設計に関する指示に従ったことにより生じたことが必要であることから、指示が欠陥の主たる原因または唯一の原因であることが必要です。また、部品製造業者が無過失であることが必要であることから、部品・原材料製造業者が、設計上の指示に従うことで欠陥が発生することを予見できなかったことまたは欠陥の発生を回避できなかったことを主張立証する必要があります。

部品製造業者の抗弁の要件

おわりに

 欠陥が存在することを前提とした免責事由としては、開発危険の抗弁および部品製造業者の抗弁が存在しますが、いずれも極めて例外的な場合に限られます。部品製造業者の抗弁が想定している、部品・原材料の製造業者が完成品の製造業者の継続的な下請業者である場合には当該抗弁が問題となる余地があるといえますが、そうした場合を除いては、これらの抗弁によって製造物責任を否定することは困難です。
 むしろ、製造物責任訴訟の多くでは、欠陥の存否が主たる争点になることから、製造物責任を問われた製造業者としては、欠陥の存在を否定する方向の主張立証をする訴訟活動を行うことの方が現実的であるといえます。

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