独占禁止法上違反となる共同の取引拒絶とは

競争法・独占禁止法

 当団体は、国内の健康食品メーカーの80%が加盟事業者となっている業界団体です。昨今の「定期購入」問題(ECサイト等で「初回無料」等と表示しながら、定期購入が条件であることが適切に表示されていない問題)の増加により、改正特定商取引法施行規則が2017年12月に施行されたと聞きました。それを受けて当団体の理事会では、以下のような自主規制を設けるための決議を行い、加盟事業者に対してその遵守を求める予定です。

  1. 加盟事業者は、自社商品の販売先である通販業者が改正後の特定商取引法施行規則を遵守していることの確認を行うこととし、当該通販業者から、ホームページ等の記載が改正後の特定商取引法施行規則に沿ったものとなっていることに関する弁護士の意見書を年に1度提出させる。
  2. 加盟事業者は、上記①の弁護士意見書を提出しない通販業者については、当団体に報告しなければならず、このような報告を受けた当団体は、加盟事業者全社に対して当該通販業者を通知する。
  3. 当団体の加盟事業者は、上記②により通知を受けた通販業者に対しては、通知から1年間、自社商品を販売してはならない。

 当団体の理事会で、このような自主規制を決議した場合、独占禁止法違反となるおそれはありますか。

 健康食品メーカーという競争者が共同して特定の事業者に対する商品の供給を拒絶することは、不公正な取引方法のうち、共同の取引拒絶に該当し得ます。ただし、共同の取引拒絶行為であっても、正当な理由が認められる場合には、不公正な取引方法には該当しないと解されています。

 改正後の特定商取引法施行規則の遵守という目的に照らして、特定商取引法施行規則を遵守していることを内容とする弁護士の意見書の提出を求め、これを提出しない通販業者に対しては、加盟事業者からの商品の販売を禁止するという規制内容・実施方法は、目的を達成するための合理的な範囲を超えていると判断される可能性が高く、このような自主規制を実施することは、不公正な取引方法(共同の取引拒絶)として独占禁止法上違法と評価される可能性が高いと考えられます。

 そして、事業者団体の理事会でこのような自主規制を決議し、加盟事業者に対してその遵守を求めた場合は、事業者団体に対して排除措置命令がなされる可能性があるとともに、事業者団体の加盟事業者に対しても必要な措置が命じられる可能性があります。

解説

目次

  1. 事業者団体が設定する自主規制
  2. 共同の取引拒絶とは
  3. 事業者団体が設定する自主規制が共同の取引拒絶に該当する場合
  4. 設例の事例における自主規制が共同の取引拒絶として違法となるか
    1. 自主規制の目的
    2. 規制内容の合理性
    3. 実施方法の相当性
    4. まとめ

事業者団体が設定する自主規制

 独占禁止法においては、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体またはその連合体(ただし、2以上の事業者の結合体またはその連合体であって、資本または構成事業者の出資を有し、営利を目的として商業、工業、金融業その他の事業を営むことを主たる目的とし、かつ、現にその事業を営んでいるものを除く)のことを「事業者団体」と呼んでいます(独占禁止法2条2項)。

 そして、独占禁止法は、事業者団体が、競争制限的なまたは競争阻害的な行為を行うことを禁止し(独占禁止法8条)、事業者団体によって、こうした行為が行われた場合には、これを排除することとしています(独占禁止法8条の2)。たとえば、独占禁止法8条5号では、事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすることを禁止していますが、これに違反があった場合、公正取引委員会は、当該事業者団体に対して当該行為の排除に必要な措置を命じることができるとされています(独占禁止法8条の2)。

 また、公正取引委員会は、特に必要があると認めるときは、当該事業者団体の役員・管理人や構成事業者に対しても、事業者団体に対する排除措置を確保するために必要な措置を命じることができるとされています(独占禁止法8条の2第3項)。なお、不公正な取引方法に該当する行為が事業者団体を構成する各事業者により、その業務に関して行われたと観念しうる事情があるときは、各事業者自身も、排除措置命令や課徴金納付命令の対象になる可能性があります(最高裁昭和59年2月24日判決・刑集38巻4号1309頁参照)。

 そして、公正取引委員会では、事業者団体のどのような活動が独占禁止法上問題となるかを示すために、「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(以下「事業者団体ガイドライン」といいます)を策定しています。競争の手段となり得る営業の種類、内容、方法等に関して事業者団体が自主規制を設けることについて事業者団体ガイドラインでは、以下のような要素を勘案して競争阻害性の有無を判断するとしています(事業者団体ガイドライン第2-8(2)、2-7(2))。  

  1. 競争手段を制限し、需要者の利益を不当に害するものではないか。
  2. 事業者間で不当に差別的なものではないか。
  3. 社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか。

 なお、自主規制の利用・遵守については、構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって、事業者団体が自主規制の利用・遵守を構成事業者に強制することは、独占禁止法上問題となるおそれがあるとされています(事業者団体ガイドライン第2-7(2))。

共同の取引拒絶とは

 この点、独占禁止法では、「共同の取引拒絶」を不公正な取引方法の1つとして禁止しており、その中でも特に共同して商品等の供給を拒絶する類型は、課徴金の対象としています。課徴金の対象となり得る供給に関する共同の取引拒絶とは、具体的には、正当な理由がないのに、競争者と共同して、自ら、ある事業者に対し、供給を拒絶し、または供給に係る商品もしくは役務の数量もしくは内容を制限し(直接の取引拒絶)、または他の事業者をしてこれらの行為をさせること間接の取引拒絶)をいいます(独占禁止法2条9項1号)。

 たとえば、ある製品のメーカーが、他のメーカーと共同して、安売り販売をする小売店に対しては商品を供給しないこととするという場合が典型例です。

事業者団体が設定する自主規制が共同の取引拒絶に該当する場合

 共同の取引拒絶は、ある事業者が競争者と共同して、他の事業者を市場から排除しようとする競争者排除型の行為であり、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができない競争者の事業活動を困難にさせるおそれがあれば、公正競争阻害性が認められることになります。そして、共同の取引拒絶は、複数の事業者が共同して特定の事業者を市場から締め出そうとするものですから、違法性が強く、原則として公正競争阻害性が認められ、違法と考えられています。さらに市場における競争を実質的に制限する場合には、私的独占または不当な取引制限(カルテル)に該当する可能性もあります

 それでは、事業者団体が「定期購入」問題の増加を受けて、2017年12月に施行された改正特定商取引法施行規則の遵守等の目的で自主規制を設定し、当該自主規制を遵守しない通販業者に対しては、共同して商品の販売を拒絶させることも、違法となるのでしょうか。

 この点については、自主規制の設定目的が社会公共的な目的等正当な目的であり、かつ、規制の内容、実施方法が当該目的を達成するために合理的な範囲のものであれば、独占禁止法に違反しないと評価する余地があります(事業者団体ガイドライン第2-8(2))。

設例の事例における自主規制が共同の取引拒絶として違法となるか

 設例の事例における自主規制は、健康食品メーカーという競争者同士が共同して、弁護士の意見書を取得しない通販業者に対しては、自社商品の販売を禁止するというものですから、形式的には共同での取引拒絶行為に該当します。

 しかし、上記のとおり、自主規制の設定目的が社会公共的な目的等正当な目的であり、かつ、規制の内容、実施方法が当該目的を達成するために合理的な範囲のものであれば、独占禁止法に違反しないと評価する余地がありますので、この点を検討してみたいと思います。

自主規制の目的

 独占禁止法の究極の目的は、一般消費者の利益確保および国民経済の民主的で健全な発展の促進にあるところ(独占禁止法1条)、特定商取引法の目的は、特定商取引を公正にし、および購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通および役務の提供を適正かつ円滑にし、もって国民経済の健全な発展に寄与することですから(特定商取引法1条)、改正後の特定商取引法施行規則の遵守という当該自主規制の目的は、一般消費者の利益確保という独占禁止法の精神と矛盾するものではないと評価できます。

規制内容の合理性

 しかしながら、改正後の特定商取引法施行規則の遵守という目的に照らし、通販業者に対して、年に1度、弁護士の意見書の提出を義務付けるという規制内容は、通販業者に過大な負担を課すものです。

 たとえば、事業者団体や加盟事業者が用意した改正後の特定商取引法施行規則遵守のためのチェックシートに対する回答を求めるという方法のように、通販業者にとって負担の少ない方法も十分に考えられます。また、特定商取引法の違反に対しては、行政当局による行政指導・行政処分が予定されていますので、生命や健康被害に直結しない問題について、事業者団体が自主規制を行う必要性は高くないともいえます。

 これらの点からすれば、規制内容は目的に照らして合理性を欠いていると判断される可能性が高いと考えられます。

実施方法の相当性

 また、弁護士の意見書を取得しなかったことで、ただちに消費者に対して健康被害等の著しい危険を与えるものとはいえないにもかかわらず一度でも弁護士の意見書を提出しなかった通販業者に対しては、1年もの期間にわたって、加盟事業者からの商品販売を認めないという実施方法は、相当性を欠いていると判断される可能性が高いと考えられます。

まとめ

 以上のとおり、設例の事例における自主規制は、その目的に正当性が認められるとしても、規制内容が過大であり、実施方法も相当性を欠いていると評価される可能性が高いといえます。

 そうしますと、このような自主規制は、正当な理由があるとは認められず、不公正な取引方法(共同の取引拒絶)に該当し(独占禁止法2条9項1号)、独占禁止法上違法となる可能性が高いといえます。

 そして、設例の事例における事業者団体の理事会がそのような不公正な取引方法に該当する自主規制を決議し、加盟事業者にその遵守を求めることは、「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」(独占禁止法8条5号)に該当しますので、当該事業者団体に対しては、排除措置命令がなされる可能性があるとともに(独占禁止法8条の2第1項)、公正取引委員会が特に必要があると認めたときは、当該事業者団体の加盟事業者に対しても必要な措置が命じられる可能性があります(独占禁止法8条の2第3項)。

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