再販売価格拘束に対する諸外国の規制-日米欧の相違はどこにあるか-

競争法・独占禁止法
小田 勇一弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 日本の独占禁止法上、メーカーが卸売業者や小売業者に対し販売する商品の価格を拘束することは再販売価格拘束と呼ばれ、原則違法と言われていますが、欧米の競争法において再販売価格拘束はどのように扱われているのでしょうか。また、日本と欧米を比較した際、相違はどのような点にあるのでしょうか。

 再販売価格拘束には、大きく分けて、『最低』再販売価格の拘束と『最高』再販売価格の拘束の2種類があります。このうち、『最低』再販売価格の拘束は、程度の差はあれ、欧米の競争法上も、比較的違法となるリスクが高い行為類型として考えられています。それに対し、『最高』再販売価格の拘束は、欧米の競争法上は広く許容されています。日本の公正取引委員会のガイドライン等においては、『最低』再販売価格と『最高』再販売価格を明示的に区別して議論されておらず、この点が大きな相違点といえるでしょう。

解説

目次

  1. はじめに
    1. 最低再販売価格拘束とは
    2. 日本における規制
    3. 米国における規制
    4. 欧州における規制
    5. 最高再販売価格拘束とは
    6. 米国における規制
    7. 欧州における規制
    8. 日本における規制

はじめに

 Eコマースの拡大を受け、メーカーがある商品を製造し、それを自らの手で消費者に販売することが増えています。しかし、こうしたダイレクトマーケティングの手法を採らずまたはそれと並行して、メーカーが卸売業者や小売業者に商品の流通を任せるという流通戦略を採用している場合も多く存在します。その場合、メーカーは、自社商品の流通について自らの販売戦略を反映させるため、卸売業者や小売業者に対し様々な拘束をかけることがあります。その一つが再販売価格拘束です。一口に再販売価格拘束といっても、内容や導入理由は様々であるように思います。筆者も実務上相談いただくことが多い分野でもあります。

 この再販売価格拘束に対し日米欧の競争法がどのように規制しているか、『最低』再販売価格拘束『最高』再販売価格拘束に分けて、以下を見ていきましょう。

『最低』再販売価格拘束に対する規制

最低再販売価格拘束とは

 最低再販売価格拘束とは、再販売価格拘束のうち、再販売価格の下限を拘束するものであり、平たくいえば、安売りを禁止することです。メーカーが自社商品の小売業者らに対しその最低販売価格(つまり最低再販売価格)を拘束すると、当該小売業者ら間における当該商品の価格競争(ブランド内競争)が減少・消滅することになります。

最低再販売価格拘束(メーカーが自社商品の小売業者らに対しその最低販売価格(つまり最低再販売価格)を拘束すると、当該小売業者ら間における当該商品の価格競争(ブランド内競争)が減少・消滅することになる)

日本における規制

 こうした同一ブランド内での価格競争に対する悪影響を強調し、日本の公正取引委員会は、最低再販売価格拘束は正当な理由がない限り独占禁止法上違法であるとしています(独占禁止法2条9項4号等)。

 「正当な理由」は、当該再販売価格拘束により「実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され,それによって当該商品の需要が増大し,消費者の利益の増大が図られ,当該競争促進効果が,再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものである場合において,必要な範囲及び必要な期間に限り,認められる」とされています(流通取引慣行ガイドライン第1部第1の2(2))。このようにガイドラインの表現上は「正当な理由」が認められる範囲は非常に狭く、日本の独占禁止法上最低再販売価格拘束が適法となる余地は乏しいというような言い方をされる場合があります。

米国における規制

 米国の連邦競争法では、1911年のドクターマイルズ(Dr. Miles)事件の連邦最高裁判決以降、100年近く最低再販売価格は当然違法(per se illegal)とされていましたが、2007年のリージン(Leegin)事件連邦最高裁判決(5対4の僅差)により、合理の原則(rule of reason)が採用され、個々の事案ごとに競争への影響を判断し、適法・違法が決せられることになりました。

 その理由として、米国連邦最高裁判決は、最低再販売価格には、①ブランド内競争を弱める代わりに、小売業者に当該商品の販売促進活動を促し、ブランド間での競争を促進する面があること②商品の価格・サービス面で多様性が確保され、消費者の選択肢が拡大し得ること③他の小売業者が提供するサービスへのフリーライド(ただ乗り)の防止や④新規参入の促進が見込まれること等を指摘しています。

 昨年は、リージン事件の連邦最高裁判決からちょうど10年目の記念すべき年であったことから、それを祝して米国では最低再販売価格拘束に関する論考が多数発表されていました。興味深いことに、リージン事件連邦最高裁判決の直後は、流通戦略の一つとして最低再販売価格拘束が今後普及するであろうと予想されていましたが、現状、その予想に反し、同判決前後で状況にほとんど変化がないようです。その原因としては、州法のレベルにおいて依然として、最低再販売価格拘束が当然違法とされるまたはそのおそれのある州があり、違反のリスクが拭えない点が指摘されています(たとえば、メリーランド州はリージン判決後最低再販売価格を当然違法とする法改正をし、また、カリフォルニア州でも州法上最低再販売価格が当然違法と解されています)。つまり、同じ再販売価格拘束が連邦法の競争法では合法に、州法の競争法では違法になり得るという点が普及の障害となっているようです。

欧州における規制

 欧州の競争法では、最低再販売価格の拘束は原則違法とされ(欧州機能条約101条1項、垂直的制限に関する一括適用免除規則4条(a))、例外的に、メーカーによる新製品の導入、フランチャイズシステム等の統一的な流通システムにおける短期的なキャンペーンや、フリーライドの防止のため、最低再販売価格拘束が認められ得るとされています(欧州機能条約101条3項、垂直的制限に関するガイドライン225)。なお、日本の独占禁止法の下でも、こうした場合に「正当な理由」が認められる余地はあると考えられます。

『最高』再販売価格拘束に対する規制

最高再販売価格拘束とは

 最高再販売価格拘束とは、再販売価格拘束のうち、再販売価格の上限を拘束するものであり、平たくいえば、ある価格以上で販売することを禁止することです。最高再販売価格拘束は、小売業者らの販売価格の高額化を防ぎ、消費者に対する販売価格を引き下げる機能を有するわけですから、基本的に競争促進的なものと評価できます(もちろん、最高再販売価格拘束という名の下に、最低再販売価格拘束として機能している場合は別ですが)。

米国における規制

 米国の連邦競争法では、1997年のカーン(Khan)事件連邦最高裁判決において最高再販売価格拘束を合理の原則の下判断するとされて以降、最高再販売価格拘束が問題視されることはほとんどないようです。

欧州における規制

 欧州の競争法でも、最高再販売価格拘束は、原則違法とは推定されず、個別に競争への影響(by effect)を判断し、適法・違法が決せられます(垂直的制限に関するガイドライン226参照)。
 そして、両当事者の市場シェアがいずれも30パーセント以下の場合(セーフハーバー)には、欧州機能条約101条1項の適用が免除され、適法とされています(垂直的制限に関する一括適用免除規則3条。30パーセントを超える場合には、上記のとおり個別に競争への影響が判断されます)。

日本における規制

 さて、日本ではどうでしょうか。
 実は日本では、『最高』再販売価格拘束が独占禁止法上どのように評価されるかを判示した判例はなく、また、流通取引慣行ガイドライン上、明示的に『最低』再販売価格拘束と『最高』再販売価格拘束が区別されておらず、両者は同様に判断されるようにも思えます。

 しかし、上記のとおり、両者の競争に与える影響は大きく異なりますので、『最高』再販売価格拘束についてはより「正当な理由」が認められやすいという形で、日本の独占禁止法上も適法になる余地が大きいと思われます。

日本 米国 欧州
最低再販売価格拘束 原則違法 合理の原則
(当然違法の州法もあり)
原則違法
最高再販売価格拘束 原則違法?
(ただし正当な理由が認められやすい)
合理の原則
(原則適法に近い扱い)
合理の原則
(セーフハーバーの適用あり)

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