独占禁止法違反事件に関する刑事処分および司法取引制度

競争法・独占禁止法
宮本 聡弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 価格カルテル等の独占禁止法に違反する行為を行った場合、課徴金の支払だけではなく、刑事処分を受けることがあるのでしょうか。また、司法取引が導入された場合、独占禁止法違反事件に関する刑事処分にも何らかの影響があるのでしょうか。

 独占禁止法89条から91条の罪(価格カルテルや入札談合を含みます)について、犯則調査を経て公正取引委員会による告発がなされた場合には刑事処分を受ける可能性があります。公正取引委員会は、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案等について積極的に告発を行う方針を取っています。公正取引委員会による告発後、検察官が起訴し、刑事裁判を経て判決が下されることになります。

 今後、司法取引制度が施行された場合には、独占禁止法違反事件もその適用対象となります。独占禁止法違反で告発された企業や個人は、検察官との間で司法取引を行うことにより、不起訴処分や刑の減免を受けられる可能性があります。

解説

目次

  1. 刑事罰に関する独占禁止法の規定
  2. 独占禁止法違反に関する刑事処分までの流れ
    1. 犯則調査とは
    2. 告発および起訴
  3. 告発に関する公正取引委員会の方針、近年の刑事処分の状況
  4. 公正取引委員会による告発事例
  5. 検察官との司法取引による刑事処分の減免

刑事罰に関する独占禁止法の規定

 独占禁止法3条に違反して私的独占および不当な取引制限をした者、ならびに独占禁止法8条1号に違反して一定の取引分野における競争を実質的に制限したものは、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処するとされています(独占禁止法89条1項1号および2号)。「不当な取引制限」には価格カルテルや入札談合が含まれます。この規定は事業主たる個人や法人の従業者に適用されます。

 これに対し、独占禁止法95条はいわゆる「両罰規定」を置き、法人に対する刑罰を規定しています。具体的には、法人の従業者等が価格カルテルや入札談合など独占禁止法89条に違反する行為を行った場合、その法人に対して5億円以下の罰金を科す等としています。

独占禁止法違反に関する刑事処分までの流れ

 大まかな流れは以下のとおりです(司法取引については後述5参照)。

独占禁止法違反に関する刑事処分までの流れ

犯則調査とは

 犯則調査とは、独占禁止法違反事件のうち犯則事件(私的独占および不当な取引制限等に関する事件)について、公正取引委員会がこれを告発する必要があるか否かを調査するために行うものです。公正取引委員会は、調査のため必要があるときは、令状を得て、捜索差押え等を行うことができます(独占禁止法102条)。公正取引委員会は、2005年の独占禁止法改正により、この犯則調査権限を付与されました。

告発および起訴

 公正取引委員会による告発は、犯則事件に関する刑事裁判が係属するための条件とされており(独占禁止法96条1項)、この告発を行う権限は公正取引委員会にのみ認められています。公正取引委員会の告発によりはじめて検察官は犯則事件を起訴できます。

告発に関する公正取引委員会の方針、近年の刑事処分の状況

 公正取引委員会は、どのような事件を告発するかについての方針を公表しており、以下の2つの場合に「積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針」を取っています1

 ただし、例外として、公正取引委員会による調査開始日前に単独で最初に課徴金の免除申請をした事業者等については告発を行わない方針を取っています(減免申請については「課徴金減免制度(リニエンシー/leniency)とは」参照)。

ア カルテル等の独占禁止法違反行為であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案

イ 違反を反復して行っている事業者・業界、排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち、公正取引委員会の行う行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案

 公正取引委員会は、上記アまたはイに該当すると疑うに足りる相当の理由のある独占禁止法違反事件について犯則調査を行い、調査の結果を踏まえ、告発の要否を検討します。公正取引委員会は、告発にあたり刑事手続の円滑・適正を期するため、検察当局との間で、協議の機会を持ち、個別事件の具体的問題点等について意見・情報の交換を行うとしています。

公正取引委員会による告発事例

 2005年に犯則調査権限が付与されて以降、公正取引委員会による告発は価格カルテルの事例が3件、入札談合の事例が7件となっており、いずれの事件も刑事裁判の結果、有罪判決を受けています2

 独占禁止法89条では5年以下の懲役刑が法定されているものの、過去に有罪判決が下された事例では執行猶予付きの判決となっており、実刑判決が下されたことはありません3。もっとも、実刑判決がないのはこれまでの運用上の話ですので、今後、実刑判決が下される可能性は否定できません。

検察官との司法取引による刑事処分の減免

 2016年の刑事訴訟法の改正により、被疑者・被告人が検察官との間で、「他人の刑事事件」の捜査・公判に協力するのと引換えに自分の刑事事件を不起訴または軽い求刑にしてもらうことなどを合意する制度(以下「司法取引制度4」といいます)が設けられました(改正刑事訴訟法350条の2ないし350条の15)。これは、日本版司法取引ともいわれる制度であり、2017年12月時点ではまだ施行されていませんが、2018年6月2日までの間に施行予定です。司法取引制度の対象は特定の犯罪に限定されていますが、独占禁止法違反も対象に含まれています(改正刑事訴訟法350条の2第2項3号)。

 司法取引に関する協議は、検察官、被疑者・被告人、弁護人の3者で行うものとされており(改正刑事訴訟法350条の4)、検察捜査や公判の過程で司法取引に関する合意がなされると考えられます。公正取引委員会は、この司法取引について何らの権限も持っていません。

 カルテルや談合は、密室での取り決めなど、証拠を残さない形でなされることが多く、事案の解明が容易ではありません。そのため、カルテル等は捜査機関にとって司法取引制度を活用する必要性の高い犯罪類型といえます。また、カルテル等は多数の者が関与するため、罪を犯した者から他の関係者についての証拠を得るという司法取引の仕組みになじみやすい犯罪類型ともいえます。

 カルテル等の独占禁止法違反で、司法取引の活用が想定される場面はたとえば、以下のとおりです。

  • 同じ会社で、実際に会合等に参加していた部下は被疑事実を認めているものの、上司(ないし会社)が関与を否認しているケース(図2)
  • A社はカルテル等の被疑事実を認めているが、B社が否認しているケース(図3)

同じ会社で、実際に会合等に参加していた部下は被疑事実を認めているものの、上司(ないし会社)が関与を否認しているケース(図2)

A社はカルテル等の被疑事実を認めているが、B社が否認しているケース(図3)

 このような観点から、今後、司法取引制度が施行された場合、カルテル等の独占禁止法違反で告発された企業および個人にとって、司法取引の活用が選択肢の一つになってくると考えられます。他方で、司法取引に応じず被疑事実を否認することを選択した被疑者・被告人(以下「ターゲットとされる被疑者・被告人」といいます)にとって、他の被疑者・被告人の司法取引によって提供される供述や証拠は重大な意味を持ちえます。

 なぜなら、司法取引により提供される供述や証拠は、ターゲットとされる被疑者・被告人の被疑事実の立証のために用いられることが想定されるからです。ターゲットとされる被疑者・被告人としては、他の被疑者・被告人が司法取引において刑の減免等のために虚偽供述の動機を持ちうる点(いわゆる「引っ張り込みの危険」)にも留意をしながら、司法取引によって提供される供述や証拠の信用性を慎重に吟味する必要があると考えられます。

 以上の司法取引は、日本では過去に例のない制度ですので、上記のような視点を持ちながら、施行後の運用状況を注視していく必要があります。


  1. 公正取引委員会「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」(平成17年10月10日、最終改正:平成21年10月23日) ↩︎

  2. 公正取引委員会「告発事件一覧」 ↩︎

  3. 前掲注2 ↩︎

  4. 刑事訴訟法では「司法取引」という用語は使われていません。もっとも、日本では、被疑者・被告人が捜査機関等に対し、何らかの行為を行うことと引き換えに、一定の恩恵を受ける制度を「司法取引」と呼ぶことが一般的ですので、本稿でも「司法取引」「司法取引制度」の用語を用いています。 ↩︎

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