不公正な取引方法(抱き合わせ販売)が問題となる場合

競争法・独占禁止法
宮本 聡弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 当社は産業用の機械Aの製造販売とそのメンテナンスサービスを行う会社です。当社の製造する産業用機械Aの市場シェアは20%程度でありトップシェアですが、他社製を含む産業用機械A向けのメンテナンスサービスの市場シェアは18%で第3位です。産業用機械Aは、定期的なメンテナンスが不可欠ですが、競合社間で規格が重なることが多く、他のメンテナンス会社も当社製の機械Aのメンテナンスが可能です。当社は、これまで機械Aとメンテナンスを別々に販売しており、他社の機械Aのメンテナンスも行ってきました。

 しかし、現在当社は他社に先駆けて、メンテナンスの顧客の囲い込みを図るため、1年間の有料メンテナンスサービスの購入を条件に当社の産業用機械Aを販売することとし、機械Aのみ、あるいはメンテナンスサービスのみの購入は認めないことを検討しています。2年目以降については継続を希望した顧客のみに有料でメンテナンスサービスを提供する予定です。当社の顧客にこの販売手法についてのアンケートを実施したところ、特段の反対意見は聞かれませんでした。

 当社の検討している販売方法は、独占禁止法上問題となるでしょうか。

 検討中の販売方法は抱き合わせ販売と言われるものですが、産業用機械Aの貴社のシェアが20%程度であること、抱き合わせ販売により他の競争事業者のメンテナンスサービスの提供先の確保が困難になるわけではないこと、メンテナンスの期間が1年間に限定されていること等から、抱き合わせ販売による影響の程度は限定的といえますので、独占禁止法上問題となるものではないと考えられます。

解説

目次

  1. 抱き合わせ販売とは
  2. 「不当」な抱き合わせ販売に関する2つの類型
  3. 問題となる競争者排除型の抱き合わせ販売
  4. セーフハーバー基準
  5. 顧客の意向は考慮要素となるか
  6. まとめ

抱き合わせ販売とは

 設例では、メンテナンスサービスの購入を条件に産業用機械Aを販売しようとしていることから、本件では抱き合わせ販売の観点から独占禁止法上の問題点を検討する必要があります。
 独占禁止法は、不当にある商品または役務の供給(主たる商品・役務)に併せて他の商品または役務(従たる商品・役務)を自己または自己の指定する事業者から購入させることを禁止しています(一般指定10項)。整理すると、抱き合わせ販売が独占禁止法に違反するのは、以下の3つの要件を満たす場合です。

  1. 主たる商品・役務と従たる商品が別個の商品・役務であること
  2. 「購入させる」こと
  3. 「不当に」(公正競争阻害性)

 設例では、産業用機械Aの規格が競合社間で重なることが多く、メンテナンス会社は他社製の機械Aであってもメンテナンスサービスを提供可能なことから、機械Aとメンテナンスサービスは別個の商品といえます(上記①に該当)。また、メンテナンスサービスの購入を条件に産業用機械Aを販売することから、機械Aのユーザーにメンテナンスサービスを「購入させ」ているといえます(上記②に該当)。

 それでは、設例の抱き合わせ販売に「不当」性(公正競争阻害性)は認められるのでしょうか。

「不当」な抱き合わせ販売に関する2つの類型

 複数の商品を組み合わせることにより、新たな価値を加えて取引の相手方に商品を提供すること自体は、販売促進の手法の一つとしてよく見られるところであり、抱き合わせ販売はそれ自体がただちに独占禁止法上問題となるものではありません。
 独占禁止法上「不当」な抱き合わせ販売となる場合とは、主に、①競争者排除型と②不用品強要型の2類型があります。

  1. 競争者排除型
    競争者排除型とは、主たる商品に、従たる商品が抱き合わせられる結果、従たる商品に関する他の供給者が従たる商品の顧客獲得が困難となるなどして、当該市場から排除される類型です。

  2. 不用品強要型
    不用品強要型とは、顧客が主たる商品を特定の供給者から購入せざるを得ない状況の下で、主たる商品に加えて、顧客にとって不要な商品が抱き合わせられる類型です。

 設例では、産業用機械Aは定期的なメンテナンスが不可欠とされており、従たる商品であるメンテナンスサービスは有用と思われますので、②の不用品強要型には該当しません。そこで、もっぱら、①の競争者排除型の観点から「不当」性が認められるか否かを検討します。

「不当」な抱き合わせ販売関する2つの類型

問題となる競争者排除型の抱き合わせ販売

 主たる商品市場においてシェアの小さな事業者が、その主たる商品と別の商品(従たる商品)の抱き合わせ販売を行ったとしても、それにより、従たる商品市場における他の事業者の顧客確保が困難になることは通常なく、従たる商品市場における競争者排除効果は生じないでしょう。しかし、主たる商品市場においてシェアの大きな事業者が同様の行為を行う場合には、そうでない場合と比較し、そのおそれが高まります。

 そこで、主たる商品の市場シェアが20%を超える「有力な事業者」である場合には、①主たる商品の市場シェアの大きさ、②当該行為の期間、③対象とされる相手方の数、④従たる商品の差別化の程度、⑤競争者の状況等を考慮し、事案に即して競争者排除のおそれを慎重に検討する必要があります。

セーフハーバー基準

 それでは、主たる商品市場における市場シェアがどの程度小さければ、抱き合わせ販売は独占禁止法上、問題とされないのでしょうか。

 「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下、ガイドライン)では、主たる商品市場のシェアが20%以下の事業者(「有力な事業者」に該当しない者)が抱き合わせ販売を行う場合には、競争者排除効果は通常生じることはなく、独占禁止法上問題とならないとしています。

 平成29年6月改正前のガイドラインは、抱き合わせ販売に言及していませんでしたが、公正取引委員会は、改正されたガイドラインの中に新たに抱き合わせ販売の項目を追加し、さらに抱き合わせ販売もセーフハーバー基準(市場におけるシェアが20%以下であること1)の適用対象になることを明示しました。

顧客の意向は考慮要素となるか

 競争者排除型の抱き合わせ販売の場合、顧客の意向は本質的な問題ではないため(従たる商品の市場で競争者排除効果が生じているかどうかが本質)、顧客が賛同していたとしても、それによって抱き合わせ行為が正当化されることにはなりません。

まとめ

 設例の会社における産業用機械Aの市場シェアは20%程度であり、セーフハーバー基準に該当するまたは近いものであり、抱き合わせ販売によって産業用機械Aのメンテナンスサービス市場の他の競争事業者のメンテナンスサービスの提供先の確保が困難になることは通常ないと考えられます。特に、メンテナンスサービスの期間は1年間に限定されており、顧客は2年目以降、他のメンテナンス会社を選択できることから、抱き合わせ販売による影響の程度は限定的なものと考えられます。よって、独占禁止法上問題とされないと考えられます。

 なお、今後、産業用機械Aの他の製造販売会社が、設例と同一または類似の抱き合わせ販売を導入し、並行して当該販売方法を実施する場合には、その累積的な効果により、独立系メンテナンス事業者はサービスの提供先確保が困難になる場合があり得ます。そのような状況が生じた場合には、設例の抱き合わせ販売が独占禁止法上問題になることが考えられますので、今後の市場状況の変化にも留意する必要があります。

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